コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第57話 「戦場から離れた場所で②」

 月明かりが夜空を照らす時間が過ぎ、ゆっくりと空が薄明かりで白ばんで、地平線より太陽が顔を覗かせ朝だと知らせる。

 鳥のさえずりと老婆のいびきの中で目を覚ましたワイバーン隊の面々は昨日同様に簡単な身支度を済ませると仕事に取り掛かる。朝食の準備に水汲み、薪の材料集めと色々していた。

 

 「ふぁああ~…眠い」

 

 目の下に大きなくまを作り、眠たそうに大欠伸をしたオデュを目撃して香坂 アヤノはクスリと笑う。

 ワイバーン隊よりも先に老婆達に捕まり、ここで働いていた人物で自分たちにもよくしてくれた人だ。

 元よりイレブンと蔑称で呼ばれていた自分たちは何処に行っても扱いは酷い物だった。それはワイバーン隊に入っても変わらない。確かにレイラを始めとするwZERO部隊のみんなは良くしてくれている。でも他の一般兵士に紛れると自分達の命を軽視した発言や差別的言動、スタイルの良さから劣情を向けてしつこく言い寄ってきたりとまともに扱われる事はない。

 けれどここの老婆達は働いてもらおうかと言ってきた割りには親切で、なんとなくだが祖母や祖父を思い出して懐かしく感じた。そしてオデュは最初っから蔑称で呼ぶ事無く日本人(・・・)として認識し、普通に接してくれたのだ。

 まだ一日しか経っていないが中々居心地がよくていずれ離れることを思うと少し寂しく感じる。

 

 「眠たそうだなおっさん」

 「あー…うん。おはよう。リョウ君。ユキヤ君。アヤノさん」

 「おはよう。ってすっごい隈」

 「夜更かしでもした?」

 「少し悩ましい事があってね。まぁ、気にしないで大丈夫だから」

 

 そう良いながら川の水を手ですくうとばしゃばしゃと顔を洗って眠気を飛ばそうとする。顔は見えないが一瞬だけ水面にオデュの目が赤く光って見えた。なんだろうと首を傾げながら見つめていると、振り返ったオデュの顔から眠気が消し飛び、先ほどの眠そうな雰囲気が嘘のように思えた。

 

 「しっかり叩きな!」

 「はい!ご指導ありがとうございます!!」

 

 大きな声が耳に入り、振り向くとそこには濡れた洗濯物を木の棒で叩くレイラと、付きっ切りで様子を見ている老婆がひとり川辺に立っていた。

 元々良い育ちなのかレイラは何一つやっても上手くいかないのだ。

 川から水を汲もうとするとバケツをひっくり返し、びしょびしょに濡れる…。

 野菜の皮むきを頼んだら中身より皮のほうが大きかった…。

 料理を運んだら折角作った料理を皿ごと地面にぶちまける…。

 

 昨日はオデュが様子をほとんど付きっ切りで見ていたのだが、オデュの作業効率が極端に落ちたらしいのだ。で、今日はああやって老婆の誰かが付きっ切りで面倒を見ているのだ。

 

 「頑張りは伝わるんだけどねぇ」

 「こっちが終わったら手伝ってやるか」

 

 ユキヤの言葉に納得しつつ、リョウの発言に驚く。

 ここに来る前まではちょっとした衝突や日本人とレイラたちを隔てる壁のようなものが徐々に薄らいではいたもののちょっと前まではあったのだ。しかしここでの生活で一気になくなり、仲間としてリョウも認めたのだと理解した。

 仲間と思える人物が増えていた事に今更ながら気付いて頬が弛み、自然とレイラの元へと足が向かっていた。

 

 「レイラ。手伝うよ」

 「香坂准尉…助かります」

 「ほら、この大きいのから終わらせるよ」

 「はい」

 

 大きなシーツをぎゅっと絞った状態で端を互いに持って引っ張り過ぎない程度に距離を離す。掛け声をかけてブンブンと縄跳びのように回して水気を飛ばす。レイラは放さないように必死だった。

 その様子を微笑んでいるオデュに面白そうにユキヤとリョウが眺めていた。

 

 「面白そうだな」

 「もう、冷やかしてないでリョウは水汲み!」

 「はいはい」

 

 笑いながら返事をしたリョウはしゃがんで持っていたバケツに水を汲もうとした。昨日オデュが忠告したというのにすぐ傍の老婆に背中を晒して。

 無用心に背中を向けたことに気付いた老婆は隠す様子なく堂々とリョウのお尻を触った。いいや、触ったというより鷲掴みにして揉んだ。

 

 「―ッ!!何しやがんだババア!!」

 

 驚いてバケツを手放しお尻をガードしながら、川の方へと飛び退き振り向いたリョウは背後に居た老婆に声を上げた。対して老婆は何処吹く風といった感じではっはっはっと笑っていた。

 

 「良いじゃないか。減るもんじゃあるまいし」

 「だからって触るn―うぉお!?」

 

 一歩ずつ後ろに下がっていると、深いところに足がはまってそのまま川に倒れた事でユキヤとアヤノは慌てる。

 リョウは泳げないのだ。慌てて川へと走る二人の横をオデュが勢いを付けて飛び込む。

 溺れがかっていたリョウに何とか追いついた二人は必死に引っ張り川原に引き上げる。ゲホゲホと咳き込んだだけで済んで心底よかったとレイラを含めてその場のみんなが安堵の息を吐く。

 

 「泳げないなんて意外です」

 「まぁ、なんにしても助かって良かったよ」

 「良かったよってテメェが触ったから―ゴホゴホっ」

 「リョウ落ち着いて」

 「………ん?そういえばオデュは?」

 「そういえば居ないね。さっきは一緒にいたよね」

 「ええ、佐山准尉を助けようと川に飛び込み………」

 

 川のほうへ視線を向けた全員の視界に入ったのは浅瀬に飛び込んで頭を強打し、気絶してぷかーと浮かんでいるオデュの姿だった…。

 

 「オデュ!」

 「ボク達が行くからリョウはストップ!」

 「また溺れちゃうでしょ!」

 

 その後、引き上げられたオデュは水を多く飲んでおらず、すぐに意識を取り戻したが、大事を取って夜まで休まされたのだった。

 

 

 

 

 

 

 神聖ブリタニア帝国 帝都ペンドラゴン

 

 観艦式を間近に控えたグリンダ騎士団の騎士の面々は日々鍛錬に励んでいた。今日を除いては…。

 マリーベル・メル・ブリタニア皇女が騎士として公式に発表されたオルドリン・ジヴォンは、制服の乱れをさっと直して待ち遠しそうに滑走路近くで待機していた。近くには同じグリンダ騎士団所属のソキアにティンク、そしてオルドリンと同様にそわそわした感じのレオンハルトも居り、皆で今日届くであろうナイトメアを待っていた。

 

 「まるで遠足前の子供みたいね」

 「だって私のランスロットが届く日なのよ。これでようやくマリーの騎士として戦えるんだから」

 

 振り向きながら嬉しそうに答えるオルドリンにシュバルツァー将軍を引き連れたマリーベルはにこやかに微笑む。対してシュバルツァー将軍は呆れに近い表情を浮かべている。

 ヨハン・シュバルツァー将軍は【ブリタニアの猛禽】の異名を持つ人物でグリンダ騎士団の戦術顧問を勤めている。かなりお歳を召している割には姿勢は綺麗で眼光は鋭く、今も尚ナイトメアのパイロットしても優秀と衰えをまったく感じさせない人物だ。彼からしたらオルドリンを含めグリンダ騎士団の騎士達はまだまだ頼りなく感じているだろう。実際に実戦経験の無い騎士達なのだからまったくもってそうとしか本人も言わないだろう。

 いつもなら浮かれすぎのオルドリンとレオンハルトに説教のひとつでも始めるのだが、今日に限っては小さなため息を吐く程度で済ましている。乗る機会は少なくなったとは言えナイトメアのパイロットとして気持ちを理解しているのだ。だから見逃しているが同じ事が続いたら今日の分も含めて説教をする気満々である。

 

 「お!オズ。来たよ!キャメロットからの輸送機!!」

 

 ソキアに言われた先の空を見上げて目を輝かせる。

 ナイトメア積載用のコンテナを積んだ輸送機をプリドゥエンに騎乗したグロースター二機が護衛していた。それと輸送機の前方を見たことの無い戦闘機が飛行していた。

 戦闘機と言うのはコクピットである部分を中央先端に取り付け、鋭く丸みのある装甲で覆っているものだが、輸送機の前を飛んでいる物はそれとは違い、中央よりも中央の左右の方が先に伸びており、コクピットらしき場所も見当たらない。

 輸送機とグロースターが滑走路に下りると、戦闘機らしきものは進路を変えてグリンダ騎士団へと向かう。着陸時に風圧が掛からない距離で空中で制止した。次の瞬間には稼動部分を展開する為に隙間を作って戦闘機からナイトメアフレームへと変形して着地した。

 輸送機からロイド・アスプルントとセシル・クルーミー、キャメロットのメンバーではないがウィルバー・ミルビルが降り、ゆっくりと近づいて来た。

 

 「ど~もど~も、キャメロットで~す。あとウィルバー博士もお連れしましたよ」

 「久しぶりだなレオンハルト君」

 「ウィルバー博士!」

 

 レオンハルトはウィルバーへ、オルドリンはロイドの元へと駆け出した。

 今日は両者のナイトメアが納入される日なのだ。レオンハルトにはウィルバーより【トリスタン】の試作機である可変ナイトメアフレームであるブラッドフォードを。オルドリンにはランスロットの量産化計画の試作機であるランスロット・トライアルをオルドリン用に改修したランスロット・グレイルが贈られる。

 嬉しそうな二人の前にマリーベルが出るとロイドはいつものままだがセシルとウィルバーは姿勢を正す。

 

 「ランスロット・グレイルにブラッドフォード。確かに受領しました。それと彼女も」

 「マリーカ・ソレイシィ。本日を以て着任いたしました」

 

 ブラッドフォードのコクピットより降りた幼さを残すマリーカ・ソレイシィは見事な敬礼をマリーベルに行った。貴族のソレイシィ家の長女でコーネリアの侍従を務めた経験のある彼女も皇女殿下直属の騎士団に入れるのは願っても無いことで、配属が決定した時は心の底より喜んでいた。……騎士団に許嫁のレオンハルトが居た事もそのうちに入るが。

 なんにしてもこれでグリンダ騎士団は騎士とナイトメアのすべての戦力が揃ったのである。

 

 シュロッター鋼を使用した剣が片側六本がコクピット左右の鞘に収められた真紅のランスロット・グレイル。

 最新鋭のハドロンスピアーを装備した赤系統で塗装された数少ない空戦可変機のブラッドフォール。

 輸送機から運ばれた並び立つ二機に全員の視線が向かうのは自然な事だった。

 

 「ところでこの二機、どちらが強いだろうか?」

 

 最先端の機体を目にした何の気なしのティンクの一言に二名が反応した。

 

 「それは私の――ブラッドフォートが…」

 「勿論ボクの――ランスロット・グレイルが…」

 

 ロイドとウィルバーの視線が搗ち合う。実際には起こってないが二人の間に火花が散っている光景が全員見えた。二人の口が動く前に動いたのはセシルだった。

 

 「はいはい。ロイドさんもウィルバー博士も我が子自慢みたいになりますから止めましょうね」

 「ボク、まだ何も言ってないんだけどなぁ…」

 「確かにこのまま討論をしても平行線で終わるだろうからな」

 

 納得できていないようだがとりあえずは収まったようだ。そんな光景を見ていたレオンハルトは小さくため息をついた。

 

 「まったくティンクが火をつけるからもう少しで大論争が始まるところだったじゃないですか」

 「そうよ。それにどちらが強いかなんて愚問よ」

 「ええ、オズの言う通りです」

 「私のグレイルに決まっているでしょうに」

 

 さも当然かのように放った一言に場が凍った。特に反応したのはウィルバーよりレオンハルトのほうだった。明らかに驚き目を見開いている。

 

 「え?どうしたの皆?」

 「どうしたのではないですよオズ。ブラッドフォードのほうが強いに決まってます」

 

 燻っていた火種にオルドリンが薪をくべて、レオンハルトがガソリンをぶっこんだ。

 「あー…」と呻き声を漏らしつつティンクは失言に気付き、ソキアはそれと無しに離れる。これから起こるであろう事を理解しつつマリーベルは微笑み、シュバルツァー将軍は痛くなってきた頭を軽く押さえる。

 

 「なにを言っているの?ブレイズルミナスを使用した防御性にシュロッター鋼ソードを大量に装備して接近戦の面でも優れたグレイルのほうが!」

 「接近戦ならばブラッドフォールも出来ます。それに合わせてハドロンスピアーで高火力を出せる点で勝っているのは確実でしょう」

 「確かに火力では劣っているのは認めるわ。けど接近戦ではランスロットは負けていない。しかもこのグレイルは私専用に改修された機体でブラッドフォードは先行試作機。どちらの操縦性が高いかは一目瞭然よね。そして操縦性が高ければそれだけパイロットの技量を反映できる。それでもレオンは私のグレイルに勝てる?」

 「うっ……接近戦は不利ですね。しかし!ブラッドフォードは高い飛行性を持っています。空を飛べるブラッドフォードが負けることはありません!」

 「ランスロットだってフロートシステムをつければ飛べるわ!」

 「飛行性能では空気抵抗の少ない形態に可変出来るので問題はありません」

 「可変機構なんて機体を複雑にする整備士泣かせの機体じゃない!」

 

 オルドリンの後ろにロイドが、レオンハルトの後ろにはウィルバーが立って両者の意見を聞いて大きく頷いていた。

 

 「レオンハルト君。私が作り調整し、マリーカ君が育てたブラッドフォードの実力を見せたまえ」

 「ええ!勿論です!」

 「良いでしょう!筆頭騎士として受けて立ちます!」

 「やったー!良いデータが手に入りそうだなぁ」

 「好い加減にせぬか貴様ら!!」

 

 さすがに我慢の限界で怒声が上がった。

 今にも受領したばかりのナイトメアで決闘でも仕出かしそうだった二人の肩がビクンと跳ね、振り返った顔は引き攣っていた。いち早くロイドはセシルを盾にするように逃げようと試みたがセシルも怒っておりむしろ捕まり差し出された。

 

 「最新鋭の機体を手に入れ浮かれるのは私もパイロットである事から理解も納得もしよう。だから多少の事には目を瞑ろうと思っていたが貴官らときたら何を子供のように意地になっておるか!

 自分のはここが優れていて相手のそれは劣っている?当たり前だ!片や飛行能力と高火力を求めた可変機に片や接近戦や機動性に重きを置いた機体では用途が違う。それをまるで同じ土俵のように扱い認めながらも卑下するとは何たる愚かしさか!

 しかもよりによって決闘にまで持ち込む寸前にまで陥るとはそれがマリーベル皇女殿下の騎士のやる事か!!」

 「「す、すみませんでした!」」

 「お二人も止めるどころか進めてどうするか!」

 「あはは~、だって良いデータが取れそうで…すみません」

 「私も熱くなりすぎたようだ…すまなかった」

 

 

 

 「ならいっその事ひとつにしてみますか?」

 

 

 

 やっと収まりかけた場にマリーベルの一言が放たれた。

 これがグリンダ騎士団の面々だけならただの雑談で済んだだろう。

 しかしここには根っからの技術屋が居る。

 自身の趣味や興味を持ったものに対してのみ全力疾走のロイドに、空中騎士団構想を早くから提唱して対空への備えを強化しようとしているウィルバー。

 二人は少し悩む仕草をしてニヤリと微笑んだ。

 

  

 

 

 

 

 ぞわりと寒気のようなものを感じたシュナイゼル・エル・ブリタニアは背後を振り返った。背後には先ほどからあまり変わり映えのしない雲と青空が続いていた。短く息を吐いて手元の資料に目を通す。 

 

 現在シュナイゼルは試験飛行中の座乗艦となるログレス級浮遊航空艦【グランド・ブルターニュ】内の執務室にて本日の書類整理を行なっていた。本来なら試験飛行中の艦に乗る事などありえないのだが、公務上向かわなくてはならない場所が多々あり、陸より空の方が断然早いことから飛行コースを行き先に合わせて、試験飛行と自分の移動手段の一石二鳥として使用したのだ。

 元々はカールレオン級浮遊航空艦【ローラン】と【アストルフォ】の二隻に護衛されての試験飛行の予定だったが、急遽【オリヴィエ】も追加した三隻での護衛が行なわれている。

 

 「如何なされましたか殿下?」

 「いや、なんでもないよ」

 

 傍に仕えているカノン・マルディーニが心配そうに聞くがやんわりと答えなんでもない事を強調する。

 別段身体に異常は感じられないし、なにかの気のせいだと先の感覚を頭の隅から追い出す。そして手元の資料に目をやってほくそ笑む。

 

 「カノン。彼の事は調べがついたかな?」

 「それがまだ…現在内密に調査を進めていますが【キングスレイ卿】なるもののデータが一切発見されておりません」

 

 ふむと呟きながら資料を机に置き、視線を細める。

 ユーロ・ブリタニアに皇帝陛下の軍師として送られたらしき(・・・)人物。

 少しユーロ圏内の事を知ろうとある人物から聞いた人物なのだが神聖ブリタニア帝国のデータベースに存在しない。そもそも父上直属の軍師が居る事自体が初耳で調査をしているのだが、何の情報も未だに発見できない。

 

 …これ以上は危険か…。

 

 宰相の自分も知らず、データベース上にも存在せず、皇帝しか知らないありもしない役職を持った男となると知ろうとする行為自体が危険と判断して小さく息をつく。

 

 「これ以上の調査は止めよう」

 「宜しいのですか?」

 「秘密裏で大きく動けないとしても経歴の一つも出てこない人物だ。父上しか知らない何かをこれ以上調べるのは危険と判断する。それにこれ以上は無駄骨だからね」

 「畏まりました。動かしていた者には中止を伝えておきます」

 「ああ、頼むよ」

 「それとマリーベル皇女殿下のグリンダ騎士団に例の新型と最後の騎士が到着したそうです」

 「やっとグリンダ騎士団のすべての要員が揃ったわけか」

 「……ユーロ・ブリタニアの件は本当に行なわれるのですか?」

 

 カノンの言葉にシュナイゼルは大きく頷いた。

 シュナイゼルは観艦式を終えたマリーベルのグリンダ騎士団初任務をユーロ・ブリタニアで行なおうと画策していた。何の理由もなしにそんな事をすれば本国からの介入としてユーロ・ブリタニアの面々は良い顔をしない。ゆえに何か正当な理由が欲しいのだがユーロ・ブリタニア入りしている皇帝が今まで隠してきたキングスレイ卿を当てに出来ない事から新たな理由を捜さねばならない。

 そこまでしてユーロ圏に介入しようとするのはオデュッセウスが居ると推測されるからだ。

 

 「勿論だよ」

 「しかし本国に居ないとはいえオデュッセウス殿下がユーロ圏に居る保証は…」

 「無いね。しかし必ず兄上は居るよ。自由気ままで何処にでも向かう…昔からそういう人なんだ。だからかいろんな事に巻き込まれに行ってしまう…」

 「私もシュナイゼル殿下に仕えていろんな話を聞き、居たとしても驚きはしません。ですが騎士団の派遣となると…」

 「兄上の事だから何かしら大きな事をする。それが意図的か無意識か知らないがユーロ・ブリタニアに大きく付け入る隙を作るだろう。いざという時に戦力が無かったでは困るからね。準備はしておくに越した事は無いさ」

 

 どこか楽しそうに微笑む笑みにカノンは見惚れ、これ以上なにかを言う気にはなれなかった。

 当の本人が別の意味で仕出かし、部下が暴走しようとしているのに気付かずにシュナイゼルは先のことに対して考えをめぐらせるのであった。


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