コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第55話 「動き出す者達も居れば寄り道をする者も居ると思うんだ」

 神聖ブリタニア帝国皇帝陛下直属最強の十二騎士―――ナイト・オブ・ラウンズ。

 その第七席に新たに指名された青年が居た。旧日本最後の首相である枢木 玄武の実子であり、ブラックリベリオンでは黒の騎士団総帥のゼロを捕縛した功労者である枢木 スザクである。

 

 ブラックリベリオンが終結した日より枢木は本当にこれで正しかったのかと悩む。

 あの日…ユフィが行なおうとした行政特区式典会場が血で染まったあの日…。

 日本人を救う為に虐殺を止めることも、ユーフェミアの騎士として彼女を守ることも出来なかったあの日…。

 アヴァロン内で一人泣き続け、狂うような後悔の念に押し潰されそうだった枢木のもとにV.V.と名乗る少年は現れた。

 

 V.V.は教えてくれた。

 ギアスと言う俄かには信じられない力を。

 今回の虐殺にはそのギアスを使える者が関わっている事を。

 そしてゼロがそのギアスを行使できる者だという事を。

 

 疑わしい限りであったがユフィの死を聞いて正常な判断は出来ずに鵜呑みにしてゼロを追った。現在も行方不明となっているコーネリア皇女殿下の言葉もあり、神根島に向かった枢木はガウェインと対峙した。

 ゼロはガウェインより降りていたが他にパイロットが乗っており、神根島上空で戦闘を行なった。といってもユフィを亡くした八つ当たり気味に戦った為に、フロートを破損させて叩き落したガウェインがどうなったかは分からない。あの時の自分にはゼロしか映ってはいなかった…。

 神根島内部の遺跡に入ると遺跡の壁を調べているゼロを発見。銃を向けて投降を呼びかける。が、ゼロは「日本人としてお前はまだ騙まし討ちを行なうようなブリタニアに忠を尽くせるのか?」と問うてきた。その言葉に怒りに理性を乗っ取られた。

 

 「便利だなギアスと言うのは…」

 

 V.V.の言ったとおりだった。ゼロはギアスという単語に動揺を隠せずに反応した。

 怒りに支配された僕はトリガーを躊躇う事無く引き、ゼロの仮面を撃った。貫通はせずに衝撃で入ったひびは見る見るうちに全体に広がり仮面がパカリと割れた。

 ゼロの正体がルルーシュと分かった時には何がなんだか訳が解らなくなった…。

 ルルーシュが…あのルルーシュがゼロとして式典で虐殺させる事で反ブリタニア勢力ならず名誉ブリタニア人やゲットーの日本人も巻き込んでの反攻の狼煙…きっかけにしたというのか。しかもユフィが死んだというのにこんな所で!!

 

 後はルルーシュと取っ組み合いになり、実力差から組み伏せて連行。オデュッセウス殿下が素性を隠したままで皇帝陛下の下まで護送する手筈を整え、ナンバーズの身分でありながら皇帝陛下に謁見する機会を与えられた。与えられたからといって何かする訳ではない。ただ引き渡しただけだ。しかしオデュッセウス殿下とシュナイゼル殿下の進言でナイト・オブ・ラウンズ入りをする事に…。

 元々皇帝陛下より領地を与えられるラウンズの頂点であるナイト・オブ・ワンになる夢があった。そのスタートラインに立つ事が出来たが、友人を売ってまでの行為が正しいとは思えない。それに最近は神根島の光景を夢にまで見るようになった。

 

 「俺じゃない!スザク信じてくれ!!俺はギアスを使っていない!!」

 

 怒りに任せて乱暴に組み伏せたルルーシュが必死に叫んでいた言葉が……。あの光景が何度も何度も繰り返される。

 今となっては手遅れでしかないが、何度も考えてしまう。

 

 本当にルルーシュはギアスを使ったのか…と。

 確かにV.V.が話してくれた人を操る能力が本当なら仕込みを済ませておいて虐殺命令を出す事ができる。なら仕掛けを済ませたルルーシュ――ゼロはどうしてユフィと会談しようとした?それに仕込みを済ませていたのなら会談をせずに会場にいて、日本人を救うシーンを演出した方がゼロらしいし、絶大な効果をもたらすであろう事は僕でも考えつく。考えればなぞが多い。そもそもあの少年は一体何者なんだ?それとV.V.は「ギアスを使って虐殺命令を出させた」、「ゼロはギアスを使える」とは言ったものの一度も【ゼロ】がギアスを使って虐殺を起こしたなどとは一言も言っていない。

 

 コトン…。

 

 静かな室内に響いた物音に思考の海に漂っていた意識を戻し、現在の職務に戻るように付近に気を配る。

 現在皇帝陛下より勅命を与えられ、ナイト・オブ・セブンとして枢木 スザクはジュリアス・キングスレイ卿の護衛を行なっている。場所はユーロ・ブリタニア領サンクトペテンブルグにあるカエサル大宮殿の一室。ここカエサル大宮殿にはユーロ・ブリタニアの宗主であるヴェランス大公も居るがこの部屋には居ない。

 

 「さて、スロニムでの一件は読ませてもらったが手酷くやられたものだな。シャイング卿」

 「いやはや、少々侮りすぎました」

 

 スロニムでの戦闘を事細かに書かれた報告書をキングスレイはニヤリと嘲笑いながら丸机に置いた。丸机を挟んで椅子に腰掛けているシャイングは涼しい顔で受け流しながら微笑み返す。

 ジュリアス・キングスレイは神聖ブリタニア帝国シャルル・ジ・ブリタニア皇帝がユーロ・ブリタニアに派遣した軍師である。皇帝より委任権の象徴である【インペリアル・セプター】を授けられ、ユーロ・ブリタニア圏内であってもヴェランス大公以上の発言力を持っている。

 ブリタニアの紋章が描かれた漆黒のマントを羽織り、自身に絶対的な自信を持ち、冷徹な判断を下せる―――友人の歪んだ笑みにラウンズのマントの中で握り締めた拳に力が篭る。

 神聖ブリタニア帝国に【ジュリアス・キングスレイ】などという人物は存在しない。居るのはそう【語らされている】ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだ。皇帝に引き渡されたルルーシュは皇帝の【記憶改竄】のギアスで偽りの記憶を植えつけられここにいる。そうでなければあのルルーシュがあれほど憎んでいた父親の命を大人しく聞くわけがない。

 

 「いや、私は貴公を責めているわけではない。ユーロピア共和国連合の……聖ラファエル騎士団の騎士の大半を葬った【ハンニバルの亡霊】相手に四機の損害で済んだのだからな」

 「恐れ入ります」

 「が、やはりユーロ・ブリタニアも共和国連合も惰弱で脆弱。

 ヴェランス大公は市民を巻き込まんと考えるあまりに攻めあぐね、アンドレア・ファルネーゼ卿は騎士道精神を重んじるばかりに聖ラファエル騎士団の腕利きであるラファエル三銃士の二人と多くの騎士を失った。

 ユーロピア共和国連合はユーロ・ブリタニアが支配していた地域の多くを奪還したものの、勢いづき過ぎて前に出すぎた結果、奪い返した土地の尽くを再び占領された。

 やはり誰かが導かねばならない。強い力と意志を持った者が」

 「それが貴方であると?」

 

 聖ミカエル騎士団総帥であるシン・ヒュウガ・シャイングは笑みこそ浮かべてはいるが、その瞳はしっかりとキングスレイを捉え、真意を探ろうとしている。そんな視線を理解してかキングスレイは嗤う。

 

 「さぁて、それはどうかな。私かも知れぬし、貴公かも知れぬ。ただ私なら確実に導いていけるがね」

 「事が事だけに誰かの耳に入れば大事です。気をつけたほうが宜しいかと」

 「誰かの耳に?ここには私と護衛の枢木卿、そして卿しか居ないのだぞ………いや、スロニムでの【アンノーン】の件もあるか。卿の警告、しかと受け取っておこう」

 

 日本には「壁に耳あり、障子に目あり」ということわざがある。どんな秘密であろうと何処で誰が聞いているか解らないという意味で【アンノーン】と呼称された者を当てはめるにはぴったりの言葉だろうと枢木は思う。

 市民を退去させ、アシュラ隊に待ち伏せさせていたというのに誰一人気付く事無く、スロニムでの戦闘中に現れた所属不明のグラスゴー。

 隊員曰く、その者の射撃の腕は正確で、剣の軌道を弾丸を当てる事で逸らしたという。

 アシュラ隊の隊長曰く、アシュラ隊と戦闘をしたにも拘らず、コクピットを貫かれそうになった隊員を救うためか、ユーロピアのナイトメアの攻撃を弾丸で逸らそうとしたとか。

 

 当初はハンニバルの亡霊のひとりで好戦的でなく、傍観しようとしていた様子から情報収集のための機体と判断されていたが、スロニムの戦闘記録がブリタニアの記事で取り上げられた事で疑いは消え去った。

 あのグラスゴーは両軍の戦闘を知っていたかのように何処からともなく現れて戦闘の記録を撮り、ユーロピア共和国連合とユーロ・ブリタニアのナイトメア情報の一端を公開したのだ。

 まさに何処で聞き耳を立て、見ているか解らない。滅多な事は口にするべきではないだろう。

 

 「時が来たら卿にも従ってもらおう」

 「………スロニムで思い出しましたが―――キングスレイ卿は護衛の枢木卿以外に騎士などを連れて入られましたか?」

 「それはどういう意味かな?」

 「いえ、スロニムからの撤退中に黒いサザーランド二個小隊に襲われましたので、もしやキングスレイ卿もご存知の者かと思ったのですが」

 「下手な鎌かけはいい。それは私の知らない事だな。素性は割れているのか?卿の事だ。二度も取り逃がす事はなかっただろう?」

 「撤退時で時間もなかったので六機中一機ほど討ち取り、三機を捕縛しましたが捕縛した機体は機密処理の為に自爆しました」

 「という事は何も解っていないという事か」

 「討ち取った機体からデータを引き出そうとしましたがプロテクトが頑丈な上にウイルスで削除されました。死体のDNAサンプルからブリタニア人であることぐらいしか」

 「ふむ…それはこちらでも調べてみよう。イレギュラーは少ないに越した事はない」

 「お願いします。では、私は用事もありますのでこの辺りで」

 

 涼しげな笑みのまま、軽く頭を下げて席を立ち、退席すべく出入り口へ向かって歩き出す。キングスレイは見送る事もせずに先ほどの話を気にしているのか手を口元に当てて、なにやら考え込んでいる様子。かという枢木も少し気になることがある。報告書には目を通しており、アンノーンの情報も入手した。情報収集目的にしては腕が立ち過ぎるナイトメアパイロット…。キングスレイが現地入りした事で大きく動く事になるであろうユーロピア…。そして本国でまったく話を聞かなくなったある人物…。

 

 まさかなとある人物を思い浮かべたが頭を左右に振って考えを消し去った。そんな事がある筈がないと……思いたくて。

 

 「そういえば…以前ファルネーゼ卿の下にブリタニアからの記者が来られた事がありましてね。その時にアシスタントらしき人物が居たのですよ。何処かで見た覚えのある人物だと思って調べたのですが―――神聖ブリタニア帝国第一皇子にそっくりだったのですが、まさか…ね」

 

 まるで独り言のように呟いたシャイング卿が退席した後、枢木はキングスレイに声をかけられるまで困惑の表情で固まっていたという…。

 

 

 

 

 

 

 中華連邦領内 ギアス饗団本部

 

 饗団を仕切るV.V.は何処か不満げな表情で床を転がっていた。足先まで届く髪が乱れ汚れる事など気にも留めずに転がる様子は幼げな容姿もあいまって愛らしく見えて、実年齢60過ぎの人物とはとても思えない。

 付近には目元以外を饗団服で隠した幹部たちが集まっている。目元だけでも彼らにかなりの緊張と濃い不安の色が見える。それだけの問題が発生したであろう事は彼らから理解できるがV.V.はそれほど問題視はしていないのだろう。

 

 「派遣した部隊は壊滅かぁ…」

 「い、いえ、壊滅という訳では…二機とは言えプルートーンの精鋭が残っております」

 「六機で捕縛できなかった相手に二機で捕縛できる?」

 「そ、それは…その…」

 「無理だよね」

 

 困った笑みを浮かべるV.V.は今回の作戦に大きな期待を抱いていた。

 V.V.にシャルルが行なおうとしている【ラグナレクの接続】にはV.V.以外のギアスのコードが必要である。判明しているコードはV.V.を除けばC.C.のみ。しかしC.C.は黒の騎士団残党と共に雲隠れ。接触を持っていたルルーシュを手に入れたものの囮として使う前の試験段階でシャルルが軍師としてユーロ圏内に送ることに。試験が終了するまで大人しく待つつもりだったがある事件を耳にしてから考えが変わった。

 ギアス饗団でC.C.が関わった地域で不審な事件や出来事が過去から現在に至るまで調べている。以前オデュッセウスがエリア11に入ったマオを知りえていたのはその成果である。そして今回は見つけたのは10年前に遡るとある事件である。

 

 とある一族郎党が集団自殺したものだ。

 なにかの宗教団体だとか無理心中などと当時は騒がれていたようだがそこはどうでも良かった。調べていた者が見つけたのは当時の現場や関係先を捜索した時の写真の一枚に写っていた壁画だ。純白の翼を生やした女性が女性に髑髏を渡している所を描いた絵。それもギアスのコードが刻まれているらしき髑髏を。

 調べてゆくと当主は集団自殺前に首を切り取られ死亡し、その前には関係者だった男性が殺害されたのも見付かった。二件は殺人事件でギアス関係とは思えなかったが、集団自殺はもしやと思い一族や関係者で生き残ったものをリストアップした。すると二名の子供が生き残った事が判明。日向 アキトの所在は掴めなかったが兄の日向 シンの居場所はつかめた。 

 イレブンでありながらも日向 シンはユーロ・ブリタニア聖ミカエル騎士団総帥ミケーレ・マンフレディに拾われて騎士団の一員、そして名家シャイング家の養子となり今ではシン・ヒュウガ・シャイングとして聖ミカエル騎士団を率いている。

 物は試しとプルートーン二個小隊に監視を命じていたがマンフレディが自殺した件を調べさせて疑いが濃くなった為に捕縛命令を出したら返り討ちにあってしまった。

 

 「彼がコード持ちとは言わないがギアスユーザーであることは間違いない。ならば彼にギアスを与えた者は誰なんだろうね?」

 「申し訳ありません。未だ調査中でして…」

 「どうもシャルルがこちらの動きを気にしている様子もあって、これ以上プルートーンの投入は避けたいな」

 「動きをというならば噂のアンノーンの事も問題かと。ユーロピア共和国連合にユーロ・ブリタニアの記事を本国に送っているようで、本国所属の部隊が戦死したと報告されれば大問題です」

 「ああ、それは大丈夫だよ」

 「な、何故そう思われるのでしょうか?」

 「だって、アンノーンの正体はオデュッセウスだろうから」

 

 さも当然のように告げられた言葉に一同が唖然とする。

 呟いた当人は起き上がり埃を払いながら呆れたような笑みを浮かべ苦笑する。

 

 「プルートーンの生き残りから受けた報告書に書かれていたグラスゴーの技量。ブリタニア本国からユーロピアへの取材許可が下りたのはオデュッセウスの知人である記者で、取材許可を出したのはオデュッセウス。そして当の本人は忽然とブリタニアから消えた。表向きには休養を取っていると報じられてはいるけれど間違いなく彼だろうね」

 

 椅子に腰掛けながら大きく息を吐き、何の変化もない天井を見つめる。

 昔からアレが動くとそこでは必ずと言っていいほど何かが起こる。まるで何かが起こると知っているかのように。

 

 「未来予知のギアスを持っているならそうなんだろうけどね」

 「は?」

 「とりあえず情報を止めるにも彼に接触するしかないんだけど…ロロをプルートーンの援軍に回しちゃったしなぁ」

 「仕方がありますまい。プルートーンをこれ以上投入できないとなると饗団よりの派遣。そして派遣出来るほど共同で動ける者など少ないですし、軍事に関係していた者はロロしかおりませんから」

 「トトはオルドリンの監視でクララはエリア11で虐殺を手伝わせたからオデュッセウスが良い顔をしないだろう。こうなるんだったらもう少し団体行動が出来るように調整した者を……調整?―――そういえば、アレの調整は済んだの?」

 「えと、最終調整だけはバトレーなど担当した者達を呼び寄せない限りは……まさか奴を使うのですか!?まだ最終調整を済ませてない状態で!!」

 「調整がまだなだけで実戦には投入出来るレベルなんだろう?それにオデュッセウスとは知り合い…いや、友人だったんじゃないかな。そこんところどうだい?」

 「殿下には良くして頂き、その上友人と認識していただいている事は身に余る光栄であります」

 

 離れた柱の影から声が聴こえた事に幹部たちは驚きつつ、その者が話に出ていた人物だと解ると少し警戒を解いた。

 V.V.は男がいる柱に向けて笑みを浮かべる。

 幼き身体に似合う天真爛漫な笑顔ではなく、何か悪巧みをしているような邪悪そうな笑みを。

 

 「君の最終テストを兼ねたオデュッセウスの監視―――やってみる気はあるかい?」

 「イエス・ユア・ハイネス!ご期待には全力で!!」

 

 

 

 

 

 

 大宮殿やギアス饗団で自分の名前が挙がっているとは露ほども知らないオデュッセウス・ウ・ブリタニアはコーヒーカップに口をつけながら一息ついていた。

 

 スロニムの戦闘から一ヶ月、皇帝からの勅命で極秘裏にプルートーンの情報収集を行ないつつ現地視察(観光目的の散策)に糧秣(兵員と食料と軍馬のまぐさの意味でオデュ的には前者)に舌鼓を……コホン、現地調達などを行なっていた。正直プルートーンの動きはつかめず、いらない情報ばかり集まって一ヶ月が過ぎたのだ。向こうも極秘裏に動いているのだから情報が出ないのが当たり前なのだが、このままではただの観光客と成り果ててしまう。と、言ってもワルシャワに用意した隠れ家&防音を施した倉庫にナイトメアを所持している奴が普通の筈がない。

 

 …ただし、グラスゴーではない。

 

 あの戦闘でさすがにグラスゴーでは心許ないとスロニムで回収した【アレクサンダ・ドローン】をグラスゴーのパーツと新たに手にいれた電子機器を組み込んで【アレクサンダ・ブケファラス】として改修・改造しているのだ。

 装備としてはグラスゴーに装備させていたハンドガン二丁にアレクサンダのWAW-04 30mmリニアアサルトライフル【ジャッジメント】を一丁、後は撤退時に転がっていたグロースター・ソードマンの専用武装である【ヒートソード】。

 神聖ブリタニア帝国の高周波振動するメーザー・バイブレーション・ソードや黒の騎士団の刃をチェーンソーのように回転させた廻転刃刀など独自の剣や刀の装備があったようにユーロで作られた高温を以て切り裂く剣。起動させれば刃に青白い炎を宿す仕組みになっている。

 どうもドローンは移動砲台としての機能しかなかったのか近接用のトンファーがなかったり、システム面や機構でも簡易にしている節があり、人が乗れるように改修するにはかなり手間だ。他にも単体で索敵が行なえるようにファクトスフィアの移植などの問題も残っており、簡単な作業なら兎も角専門的な作業をするにはそれなりの知識を持った人物が必要になるわけで…。

 

 体付きの良い褐色の技術屋兼商人のガナバティ一人が作業に当たり、オデュッセウスとコーヒーカップなどを置いている机を囲んで無愛想で紅茶を淡々と飲んでいる金髪の顔立ちの整った青年――オルフェウスと、鬼のような形相で必死にタイプライターを打っているメルディの四人がこの隠れ家に集まっている。

 

 ガナバティとオルフェウスはテロリストを管理・派遣する組織【ピースマーク】と関わりのある人物でオデュッセウスが【アラン・スペーサー】として接触した人物たちなのだが…隠れ家に戻った事と観光や食事に舌鼓を打って気が弛んでいたのか、アレクサンダの改修の連絡を受けて来た二人の前に変装せずに出てしまって自ら身バレしてしまったのだ。

 そんなオデュッセウスに驚いたのはガナバティだけでオルフェウスには呆れたような視線を向けられるだけですんだのは予想外だった。

 オデュッセウスは覚えていなかったが何度か面識があったのだ。まだエリア11が日本と呼ばれていた頃にV.V.やギアス饗団と関わりを持って何度か遺跡を通って訪れた事がある。その際にオデュッセウスは子供たちと何度も遊んだり、お土産を持ってきたりと触れ合っていたのだ。当時は記憶が薄くなっていた為にギアス饗団で注視していたのはV.V.とロロだけだったから気付かなかったのである。しかしオルフェウスからしたら皇務をほったらかしてまで来ていたのを思い出してまたかみたいな気持ちになり、ギアス饗団と関わりを持つ相手だというのに警戒を緩めてしまったのだ。

 

 「で、本当に良いのか?」

 「何が――と聞くのもおかしいか。ピースマークを動かしているバックと敵対する可能性があることだよね。良くはないよ勿論。命の危険だって感じるほどに…」

 「それでもやるんだな」

 「ヤルしかないというのが正解。放置する訳にもいかないからねぇ…」

 「ふぅ…皇族の癖にこんな敵地へ自ら忍び込み、俺らみたいな奴らの手を迷う事無く使う。世間での印象とは違いすぎるな」

 「そうかい?私の世間の印象って……」

 「…皇族内で最大の力を持ち、皇帝からの信頼の厚き皇子。政治から戦場と何処であろうと本領を発揮するだけの頭脳を持ち能力を有する。そして自国民とナンバーズに分け隔てなく接する良識人とか…か」

 「好評過ぎるなぁ…酷評はないのかい?」

 「…シスコンのブラコンでロリコン・ショタコン気質…」

 「ファ!?ちょっと待って!シスコンのブラコンなのは認める。それに私にとっては酷評じゃなくて好評。認めるけれども残りの二つが凄いんだけど!!」

 「そっちの記者に言ってくれ。記事の中で幼い子供と触れ合っている部分を強調しているからそうなるんだと思うが」

 「今聞くのは…ちょっと無理かな…」

  

 視線を向けた先のメルディは目の下に大きなクマを作り、机の上に並べられた資料の横に置いてある栄養ドリンクを素早く飲んで胃に流す。メルディは酒場で酔い潰れた軍人や商人、地元のフリーライターや情報屋など独自の情報網を作り上げ、様々な情報を集めては記事にして本国の得意先の新聞社に送っているらしい。勿論表に出せないものは頭の奥に仕舞い込んでいる。表に出せる膨大な情報を記事として送る為に徹夜で作業している彼女に声をかけるなど出来る筈もなかった。というか怖いです。

 それらの情報にはオデュッセウスも目を通しているが残念ながらまったくと言っていいほどプルートーンに関連しそうなものはない。オルフェウスのほうもこれといった情報を手に入れられずに手詰まり状態。こうしてアレクサンダ・ブケファラスの改修・改造の為に来てくれているだけでもありがたいが。

 

 「さてと…少し歩いてくるかな」

 「護衛も付けずに行くのか?」

 「エスコートしてくれるかい?」

 「騎士にして貰え」

 「…私の騎士は現在強制的に里帰り中……軽い散歩に行くだけだからすぐに戻るよ」

 

 ずっと同じ室内に居て身体が鈍ってしまった。

 少し身体を解そうと軽い気持ちで散歩に向かったオデュッセウスだったが、偶然にもとある老婆にぶつかってしまい、その老婆の仲間である一団に囲まれ連れ去られるとはこのとき誰も想像出来なかっただろう…。


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