コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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 本当に申し訳ありません。
 土曜日に用事が出来てしまい投稿がだいぶん遅れてしまいました。


第52話 「ユーロピア入りする前に準備をしよう」

 神聖ブリタニア帝国 ナイトメアフレーム開発局 第一皇子専用ラボ【エレイン】

 湖の乙女の名の一つを名付けられたラボ内には最新機が並んでいた。

 

 可変ナイトメアフレームRAI-X16【サマセット】

 ゼロがスザクを救出する際に扇が乗っていた折り畳み可能な民間用ナイトメアフレームの同タイプを飛行可能な機体へと改造した機体で、次期空中騎士団主力機として考えられている。

 現在の空中騎士団の主力はナイトメアフレームが騎乗出来る飛行騎乗兵器プリドゥエンと空中騎士団仕様のナイトメアフレームで構成されているが一機飛ばすだけで多くの人員が関わる事となって非効率的なのだ。ゆえに新たに開発されたサマセットは可変して単独で飛ぶ為に関わる人員を削減し、プリドゥエンを超える高い空中性能を誇る。ただ軽装に拘った結果、長時間の飛行は出来ず、武装は腕部内蔵コイルガンのみとなったので主力機には加えるが仮状態での配置になる。

 

 そして【ブラッドフォード】

 同じ可変機のサマセットとはまったくの別物で性能的にはランスロットに近い。ハドロン砲の技術も取り入れており、火力も飛行能力もサマセットが霞むようなナイトメアに仕上がる予定だ。

 サマセットはすでに完成してテスト飛行も終えて生産体制に入りつつあるが、ブラッドフォードはやっと組み立てに入ったところだ。これから機体のテストを幾度となく繰り返し、システムの調整を施し、テスト飛行などの実践的な試験を行なう予定が組めるようになったが、完成にはあと数ヶ月は掛かるだろう。

 

 最後に量産化計画には組み込まれていない【サザーランド・イカロス】と名付けられたナイトメアフレームを内部に搭載するナイトギガフォートレスである。表向きに確認されるナイトギガフォートレスの初の実機となる。本当はブラックリベリオンでジェレミア卿が搭乗した【ジークフリート】が初なのだがアレはギアス響団が管理し、操縦するには問題のある事案に触れなければならないので表向きには発表されてはいない。

 見た目的には全長9メートルほどの多数の武装コンテナを積んだ戦闘機のコクピット付近からサザーランドの顔が飛び出ているような感じだ。アニメのコードギアスR2に搭乗した可変時のトリスタンの巨大版のほうが分かり易いだろうか。

 

 そんな最新機に関わっている作業員を横目で眺めながらオデュッセウス・ウ・ブリタニアとウィルバー・ミルビルはラボを横断するかのように歩いていた。

 

 「ブラッドフォードもようやく形になってきたね」

 「ハッ!これも惜しみなく資金を提供して下さった殿下のおかげでございます」

 「持ち上げないでくれよ。私は資金を提供しただけでこれは君たち技術班の成果なんだから。それに私が資金を提供しなくともこんなすばらしい機体を周りが放って置かなかっただろう」

 「お褒めのお言葉。感謝致します」

 

 ウィルバーの言葉にオデュッセウスは「ははは…」と笑い、頬をぽりぽりと掻く。

 礼儀正しく真面目なウィルバーだから仕方ないのだがオデュッセウスとしてはもっとラフに接してくれた方が気楽で良いのだが…。

 そんな事を思いながらさらに奥へ進んでいくと最新鋭の機体ではないがナイトメアが置いてある。

 

 【四聖剣】の千葉 凪沙が搭乗していた月下である。

 藤堂や【四聖剣】が使用していたナイトメアフレームの月下で残存する機体はほとんど研究所送りとなった。しかし破損状態の一番少なかった千葉機だけはオデュッセウス預かりとなった。

 破損部分を修復して、中身を改修し、フロートユニットを取り付け、両腕にブレイズルミナスを装備させたりと趣味で改造を施して貰っている。今から乗るのが楽しみだ。

 

 さらに奥に進むとオデュッセウスとウィルバーしか入れない格納庫がある。入るには幾つものロックを解除する必要があり、複数のキーとパスワードを持っているのは二人だけという厳重な管理をしている格納庫には二機のナイトメアが眠っている。

 一機はオデュッセウス用に改造中のランスロットタイプで、もう一機はユーロピアに持って行くグラスゴーで最終調整を済ませ待機している。これもこれで色々仕掛けを施しているが今回は説明しないでおこう。

 

 「アレは手筈通りに送っといて貰えるかな?」

 「承りました。それで荷物の到着予定に変更は無しで宜しいですか?」

 「現状は変更無しで。こっちも済みそうだしねぇ…。ところでちゃんと家族サービスしてあげてるかい?」

 「最近はこちらに掛かりっきりでして…」

 「ひと段落したらちゃんと帰るんだよ」

 

 軽い会話を交わしながら、進捗状況も確認できた事で出口に向かって行く。

 本来ならユーロピアに着いていても可笑しくないのだが、これもユーロピア行きを命じた父上のせいでもある。

 エリア11で大打撃を被ったエリア11に駐留するブリタニア軍の再編成に追加の部隊派遣。

 あまりに大きな出来事で浮き足立っている各国への対応。 

 各エリアで反ブリタニア勢力の動きが活発になっている事実。

 その他もろもろ忙しく、皇帝陛下に御伺いを立てると『俗事は任せる』と…。

 

 シュナイゼルもギネヴィアも忙しく動き回っている中、私が何もしていないというのはどうも気持ちが落ち着かない。父上の命であるプルートーンの捜索はユーロピアに入った情報が届いてから何もない。ユーロ・ブリタニア担当区域でユーロピア共和国連邦の支配地域、そしてV.V.に悟られたくない事から監視もままならない。

 どうせ手付かずなんだし遅れても良いかと判断し、マリアンヌ様に父上が投げ出した俗事でユーロピアに向かうのが遅延すると伝えてから何の話も来ないことから良かったんだろう。

 

 警備用装備のプチメデ八機とグロースター五機に護衛された皇族専用車で移動中も書類に目を通し、膨大な情報を読み取っては手早く処理を済ます。それだけ時間が無いのだ。

 捲っていた中の一枚の資料を目にした瞬間、手が止まった。

 

 その資料は【ユーロ・ブリタニアによるユーロピア共和国連合侵攻状況報告書】でユーロ・ブリタニアがどんな作戦を行ない戦果を上げたのか。逆にユーロピア共和国連合にどんな作戦を用いられたかなど戦況から現状について色々書かれていた。オデュッセウスが注目したのは【聖ミカエル騎士団 団長の死去】の項目。

 

 「……あ。あー…そうか。そうだったのか。うわぁ……やらかしたぁ…」

 

 自分の記憶力の無さに頭が痛くなる。左手で片目を覆うように押さえ、大きなため息をひとつ零しながら資料に写る堂々として優しげな笑みを浮かべる騎士を見つめる。

 

 ミケーレ・マンフレディ。

 ユーロ・ブリタニアの聖ミカエル騎士団団長で元ナイト・オブ・ツー……。

 

 《ユーロ・ブリタニアの援軍は期待できぬがマンフレディという男を頼ってみるが良い》

 

 父上ぇ…すでに頼る相手が亡くなっているのですが私はどうすれば良いでしょうか?―――行くしかないんですよね。後ろ盾が無くとも…。

 

 脳内でシャルルに報告するイメージを浮かべてみるが「だから、どうした」と言われて終わるだけの気がする。

 頼る相手であり、自分が覚えていれば助けられたであろう相手に申し訳ないと思いつつ、今後の予定を組み立てる。

 マンフレディが亡くなった事で自分がOVAの【亡国のアキト】の話に入っている事を理解出来た。おかげでこれからの道筋が読める分、V.V.の狙いがおおよそ掴めた。

 

 亡国のアキトでV.V.が部隊を動かしてまで興味を引くものなんて限られている。 

 マンフレディは信頼を置いていたシン・ヒュウガ・シャイングに「聖ミカエル騎士団が欲しい」と言われた事を冗談と判断して「後々はお前を騎士団長に」と返したが、自身の歪んだ夢の為に騎士団を欲していたシンにギアスをかけられて自害させられた。

 これも興味を引くものの一つであるが動いたのは事件前。しかも資料にはシンに聖ミカエル騎士団を託して、持っていた剣で自害したとしか書かれておらず、これだけでギアスと関連付けるとなれば勘が良過ぎるなんてレベルじゃない。という事は考えられるのは三つ。

 

 集合無意識とは反対の存在である集合意識体の時の管理者。

 シンにギアス能力を与えたコードの刻まれた髑髏。

 以前C.C.がユーロピアに居た事から居ないかどうかの捜索。

 

 これらのどれかだと推測する。

 推測出来たからって対策する事はほぼ不可能。

 良し。ユーロピアには本当に観光で行こうかな。

 考えるのを止めて呑気な事を思い始めた矢先、車が多少揺れて停車した。運転席より降りた男性がドアを開けて頭を下げる。ゆっくりと車外に出て周りで敬礼をしている兵士たちに笑みを浮かべて手を振って進む。

 今日の予定としては宮殿内にてマリーベルとマリーベルの騎士団となる騎士達との面会だ。

 以前にシュナイゼルに創設してもらった【対ナイトメアフレーム戦術を備えたナイトメアフレームを運用出来る対テロ部隊】の技術や情報を受け継いだ騎士団の設立がやっと許可されたのだ。話によると反対していたのはギネヴィアで、皇女が戦場を駆け回るなどと猛反対されたらしいが、認めてくれるように頼んだ瞬間には許可を貰ったんだけど…どゆこと?

 思い起こしながらマリーが待っている部屋に向かうとすでにマリー達は来ていて、椅子に腰掛けたマリー以外は立った状態で待ち続けていたのだろう。

 

 「すまない。だいぶ待たせたかな?」

 「いいえ、私達も先ほど到着したばかりですし、まだ時間には早いですわ」

 「遅刻したのかと焦ってしまったよ。それでそちらの方々がマリーの騎士だね」

 

 見渡した先には四人の男女が整列しておりこちらに姿勢を正して敬礼を行なう。

 先頭に居るのは幼き頃からマリーの騎士を目指していたオルドリン・ジヴォン。マリーベルの対テロリスト部隊【グリンダ騎士団】で正式採用が決まった真紅と純白の制服を着用した姿はとても鮮やかで華やかだった。

 次に並ぶのは同性のソキア・シェルパ。元々は軍属ではなく競技ナイトメアフレームリーグのスタープレイヤーで【クラッシャーソキア】の異名を持つ。競技ナイトメアフレームリーグはグラスゴーを競技用に改造した【プライウェン】を使用した競技で、射撃武器や近接武器は使用禁止で肉弾戦を仕掛けたりはOKのレースである。なんと言っても眼前で行なわれるナイトメア同士のダイナミックな試合はほかのものでは味わえない。

 三人目はレオンハルト・シュタイナーという顔立ちの整った青年で、ウィルバーが所属していたシュタイナー・コンツェルンを運営する技術系貴族シュタイナー家の一人息子で、ブラッドフォードの正式パイロットになる子だ。

 そして最後はティンク・ロックハートというどっしりと構えた青年。元々皇立ナイトメアフレーム技研所属のテストパイロットを務めており、機体の性能を引き出す事に秀でていると言う。ただ過去の事故で身体の三割が義肢や人工皮膚となっている。

 

 ニッコリと微笑みながらマリーはオルドリンの横に並ぶ。いつも以上に緊張しているのか表情が硬く、思わず頬を緩めてしまった。

 

 「そんなに緊張しないで楽にしてくれたら良いよ」

 「い、いえ、マリーの…マリーベル皇女殿下の騎士として居りますのでそういう訳には参りません」

 「ああ、それはそうだね。遅まきながらマリーの騎士就任おめでとう。これからはマリーの剣として頼むよ。グリンダ騎士団ナイト・オブ・ナイツ、オルドリン・ジヴォン卿」

 「イエス・ユア・ハイネス。この命に替えましても」

 「命は駄目だよ。マリーが悲しむからね」

 「私も大事な人を失うのは懲り懲りよ…だから生きて帰ってきてね」

 「は、はい」

 

 騎士の覚悟としては正しいとは思う。けれど妹の悲しむ姿を想像するとそう言う訳にもいかない。 

 悲しむマリーベルの表情に焦りつつも返事を返したオルドリンの前からソキアの前へと一歩踏み出す。彼女は緊張しているというか何処かそわそわと落ち着かない…まるで芸能人を目の前にしたような感じを受けた。

 

 「お会いできて光栄ですオデュッセウス殿下」

 「いやぁ、私もだよ。まさか生でクラッシャーソキアに会えるなんて。あとでサイン貰えるかな?」

 「勿論です。ご存知いただけて光栄です!あ、握手してもらっても?」

 「ちょっと…さすがに失礼ですよ」

 「構わないよ」

 

 握手を交わして次のレオンの前に移動すると、彼は前の二人のように緊張したり、そわそわした様子は無く堂々と構えていた。貴族という事もあってこういう場には慣れているのだろう。

 

 「お初にお目に掛かります。自分はレオンハルト・シュタイナーと申し――」

 「え?君と会うのは二度目だよ?」 

 「――ま…え!?」

 

 前に会った事がある事実よりも自分が覚えていないことに焦り目が泳ぐ。

 当時の彼は幼く、私も遠目で見ていたから気付くはずも無かった。つまりは少し意地悪してみたのだ。周りから冷たい視線を浴びて余計に焦っている様子を見てさすがに悪い事をしたかなと思う。

 

 「はは、すまない。会ったといってもこっちが離れた距離から見ただけで気付いてないと思うよ」

 「あ…そ、そうでしたか…」

 「昔ナイトメアの適性検査でジノと一緒に来ていただろう。その時見かけてさ」

 「ギネヴィア皇女殿下が行なった時ですね」

 「うん。そうだ!その時の写真があるけど見るかい」

 

 そう言って懐の携帯を弄って当時の写真を画面に映して皆に見せる。特に反応したのが女性陣だ。

 腰まで髪を伸ばした幼く女の子と見間違うような少年。可愛らしく微笑んでいる様子は本当に愛くるしく見ている者を微笑ましてくれる。

 

 「可愛い!」

 「本当に女の子みたい」

 「なぁ!?女の子みたいって…」

 「これはレオンに女装させるしかないね!」

 「なんでそうなるんですか!」

 「ふむ…良し。では私から至急グリンダ騎士団の制服を一組用意するように手配しよう」

 「でしたらパイロットスーツの方にしてみませんか?」

 「うえぇ!?え?これ本当に着る話になってるんですけど…」

 「マリーもオデュッセウス殿下もほどほどにして下さい。本気で困ってますよ」

 

 悪乗りしたマリーも加わると冷や汗を流し始めたレオンハルト。さすがに止めないといけないとオルドリンが入る。さすがに本気ではないよ。だって女性用のパイロットスーツってハイレグのレオタードだよ。さすがにそれは着せたら問題になりかねない。せめて制服で止めるよ。

 ホッと胸を撫で下ろすレオンハルトの肩をポンっと叩く。

 

 「意地悪をして悪かったね」

 「い、いえ…」

 「さて、君がティンク君だね」

 「はい。元皇立ナイトメアフレーム技研所属テストパイロットのティンク・ロックハートです」

 「噂はかねがね聞いてはいるよ。機体能力を引き出す事に秀でているらしいじゃないか。その才能を遺憾なく発揮してくれる事を期待している」

 「ハッ。ご期待に沿えるよう努力いたします」

 

 皆の顔を見渡し大きく頷いて微笑む。それぞれ個性的で今は騎士としては半人前ばかりだが、チーム全体が良い雰囲気を持っているのが非常によく分かる。これから色々な困難が待っているのを知っているが、知っているからではなく彼らだからこそ大丈夫だろうと安心できた。これだけで会いに来たかいはあったと言うものだ。

 っと、もうひとつの目的を忘れていた。

 

 「マリー。これを」

 「これは?」

 「レオンハルト君が乗る予定のブラッドフォードの進捗状況だよ。やっとテスト飛行にこぎつけた段階だけどね」

 「わざわざありがとうございます」

 「それとマリーのオルドリンのランスロットは問題なく進んでいるよ」

 「本当ですか?」

 「開発者のロイドが喜んでいたよ。スザク君がデスクワークで忙しくてランスロットのデータが取れないってぼやきながらね」

 「納期はいつぐらいになりそうですか?二ヶ月ぐらいですか?」

 「ランスロット・クラブみたいに予備パーツを組む訳ではないんだよ。ランスロットの量産型である【ヴィンセント】。その【ヴィンセント】を造る為の試作機【ランスロット・トライアル】をオルドリン専用に改修しなきゃいけないんだ。機体の操縦性もそうだけどコクピット周りも変えなきゃだし、ロイドの事だからデータ収集を兼ねて色々新装備を用意するだろうし、ロイド自身がラウンズ入りしたスザク君の後見人になったもんだから本人も書類仕事で忙殺されてるし……半年は待つことになると思うよ」

 「そんなにですか…」

 「どのみちグリンダ騎士団もそのぐらいに観艦式を執り行うんだからちょうど良いじゃないか」

 

 明らかに残念そうにしているがロイドが直々に新兵器を積み、改造に改修に調整する機体を余所の技術屋に任せる事も出来ない。出来るとしたら黒の騎士団のラクシャータかうちのウィルバーぐらいなものだろう。片や反ブリタニア組織で片やブラッドフォードなどの開発で多忙で不可能だが。

 机を挟んだ椅子にマリーベルとオデュッセウスが腰掛ける。最後にもう一枚の書類を取り出して渡す。

 

 「これは頼みなのだけどこの子をグリンダ騎士団に入隊させてくれないかな?」

 「えーと、マリーカ・ソレイシィ…ソレイシィという事は貴族の―」

 「そう、貴族ソレイシィ家のひとりで、クロヴィスの親衛隊長を務めているキューエル・ソレイシィ卿の妹。あとレオンハルト君の許嫁」

 「何故お兄様が推薦なされたのでしょう?」

 「キューエル卿とは接点があって、軍学校に妹がいる事を知っていてね。そこに君が騎士団を立ち上げる話を聞けば許嫁が居ると言う。成績も優秀だし、問題はないと思うんだけど」

 

 半分は嘘である。

 ナリタで記憶を戻した際にマリーカを思い出しており、前々から気にしていたのだ。原作では兄を失いテロリストを憎む復讐心に目を付けたナイト・オブ・テンのブラッドリー卿に、グラウサム・ヴァルキリエ隊に入隊させられ、危うく紅蓮聖天八極式に瞬殺されかけた。アニメでは死んだっぽかったが漫画【双貌のOZ】では爆散した機体より放り出され、空中でレオンハルトが助けて生存した。しかしだ。兄であるキューエルが生きている事でテロリストに対する憎しみは薄れ、軍務としてブリタニア貴族として戦う敵として見ている彼女をブラッドリー卿がスカウトするとは思えない。となると優秀かつエリア11の人員不足から考えてエリア11配属に回される可能性が高い。そうなればゼロの奇策に紅蓮などの強者と戦って死亡する危険性が格段と上がるだろう。ならばマリーベルの騎士団所属にして生き延びて貰った方が良いだろう。さすがに自分がキューエルの未来を変えた結果、彼の妹を殺したなんて寝覚めが悪すぎる。

 軍学校の成績は優秀で性格上の問題点も無い。シミュレータの成績ではレオンハルト以上。実戦経験はまだないがこれから鍛えていけば良いだろう。当然返事は【はい】か【Yes】しかないと思っていたが、涼しげに微笑むマリーベルからは予想しなかった答えが出てきた。

 

 「お兄様の推薦ですけどお断りさせて頂きますわ」

 「……へ?ど、どうしてだい?」

 「ここに書かれている成績は実戦経験を除いて非の打ち所はありません。ですがレオンハルトの許嫁であるのが問題です。もしどちらかが敵の手に落ちたりすれば騎士として動けるとお思いですか?」

 「それは……」

 「無理でしょう。例え今は出来ると断言した所で実際目にすればどうなるか分からない。下手をすればどちらかを失うどころか騎士団全体に被害が及ぶでしょう。親しい者同士が同じ部隊に配属されればそういう危険も増えるのです。それが分からないお兄様でもないでしょうに」

 

 確かにそうだ。マリーベルの言葉に自分が何を仕出かしそうになったのかを認識させられた。自分だって妹や弟達が危険な目に会っていたら冷静な行動は出来ない。ナリタやブラックリベリオンの時なんかがそうだった。

 渡した資料を返されながらふと、あることに気付き顔を上げた。

 

 「それだったらオルドリンがマリーの騎士団に居るのも駄目なんじゃないか?」

 「「え?」」

 「だってマリーはオルドリンに依存しているだろう。もし何かあった際に冷静で居られるかい?」 

 「いえ、それは…そもそも私の騎士であるオルドリンが敵の手になんて…」

 「確かにオルドリン卿の実力はかなりのものだ。だけどそれ以上の実力者を知っている。帝国内にはラウンズ、黒の騎士団には紅蓮のパイロット。それに一対一で敵わなくとも一対多数に持ち込まれたり、エナジー切れを起こせば実力差なんて関係なくなる」

 「それはそうですが…」

 「ああ、私は本当に頭が回らない。冷静さを欠いていたようだ」

 「あの…お兄様?」

 「この件はシュナイゼルやギネヴィアと協議したほうが良さそうだね。早速二人に―――ん?」

 

 これは早くに相談しておかなくちゃと思い立ち上がり、急ぎ部屋から退席しようとしたオデュッセウスの裾をマリーベルが掴んだ。どうしたんだろうと小首を傾げるとマリーが泣き出しそうな表情を必死に堪えて平静を装って見つめてくる。

 

 「お兄様。先ほどの件なのですけれど…お受けいたしますわ」

 「ん?だってさっきはアレほど…」

 「確かにそういう危険な面はあります。ですがそういう弱点を補う為のチームでもあるのです。それにお兄様直々の推薦をお断りするなんてどうかしてました」

 「いや、先ほどの意見は実に正しかっ―――」

 「と言う事でマリーカさんは私の騎士団に迎え入れます。オルドリンもそのままで宜しいですわねお兄様!宜しいですわね!」

 「ア、ハイ」

 

 なんか分からないけれど最初の予定通り彼女がマリーの騎士団への入団が決まったのは良かった。これでとりあえずの準備は完了した。来週にはユーロピア入り出来るだろう。


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