コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~ 作:チェリオ
トウキョウ租界にあるブリタニア軍の空港に珍しいナイトメアフレームが並んでいた。
普通のグロースターのように見えるがコクピット左右にはザッテルヴァッフェというミサイルランチャーが装備され、一機一機が搭乗者用にチューンを施された専用機となっている。
この特殊なグロースターはコーネリアの配下で精鋭騎士隊であるグラストンナイツの機体である。指揮能力もナイトメアの操縦技術も高く、仲間意識はそこいらの部隊以上にある。何しろ彼らは身寄りの無い子供だった頃にあの父性の強いダールトン将軍に引き取られ、騎士として養育を受けている。正直彼らの絆や想いは本物の家族と劣らないほどだ。
神聖ブリタニア帝国コーネリア軍兵士を後ろに、バイザー型のサングラスを付けたグラストンナイツ五名の敬礼が、正面に立っているエリア11の総督のコーネリアとオデュッセウス、そしてブリタニア帝国宰相のシュナイゼルの三人の皇族に向けられている。
「よくこの短期間でキュウシュウ戦役を収めたね。さすがはコーネリアだ」
「とんでもない。これも中華連邦と交渉されたシュナイゼル兄上と、いろいろと手を尽くしてくださったオデュッセウス兄上のおかげです」
「私は兄上の指示に従っただけだよ」
「ははは、確かに作戦時に指示したのは私だけれどその後の制定の手際の良さはコーネリアだからこそだよ」
「そんな…私なんて」
にこやかに笑みを向けられて褒められた事で、コーネリアは頬を染めながら恥ずかしそうに顔を背ける。
実際にコーネリアの仕事量はかなりのものだった。キュウシュウブロックから上がった被害状況に目を通しつつ、修理費用・破壊された民間施設への補修費用の捻出。全体的に見たら小さなものだが、キュウシュウブロックだけで見ると最小限に抑えたといってもかなりのもので、部隊の再編などいろいろな書類仕事をこなしてきたのだ。オデュッセウスやユーフェミアも手伝ったが総督でしか出来ないことも多くあって、あまり手伝いができたとは本人たちは胸を張って言う事はできなかった。
空港に並ぶエリア18に居たコーネリア軍の兵士も、本国より呼び寄せたグラストンナイツもキュウシュウ戦役を受けて、エリア11の強化の為に召集したのだ。
ただ現状としてはトウキョウ租界の守備にまわされる事になるが…。
「――殿下ぁ。オデュッセウス殿下!」
遠くから手を振りながらマリエル・ラビエが駆けて来た。駆けて来るマリエルに面識のあるシュナイゼルは別段変わった様子も無く、今回初対面のコーネリアは眉間にしわを寄せる。初対面なのは傍に控えているギルフォード達も同じで警戒して動こうとしたのを手で制した。
マリエルは途中から速度を緩めて、さっと身嗜みをチェックする。納得したのか大きく頷いてオデュッセウスの前に立って、敬礼をする。
「マリエル・ラビエ。ご依頼の機体と報告書を持って参上いたしました」
「うん、ご苦労様。短い期間だったのに間に合わせるなんて。本当にありがとう」
「兄上。彼女は?」
「ああ、紹介するよ。彼女はマリエル・ラビエ。私の下で試作強化歩兵スーツの研究開発をしている若き技術士だよ」
「試作強化歩兵スーツ……確か特定の人物しか機能を発揮しないというアレですか?」
「そうだよ。現在確認されたのは七人ほどだけどね」
紹介している間にマリエルが乗って来た小型輸送機よりナイトメアが降ろされる。ナイトメアを完全に隠せるほどのタワーシールドを左手一本で振り回せるほどのパワー。機動性も反応性もグロースターを凌駕する機体であるグロースター最終型が四機並べられる。
その光景にコーネリアは勿論、集められた騎士達の視線が注がれる。
「どうだい。私のところの技術班が開発したグロースターは?」
「キュウシュウ戦役での映像で拝見はしましたがやはり良いですね。量産化はされるのですか?」
「さすがにアレの量産はコスト的にきついよ。出来ても腕の良いパイロットに送るぐらいだね」
「そうですか…」
「私の所の生産はとりあえず終わったから、次はコーネリアのところへ卸す分を生産しようか」
「是非お願いします!」
「シュナイゼルはどうする?専用機を持ってもいいんじゃないかい」
「いえ、折角ですが私の下では置物になるだけで勿体無いですから」
会話をしながら受け取った資料に目を通し終えるとそれをコーネリアに渡す。受け取ったコーネリアは最初の一項目に目を通すと頭を下げた。
「申し訳ありません兄上。もう少し私に力があればこういう事態にもならなかったと言うのに…」
「気にする事は無いよ」
「せめてユフィが話をしてくれれば手立てもあったのですが」
渡した資料は【ユリシーズ騎士団によるキュウシュウブロック防衛計画書】である。
ナリタ連山やタンカーの時にブリタニア軍は多大な損害を出したが、エリアを維持できる戦力と多少の本国からの増援もあって戦力としては十分。そこにエリア18に駐屯していたコーネリア主力軍にグラストンナイツも到着して過剰戦力と言っても過言ではない。なのにキュウシュウブロックの防衛をオデュッセウスが本国待機していた隊員を含めたユリシーズ騎士団を呼び寄せて、キュウシュウブロックの守りを行なう。これにはユフィの先日の宣言が大きく関わっていた。
アッシュフォード学園の学園祭にスザクの様子を見に来たユーフェミアは偶然にもナナリーと再会を果たしてしまった。スザクが操るガニメデがピザの生地を広げる様子の見える場所で、会話していた際に突風に煽られて帽子が飛ばされ正体が露見してしまった。世界一のピザを作るという事で地元のテレビ局もその場に居り、ナナリーが映されて皇族とばれる事を恐れたユーフェミアは自身を囮としてナナリーを隠す事に成功し、ユーフェミア自身はスザクの操るガニメデに助けられて押し寄せる生徒の群れから救い出された。その際に行政特区日本の設立を発表したのだ。
帝国臣民とナンバーズをきっちりと区別――いや差別と言っていいほど別けていた帝国の皇族が一部とは言えナンバーズを認める発言をしたのだ。
知らされていなかったコーネリアは憤慨したがオデュッセウスとシュナイゼルの説得で取りやめになる事は無かった。知らされてなかったのはオデュッセウスも同じだが原作知識を持っている為に驚く事も無く、メリットとデメリットを天秤にかけて賛成していた。
立案した本人としてはナンバーズとして区別するのではなく、認め合うか仲良くするなど現実的には無理な理想論を実現化したのであろうが頭の良いシュナイゼルと原作知識を持つオデュッセウスには分かっていた。エリア11の反ブリタニア組織を一手で壊滅できるものだと。
元々日本の独立や日本を認めさせることを目標としていた反ブリタニア勢力は嫌でも参加せざるを得ない。もし不参加などを決め込めば存在そのものが瓦解してしまう。それは黒の騎士団の様子を見ていれば理解できる。組織が大きくなれば多くの考えを持つ者を内包してしまい、賛成派と否定派の二グループに分かれてしまう。参加すれば武装は解除しなければならず、反ブリタニアの力を絶つこととなり、参加しなければ内部での対立や分裂を招いて、内部情報の露見に繋がってどのみちこれまで行なっていた反ブリタニア活動に大きな支障が出る。
理解出来ないブリタニアからは夢物語などと叩かれているが、反ブリタニア勢力からしたら喉元に短剣を突きつけられた状態なのだ。
正直に言うと最初は反対だった。父上を止めることが出来るのは黒の騎士団の総帥であるゼロことルルーシュであるという思いと、ユフィの死亡フラグが建つという最悪の事態が待ち受けているからだ。
しかし、物は考えようだ。このまま黒の騎士団が戦い続けてもアニメ二期のように中華連邦と協力関係を築けるかと聞かれれば【否】としか答えられない。かと言ってラクシャータを通じて中華連邦・インド軍区からの援助も今は難しい。そのような状態でコーネリア主力軍と戦えば、勝てたとしてもブリタニアを相手にするほどの力は確実に消失する。本国にはナイト・オブ・ラウンズや戦力を持つ皇族・貴族が多くいる。そうなれば黒の騎士団は壊滅。最悪の場合は弟の死亡書を目にするかも知れない。
だったらゼロとして下ったルルーシュを秘密裏に自分の下に寄せて、父上を止める為に手を貸してもらおう。自分の事情を話すことになるが背に腹は代えられない。黒の騎士団員にはエリア11の独立に手を貸すと言えばなんとかなるかな?戦力的にも三個大隊を持つ自分に、中華連邦の天子様を通じてシンクーと手を組めば何とかなると思う。
いろいろ打算もあったが必死に考えたユフィの願いを挫くことができなかったのが一番大きかったのは間違いない。
ここで問題なのはユフィの宣言した特区日本を理解した上で行動を起こす者達の存在だ。ブリタニアを心から憎んでいる連中からしたら目障りこのうえなく、原作のように特区内でブリタニア軍人が日本人を殺害すれば騙し討ちと反攻の火がエリア11全体に広がる。またナンバーズを認める事を良しとしないブリタニア人至上主義者なども同様の考えを持つだろう。そのもしもを防ぐ為にグラストンナイツやコーネリア主力軍はトウキョウ租界の防衛に当てる事になったのだ。本当なら主力軍から何割かをキュウシュウの防衛に回す予定だったが、余剰戦力がなくなったのでオデュッセウスがユリシーズ騎士団をキュウシュウ防衛に当てたのだ。勿論特区日本が軌道に乗れば本国に戻る事になるが。
「ユフィが話していたら即刻却下していただろう?」
「そんな事はっ――」
「ないとは言い切れないね」
「シュナイゼル兄様!」
「ふふふ、では私は先に本国に戻ります」
「すまないね。私がいろいろやらかしたばっかりに…」
「いえ、皇族がこのエリアに集まりすぎたのもありますが、宰相としての仕事もたくさん残しておりますから」
「にしてもこんな時になにをしているのか」
「殿下ぁ~!遅くなり申し訳ありません!!」
猛ダッシュで駆けて来たのはナイト・オブ・ラウンズの正装を着こなして、息一つ切らしていないノネット・エニアグラムであった。
本国との会議でオデュッセウスがエリア11に残る事は了承されたが、皇族がひとつのエリアに集まりすぎているのとラウンズが長く留まりすぎているという問題が残っており、軍の空港に集まっているのはコーネリア軍の受け入れにグロースター最終型の受け取りがメインではなく、シュナイゼルとノネットが本国に帰るので見送りに来ているのだ。
ちなみにクロヴィスは副総督補佐官として残り、今はユフィの手伝いで書類仕事に追われている。キャスタールとパラックスは滞在期間を来週まで延ばして、もう少し留まるらしい。
「まったく貴方はなにをしているのかしら?」
「いやぁ、ギリギリまで粘っていたのだがさすがに時間が無くて……」
「本当に貴方は…。騎士なのだからそっちを第一に考えるのは分かるけど少しは化粧とか」
「分かった分かったって」
遅れて来たノネットにシュナイゼルの斜め後ろに立っていたカノン・マルディーニが呆れた顔を向ける。原因を知っているオデュッセウスは頬を軽く掻きながら笑うしかなかった。
ノネットが遅れた原因はランスロット・クラブが間に合わなかった事である。確かにランスロット・クラブは完成したのだが、ノネットが「こういう武装が欲しいんだけど」と追加の注文を言い、シミュレーターで得たデータの更新やノネットの動かし方に各部を調整したりと仕事が増えて、今日までに調整が間に合わなかったのだ。
「クラブは私が責任を持って届けるからさ」
「すみませんがお願いします」
「代わりに本国までシュナイゼルの護衛を頼むよ」
「何者に襲われてもラウンズの名に恥じない活躍をして見せます」
「これは頼もしい限りだな。宜しくお願いするよエニアグラム卿」
「ハッ!お任せを」
深々と頭を下げるノネットに微笑を向けたシュナイゼル達は皇族専用の小型機で本国へ向けて出立した。騎士達は胸に手を当てて、コーネリアとオデュッセウスは見えなくなるまでずっと見送り続けた。
「あれ?エル。私のグロースターは?」
見送った後、コーネリアはグラストンナイツや自軍の主力軍に指示を出しに離れ、オデュッセウスはひとりぽつんと立っていると、マリエルが乗って来た輸送機から降ろされたナイトメアの数が足りない事に気付いた。アリス達の追加のグロースター最終型四機にランスロットの予備パーツであった手足を繋げた白騎士専用のグロースターの合計五機。オデュッセウス専用の灰色のグロースターがこの場に無いのだ。
首を捻りながらマリエルに聞いてみると、逆にマリエルも疑問符で返してくる。
「え?間に合わないようなら白騎士のグロースターを優先するように聞いたのですけど?」
「うん?私はそんな指示は出して――」
「私が勝手に出させてもらいました」
平然と答えたのは今まで一言も発さなかった白騎士であった。発さなかったのはコーネリアが嫌っている事と兄弟・兄妹の間に入る事は無粋と思ってだったが、今はオデュッセウスとマリエル、そして白騎士のみなので口を開いたのだ。
「え、ちょ…何故に?」
「だって殿下。勝手に飛び出ちゃうでしょ」
「いやぁ…飛び出さざるを得ない状況が…」
「普通は騎士達を向かわせるのですが。殿下はそれほど私達が信用できませんか?」
「そんな事はない。それは断言できる」
「なら問題ありませんね。こちらとしても勝手に飛び出されては困りますし」
「エ…エル…」
「グロースターの調整はあと二日は掛かりますから何か用意します?皇族の権威を使って正規軍から無理やり借りる事も出来るでしょうが殿下としてはしたくないでしょう。となると博物館行きのグラスゴーかアッシュフォード家に頼み込んでガニメデを借りるかですね」
「・・・・・・」
「殿下。たまには大人しくしていて下さい」
「はい…」
しょげたように返事をしたが、すでに策は練っているし(第44話 「学園祭へ行こう!」より)ナイトメアに乗る事なんてないだろう。だったら気軽に構えていても大丈夫だろう。
そうだ。特区日本の開会式が終わったらユフィに神楽耶さんを呼んで会食するのも良いかな。
こうして物語は特区日本へと進んでゆく……。