コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第54話 「降下するワイバーンに迎え撃つは四足獣……そして何故かのオデュッセウス」

 ユーロ・ブリタニア領 スロニム

 歴史がありそうな教会に美しい西洋建築が並んでいるかと思えば、日本でも見かけたことのあるレトロな集合住宅団地があったりと別段余所と変わらない街のひとつ。

 ただ人っ子ひとり居ない異常な空間ではあるが…。

 

 現在スロニムではある作戦上一般人の退去命令が出されている。

 ユーロピア共和国連合軍によるユーロ・ブリタニアにより奪われた勢力圏内の奪還を目的とした大規模攻勢が行なわれる為である。作戦内容は簡単な物でユーロピア東部方面軍を前進させ、ユーロ・ブリタニア軍を蹴散らしながら支配地域の奪還。しかしユーロ・ブリタニアの各戦線も中々に強固であり、楽に突破できるのならすでに連合軍は今日まで戦い続ける事は無かっただろう。それにスロニムは最前線から離れた勢力圏内で一般人を退去させるほどではない。

 なのに退去勧告ではなく命令が出されたのはユーロピア共和国連合が、虎の子である神聖ブリタニア帝国にも存在しない輸送機を用いる為であった。

 

 大気圏離脱式超長距離輸送機【アポロンの馬車】

 地表から発射したナイトメア搭載型多段式ロケットにて大気圏を突破。目標地点に達するまで地球を回り、ナイトメア搭載カプセルを再度大気圏突入させられる性能を持つ。

 人類初の長距離用ロケットである。

 これによりユーロ・ブリタニアの支配地域内に奇襲部隊を送り込み、最前線後方の部隊へ攻撃、乱れた隙をついて前線を押し上げる手筈である。

 

 【アポロンの馬車】はユーロピア共和国連合軍特殊部隊【wZERO】のレイラ・マルカル司令が運用している。これは彼女が有能だからと言う理由だけではない。

 ユーロピア共和国連合軍はユーロピアの兵士が亡くなり、市民からの追求を受けることを極端に恐れている傾向があり、【wZERO】部隊には自国民の数に含まれない多くのイレブンで構成されているので使い易いと考えているのだ。勿論、司令であるマルカル少佐は捨て駒として彼らを使う気は毛頭ないが…。

 

 そもそも今回の大規模攻勢も先日行なわれた世論調査であまり良くない結果が出たので、慌てて国民にアピールしようと画策された無計画に近い作戦だ。それでも彼らは実行しなければならない。軍人として上の命令に対し拒否権など存在しないのだから…。

 

 

 

 ・・・確かに効果的な奇襲・強襲である事は認めよう。突如として支配地域のど真ん中に敵が現れるなど常識的に考えてありえない。いや、歩兵部隊や少数の工作隊などであれば納得もしよう。それをナイトメア部隊でやられるから堪ったものではない。ないのだが、この作戦は奇襲が成功する事が前提である事から今回のようにばれていては意味がないのである。

 

 

 

 スロニムの街中まで響き渡る轟音と共に少し離れた草原で巨大な爆炎が昇る。

 大陸弾道ミサイルがないコードギアスの世界で今一番の火力を誇る列車砲。ナイトメアが一機納まるほどの砲門から放たれた5トン前後の砲弾は一撃で地形を崩す。

 

 「た~まや~」

 「なんです急に?」

 「ただの感嘆符だから気にしないで」

 「は、はぁ…」

 

 集合住宅団地の屋上では一機のグラスゴーが片膝を付いた状態で待機していた。開けられたコクピット内にはオデュッセウスがモニターと睨めっこし、屋上に出ていたメルディ・ル・フェイが疑問符を浮かべたがすぐに持っていたカメラで着弾する草原の写真を写し始めた。

 

 オデュッセウスはユーロ入りして隠れ家を見て回り、密輸してもらったグラスゴーを受け取って……多少の観光もして……一段落ついたので父上様に命じられたプルートーンの捜索の前にスロニムで行なわれるであろう戦闘を観戦しようと訪れたのである。ユーロ・ブリタニアとユーロピア共和国連合のナイトメアのデータ収集も行なえるし、もしかしたら良い土産が出来るかもしれないと打算も含んで。

 

 ファクトスフィアを開いて情報収集したいところなのだがそれではすぐにエナジーが尽きてしまう。なので今回は市民に退去命令が出る前からスロニムに入り、各場所に監視カメラを設置して情報を送るようにセッティングしてある。おかげで街中に待機してある真紅のナイトメア隊の動きが丸見えである。

 

 レイラ・マルカルの作戦はユーロ・ブリタニア――聖ミカエル騎士団団長のシン・ヒュウガ・シャイング卿にばれてしまっている。現在多くの砲弾が着弾している区域は【wZERO】部隊の降下ポイント。砲弾は降下した部隊がスロニムに向かうように隙間を空けており、スロニムには一騎当千の精鋭部隊【アシュラ隊】が待ち受けている。

 アシュラ隊とは聖ミカエル騎士団の部隊のひとつでアシュレイ・アシュラという戦いを好む青年が指揮を……隊長を務めている部隊。戦闘技術はかなりのものでラウンズか準ラウンズクラスではないかと見ている。指揮官というよりは戦闘隊長という感じで指揮は執っていないが隊員も同タイプに近いので問題はない。

 機体は神聖ブリタニア帝国で量産されているグロースターを接近戦仕様に改修した【グロースター・ソードマン】。しかもアシュラ隊の機体の兵装は剣が二本のみとアサルトライフル一丁だが、主兵装は剣と徹底されており、全員の技量の高さをその時点で理解しえるだろう。なにせ銃撃戦をメインに行なう敵性ナイトメアに剣だけで突っ込むことを基本戦術としているのだから恐れ入る。

 

 国民の顔色を窺って大規模作戦を行なうとはユーロピア連合のお偉いさん方は何をしているのかと本気で考えてしまう。

 作中では毎日のように会議を開いているようだがさして進展があるわけでもないだろうし、ある作戦成功パーティーではただの貴族の集まりになっている様子。そう考えると帝国議会がどれだけ有能なのか改めて思い知らされる。

 そもそもユーロピアの上層部にユーロ・ブリタニアと繋がっている者が居るというのに気付いた様子もなかった。

 

 シャイング卿がwZERO部隊の作戦を知ったのもその伝であろう。

 スパイは二人居る。ひとりはwZERO部隊の副指令であるクラウス・ウォリック中佐。彼は娘の治療費の為にスパイ行為をしている。もうひとりはジィーン・スマイラス将軍。彼は自身の野心が為に情報を流しているようだ。予想だが今回の情報を流したのは将軍の方なんじゃないかと思う。

 正直オデュッセウスはこのスマイラス将軍を好んでいない。なにせ自分で親友と呼ぶ男の忘れ形見であるレイラを利用したり、wZERO部隊の本拠地であるヴァイスボルフ城の情報を売ったりと自分の為ならばどんな手段でも使う男だ。しかも親友が絶大な人気を誇った際には手を使って暗殺させたのだから救いようがない。

 

 「殿下!あれなんですか?新型らしきナイトメア…ってナイトメアなんでしょうか?」

 

 大きなため息を吐きながら画面を眺めていたオデュッセウスにメルディが指差しながら質問をしてきた。ファクトスフィアを使用せずに立ち上がって双眼鏡を覗き込む。

 そこには四足歩行でスロニムに侵攻するナイトメア集団が移った。

 wZERO部隊で運用されている【アレクサンダ】というユーロピア共和国連合のナイトメアフレームだ。インセクトモードと呼ばれる姿勢を低くした四足歩行が行なえる形状に変形する機構を備えており、細く華奢な腕からは想像出来ないほどのパワーを秘めている機体。オレンジ色主体の機体の中に白基調の機体が交ざっているが、オレンジ色はすべて自動で動く【ドローン】と呼ばれる無人機で、白い方にパイロットが乗っている事からどれだけパイロットが少ないかが窺える。

 

 「あれはアレクサンダだね。ユーロピアのナイトメア」

 「凄く殿下のひとみが輝いている気がするのですが…」

 「一機ぐらいお持ち帰り出来ないかな?」

 「ドライブスルーが出来るファーストフード店じゃないんですからね。にしても【ハンニバルの亡霊】とはよく言ったものですね」

 

 【ハンニバルの亡霊】

 突如制圧圏内に現れるwZERO部隊に対してユーロ・ブリタニアが付けた名前で、神出鬼没で奇襲を仕掛けてくることからハンニバル・バルカ将軍になぞらえ付けられた。

 神聖ブリタニア帝国で耳にする事は無いが、ユーロ圏に詳しい者にとっては謎の部隊。記者にしては特ダネとしてよく話題になっているとミレディにユーロに入ってから聞いた。その特ダネを前に興奮しているのかシャッター音が何度も聞こえてくる。

 

 そしてwZERO部隊とアシュラ隊の戦闘が始まった。アシュラ隊を発見するとインセクトモードからナイトメア形態へ移行し、銃撃を開始するアレクサンダ・ドローンだが、アシュラ隊のグロースター・ソードマンには一発も当たらずに剣で撃破されて行く。アレクサンダはドローンも含めて十七機(降下後の列車砲と数機のナイトメアとの交戦で三機撃破されている)とアシュラ隊八機の数の差は一気に逆転し、今やドローンを含めても七機までに減らされている。そろそろwZERO部隊アキト達の交戦も始まるし、これは生で見に来て良かった。

 

 「――んか―――でんk――」

 

 亡国のアキトの主人公である日向 アキトの技量は凄まじいものがあった。獣染みた動きに並外れた反応速度。スザク君にはない荒々しい戦闘スタイルにとても興味を引かれる。それにスロニムの戦闘では新たにwZERO部隊の隊員になった佐山 リョウ、成瀬 ユキヤ、香坂 アヤノのユーロピアのアンダーグラウンドで生きてきた三人がアレクサンダに搭乗しており、BRS――ブレイン・レイド・システムが初始動した戦場である。

 ブレイン・レイド・システムは簡単に言えば他者との共有。視覚など各々が得た情報を共有し、味方が見ている光景を自分も見ることが出来るのだ。劇中ではそれで建物越しにグロースター・ソードマンの足をユキヤが狙撃していた。

 阿吽の呼吸というより真の以心伝心。このシステムが実装されれば雑魚と侮っていた部隊も侮れなくなるだろう。しかし相性など精神面や脳波的にも条件が多くあり、誰でも使えるわけではないので一部でしか使えないだろう。

 

 「殿下!」

 「んぁ?」

 

 ワクワクしすぎてメルディの呼びかけを無視してしまっていたようだ。変な声を出してしまったが気にせずに微笑みながら顔を向けるととても焦っている表情に途惑う。何があったというのだろうか?

 

 「どうしt――」

 「一機こちらに向かってきてますよ!」

 「はい?―――ッ!!乗って!!」

 

 モニターに目を向けると確かにグロースター・ソードマン一機が接近してきている。もう一ブロックも離れてない事から逃げ切る事は難しい。大事そうにカメラを抱えたメルディは大慌てでシートの後ろに飛び乗る。一応二人乗りを想定してパイロットシートの後ろには簡易のシートと安全面でシートベルトが取り付けてある。ベルトを締めている間にコクピットを閉め、カメラから中継器を通して繋げていた配線を切り離す。

 屋上の端にスラッシュハーケンが突き刺さり、真紅のグロースター・ソードマンが勢いをつけて飛び上がってきた。振り上げられた剣から敵と認識されているようだ。

 

 「大きく揺れるから口を開かないでね。舌噛むから!」

 「ひゃ、ひゃい!」

 

 振り下ろされる前に起動し、身を捻って回避する。急ぎこの場から離れる為に後ろに跳んで屋上から飛び降りる。この判断は正しく、避けられたと理解して次の瞬間には剣を横薙ぎに振るっていた。もし少しでも遅れていたらあの場で死んでいたかもしれない。

 相手の技量に感心しながら途中でスラッシュハーケンを打ち込んでブランコのように機体を揺らして地面に着地する。

 

 「ななな、なんで攻撃してくるんですか!?」

 「そりゃあ自軍以外のナイトメアが戦場に居るからじゃないかな?」

 「自軍以外って…仲間じゃないんですか!」

 「大くくりに見たらそうなんだけどね。ユーロと本国ってそれほど仲良くないから。それに私は内緒でここに居るわけだから敵対されても仕方ない」

 「これ無許可だったんですか!!」

 「あれ?言ってなかったっけ?」

 「聞いてないですよ!きゃあ!?」

 

 頭上からと背後から一機ずつ迫ってくる。搭乗している機体がグロースターなら千葉を相手にしたように肘を潰して武器を奪ったりも出来るのだが、接近戦仕様に改修されたソードマンにグラスゴーでそれを行うのは自殺行為でしかない。ゆえに身を捻り、飛び跳ね避け続けるしかない。

 

 『このグラスゴー…出来る!』

 『だが!そんな中古品で我らを何時までも相手に出来るものか!!』

 「あはは…中古品って、良い機体なんだよ。クーラーを取り付けて中の温度も快適になるように改造したんだから」

 「そこ大事じゃないです!」

 

 背後から突っ込みを入れられムッとする。グラスゴーは初の戦場に投入されたナイトメアで戦闘の事は考えられてもパイロットの事までは考えられていなかった。特に通気性は最悪で夏場なんかはサウナ状態だったとか。それを二人乗るからと快適に過ごせるように改造してもらったのにと思うが口に出す余裕は無い。

 迫る刀身を腰に取り付けてあったハンドガンで撃って軌道を逸らす。

 

 「ぶ、武装はないんですか!アサルトライフルとか」

 「すまないね。これ初期型でスタントンファーすら付いてないんだ」

 「という事は…」

 「ナイトポリス用ハンドガン二丁と予備のマガジン数個のみ!」

 「なんで近接武器積んでないんですか!?」

 「無茶言わないで。接近戦は苦手なんだから。狙撃や射撃なら自信はあるんだけど」

 

 そう言いながら弾丸で剣の軌道をずらし、牽制し、距離を保つ。

 残弾数にエナジーの消費残量の表示を見て舌打ちをする。何とか今は凌げているが決め手がない。メーザー・バイブレーション・ソードか廻転刃刀があれば話は別なのだがないものを強請っても現状に変化が出るわけではない。

 

 『くっ…ここまで梃子摺るとは!』

 「―ッ!今だ」

 

 大振りの一撃が迫ると同時に各部に仕掛けたスモークグレネードを打ち上げ、一気に付近を煙幕で覆う。データで予想されたソードマンにタックルを食らわせると一目散に逃げ出す。一気にスロニムから出たい気持ちを抑えて広場近くの建物の間に身を隠す。とりあえずこれで大丈夫だろう。

 

 「た…助かったぁ」

 「ふひゅぅう…死ぬかと思った…」

 

 暫しレーダーを凝視するが追って来る影がないことから安堵して息を漏らす。

 心の底から安堵しながらレーダーから広場らしき場所が映る正面モニターへと視線を移す。

 

 尻餅をついた体勢で見上げるアシュラ隊のアシュレイ・アシュラのグロースター・ソードマンにフェイスカバーを開いて鬼を連想させるような顔を出して、止めを刺さんと刃を構えるアキトのアレクサンダ。

 目の前の光景がスローモーションで流れる中、今がどの辺りかを思い出す。

 確かブレイン・レイド・システムを始動させて三人が一気にアシュラ隊を押し返し始めた所だ。そしてアキトが一機でアシュレイを追い詰め、殺そうとした時にアシュラ隊のヨハネという青年が飛び出しアシュレイを庇って命を落とすのだ。人を殺した事により過去にシンに受けたギアスの光景……一族郎党がその場で自害し、死体で包まれた一室に幼きシンとアキトの姿……を共有してブレイン・レイド・システムが解除、三機は大破するが三人共脱出した。

 

 思い出した劇中と同じく一機のソードマンが間に割り込む。

 別に意識したわけではない。気がついたらハンドガンを構えて撃っていた。弾丸は吸い込まれるようにアレクサンダの刃に当たったが、少々距離があった為に僅かに軌道を逸らしただけでコクピットに刃が突き刺さる。

 

 「殿下?今のは――」

 「前を見ない方が良いよ」

 

 発砲音で振り向こうとしたメルディの視界を手を出して遮る。人の死なんてそうそう見るもんじゃない。目の前で人が死ぬのに何も出来なかったことに苛立つ。

 ギリリと歯を食いしばると聞きなれない音が響き渡る。

 馬が駆けるような四本足が地面を蹴って踏み鳴らす音…。

 

 ヴェルキンゲトリクス…。

 マンフレディ卿の機体になる予定だった馬のような下半身を持った黄金のナイトメア。パラックスのエクウスをベースに開発された機体で、大きさは通常のナイトメアと然程変わらない。エクウスのようなビーム兵器は搭載されていないが歯車を幾つもつけたような長物の大斧と一発撃つごとにリロードが必要なライフルという変わった兵装をしている。

 

 通常のナイトメア以上の速度でかけるヴェルキンゲトリクスの一振りでアキトのアレクサンダの両腕が切断された。反応する間もなく振られた二撃目で両足を失った。

 身動き一つ出来なくなったアレクサンダに視線が行くがそれ以上にヨハネ機を背負って撤退を開始したアシュラ機に行く。コクピットに刃が刺さった損傷箇所が見えるが、あの位置は僅かに…気のせいかも知れないがパイロットシートの位置からは逸れている……気がする。正直分からないぐらいの差だがもしかしたらと期待する。

 

 アキト機の前で四足歩行の下半身を可変させて二足に戻し、コクピットから出て肩に乗るシン・ヒュウガ・シャイング卿。武装らしい武装も持たずに殺してくれと言わんばかりの行動にメルディが驚きながらコクピット内でシャッターを切る。

 

 『これ―らおm――にも―――が殺せ――ろう。アキト』

 

 何かアキトに話しかけているのだろうが聞き取りにくく、音声が不明瞭だ。操作して聞き取りやすくする為に音量を大きくする。

 シャイング卿と同じようにアキトもコクピットから出て肩に移る。その表情は不安げで何かに縋るようにも見える。

 

 「そうか。神は私の為にお前を生かした。私の大儀の為だ……アキト。我がミカエル騎士団と血の契約を交わせ。そして新しき人の世の創造の為にその命を捧げよ」

 「兄さんは…俺に…」

 「お前は死ね。私の為に」

 

 プチン――…

 なんだろう?【何が】とは分からないがそんな音が聞こえた気がする。 

 

 『それが兄弟の――』

 「それが自身の弟に言う台詞か!!」

 

 先程より無意識に、そして怒りを込めて両手のハンドガンを向けながら飛び出した。

 許せなかったんだ。同じ弟を持つ兄として…あの言葉だけは許せなかったんだ。

 建物で見えなかったが近くにはレイラ・マルカルのアレクサンダがシャイング卿を狙って立っていた。機械であるナイトメアは撃ててもいざ人を撃つとなると躊躇い撃てずにいたが、オデュッセウス的には自分が載っているグラスゴーが記録された事の方が問題なのだが現在はそこまで頭が回ってない。

 怒りでトリガーを引きそうなのを堪える。ここで発砲してしまえば…シャイング卿を撃ち殺してしまっては色々と問題となる。そう言い聞かせて堪えていると肌に吸い付くようなボディスーツを着た青年――佐山 リョウがアサルトライフル一つ手に持って駆けて行く。

 

 「ヒュウガ!そいつから離れろ!!」

 

 オデュッセウスのグラスゴーを睨みつけていたシャイング卿に向けて放たれた弾丸はそのほとんどがヴェルキンゲトリクスに当たり、一発だけ後ろで括っていた長髪に掠った。

 

 「折角の再会を邪魔するとは…。ここは無粋な輩が多いな」

 

 明らかに苛立ちながら睨みを利かせるシャイング卿だったが耳に付けたインカムに手を当てると苦々しい顔をした。短く息を吐き出すと元の涼しげな表情に戻った。

 

 「アキト。必ずお前を迎えに行く。必ずだ」

 

 それだけ伝えるとコクピット内に戻り、四足に戻すと駆け出し、ジャン・ロウの【グラックス】というグロースターよりはサザーランドに近いシルエットのナイトメアと合流してスロニムから離脱してゆく。

 

 「とりあえずは終わったけどどうするんですか殿下?あのアレクサンダとかいう機体…こっちに銃口向けてますけど」

 「だよね…まぁ、逃げるんだけどね」

 「逃げるんですか!?」

 「うん。早く逃げないとユーロ・ブリタニアの援軍は来るし、彼らが後方をかき回した結果でユーロピア共和国軍も来るからここに居たらマジでヤバイ」

 「なら早く逃げましょう!」

 「そうしよう」

 

 オデュッセウスも急ぎスロニムから隠れ家に撤退する。

 ………もちろん損傷の少ないアレクサンダ・ドローンなどを失敬して行った。


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