コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第58話 「戦場から離れた場所で③」

 浅瀬に飛び込んでオデュッセウスが頭部を強打した日の夕食。

 昨日以上に豪華な食事に舌鼓を打ちながら少し寂しく感じていた。

 

 …明日にはここを離れる。

 

 テントで休んでいる時に連絡があり、何でも私目当ての客人が来ているらしい。内密な話らしく内容は明かさなかったが皇族の印が押された封筒を所持していた事からとりあえず隠れ家に入れているとの事。これはオルフェウスが提案したのだというが何を考えているんだろうね。監視のつもりなんだろうがそこは私の隠れ家なのだが…。

 それにしても隠れ家を知っているという事は父上からの使者だろうか?あるいは伯父上にばれたか?いやいや、まさか…。

 

 嫌な予感を感じながら魚料理を口へと運ぶ。

 バターの風味が色濃く残るムニエルを味わいながら周りを見渡すと誰一人として暗い顔をするものはいなかった。リョウにいたっては左右から婆様たちに絡まれても「触んなババア」とか言いながら満面の笑顔で料理に夢中だった。レイラやユキヤは周りと会話しながら食事し、アヤノは一人でも食べるたびにコロコロと表情が変わるので見ていて面白い。

 

 あー…一人だけクスリとも笑ってない人物が居た。黙々と魚の見た目を残した料理以外(・・・・・・・)を口へと運んでいる。

 

 「これ美味しい!ねぇ、これ美味しいよ!」

 

 アヤノが美味しい美味しいと太鼓判を押す料理へ視線を向けたアキトは切り身のムニエルではなく、魚の姿をそのまま残したムニエルを眼にして顔を微妙に歪める。傍から見ると数秒の間だが魚と睨み合っているようにも見える。

 

 「俺はいい…」

 「もしかしてアキトは魚苦手なの?」

 「……そんなもの食べる奴の気が知れない」

 「目の前で食べている人を前に言うねぇ」

 

 いつものポーカーフェイスが歪み、弱々しく見えるアキトにいつの間にか席を立ったリョウが背後から軽く首を締める。絡んでいるだけで本当に締めている訳ではないので苦しそうではない。しかしここ二日で見ることなかった表情に携帯を取り出して写真を撮る。

 

 「おい、アキト。魚が食えないだと?」

 「五月蝿い」

 「お寿司もお刺身も食べられないのですか?」

 「あんな生臭いものが食えるか」

 「サバの味噌煮やうな重、イワシの酢漬けやアジのフライ、ぶり大根も駄目なのかい?あとは――」

 「あのさ、料理に関して食いつきすぎじゃない?」

 「私は料理を作るのも食べるのも好きだからね。そうだ!エンガワの炙りなんかも良いねぇ」

 

 ユキヤに突っ込まれながらも脳内では次々と魚料理が思い浮かべられる。ツナ缶にマヨネーズを和える程度混ぜたのが結構ワインと合ったっけ。缶をどこに捨てれば良いかわからずに適当にゴミ箱に入れたら何処からか聞きつけたコーネリアに「また護衛も付けずに勝手に出歩きましたね!」なんて怒られたなぁ…。

 なんて思っているとアキトを挟んでリョウとアヤノがニヤリと笑う。

 

 「ほらアキト。美味しいよ。あーん」

 「いらない!」

 「アヤノ!魚を押し込め!」

 「美味しいよ~」

 「アキト、大丈夫!?」

 「無理やり押し込むのは止めなよ」

 「そうですよ。オデュさんの言う通りです」

 「鼻を摘んで置けばそのうち口を開くでしょう。その時に――」

 「何を言っているんですか!?」

 

 わいわいがやがやと騒がしい食事風景に交じりながら笑む。こんな時間を弟妹と楽しめたらどれほど良いだろう。

 大きめの机を囲んでみんなで食事をする…。軽口で絡んでいくカリーヌを笑顔で受け流していくマリーベル、兄様兄様とクロヴィスに引っ付いて食事をするライラ、大人しくしているキャスタールにちょっかいをかけるパラックス、勝手にスザクをユフィが招き入れ不満そうな顔をするコーネリア、自分そっちのけでナナリーを優先するルルーシュ、皇族らしからぬ食事風景に眉間にしわを寄せながら食事を続けるギネヴィア、微笑を浮かべて少し離れた所から眺めるシュナイゼル、上座で周りを眺めながらどっしりと構えている父上にニヤつきながら雰囲気を楽しむ伯父上、そして誰構わずイタズラをしてまわるマリアンヌ様。

 想像するだけで頬が弛む。が、悲しいかなそんな未来はとんでもない奇跡が起きない限りありえない。

 

 視線を手元のワインに向けながらグラスを傾ける。

 いつも呑んでいる物に比べれは天と地ほどの差がある安物のワインであるが、どうして雰囲気でこんなに美味しく感じるのか…。皆にも味わってもらいたいな…。

 

 想いを巡らしながら食事を進めていると徐々に食事に伸びる手は少なくなり、雑談をしている者がほとんどだった。大婆様がテントに戻るのをレイラが手伝っていたがそれを手助けしようとは思わない。彼女はこれからC.C.により与えられたギアスの話を大婆様より聞くのだから、そこに居ては邪魔になる。

 空になった皿を重ねて料理台へと持って行く。

 

 「あ!あたしも手伝うよ」

 「それは助かる。さすがにこの量をひとりでは大変だったからね」

 

 自ら名乗り出てくれたのはアヤノだけで、リョウはアキトに絡んでいるし、ユキヤは婆様達とそれを眺めている。

 皿やグラスを洗っていく中で静かになったので何か話題がないかと考える。

 

 「そういえば皆、日本人だったよね」

 「日本人って言ってもあたしはこっちで生まれたんだけどさ。なんでも昔は侍だったってお爺ちゃんが言ってたっけ」

 「侍…甲斐の武田家に香坂って武将が居たような…あれ?高坂だっけ?」

 「いや、あたしに聞かれても…。こっちも聞きたいんだけどオデュってユーロ出身者?」

 「んー…何処だと思う?」

 「ブリタニア帝国―」

 「――ッ!?」

 「―だったりして」

 

 冗談で言ったつもりらしいが本当の事でビックリしすぎて心臓が痛い。頬は引き攣り手が止まる。横目でチラリと表情を窺うと別段気付いた様子などなく、洗い物を片して行く。

 

 「なんか昔に見たテレビに似た人が映っていたんだ。確か日本のニュースかなんかだったと思うけど」

 「せ、世界も広いからね。そっくりな人が居てもおかしくはないから…」

 

 確実にそれ私です。と心の中だけで呟きながら平静を装う。…装おうとしているが正しいか。

 

 他愛のない会話を続けながら彼女たちワイバーン隊、そしてwZERO部隊の事を考える。これからユーロ・ブリタニアの聖ミカエル騎士団との大規模戦闘が彼らを待ち受けているだろう。他にも箱舟の船団の事件もあることだし激戦間違いなし。原作ではどうにか死者ゼロで終わってハッピーエンドで締めくくられたが、実際はそう上手くいくだろうか?

 彼らにはそれほど関わって…いないと思うから原作の変更は起こらないと思う。なにかおこるとしたらその後だろう。最終章までにレイラが神聖ブリタニア帝国より亡命し、ユーロピア共和国連合市民から絶大な支持を得ていたブラドー・フォン・ブライスガウの忘れ形見と言う事は判明した。ジィーン・スマイラスはレイラが死んだと嘘の公表をしたが後になればすぐにばれるだろう。そうなればユーロピア共和国連合上層部が欲しがらないわけはない。見付かれば政治の道具と利用され続ける事になってしまう。

 かといって神聖ブリタニア帝国の皇子である自分が助けるのもブリタニアに亡命するように説得するのも難しい。

 

 「これで全部終わったね。じゃあ、あたしも戻るよ」

 「ああ…」

 

 食器類は洗い終わり、すでに婆様を含めた皆は寝所に向かったのか長机の周りには誰も居ないかった。濡れた手をごわごわのタオルで拭ってアヤノも寝所に向かう。

 

 「あぁ…アヤノさん」

 「なあに?」

 「えーと…これから先、飛行船から飛び降りるような事があったらユキヤ君に伝えといてくれるかな」

 「飛行船から跳び下りるってどんな状況よ」

 「攻撃したらすぐに移動する事…彼の場合は全力で退避になるんだろうけど」

 「・・・?それ本当にどういう――」

 「さてと、もう夜も遅いし寝ようかな。おやすみ」

 

 不思議そうに首を傾げて疑問符を浮かべるアヤノを余所にゆっくりとテントに向かって行く。

 多分今自分に出来るのはこれぐらいの事だからと言い聞かせながら。

 

 

 

 

 

 

 ユーロ・ブリタニア領 貴族シャイング家屋敷

 使用人を除いて三人では広すぎる広大な土地の真ん中に建てられた家柄を表すような豪勢な貴族の屋敷。 

 月や星々が輝き並ぶ夜空をバルコニーの椅子に腰掛けながら見上げる青年が居た。

 

 日向 アキトの兄であり、マンフレディ卿に拾われ、シャイング家の養子となった聖ミカエル騎士団総帥シン・ヒュウガ・シャイング。

 

 聖ミカエル騎士団の制服ではなく純白のスーツ姿の彼はワイングラスを傾けながら笑みを浮かべる。

 シンはひとつの望みを持っている。それは死による人類・世界の救済。

 

 この願いを抱いたのは両親に原因があった。弟であるアキトの父親はシンとは違う父親だ。そのことに気付いたシンの父親はアキトの父親を殺害。母親も死を望んだがそれは叶えられず、死ぬまで一緒にいる事を命じられ、それを罰とされた。

 その事に気付いていたがアキトを溺愛していたシンは気にも留めてなかった。しかし両親のお互いを苦しめあう行為や様子に絶望し、両親に対しての絶望は世界へ対するものへと成長していった。

 誰にも知られずに実の父親を斬首。すると何処からか現れた父親と同じ声を発する髑髏よりギアスを与えられ、ギアスユーザーとなる。力を手に入れたシンは絶望しかない世界から世界を、人類を、愛すべき者を救済しようと動き出した。まだ幼かった彼は周りの者の救済を実行した。見るだけで反吐が出そうな実の母を含めた一族郎党を死の救済という名目でギアスで自殺させた。

 

 成長し、聖ミカエル騎士団総帥という力を手に入れたシンは世界の救済へと段階を進めようとしている。

 wZERO部隊に居るスパイよりアポロンの馬車の情報は受け取っている。別にユーロ・ブリタニアで生産したり、聖ミカエル騎士団で運用しようとは微塵も考えていない。ただそれを神聖ブリタニア帝国の帝都ペンドラゴン―――シャルル・ジ・ブリタニア皇帝を目標に発射するだけだ。

 世界屈指の軍事力を誇る神聖ブリタニア帝国は圧倒的なカリスマ力を備えている現皇帝を中心に動いている。その中核たる皇帝を失えばどうなるか容易に想像し得る。皇族や有力貴族による次の皇帝の選出か権力・派閥争いが本格化するのは当たり前として、今戦争を仕掛けている各国への判断が遅れ、中華連邦などの様子見を決め込んでいた国は好機と見て動き出す。植民地支配されていた各エリアでは暴動が起きるなど戦火が広がり、一部地域から国、全世界を巻き込んだ世界大戦へと発展して行くだろう。

 自身が望んだように多くの者が死に絶え救済されるであろう。されどそれだけでは物足りない。衰弱しきった世界に止めを刺すべくユーロ・ブリタニアの力を温存・拡大しておかなければならない。

 

 扉越しにノック音が響く。短く入れと許可を出すと頭を下げながら入室してきたのはシンの右腕と称されるジャン・ロウであった。

 こんな夜更けに訪ねて来たわけでなく、今日は客間を割り当ててこの屋敷で待機させているのだ。

 

 「どうした?」

 「ハッ。キングスレイ卿より要請がありアシュレイ・アシュラを貸して(・・・)ほしいそうですが」

 「命令ではなく貸して(・・・)ほしいと頼んできたか。なるほど…どうやら私を誘ったのは本心だったか」

 「如何なさいますか?」

 「了解したと伝えておいてくれ。それと【アフラマズダ】を先行して送るとも」

 「【アフラマズダ】をですか?しかしあれは…」

 「アシュレイは例の【船団】で使う事になるだろうからな。【船団】にはハンニバルの亡霊しか対応出来ない。しかしこちらにはあの部隊に対抗し得るほどの戦力を出す気はない。ならばアシュレイに【アフラマズダ】を貸して時間稼ぎをさせればいい。元々あの機体は立体機動よりも狭い空間の方が真価を発揮する」

 

 アフラマズダとはユーロ・ブリタニアが開発した最新鋭のナイトメアフレームで、最大の特徴はブリタニア本国のナイトメアも含んだ中でトップ5に入るであろう火力にある。ショルダーウェポンとして三連装大型ガトリング砲を左右に装備し、コクピット上部に円形の弾倉を固定する部位を取り付け、大型の専用弾倉を六つ装填している。これにより短時間で弾切れを起こすガトリングの短所を消したのだ。代わりに武装や弾倉に伴い機体の大型化が必須となり、ナイトメアフレームの特徴である機動性と立体機動を殺してしまう結果となった。

 火力も特徴的だが防御力も現行のナイトメアでトップクラスの硬さを持っている。ブレイズルミナスを停滞させることの出来るシュロッター鋼を全体で使用している為に大型リニアライフルでも傷一つつけることが出来ない。圧倒的な火力に防御力を持つアフラマズダが狭い空間で真価を発揮すると言うのは、正面からの撃ち合いで負ける確率がかなり低い事から判断した事だ。

 

 …まぁ、アシュレイが敵を倒しきるよりは【箱舟】に積んだ爆弾によりハンニバルの亡霊を殲滅する罠であるから、勝敗よりも時間稼ぎの面が大きいが。

 もしかしたらアシュレイが倒しきる可能性も無きにしも非ずだが、シンにはアキトがそう簡単に負けるとは思えなかった。

 

 「なんにしても私の望みは叶いそうだよ」

 

 何の返答も返さずジッとその場で姿勢を正し続けるジャンに微笑み、グラスに残っていたワインを飲み干す。

 別室で寝ているであろう自分を純粋に慕っている義妹であり許嫁であるアリス・シャイングと、実の息子のように優しく接してくれるマリア・シャイングの事を想う。

 シンも心の底から愛している二人にも死で救済せねばと…。

 

 バルコニーから室内に戻り、机にグラスを置きながらある事を思い出し口を開く。

 

 「アンノーンの件はどうなった?」

 「はい。言われた通りに一般人を装いユーロピアに一報入れております」

 「そうか…どちらに転んでもこちらとしては構わないからな」

 

 愛する者に向けるような優しげな笑みは消え失せ、歪んだ笑みを浮かべる。

 

 「さて、どう動くかな。ブリタニアの第一皇子様は」

 

 

 

 

 

 

 オデュッセウスは隠れ家を出た時の服装でワルシャワの街並みを眺めながら歩いていた。

 朝日が昇り、午前中の仕事が一段落したところで別れを告げて出てきたのだ。別れの際には婆様たちに泣き付かれ、もみくちゃにされたりもして、かなり別れ辛かった。こっちまで泣いたせいで目のあたりが若干腫れている。

 

 別れの寂しさを美しい街並みを眺めることで治めようと思っていたがさすがに無理があった。

 どうするかと考えているとお腹が鳴った。朝食を食べてから昨日同様働いて、今は十二時前とすでに昼食の時間に近付いている。

 …なるほど、道理で腹の虫も鳴くわけだ。

 

 食べ歩けるような軽食を売っている出店を捜そうと見渡していると、ベンチで生気のなさそうなユーロピア共和国軍の軍人が座り込んでいた。ワルシャワはユーロピア共和国連合の勢力下で、補給部隊の支局があったりとかなり重要な拠点としているようだからそこらへんに軍人が居てもおかしくないのだが…。

 パンを売っている屋台よりケシの実を始めとしてオレンジピールやナッツを交ぜたクリームを、パン生地で巻いたマコヴィェツとコーヒーを2セット買って近付いてみる。

 

 「あの…大丈夫ですか?」

 「ん?あぁ…大丈夫ではないな…」

 

 軍人は顔を上げる事無く俯いたまま返事を返してきた。大きくため息を吐き出し、辺りに沈んだ空気を撒き散らしているような錯覚すら覚える。こういう場合は話を聞いてあげた方が良いのか、そっとしておいた方が良いのか…悩んだ結果、多少元気付けてそっとしようと中途半端な事をする事にした。

 

 「なにがあったか知りませんが元気を出してください。よかったらこれ、どうぞ」

 「…すまない。頂こう」

 

 生気が抜けきった顔を上げて袋を見て、多少申し訳なさそうに受け取った人物に目が点になる。

 佐官のバッジを付けたユーロピア共和国連合の制服を着た短く刈り揃えられた灰色の髪に伸ばした顎鬚、ずれた軍帽に細長い輪郭…。

 元wZERO部隊司令官で上層部に配置変えさせられた第103補給部隊司令官のピエル・アノウ中佐その人だった。

 ワイバーン隊のデータ改竄した張本人が何故こんな所で油を売っているのだろうと疑問に思ったがすぐに理解し考えるのを止めた。

 今日で婆様たちにワイバーン隊の面々が捕まって三日目。という事はハッカーとしての能力に長けているユキヤが婆様たちの旧式のPCと自身のPCを駆使して改竄された内容を元に戻した頃だ。しかも仕返しに改竄した張本人であるアノウ中佐のデータを同じように改竄したんだった。

 

 つまり軍のIDに納められている軍での経歴からクレジットまで何一つ使用できないのだ。

 ゆっくりとした動作でマコヴィェツをかじり、コーヒーで流し呑むアノウに背を向けてさっさと隠れ家に向かう。現状は気の毒にと多少思うところがあるが基本的に嫌いな部類の人間。日本人を差別して特攻作戦を強いて、味方の兵士が亡くなる事より作戦失敗時の責任問題を重んじる辺り好きにはなれない。

 ちなみにもっと嫌いな人物が本国に居るが彼とはあまり関わらないようにしている。あっちもこちらに関わりを持ちたくないようで助かるが。

 急ぎ足で隠れ家の屋敷前まで戻って先ほど買ったマコヴィェツとコーヒーに手も付けてない事に気付いた。とりあえず訪ねて来たお客に会った後にでも食べようか。そう思いながら扉を決められた数だけノックして自分が戻った事を知らせる。するとドタドタと足音が近付き扉が開く。

 

 「お帰りなさい殿k…はいけない。オデュs…さん。お怪我はありませんか?」

 「大丈夫だよメルディ。心配かけて悪かったね」

 「本当ですよ。何かあったら即刻私の首が飛ぶ所だったんですから!私、死ぬ時はベッドの上で自分の記事を眺めながらって決めてますので」

 「普通孫に囲まれてとかじゃないかな…で、本国のお客さんって言うのは――」

 「お帰り、心よりお待ちしておりました殿下」

 

 玄関に繋がる廊下に出てきたひとりの人物が片膝をつき、頭を垂れながら心より言葉を述べた。その人物に思わず目を見開いて口をポカーンを開けてしまった。

 

 何故ここにジェレミア卿が居るの!?

 

 

 

 向かいの建物の隙間から驚き慄くオデュッセウスを、ホームレスに偽装した薄汚れた格好の男が見つめていた。遠目ではっきりとは見えていないし、話している内容は聞こえない。

 だけれども男はほくそ笑んでフードで隠していたインカムのスイッチを入れる。

 

 「こちらバーダーよりペットショップへ。カッコウがオオヨシキリの巣に入った。繰り返す。カッコウがオオヨシキリの巣に入った」

 『ペットショップ了解。すぐに猟犬を放つ。バーダーは現状維持で観測せよ』

 「バーダー了解。観測を継続する」

 

 男は中に入っていくオデュッセウスを見つめ続ける…。


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