コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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 すみません書き遅れました!


第43話 「やっとゆっくり出来る皇族の一日」

 コーネリアは久しぶりの休暇に心を弾ませていた。

 最近はキュウシュウ戦役の後処理に追われて書類仕事ばかりでろくに休めていない。合間合間には休憩を入れていたが一日の休みはなかった。時には被害を受けた施設の現状確認の訪問。部隊再配置や修復費用捻出の書類の山に囲まれた。

 特に本国とのテレビ会議は疲れた。いろんな意味でだが…。

 最初は兄上がどんな質問攻めにされるかで悩んでいたのに会議終了後の父上へのお土産質問で全部吹っ飛んだ。あれには大貴族どころか同じ兄妹全員が驚いていた。気軽に聞いた兄上も兄上だが、まさか普通に返すとは思わなかった…。

 兎も角久しぶりの休暇だ。だからといって何処かに出かけるなんて事はしない。今日一日はこの政庁から出る気はなかった。向かう先はただひとつで副総督第二補佐官の執務室。つまりはオデュッセウスの所だ。

 

 「兄上、いらっしゃいますか?」

 「ああ、コーネリアかい。開いているよ」

 「失礼します」

 

 扉を開けると中には先客が居た。

 紅茶を飲みながらユーフェミアとなにやら話をしているシュナイゼル。

 先日お土産で配られた大手饅頭なる菓子をエリア11のお茶と一緒に食しているクロヴィスとライラ。

 そして大きめのソファに腰掛けているオデュッセウスの左右に居るパラックスとキャスタールの姿が。しかも二人にいたってはオデュッセウスに頭を撫でられ、キャスタールは満面の笑みで、パラックスはそっぽを向いていながら満更じゃない表情である。

 

 「…なにをしているのだ?二人とも」

 「ね、姉様…お顔が怖いですよ」

 「別になにか言われる事じゃねーし」

 「この前の作戦で頑張ってくれたからご褒美に撫でて欲しいってパラックスが…」

 「違ッ!?キャスタールのほうだよ兄様」

 「えー?ボクが来た時には撫でられていたじゃないか」

 

 撫でられつつもいがみ合う二人を睨み、歯がギリリと音を立てる。その様子にキャスタールがぴくりと肩を震わして怖がるが決して逃げることはなかった。と、言うよりも今の場所が一番の安全地帯と理解しているのだろう。

 

 「…羨ましい」

 「本音が漏れているよ。それにそんなに怖い顔していたら綺麗なお顔が台無しだよ」

 「いつもなら嬉しいお言葉ではありますが…」

 「何か不服かい?あ、コーネリアも撫でて――」

 「不服も何も何故兄妹水入らずの場に枢木が居るのですか!!」

 

 怒鳴りながら指を向けた先には壁際で申し訳なさそうに立っている枢木 スザクが居た。

 今は枢木がロイド以上に憎くて憎くて仕方がない。シュナイゼル兄上直属部隊の一員でオデュッセウス兄上の交友関係を築いた一人………そしてユーフェミアの彼氏。

 旧日本国首相の息子で日本の貴族出だが家からはすでに縁が切れている為に家柄は無い。が、それを補って余りあるほどの実績を叩き出している。推測だがすでに我が騎士ギルフォードよりもすべてのステータスで勝っている。あと数年もすればラウンズに入れるだけの逸材だ。だからと言ってユフィの彼氏と認めるわけにはいかない!

 

 「自分はその…」

 「駄目だよコーネリア。彼も家族の一員になるかもしれないんだから除け者扱いは」

 「家族!?兄上は認めたと言うのですか!!」

 「恋愛は自由だから…」

 「ですが…私達は皇族ですよ。それがこんな」

 「あんまり口出ししてたらユフィに嫌われるよ」

 「―ッ!!」

 

 我々は皇族だ。恋愛に自由など求められる者ではない。父親であり皇帝陛下である父上に命じられれば政略結婚などに使われる事だってあるのだ。だから皇族や王族などの国を仕切る一族の恋愛に自由はない。ただ現状、枢木とユフィが付き合っていられるのは父上が発表から何も言ってこないからだ。皇帝陛下が口出ししてこないという事は口を出す必要がないか口を出す気がないかだ。

 父上が何も言ってこない+ユフィ個人の問題――つまりは完全なプライベート。それに姉だからと言って口煩く言っても意外と頑固なユフィは頑なになるだけで、最終的に嫌われる可能性だって…。

 

 「オデュッセウス殿下。自分はまだ正式には決まってませんし、兄妹の場には相応しくないのでは」

 「義兄さんで良いよ」

 「え?いえ、その…」

 「義兄さん」

 「…に、義兄さん」

 

 気まずそうだった事から口を開いたスザクだったが、オデュッセウスに義兄呼びを促され照れながら言う。オデュッセウスとユフィはそのスザクの様子に頬を緩めて微笑む。周りを見てみるとコーネリアを除く皆は反対ではないようだ。

 一人苛々を隠せないコーネリアに困った笑みを浮かべたオデュッセウスは左隣に居たキャスタールに避けてもらい、コーネリアを手招きする。むくれたまま手招きされた先の空けられた隣に腰を下ろす。すると肩を優しく掴まれて、コロンと転がされる。

 

 「――ッ!?ああああ、兄上!?」

 「良い子、良い子」

 

 転がされたコーネリアは位置的に頭がオデュッセウスの膝の上に乗り、優しく頭を撫でられている。顔を真っ赤にして抗議しようとするが嬉しさと恥かしさで言葉にならずに兄上と叫ぶのがやっとであった。しかしニッコリと微笑むオデュッセウスは起きるのを良しとせずに撫で続ける。

 

 「コーネリアは少し肩の力を抜くべきだよ。まぁ、役柄的に難しいかも知れないが今日くらいは」

 「兄上も負担をかけている要因の一つでは?」

 「…そうかな?」

 「思いっきり目が泳いでますよ」

 

 クロヴィスの言葉に戸惑いながら撫で続ける兄上にクスッっと笑みを漏らす。視線を兄上から正面にとライラとユフィ、キャスタールにパラックス、そして戸惑い顔のスザクの五人と目が合う。五人とも手には携帯電話を手にして…。

 一斉に携帯よりフラッシュが放たれ、眩しくて目を閉じた。そして現状の写真を撮られたことを認識した。

 治まりつつあった顔の火照りが先程より強く顔に出る。

 

 「なにがっ!?なにを!」

 「お姉様が可愛らしくて。ね、ライラ」

 「はい。本当に可愛らしいです♪」

 「可愛いってユフィ!ライラ!それとパラックスはなにをしている!?」

 「勿論キャスタールの携帯から騎士に送っているんですよ」

 「お前ら!!」

 「え!?ボ、ボクは撮っただけで送ったのはパラックスが勝手に…」

 「落ち着いてくださいコーネリア様」

 「撮った一人の貴様が言うのか!」

 「あとで私にも貰えるかい?」

 

 唸り声を漏らしつつ顔を隠しつつ、覆った手の中でキッと睨みつける。

 

 「なんでそうして居られるのですか兄上!」

 「ここで私かい?」

 「ユフィの会見からこの間まで朝まで酒を飲み明かしていたというのに」

 「・・・・・・・・・・・・ぐずっ」

 

 たった一言でオデュッセウスの表情が見る見るうちに暗くなり、大粒の涙を流し始めた。これには全員が慌てて駆け寄った。膝枕されていたコーネリアは飛び起きてうろたえる。これほどうろたえるコーネリアは珍しすぎるが皆にはその余裕もない。心配されているオデュッセウスはと言うと…。

 

 「あんなに小さかったユフィが……ユフィがお嫁に行っちゃうのか…」

 

 と、呟きながら涙で袖を濡らしていた。

 心配そうにする中でシュナイゼルだけは眺めながら微笑んでいた。

 

 「まったく…やってくれたねコーネリアは」

 「どういう事でしょうか?」

 「私が来た時に一人泣いていたのをやっとの思いで泣き止ましたというのに」

 「えっと、どうしたら…」

 「コーネリアに任せるよ」

 

 あやされた事はあってもあやした経験は無い。あたふたと目や手を動かしながら何か無いかと思考を働かす。

 

 「えと、あの、そ、そう言えば父上へのお土産はどうなされたのですか?」

 「……あれ」

 

 ピクリと言葉に反応したオデュッセウスは部屋の角を指差すとそこには見慣れない鎧が飾られていた。見慣れた銀色の丸みを帯びた鎧ではなく無骨なデザインで戦場で着る鎧にしては派手な物だった。

 

 「日本の甲冑だよ。それと日本刀を贈ろうかなと」

 「そ、そうですか」

 「他にもギネヴィアには加賀友禅の振袖でカリーヌには桜柄の扇子。マリーベルには紅葉が描かれた羽織りなんかを――あ!皆にもあったんだ。少し待っててくれるかい」

 

 お土産の話になると涙目ながらも嬉しそうに話し、渡すプレゼントを取りに執務用デスクの引き出しを開ける。

 兄上からプレゼントを貰えるのは嬉しいのだがその経緯を考えると複雑である。とりあえず泣き止んでくれて良かった。

 

 「まずはライラからかな」

 「これはなんですか?」 

 「これは簪って言って日本の髪飾りだよ。ヘアピンみたいにとめるんじゃなくて髪に差すんだ」

 「わぁ、お兄様!お兄様!似合いますか?」

 「良く似合っているよライラ」

 

 差してもらった簪をクロヴィスに褒めてもらってえへヘと笑う。

 次にキャスタールに美濃焼きのマグカップ、パラックスに木刀などを渡して行く。キャスタールは純粋に喜び、パラックスは次の時にはこれを使って勝ちますと意気込む。相手はあのマリーベルが騎士にしたいと話していた少女だろう。

 ユフィには細身で黒い招き猫。片目のところにぶちがあり、『アーサーに似ています』と枢木と仲睦まじく会話しているのには軽く殺意が湧く。湧いた相手である枢木は旧日本の国旗が描かれている篭手を渡されていた。

 そして私には短い日本刀らしき物を渡された。

 

 「日本刀?」

 「うん。短刀という部類で守り刀としてどうかなって思ってさ」

 「守り刀?護身用ということでしょうか?」

 「それもあるけどお守りとして邪気や災厄を払うんだ。君は戦場を駆け回るからね。せめてお守りにでもと」

 「兄上。ありがたく頂戴いたします」

 

 短刀を懐に仕舞いつつソファに座りなおす兄上を見て気付いた。まだクロヴィスとシュナイゼル兄上に渡していない。そのことに誰も触れないし、気にしていない様だった。

 

 「兄上、クロヴィスとシュナイゼル兄上のプレゼントはどうされたのですか?」

 「ああ、私は中華連邦との交渉の報告の際に貰ったよ」

 「私も先に貰った。と言うより配送されてきた」

 「なにを贈ったのですか?」

 「日本風景画を描いた水墨画だけど」

 

 そう言えばキュウシュウブロックの後始末で忙しい時にそんな話を聞いたような…。

 薄っすらと思い出しているとソファ前の長机にシュナイゼルが将棋盤を置いた。どうやらあれがシュナイゼルへのプレゼントなのだろう。

 

 「さて、今日こそは勝ち星を貰いますよ」

 「おや?そうかい、そうかい。久しぶりだけど負けないよ」

 「昔みたいに何か賭けますか」

 「ちょうど良い物あるよ―――私が特注した大福!オカヤマより桃に葡萄、ホッカイドウよりメロン、ヤマガタよりさくらんぼ、ナガノより林檎などなど各地から取り寄せた果物をそれぞれに合わせてもらった餡子で作った大福!」

 「…最近の身に覚えのない各地よりの請求書はそういう事ですか!」

 「しまった!?」

 「なにがしまったですか兄上!」

 「で、兄上はどう賭けますか?」

 「それは勿論勝つ気満々のシュナイゼルが勝つほうに賭けるよ」

 「あれ?普通は自分が勝つほうに賭けるのでは?」

 「う~ん…そうなんだろうけど弟の成長を信じているから…かな?」

 「私は兄上が勝つほうで」

 

 なにかこの状況を聞いた覚えが…。

 コーネリアが以前シュナイゼル本人より聞いた同じ状況を思い出したのは勝敗を決してからだった。

 結果はオデュッセウスの勝利――したのだが賭けはシュナイゼルが勝ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 おまけ【騎士の集い】

 

 オデュッセウスの執務室の隣に位置する護衛が控える部屋にヴィレッタ・ヌゥは待機していた。

 隣の部屋は兄妹水入らずの場となっているので入室させてもらえなかったのだ。ゆえに隣の部屋で待機と言う流れになったのだがとても辛い。

 待つこと事態が辛いのではない。ここで待つのは皇族であるキャスタール・ルィ・ブリタニア皇子の騎士なのだと自覚できる為に苦ではない。待つだけならの話ならばだ。

 隣にはクロヴィス皇子の騎士で同じ純血派だったキューエル・ソレイシィが居るが同じ心境なのかソファに腰掛けた状態から一歩も動いていない。

 

 問題は向かいのソファに座るお二人。

 武勇に秀でたコーネリア皇女殿下の騎士で帝国の先槍と呼ばれるギルバート・G・P・ギルフォード卿が手にした本を読んだり、こちらを観察するような視線を向けてくる。

 そしてギルフォード卿の隣にはコーネリア皇女殿下お付の将軍のアンドレアス・ダールトン将軍が腕を組んで前を向いたまま動かないのだ。別段こっちを見ている訳ではないだろうが威圧感が半端ではない。

 

 二人の室内を圧迫させるような気迫に飲み込まれ、誰かに助けを求めたいが隣のソレイシィは飲み込まれているし、窓辺に立っているオデュッセウス殿下の騎士の白騎士は我関せずと言った感じで窓から外を眺めていた。

 誰でも良い!誰かこの部屋の空気を変えてくれ!!

 心の底から願った願いを聞くかのように部屋内に携帯の着信音が鳴り響いた。一瞬だけ天からの救いか!と舞い上がりそうになったが音から自分のものと気付いて絶望した。

 

 「どうされたヴィレッタ卿」

 「出ては如何か?」

 

 鋭い視線と威圧感漂う視線が向けられて震えながら携帯電話を取り出す。どうやら電話でなくメールを送られたようだ。送り先を確認して慌ててメールを開く。まさかキャスタール殿下からメールが来るとは思っておらず、なにか問題があったかと内心焦っていた。

 

 メールの中身はオデュッセウス殿下に膝枕され、頭を撫でられて幸せそうな笑みを浮かべているコーネリア皇女殿下が写っていた。

 

 なにがあったかと考えるあまりに急いで開いた為、周りの誰にでも見えるように開き、ダールトン将軍とギルフォード卿の視線がさらに鋭くなった。

 

 「「ヴィレッタ卿!あとでその画像頂けないものだろうか?」」

 

 窓辺で白騎士がため息をつく中でヴィレッタは二人に対して抱いていたイメージが砕け、何となくだが普通に接せられると安心した。


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