コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第48話 「ブラックリベリオンⅡ」

 トウキョウ租界は黒の騎士団とブリタニア軍の戦闘で被害が拡大していた。

 ナイトメア隊の戦闘で付近の建物は穴だらけとなり、戦車や自走砲台の砲弾によって着弾地点が吹き飛び、怒りに燃えた一般民衆は民家などに押し込み今までの鬱憤を晴らすように暴れていた。

 その中であるナイトメア隊が学園エリアに向けて進んでいた。機体はグロースターのみで構成されていたが一対三の割合で所属が違った。先頭を進む白いグロースターの胴体にランスロットの両手足を接続したオデュッセウスの騎士である白騎士。クロヴィスの騎士であるキューエル・ソレイシィを始めとするクロヴィス親衛隊機が三機の皇族親衛隊の混合部隊で、彼らはアッシュフォード学園に居るライラ・ラ・ブリタニアを護衛し、政庁まで護送するのを目的として向かっている。

 

 ・・・・・・・・・5機で。

 

 『殿下!先行しすぎです!!』

 『危険です!お待ち下さい!!』

 

 白騎士とキューエルが無線で呼びかける相手はかなり距離を離した前方を最大速度で駆けていた。

 純白の機体に一部が蒼く塗装されたナイトメアの速度はすでにグロースターでは追いつけない速度に達していた。

 先行しすぎる機体は帝国最強の十二騎士【ナイト・オブ・ラインズ】の九番目【ナイト・オブ・ナイン】ノネット・エニアグラム卿専用機である、第七世代ナイトメアフレーム【z-01ランスロット】の二番機【z-01b ランスロット・クラブ】。

 正式パイロットであるノネットが乗っているならば白騎士もキューエルも心配することはなかっただろうが本人は本国に帰還しており、今頃は中華連邦に対峙する艦隊の中だ。

 ブリタニア軍は一機でもナイトメアが欲しいところであるが、ラウンズの専用機である事に加えて、ただでさえ普通のパイロットでは扱い辛い機体なのに、接近戦が得意なノネット用に改装されれば尚更扱い辛い。それを知ってラウンズの専用機の無断使用を決断し、起動キーを持っている人物は一人しか居なかった。

 

 特別派遣響導技術部に製作を依頼し、改修中だったランスロット・クラブをエリア11から本国に輸送する約束をしたオデュッセウス・ウ・ブリタニアだ。

 

 「先行しているのも危険なのも分かっている。けれどあそこにはライラが居るんだよ!クラブの足ならもっと速く!!」

 『落ち着いてくださいと言っているのに!!』

 

 黒の騎士団の一部が学園エリアへ向かったと報告を受けてから飛ばし過ぎるオデュッセウスに焦りを感じる。それもその筈。原作では占拠された学園には居なかったライラ・ラ・ブリタニアと、オデュッセウスが関わった事でギアスで記憶を書き換えられることのなかったシャーリーが居る。シャーリーのほうはそれほど変わるとは思えないが、ライラの存在がどれほど原作を書き換えてしまうのか見当がつかない。それ抜きにしてもライラが心配なのだが…。

 

 最高速度で街灯の灯りがひとつも灯ってない街中を駆けるクラブは曲がり角に差し掛かった。角にある建物に両手のスラッシュハーケンを打ち込んで無理やりに曲がる。速度の出しすぎて曲がると同時にラインを大きく膨らませたが、スラッシュハーケンを巻き取り反対側の建物に激突するのだけは回避した。それどころか遠心力と巻き取りによってクラブの最高速度以上の速度を一時的に出したのだ。両足にもかなりの負担が掛かるがそれ以上にオデュッセウスの肉体にも負担が掛かっている。

 

 同じ手法で角を曲がる度に急激なGで身体はシートに押し付けられ、臓器は締め付けられるように痛み、骨はメキメキと音を立て、意識は朦朧とする。途絶えそうになる意識と痛みに苦しむ身体を支えているのは妹を救おうと願う意思と癒しのギアスを随時発動させて痛みを和らげているおかげだ。

 

 『―ッ!!殿下!正面にナイトメア反応六つ!味方の識別信号を出しておりません!』

 

 角を曲がる度に突き放される白騎士は索敵範囲に入ったナイトメア反応に危険を感じて叫ぶが、オデュッセウスは速度を緩める事なかった。

 

 「どけええええええ!!」

 

 外に聞こえるように外部スピーカーで声を響かせながら突っ込む。声で気付いた二機の無頼が驚きながらも敵と認識するとアサルトライフルを撃ち始めた。同時に無頼の手前の足元に打ち込んだスラッシュハーケンを軸にクラブはスピードスケートの選手がカーブを曲がるように身体を倒れないギリギリまで倒して半円を描くように接近した。姿勢を低くした事と速すぎる速度に狙いが追いつかなかった為に銃弾は当たらずに懐までの接近を許してしまった。

 

 そんな二機を前にオデュッセウスは自分から右側の無頼の腹部辺りにスラッシュハーケンを打ち込んで斜め左へと跳んだ。

 

 打ち込まれた無頼は最高速度のクラブに引っ張られ、踏みとどまる事も出来ずに隣に居た無頼に激突しても尚止まらずに吹っ飛んだ。今度はクラブが引っ張られそうになったが今まで無理をさせ続けた右手スラッシュハーケンのワイヤーが千切れて巻き込まれずに済んだ。

 

 距離を置いた後方に四機の無頼を確認すると慌てる事無く両腰のスラッシュハーケンを打ち込む。空中では自由に動けないナイトメアだが幾らかは動くことは出来る。例えばコーネリアがナリタでやったように左右のスラッシュハーケンの巻き取り速度を変えることで右へ左へと銃弾を回避したように。まったく同じ手法で四機の銃撃を避けきったオデュッセウスは振り向く事無く駆け抜けて行く。通り過ぎられた無頼は当然のように背後から撃とうとするが、キューエル隊の射撃に気をとられて撃つ機会を逃してしまう。

 

 『まったく殿下は!いつもいつもいつも!!少しは立場を考えてください!!』

 

 自分勝手な行動でいつも迷惑を被っている白騎士は怒りながら突っ込み、本人ではなく立ち塞がる無頼に八つ当たり気味に斬りかかった。

 

 

 

 

 

 

 紅月 カレンはゼロより指示を受けてある地点で待機していた。ここはゼロが危険視している白兜――ランスロットの予測進路に当たり、補足したランスロットは学園エリアに向かって進撃している。ゼロが学園エリアに司令部を置いたのは学園の生徒のスザクなら助けに来るというのもあったのだろう。正直賛成できる作戦ではない。あそこには自分の友達だった皆も居るんだ。

 

 「でも…ゼロの作戦なんだ。大丈夫…大丈夫」

 

 自分の心を落ち着けるように呟き、潜んだ物陰より見つめる。ゼロが仕掛けの準備を済ませるまでの時間稼ぎをする事に集中しなければ。

 そう思い見つめていると半壊した道路を進むランスロットを発見した。キッと睨みつけて呂号乙型特斬刀と呼ばれる小刀を投げ付ける。気付いたランスロットは手で弾いた。

 

 「スザク!」

 『―ッ!?カレンか!』

 

 弾かれた小刀を掴みながら叫ぶと驚きを含んだスザクの声が返ってきた。

 シンジュク事変の時から目の当たりにしたランスロットの性能とスザクの操縦技術にはいつも驚かされた。ナリタでの戦いでは紅蓮弐式を与えられて対等に戦える力を得た。しかし今は奴は飛行能力とスペックがさらに上がって、紅蓮で倒せるか怪しい事を認識する。だから時間稼ぎに専念するしかない。

 

 「ここから先には行かせないよ!」

 『どうしてだカレン!何故…何故アッシュフォード学園を黒の騎士団は…』

 「ゼロが司令部をそこに置くと決めたからよ」

 『君は…生徒会の皆が心配じゃないのか!』

 「黒の騎士団は武器を持たない者の味方よ。手出しする訳ないじゃない!あんたのお姫様と違ってね!!」

 『――ッ!!あ、アレは…』

 

 機体越しではコクピットに乗る人物の表情を伺うことは出来ない。が、知っているスザクの声色から推測する事は出来る。スザクは優しすぎるのだ。不器用なほど、自身を二の次にするほど、愚鈍なほど優しすぎる。その優しさは戦場では命取りになる。

 

 一気に駆け出し迫る紅蓮にスザクは反応しきれず、後ろに下がる事すら出来なかった。大きな右手が開かれた状態でランスロットを掴もうと迫ってくる。MVSを振るうにも飛んで距離を取るのにも遅すぎて、ギリギリでシールドを展開する事しか出来なかった。スザクの目の前が紅蓮弐式の輻射波動で真っ赤に染められ、勢いに負けて体勢を崩してしまった。

 押し負けたランスロットは後ろに尻餅をつくように倒れた。そこに再び紅蓮の手が迫る。

 

 「さぁ、あんたもあの皇女様の所に逝きな!」

 

 特区日本で虐殺されていった日本人の姿を思い返しながら操縦桿に力が篭る。

 あの皇女があんな式典なんかしなければ……目の前の良い所で裏切り者が邪魔さえしなければ……ブリタニアなんて国が無ければこんな事にはならずに済んだのに!

 

 「――ッ!?なにごと――きゃ!?」

 

 止めを刺そうとしたカレンは急にアラートが鳴り響いた事で自分が狙われている事に気付いて身を反らす。紅蓮とランスロットの間を銃弾が走り、仰け反った紅蓮にランスロットの蹴りが直撃した。後ろに下がりながら体勢を直して撃って来た相手を睨みつける。そこにはキュウシュウ戦役で共に戦ったタワーシールドを装備したグロースターがアサルトライフルを構えていた。

 

 『ご無事ですか?』

 『君は!なんで君がその機体に…』

 『説明は後です!貴方にはやるべき事があるでしょう。ここは私が引き受けます』

 『しかしっ―』

 『地上を走るより空を飛ぶあなたの方が速い。アッシュフォードの皆を頼みます』

 『………すまない。ここは君に任せるよ』

 

 飛翔しようとするランスロットに迫ろうとするがグロースターの銃撃に阻まれて近づけず、飛んで行く姿を見送る事しか出来なかった。ゼロの命令を完璧に果たせなかった事に焦りながらグロースターと対峙した。グロースターは弾が切れたのかアサルトライフルを投げ捨て、タワーシールドに収納されていた剣を抜いた。

 

 『黒の騎士団のエースですね。私は神聖ブリタニア帝国第一皇子オデュッセウス・ウ・ブリタニアの騎士団がひとつ、イタケー騎士団所属のアリスが相手をします』

 「その声!?アリスってまさか…」

 『え!もしかしてカレンさん!?』

 「そう…貴方もブリタニア軍人だったわね」

 『何故カレンさんが黒の騎士団に……いえ、どちらにしてもやることはひとつ』

 

 予想外の相手に驚きながらも剣を構えられた事でカレンも戦闘態勢を整える。カレンにしても一刻も早く眼前の敵を排除してランスロットを追わなければならない。誰が立ち塞がろうとも関係はない。

 最初に動いたのはアリスだった。重装備のタワーシールドに通常のグロースターよりも所々追加装甲を施されているのに、紅蓮以上の速度で迫ってくるのは恐怖を覚えた。

 が、速度が速くたって当たらなければ意味は無いのだ。振り下ろされた剣を捻りながら避けるとすかさず右手を伸ばす。出来れば腕の一本でもと思ったがそんなに甘くはなく、タワーシールドで腕を弾かれて防がれる。

 

 「幾ら速くたって!」

 『速度はこちらが上の筈なのに…いや、反応速度で負けた。だったら!』

 

 急に速度が上がったグロースターのタワーシールドと剣を捌きながら隙あらば輻射波動で狙う。機体のステータスでは負けているが技量では負けてはいない。だが油断すればあの大きなタワーシールドで一瞬でスクラップにされるだろう。

 このときアリスは焦っていた。機体性能で勝っているのはキュウシュウ戦役でのデータから実証されている。なのに押され続けている。ギアスを使って速度を上げようとも前の機体みたく接続されてない為に機体に対する効果は薄く、効果が多少は出るようにされているがそれでも追いつけない。アリスがここにいるのは白騎士に言われて別ルートから目的地へ向かえと指示を受けたからだ。横からの不意打ちを避ける狙いがあったのだろうがこれでは役目を果たせない。二重の意味で焦ったアリスは最後の手段に賭ける事に…。

 剣をタワーシールドに収めて地面に突きたてる様にしたアリスの意図は読み切れなかった。だが、隙を見逃すほどカレンはお人好しではない。厄介なタワーシールドごと剣を吹き飛ばせば普通のグロースターと何ら変わらない。

 

 「これで――」

 『――終わりです!』

 

 触れると同時に輻射波動の赤黒い光を輝かせた紅蓮の右腕は、突如地面から起こった爆発に巻き込まれて二の腕から先が吹き飛んだ。振動と衝撃で揺れるコクピットの中で耐えながら右腕の状態をモニター越しに確認して忌々しげに舌打ちした。

 

 ―グランドクロス

 グロースター最終型が登場したゲームでは技ゲージを二つ使用する事で発動する技で、原理は分からないがタワーシールドを地面に突き刺すと地面から光線が発せられるもの。最終型を製作するにあたって覚えていた記憶より特徴や性能要求をしたが、これだけはどうして良いか分からずにタワーシールドにとりあえずの細工をする程度で済ませた。

 細工と言うのはタワーシールドの先端に流体サクラダイトを送り込むスピアーが突き出るようにしたのだ。予めグランドクロス再現用の流体サクラダイトをタワーシールドに積んで機体に影響が出ないようにもしてある。地面に注入された流体サクラダイトに出し終わった後の先端から電流を流して爆発を起こす。これがオデュッセウスが考えたグランドクロスの再現である。

 

 しかし、この再現には大きな問題が三つある。

 ひとつは一回使うだけでスピアーが破損する為に一度しか使えない事。二つ目はゲームのように距離を選べない事。三つ目は使用した最終型にも大きな負担を強いる事だ。

 

 「クッ!ここまでか…」

 

 苦々しく睨んだ先に居るグロースターは爆発の衝撃を受け止めきれずに左腕が砕けていた。何とか右腕でタワーシールドを持ち上げるが左足の状態が芳しくないのかふら付いていた。

 これ以上の戦闘は無意味と判断してこの場を離れる。輻射波動付きの換えの右腕は無いとしても別のナイトメアの腕を付けてでも前線に復帰しなければ。

 

 

 

 

 

 

 ルルーシュは自分を囲むようにレーダーに映る敵にほくそ笑む。

 レーダーだけを見ると絶望的な状況にしか見えないが、実際はそうではない。周りを取り囲むように展開しているのはブリタニア軍の空爆部隊。戦闘能力のほとんどが対地上用兵器で中には機銃を持った戦闘ヘリや輸送機もあるだろう。しかしガウェインのハドロン砲に比べると威力も射程もちゃちなものだ。

 正面の航空部隊にハドロン砲を撃つとレーダーに映る敵影がLostの表示の残して消失した。そのままガウェインをゆっくりと360°回転させる。囲んでいた航空機はハドロン砲の直撃、もしくは掠めただけで爆発を起こして消え去った。

 援軍に来たブリタニアの航空機は塵と化し、最大の懸念だったランスロットはアッシュフォード学園に設置したゲフィオンディスターバーの範囲内。ナナリーが居るアッシュフォード学園は黒の騎士団に守らせている。中々順調に戦況が運んでいることに心にも多少の余裕も出来てきた。

 

 「さて、政庁を落とせばチェックメイトだな」

 「簡単に言うが少々骨が折れそうだぞ」

 

 上空を飛ぶガウェインの前方斜め下にはブリタニア政庁が映っており、攻略に向かう部隊が政庁上部に取り付けられた対ナイトメア用の機銃により撃破されている。いずれは突破出来るだろうが時間が経てば経つほど暴動を鎮圧した各地や本国からの援軍が到着し、不利になる立場から悠長に構えてはいられない。

 

 「藤堂。私は政庁の上から攻め込む」

 『機体能力に頼るのは危険だと考えるが…』

 「混乱を作るだけだ」

 

 短く通信を入れて着地したガウェインの前には見事な庭園が広がっていた。生憎深夜で空は黒ずみ、銃声や爆発音響く中では勿体無く感じる一方、どこか見覚えのある庭園に自然と思い出が蘇える。

 

 ナナリーが元気に駆け回り、困った顔で追いかける自分。そしてその光景を微笑みながら見守る母上の姿を。

 

 「似ているな…」

 「あぁ…。アリエスの離宮に」

 「何故知っている?」

 「いずれ教えてやるさ。その時がきたらな」

 『ようこそゼロ!』

 

 思っている場所を言われて眉間にしわを寄せながら問うがこういう言い回しをしてくるという事はどうやっても今は話す気がないのだろう。そんな疑問を外部スピーカーより発せられた声に掻き消された。ハッとなって顔を上げて周囲を確認すると斜め前に大型ランスとアサルトライフルを持ったコーネリアのグロースターが立っていた。

 

 「コーネリアか!?」

 『空爆情報に誘われて来たか。ゼロ!ナリタでの借りを返させて貰うぞ!!』

 「クッ!機体の操作系をこっちに寄越せC.C.!」

 「分かっている!」

 

 C.C.より機体の操作系を譲渡されたルルーシュは身を捻りながら距離を取ろうとするが、譲渡した間にコーネリアは猛スピードでガウェインに接近する。これ以上近付かれないようにワイヤーカッター式スラッシュハーケンである指を伸ばしたが掠りもせずに走り抜けられた。腕を振るって後ろから切り付けようにも動きが遅すぎた。グロースターに対して圧倒的にステータスで勝っていたガウェインだが大き過ぎるゆえに小回りに関しては負けていた。

 走りぬかれた際に膝裏に一撃を喰らってバランスを崩され、立て直す間もなく何発もアサルトライフルの弾丸をもろに受けてしまいコクピット内が揺れる。

 

 『どうしたゼロ!動きが追いついてないぞ』

 「小回りが利かない!ならば」

 『距離を開けるか。だがしかし!』

 「なに!?」

 『これで終わりだ!!』

 

 飛行状態に体勢を変えて上空に逃げようとすると、浮遊したと同時にスラッシュハーケンが巻きつき、グロースターに取り付かれた。腹部に足を着けて立ち上がった状態で身体をスラッシュハーケンで支えている為に、両手の武器を自由に扱えるコーネリアと違ってルルーシュはすべての武器が使えないか射線外だ。

 C.C.は絶望的な状況に苦々しい表情をするが、ルルーシュはグロースターの右肩を注視するのに専念していた。

 

 ―ピクリと肩が僅かだが上がった。

 

 その瞬間、機体を右に傾けてコクピットを狙って突き出された大型ランスを擦りながらではあるが直撃を阻止したのである。そのまま機体を回転させた事で外してバランスを崩したグロースターはスラッシュハーケンだけでガウェインにぶら下がっている状態に。

 

 『馬鹿な!?』

 「これで――これが初白星か」

 

 身動きの取れないグロースターにワイヤーカッター式スラッシュハーケンを絡めてコクピット以外のパーツを切り裂いた。庭園に落下したコクピットを見つめながらルルーシュはガウェインを着地させて地面に降り立った。

 銃を片手に近付くゼロにコクピットより姿を現したコーネリアは、落下の衝撃でぶつけたのか頭部から血を流しながらも銃を向けていた。ただ打った衝撃が残っているのか手は大きく揺れ、足元はふら付いていた。ゼロの仮面を外して素顔を晒すと目を見開いて驚いたがすぐに頬を緩めてコクピットにもたれながらその場に座り込んだ。

 

 「お久しぶりです姉上」

 「ルルーシュ……そうか…やはりお前だったか」

 「やはりという事は姉上はゼロが俺だと気付いていた?」

 「ああ、確証はなかったし、日本占領時に死んだと聞いていたから確信はなかった。ただ…」

 「ただ?」

 「ナリタでの動きには懐かしさを感じた」

 

 兄上や母上と行なった模擬戦ではよく姉上とも手合わせしたのをルルーシュもはっきりと覚えている。姉上は母上やビスマルクは勿論兄上に毎回負けていた。そして勝つ為の動きを練習する時に手伝わされた。何度も何度も何度も剣やランスを交えたのだ。動きを覚えていても可笑しくない。先の勝利だってそのおかげで勝てたのだから。

 

 「捕虜にされるぐらいなら死を選ぶ。だが、その前に教えてくれ………どうやってあの一撃を避けたのだ?」

 「―――姉上はここぞという時に僅かだが肩を上げる癖があったのですよ。ランスなどを使うときは特に」

 「ははははっ…いつも兄上やお前にまで渾身の一撃の時だけ避けられていたのはそういう事だったか…」

 「では、こちらからの質問にも答えてもらおうか」

 

 絶対遵守のギアスを発動させてコーネリアの瞳を見つめて言うと、薄っすらと瞳に赤い輝きをまとってハイライトが消えた。生気を失ったかの状態でコクンと頷いた。

 

 「私の母上を殺したのは姉上ですか?」

 「違う」

 「では誰が?」

 「分からない」

 

 やはり知らないか。

 庶民出の母さんを、皇族のほとんどが快く思っていなかったが、武人気質のコーネリアは尊敬し慕っていた。殺したか聞いたのはあくまでの確認。知っていたとしたら復讐までは行かないが問い詰めるかそれ相応の償いをさせていただろう。それらしき事実は確認できなかった。

 

 「あの時の警護担当は姉上でしたね。何故警護隊を引き上げさせたのですか?」

 「マリアンヌ様に頼まれた」

 「母さんが!?」

 

 コーネリアの言葉にギアスが効いているかを疑った。

 当時の警護隊が引き上げていたのは調べがついていた。だから何者かが警護隊を引き上げさせ、犯行に及んだか及ばせたものだと思い込んでいた。しかし事実はおかしな方向に。殺害された母さんが引き上げさせたという事は襲撃があることを知っていたかそれ相応の理由があったという事だ。襲撃がある事を知っていたのなら俺やナナリーを逃がした筈だろうし、他の可能性がまったく浮かんでこない。

 

 「何があったあの日!誰なんだ母さんを殺した奴は!」

 「・・・」

 

 予想外の答えに戸惑い怒声を挙げて問うがコーネリアは口を閉ざして何も喋らなかった。

 オデュッセウス兄上が事実を知っているが、黒の騎士団とブリタニア軍の全面戦争となった今では聞くことも会うことも絶望的。少しでも情報を得るには警護担当だったコーネリアから聞き出すしかない。

 

 「ならあの事件で他に知っていることはないか!調べていたんだろう」

 「皇帝陛下の命でシュナイゼル兄様が遺体を運び出した。それとオデュッセウス兄様が――」

 『おい!戻って来い!!』

 

 何かを言いかけた所でC.C.の声が辺りに響き渡った。遺体をシュナイゼルが運び出した事に疑問を抱いたが、それ以上に普段は聞かないC.C.の焦った声色のほうが気になった。

 大体聞くべき事は聞いたし、後はコーネリアを捕縛して本陣へ向かうだけ。仮面を被りなおしながらガウェインに向かって歩き出す。

 

 「分かっている。そろそろ政庁の守備隊が――」

 『違う!お前の妹が攫われた!!』

 「冗談を聞いている暇は…」

 『私には解る!お前が生きる為の目的なのだろう!神根島に向かっている!!』

 

 神根島と言われて遺跡を思い出す。あの時は時間が無く、チラッと見ただけだったが、壁にはギアスの紋章が確かに刻まれていた。C.C.ともギアスとも関連した遺跡であることは確かだろうが…。

 

 『オォォォォル・ハイル・ブリタァアアアアアアニア!!』

 

 考え事をしていたルルーシュの耳に大音量で叫ぶ声が入った。振り返ると政庁の屋上の天井を突き破って見た事のない機体が飛び出してきた。

 球体状の機体で足や手や射撃兵装は無いように見えるが、政庁の屋上を体当たりだけで粉砕する事からかなりの強度を誇る装甲だという事が分かる。浮遊している事から上空からの体当たりなどされたらガウェインでもヤバイかもしれない。

 

 『おや?貴方様はゼロ。何たる僥倖!宿命!数奇!』

 「まさかオレンジか!?」

 

 C.C.によってコクピットまでガウェインの手に乗って運ばれているとコクピットより身を乗り出しているジェレミアに目を見開いた。確かナリタの時に輻射波動を当てて倒したと思っていたが……そういえば脱出していたか。

 オレンジと言われたジェレミアは目を大きく開いて見つめながら大きく開いた手を胸の辺りで合わせた。

 

 『お、おおおお、お願いです!死んで頂けますか?』

 

 コクピットに乗り込んで飛行しようとシステムを起動させると眼前のモニターに急接近するジェレミアの機体が映った。大きな衝撃を受けながらそのまま政庁屋上より押し出される。

 

 『ゼロ!私は帝国臣民の敵を排除せよ!そう!ならばこそ!オォォォォル・ハイル・ブリタァアアアアアアニア!!』

 

 ジェレミアの叫びと共に……。

 

 

 

 

 

 

 スザクは焦りを募らせていた。

 学園の皆を助けに来たのだがゼロの一騎打ちに応じて罠に嵌り、ランスロットの機能は停止させられた。式根島で使われたサクラダイトに干渉するゲフィオンディスターバとかいうものを使用したのだろう。

 動かない以上は出来る事は一つ。ランスロットを奪われない為にコクピットに立て篭もるしかない。

 外からバーナーを使って開けようとしていた音も止み数分の時間が経った。

 

 「――どうしますか?」

 「学生?ならば寮のほうに戻してやれ」

 「ちょっと甘すぎねぇか扇」

 「おい玉城!」

 「ゼロならこんな時迷わないだろうよ」

 「止めなさい!」

 

 外ではその場に居る学生をどうするかで揉めているようだ。扇と呼ばれた人物はまだ良心的な人物っぽいが玉城と呼ばれた人物は何かをやろうとしている。モニターも映ってない事から何が起こっているかまったく見えないが不味い。コクピットから出ようとした時に聞き覚えのある声に動きが止まった。

 

 「指揮官は何方ですか!お話があります!!」

 「ラ、ライラちゃん!?」

 「ちょっと不味いって…」

 「ここの指揮官は俺だが…君は?」

 「ライラ・アスプルンドと名乗ってはいますが私はライラ・ラ・ブリt――」

 「大変です扇さん!!」

 「うわっ!?」

 

 こんな状況下で本当の名を名乗りを上げようとしたライラの言葉が慌しい男性の声で遮られた。これ以上はと思い、コクピットより出ようとしたスザクに強い衝撃が襲ってきた。大きく揺られるコクピットにモニターの灯りが灯った。原因は分からないが動く事を理解して立ち直しながら何事かと振り返るとそこにはランスロット・クラブが立っていた。

 

 「まさかエニアグラム卿!?」

 『あー……期待させたようならごめんね』

 

 エニアグラム卿が来てくれたのならもう大丈夫だと安心した所でとても聞き覚えのある声に思考が停止する。最もここに来てはならない人の声のような…。

 突如現れたクラブに驚いた黒の騎士団の隙を付いてミレイ会長にシャーリー、リヴァルにライラがこちらに駆け寄ってくる。慌てて会長達を庇うように立ち、騎士団員の銃弾から護る。

 辺りを見渡して起動したままのゲフィオンディスターバに濃く残っているブレーキ痕。それに先ほどの衝撃を考えて、ランスロットが動けるようになったのはどうやらクラブに体当たりされて押し出されたらしい。そのクラブは腰のスラッシュハーケンを伸ばして近場の無頼の頭部を吹き飛ばしていた。

 

 『学生を返して貰おうか!』

 「くそッ!誰だチクショーが!!」

 『私かい?私は神聖ブリタニア帝国第一皇子、オデュッセウス・ウ・ブリタニアだが』

 

 突如現れたクラブにイラつきながら叫んだ声に名乗りを挙げる殿下の行動に頭痛が起こった。

 見える範囲の学生も黒の騎士団も皆が皆、ポカーンと口を開いて呆然と見つめていた。

 

 「殿下!何故御一人で来られたのですか!!」

 『え?いや…友達や妹が危険なのに黙っていられなくて……つい』

 「ついじゃありませんよ!」

 『とりあえずスザク君は補給を受けないとね』

 「受けようにもまずはここを護らないと」

 『こんばんは~』

 「え?」

 

 上空から気の抜けた声と同時に照明で照らされる。見上げるとそこにはアヴァロンとフロートユニットを装備したサザーランドが降下してくる所だった。

 

 『スザク君。フィラーカバーを開けて。エナジーを交換するから』

 「殿下にロイドさんにセシルさんまでどうして?」

 『どうして…って殿下!?』

 『あは♪やっぱりそのクラブはオデュッセウス殿下でしたか。相変わらず無茶をしますね』

 『そうかい?』

 『だってクラブボロボロですよ?』

 

 言われて見るといたる所にひびなどの損傷具合が激しい。スラッシュハーケンも一部千切れていた。銃弾やスタントンファなどの損傷具合ではない。相当な無茶な操作を繰り返してきたのだろう。

 

 『まぁ、ブレイズルミナスが使えるから学生が避難するまでの盾ぐらいにはなるから良いか』

 「良くないですよ殿下」

 『私よりスザク君のほうが良くないんじゃないかな』

 「え?」

 『早く行きなよ。君には君にしか出来ない事がある。白騎士たちももうすぐ来るしここは私達に任せて。さぁ』

 「ーッ…はい!アッシュフォード学園のみんなの事。よろしくお願いします」

 

 力強く返答を返すとゆっくりと上昇し始める。クラブハウスの屋根からこちらを見つめるアーサーと目が合い、見送られながら上空へと飛び立った。この争いを終わらせる為に。


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