コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第51話 「本国へ帰還した第一皇子は…」

 神聖ブリタニア帝国では同じニュースが連日流されていた。

 エリア11での大規模な内乱。

 ユーフェミアの死亡にコーネリアの行方不明。

 ブリタニア帝国に刃を向けたテロリストのゼロの非公開処刑。

 

 どれもこれもがエリア11で起きた出来事ばかり。

 エリア11に留まっていた皇族は本国に戻され、たった一週間で内乱をほとんど鎮圧したと言う事でパーティーに参加。パラックスは手柄を立てた事が嬉しかったのかはしゃいでいたのだが、逆にお優しいオデュッセウス兄様は何処か儚げだった。

 理由は解りきっている。あの兄妹&兄弟想いの兄上様がユーフェミアを亡くし、コーネリアが行方不明になった事に悲しまない筈がない。それでも皇族の立場があるから悲しみを抑えてでも参加なされたのだろう。

 

 だから神聖ブリタニア帝国皇帝陛下代行であり、第一皇女であるギネヴィア・ド・ブリタニアは心に大きな悲しみを抱いているオデュッセウス・ウ・ブリタニアを慰めようと部屋を訪ねたのだ。勿論であるが今日の職務で重要性がありそうな物は前日にほとんど済ませ、時間的余裕がある物は明日以降に回し、会食や会議の予定は数日前にキャンセルした。

 あまり使いたくないが気を紛らわせるのに酒を飲む者もいると聞く。今日の為に極甘口のシェリー酒にベルギーの高級チョコレートを取り寄せた。

 後はどれだけ自分が慰められるかに掛かっている。扉の前で緊張した自身を落ち着かせようと深呼吸を繰り返し、覚悟を決めて扉をノックしたのだったが…。

 

 (どうしてこうなっているのだ!?)

 

 いつもの冷徹な仮面を剥がされて頬を真っ赤に染めて年頃の生娘のような表情を晒していた。

 ノックして挨拶を済ませて持ってきた手土産を渡したところまでは予定通り……なのにどうしてこうなったし…。

 現在ギネヴィアはソファに腰掛けるオデュッセウスに膝枕されている。しかもエリア11で手に入れた竹で出来た耳かき棒で耳掃除をされている。

 ふわりと優しい手付きで左手で頭を撫でられつつ、右手に持った耳かきが耳の内側を優しく擦る。カリっと渇いた音とこそばゆいようで気持ちの良い感覚が広がる。

 

 「ん…」

 「ふふ、気持ち良さそうで良かったよ」

 「確かにこの上なく気持ち良いのですが…何故耳かきを?身嗜みはきちんとしていたのですよ」

 「身嗜みがどうこうと言うよりも癒し的な意味合いでしているんだけどな。最近日本のことで忙しかったろう?」

 「癒しですか?」

 「マッサージや耳かきって自分でするより誰かにされるのって気持ち良いだろう。それに耳かきなんてこっちではしないしさ」

 

 確かに自分では届かないところや見えるからこそ気付くところにも手が届く。それに最初は竹で出来た硬い棒を入れることに不安があったがやってもらった今なら心地よさがよく解る。いつもは綿棒でくるっと撫でるだけなのだが耳かきに代えるのも良いか…。いや、普段は綿棒にしてたまに兄上に頼むのも…。

 

 耳から伝わる気持ちよさと、接触面から伝わる人肌の温もりで徐々に瞼が重たくなってきた。なんとか起きようと意識を保とうとするのだが優しく撫でられるたびに意識が眠りへと誘われる。

 うつらうつらしていた意識を手放し眠りの中に堕ちて行こうとしたギネヴィアはノック音にて覚醒した。このような姿を誰かに見られるわけにはいかないと飛び起きたいのだが、オデュッセウスが耳かきを止めないので起き上がろうにも起きれない。

 

 「あ、兄上…少し待っ―」

 「開いているよ」

 「失礼しますお兄様」

 

 微笑を浮かべながら入ってきたのはマリーベルだった。

 ブラックリベリオンでは本国からの援軍の指揮官としてエリア11に向かい、黒の騎士団の敗残兵の対処に当たっていた。それも二日前に完遂して騎士団は輸送艦や空輸で本国へ向かってきているが、マリーベルは皇族専用の小型機を前もって準備しており一足早く帰ってきたのだ。

 視線が合い羞恥から顔が熱くなる。鏡を見たら耳まで真っ赤になっているのだろうと思いながら耳かきをされているので身体が動かせないで居た。

 

 「日本ではマリーもお疲れだったね」

 「いえ、お兄様がなされた苦労に比べればどうという事はありませんわ」

 「私の苦労なんて……。それより騎士団長から指揮能力の高さを聞いたよ。良くやったね」

 「テロリストを相手にするんですもの。本気でやらねば後々面倒ですからね」

 

 笑みを浮かべているものの一瞬の陰りが見えた。テロにより母親と妹を失った事を思い出しているのだろう。テロリストに対してマリーは強い憎しみを持っている。オデュッセウス兄様の命令とは言え、捕縛を優先と言われた時には複雑な気持ちだったに違いない。

 耳から耳かき棒が抜かれ、終わりかと油断した瞬間に耳へ吐息が吹きかけられた。

 

 「ひゃうん!?ななな、何をなさるのですか!」

 「耳かきの仕上げはふーだろう?さて、右耳は終わったから次は反対を向いてくれるかな」 

 「…は、はい」

 

 変な声を出してしまったこともそうだがお兄様に聞かれてしまったのが一番恥ずかしい。

 左耳を上にする為に顔の向きを反対にして転んだのだが、向いた方向に何があるか気付いて余計に赤面する。あのオデュッセウスの上半身裸体の雑誌はラミネート加工し、今でも色あせておらずに保管している。目の前には服で隠れているが写真で見るのではなく本物があると思うと心臓の鼓動が早くなる。

 

 「ところでお兄様」

 

 声のトーンが低くなり、背後から何やら怒気のようなものを感じる。生憎背を向けている為に表情までは見えないが、冷や汗を掻き始めた兄様の様子から本当に怒っているようだ。

 

 「な、なにかなぁ?」

 「なんであのような物をパラックスに贈られたのですか?おかげでオズが…」

 「余計に何のことかな?」

 「ですから―」

 

 言葉を続けようとしたマリーだったが通路よりドタドタと駆けて来る足音が近付いて来るに連れて口を閉じた。ノックすることもなく開け放たれた扉から入ってきたのは満面の笑みを浮かべたパラックスだった。その手にはエリア11のお土産で貰った木刀が握られていた。そして少し遅れてからどんよりとした空気を漂わせながら俯いているオルドリンと、苦笑いを浮かべるキャスタールが姿を現した。

 さすがに手が止まった隙に振り返るとそんな面々と目が合うが、何も言われずにパラックスが兄様に木刀を見せ付ける。

 

 「勝ったよ兄様!圧勝も圧勝!やっとオルドリンに勝ったよ!」

 「本当かい!?腕を上げたんだねパラックス」

 「にひひ♪」

 

 褒めて褒めてと近寄ってきたパラックスの頭を撫でているのを間近で見て羨ましくて頬を膨らます。

 笑みを浮かべるパラックスだったが対照的にキャスタールは頭を抱えて何かを言いたげだった。

 

 「どうした?」

 「あー……うん。確かに圧勝してたよね」

 「……はい。手も足も出ませんでした。マリーの剣なのに何も出来ず」

 「ごめん。何したの?」

 「オデュッセウス兄様がプレゼントして下さった木刀で手合わせをしただけです」

 

 ………分かった。

 マリーベルの騎士になる以上に悲しませたくないオルドリンは【オデュッセウス兄様が贈られた木刀】だからこそ攻撃できなかった。オルドリンにもだがオデュッセウス兄様にも依存しており、その兄様がプレゼントした物に傷をつけられなかったのだろう。後は相手が皇族という事もあって怪我をさせないようにと考えれば人体への攻撃は不可能。

 これはオルドリンでなくても大概の相手では勝てない。

 

 「パラックス。次はそれを使わずにやった方が良いわね」

 「えー…」

 「兄上に頂いた物をボロボロにしたいのか?」

 

 キョトンとして理解できてないオデュッセウスの代わりにギネヴィアが注意すると不満げな表情をするが、傷だらけにはしたくないという理由で納得してくれたのか渋々頷いていた。

 これで静かになると思い再び左耳を上にして寝転ぶと耳かきを再開される。心地よい感覚が耳に広がり頬を弛ますギネヴィアだが、木刀の件で後回しにしていた四人がギネヴィアを放置する筈も無く…

 

 「ところでギネヴィア姉様は何をなさっているのですか?」

 「―――っ!!」

 「こら、急に動くと危ないじゃないか」

 「あああ、兄上。耳かきは後でも…」

 「駄目だよ。ほら、じっとして」

 

 今すぐここを離れたいが耳かき棒を入れられたままでは何も出来ずにただ後ろからの視線に耐える事しかできなかった。

 

 「何してんの?」

 

 扉が開けっ放しだったのもあって通りかかったカリーヌが足を止めた為に背中に刺さる視線が増えた。

 しかも今更だが通りかかった者の数だけこの光景を見られているという事に気付いた。恥ずかしさのあまりにいっそ殺して欲しい…。

 

 「ギネヴィアは皇帝代理の公務で大変なのに日本ではさらに頑張ってくれたからね。ご褒美に耳かきを――――ってどうしたんだいキャス?」

 「ボクも政庁防衛の為に頑張りました」

 「なに並んでるんだよ!それだったら藤堂捕らえたボクのほうが功績があるだろ!」

 「私も中華連邦牽制したりしたんだけど…で、あんたは並ばなくて良いの?」

 「私はオズにして貰ってますもの」

 「あっそ…」

 

 困ったようで嬉しそうな笑みを浮かべる兄様の顔を見ていると本当に皆の事を好いているのがひしひしと伝わってくる。多分この関係はずっと続くだろう。こんな日々がずっと続けば良いのに……。

 

 「そう言えばさぁ、ギネヴィア姉様もそうだけどオデュッセウス兄様は結婚とか――」

 「兄様にはまだ早いです!」

 「ええぇ…」

 

 聞き捨てなら無い言葉に速攻で斬り捨てに掛かる。兄様の口から驚きの声が漏れているようですが聞かなかった事にします。

 確かに兄上もそろそろ家庭を持つべきなのかとは思うし、兄上に見合う女性が居れば反対もしません。が、何人も各国や貴族から申し込みはあるが条件に見合う女性は一人も居ないのであれば仕方ないではないですか。

 

 「まだ早いってもうお兄様も31歳だよ。遅いぐらいじゃないの?それにお兄様自身はしたくないの?」

 「私は結婚願望はあるんだけどねぇ…公務やらなんやらで出会う機会って少なくてさ」

 「でも縁談の話とかはないの?」

 「そういえば…聞いたことないね」

 

 何やら冷めた視線を感じる。

 私が精査している事を知っているのはマリーベルとカリーヌ、そして同じく精査していたコーネリアの三人のみ。

 カリーヌが大きなため息を漏らして呆れながら見つめる。それを楽しそうに微笑むのはマリーだけだった。

 結婚について考えているのか手が止まった事に不満を覚える。

 

 「オデュッセウス兄様。お手が止まっております」

 「あ、ああ…すまない」

 「終わったら今度は私がしてあげますから」

 「あー!姉様ずるい!」 

 

 頬を膨らまして抗議するカリーヌに笑みが零れる。

 もう暫しの時間だが楽しもう。

 予想だがすぐに兄上は本国を発ってしまう気がしてならない……危険な戦場へと…。

 

 

 

 

 

 

 執務室のソファで横になったオデュッセウスは目を瞑りながら思考の海に潜る。

 自分はエリア11で何をした?

 クロヴィスやユフィを助け、ニーナやナナリーを手元に置き、コーネリアに護衛を付けてユーロ圏へ送った。

 代わりにルルーシュを父上に引き渡すような事をしてしまった。

 スザク君とルルーシュに対する罪悪感が半端ない。しかも伯父上様に目を付けられたのは本気で死亡フラグっぽくてヤバイ。

 なんとかしてポイントを稼ぎたいところなんだけど伯父上のポイントを稼げそうなもの……C.C.を引き渡す―――却下。

 

 正直、今のオデュッセウスは弱っている。

 クラブの無茶な操縦をして身体が痛んでいる事を言っている訳ではない。と言うか身体は全快した。

 癒しのギアスで多少痛みを和らげ治癒出来れば良いかなと思って使用していると、いつの間にか痛んだ内臓系もひびの入っていた肋骨も治りきっていたのだ。あまりの治りの早さに驚いたがそれ以上に担当していた医者は心底驚いていた。精密検査を受けたが異常は何もなかった。それどころか以前の精密検査より良い結果が出た。肌年齢が18歳だって。美容系は何もしていない31歳なんですけど…。

 もしかしたら私のギアスは【癒し】では無いのではないか?あの時は簡単なテストで(仮)みたいな感じで名前を付けたし。

 

 ―と、話がギアスに偏った。

 先ほどの【弱っている】と言うのは戦力的&ギアス対策の事だ。

 白騎士であるロロがギアス響団に戻された。外で活動出来るギアスユーザーが必要と言う理由だったけれども【コードギアスR2】に向けての準備かなと予想している。ただ少し速すぎるかなとは思うけど。

 アリス達ギアスユーザーの騎士団【イタケー騎士団】はナナリーの専属騎士団になった。私はアリスをナナリーの騎士にすると言ったつもりだったのだが、いつの間にか騎士団ごと移籍する話になっていて…。ダルクやサンチア、ルクレティアと仲良くなったと嬉しそうに話すナナリーに「実はアリスだけ」なんて言えなくて…。まぁ、ナナリーの身辺を護る戦力が充実したと思えば悪くはないかな。

 

 おかげでギアスユーザーに対抗出来うる人材が一人も居なくなった。

 イタケー騎士団から切り離したマオは姫騎士の護衛兼補佐の為にエリア11に居るし、ミルビル博士は新型ナイトメア開発に専念して貰う為に開発局に篭って貰ったし、マリエル―エルもマオと同じくエリア11で、父親のレナルド博士は試作強化歩兵スーツの簡易量産版製作の為に研究して貰って周りには誰も居ない。

 

 短く息を吐きながら時刻も深夜だった事で、ベッドに移動して今日はもう寝ようと瞼を開けるとそこには油性マジックを近づけようとしていたアーニャが居た。視線が合った瞬間舌打ちされた事から誰だか分かり易い。

 

 「何をなさってるんですかマリアンヌ様」

 「うふふ。さぁて何をしていたでしょう」

 「まさかもう書かれてる!?」

 

 慌てて飛び起き、鏡を手にとって確認するがイタズラされた様子はない。安心して息を吐き出すと後ろでクスクスと笑う声が耳に付く。この反応を見るための悪戯だったのかと今更気付くが肩を落とすしか出来ない。

 

 「やっぱり貴方は良いわね」

 「人を玩具のように言うのは止めてもらえません?」

 「どうしようかしらね?」

 

 久しぶりに見た楽しそうな笑みに頬が弛んでしまった。

 アーニャの意識の中にマリアンヌが存在する事を知っているのはオデュッセウスとシャルルのみ。となれば自然と遊べる相手はオデュッセウスとなる。その事を考えるともう少し会った方が良いのだろう。会っても遊ばれるだけなのだろうけど…。

 

 「それよりも何か用があったのではありませんか?」

 「ええ、シャルルが呼んでるのよ。今すぐ来てくれるかしら」

 「畏まり……え?」

 

 急な呼び出しに何事かと身構えながらアーニャ(マリアンヌ)の後ろを付いて行く。警備の兵が居る筈なのだが姿が見えないことから見られると非常に不味い事柄に触れるのだろう。

 …と言うか、マリアンヌにアーニャ、そして警備が誰も居ない場所と聞くと凄く嫌な感じがするのだけれども…。

 道中何も起こらずホッとしながら父上が待つという部屋に到着すると小さなテーブルにワインが置かれており、椅子が三つ用意され、そのひとつに父上様が腰掛けていた。

 

 「来たか…」

 「お待たせしてしまい申し訳ありません皇帝陛下」

 「よい…これは公のものではない。楽にしろ」

 「立ち話じゃ落ち着かないし、さっさと座りましょう」

 

 手を引かれてそのまま椅子に腰掛けさせられると、腕を組んでこちらに視線を向けるシャルルの威圧感に逃げ出したくなる気持ちでいっぱいになった。

 蛇に睨まれた蛙のような状態にマリアンヌは肩を震わして笑った。

 

 「エリア11では色々と仕出かしたそうではないか」

 「えと…どれの事を言われているのでしょうか?心当たりが有り過ぎてどれの事か…」

 「事細かに知っている訳ではない。だが兄さんが動いた事だけは知っておる」

 「詳細については…」

 「聞いてもおらぬし、聞く気もない」

 

 その回答に心底安心した。

 嘘が嫌いと言いつつも嘘を付くV.V.とは違い。良い意味でも悪い意味でも嘘を付かない父上に説明を求められたらC.C.の事を話さなければならず、結果は想像もしたくないものになるだろう。

 ドッと吹き出た冷や汗をハンカチで拭いながら次の言葉を待つ。

 

 「貴様にはユーロピアに飛んで貰う」

 「ユーロピアですか?しかしあそこはユーロ・ブリタニアが担当していて本国からの介入はしないほうが良いのでは?」

 「勿論極秘裏にだ」

 「この子の記録に残っていたのだけど随分政庁を抜け出しては好き勝手していたそうじゃない」

 「何故それを!?」

 「それはこの子――アーニャと同じラウンズに心当たりがあるんじゃないかしら?」

 

 言われてすぐに思い浮かんだのはノネットだがアーニャに無断外出を話したとは考えられない。となればジノだな。何度か写メを送ったからそれをアーニャに見せたのだろう。そして見せられたアーニャは自分の端末に記録として残し、入れ替わったマリアンヌ様が見たと……次からもうちょっと注意しよう。

 

 「貴方なら好き勝手に動けるでしょう」

 「多少は動けるでしょうが…何をすればよいので?」

 「兄さんがプルートーンを動かした」

 

 その名にピクリと反応した。

 【プルートーン】とはブリタニア皇族と関わりを持つ特殊部隊で、古くから汚れ役を請け負っている。今はオイアグロ・ジヴォンが隊長を務めている。確かにオイアグロはV.V.の事を知っており、皇族の命で動く【プルートーン】をV.V.は動かせる。しかし何故と疑問が残る。

 

 「目的は分からぬがあの地に何かあるようだ」

 「部隊数は分かりますか?」

 「サザーランド六機ほどが本隊と別行動しているとビスマルクから報告を受けた」

 「約二個小隊ですか…こちらの戦力は如何程に?」

 「こちらからの介入はないものと考えよ」

 「つまりはユーロピア連合の勢力圏内にユーロ・ブリタニアの支援も受けずに潜入して調べろという事ですか…」

 「そうだ」

 

 なんか死亡フラグが突貫工事で建設されているような気がして頭が痛くなる。

 額を押さえながら笑みを浮かべる。余裕を持った笑みや愉悦に浸っているような笑みではなく、笑うしかない状況で笑っているだけだが。

 

 「少し頼みがあるのですが宜しいでしょうか?」

 「良かろう。申してみよ」

 「まずナイトメアの用意をお願いします。機体は中古のグラスゴーで。それと偽造パスポートにユーロピア圏内に拠点になりそうな物件を」

 「ふむ。手配するように言っておこう。ほかにも何かあるのか?」

 「いえ、あとは自分で何とかしてみます」

 「そうか」

 

 小さく頷いた父上は机の上のワイングラスを手にとって飲み干した。短く息を吐くと立ち上がりそのまま扉に向かって歩き出した。急に退席しようとしたシャルルを見送る為に慌てて起立する。

 

 「ユーロ・ブリタニアの援軍は期待できぬがマンフレディという男を頼ってみるが良い」

 「マンフレディ?はて…何処かで聞いたような」

 「元ナイト・オブ・ツーで今はユーロ・ブリタニアで騎士団の総帥をしている」

 「豪快な人物であったけど仲間想いで情に厚い人物よ。貴方ならシャルル以上に仲良くなれるかもね」

 

 シャルルに続いて退席していったマリアンヌを見送ったオデュッセウスは眉間にしわを寄せて、腰掛けて腕を組む。ナイト・オブ・ラウンズなら耳にしていても可笑しくないのだが、何か引っ掛かる。まるで大事な事を忘れているかのような…。

 結局思い出せないままオデュッセウスはユーロピアに向かう準備をするのであった。


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