コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~ 作:チェリオ
神聖ブリタニア帝国帝都ペンドラゴン。
ブリタニアの政治の中枢を司り、皇族やラウンズなどが集まる宮殿がある。
その宮殿の一室に皇族と御呼ばれした者達でお茶会が開かれていた。
第一皇子のオデュッセウス・ウ・ブリタニア。
第二皇子で宰相のシュナイゼル・エル・ブリタニア。
第一皇女のギネヴィア・ド・ブリタニア。
第五皇女カリーヌ・ネ・ブリタニア。
ナイト・オブ・スリー、ジノ・ヴァインベルグ
ナイト・オブ・ナイン、ノネット・エニアグラム
第一皇子付き技術士官ニーナ・アインシュタイン。
このお茶会にニーナだけ何故呼ばれたか不思議そうで、そして周りの人物たちが大物過ぎて萎縮してしまっている。
小鹿のように震える様子を見たオデュッセウスは自分の隣に座らせた。結果肉食獣のような眼つきでギネヴィアに睨まれる事になったが…。
「にしてもパラックスもキャスタールも出ているとは思わなかったな」
ボソッと呟いた言葉にギネヴィアがため息をつく。
数ヶ月前まで兄弟・姉妹が多く居たペンドラゴンには現在五人にまで減ってしまった。
マリーベルはユーロピアでグリンダ騎士団を率いて遠征中。
パラックスとキャスタールは活躍するマリーベルに負けまいと白ロシア戦線に向かって行った。
クロヴィスは衛星エリアにて遊園地やら美術館やら娯楽施設建設で飛び回っている。
妹のライラは兄の仕事を見学しながら行政の勉強をしている。
逆に本国に居るのは室内に居る四人とエリア11の新総督として向かう為にも統治に関して習っているナナリーのみ。
…オデュッセウスに関してはまたすぐにどこかに行くだろうけど…。
取り寄せたケーキを食し、コーヒーで甘くなった口内を整える。
「二人ともマリーベルに先を越されたと思っているんでしょう」
「相当焦っていたみたいだし…特にパラックスはね」
マリーベルというよりはオルドリンが戦果を挙げている事に焦っているのだろう。後はパラックスの専用ナイトメアフレームエクウスを元に作られた機体ヴェルキンゲトリクス…いや、サグラモールが撃破されたことも原因のひとつであろうか。
決して弱い機体ではないが扱いやすい機体でもない。特殊なシステムの干渉から空輸の手段も限られ、一機あたりの生産コストと整備の複雑化から量産化計画も頓挫し、ブリタニアの四脚ナイトメアフレームは二機のみ。その片割れが破れて自分の機体のみ。自分の系譜の機体が弱いなどと評価されないように躍起になっている節が見られたからなぁ…。
「少し心配だな」
「私には護衛をつけずに出歩く兄上の方が心配ですが」
「う…」
「最近は減ってきているみたいですけど?」
「っははは、それは有能な親衛隊長殿が苦労しているからでしょう」
最近の出歩いていない事を知るジノの言葉にノネットが大きく笑いながら後ろを振り返る。
オデュッセウスの監視兼護衛と言う事でお茶会に参加せずに立って待機しているレイラ・マルカルは、視線が合ったノネットに対して頭を下げた。
実際レイラの評価は上々であった。
ブリタニアで指揮能力を発揮する場はまだないが、その分脱走の常習犯をかなりの確率で阻止しているのが大きい。普通なら護衛対象が出かけている時点で罰せられるが相手が脱走に長けているオデュッセウスなら別だ。護衛をつけずに出ようとしたのを半分も見逃したではなく、半分も阻止したと褒められている。
白騎士に至っては2割未満であったのだからまさに上々というべき。
「そういえば殿下。ユーロピアでの戦いでブラッドリー卿に援軍頼んだそうじゃないですか。私を呼んでくれたらよかったのに」
「何処からそれを?」
「それは含みを持った笑みを浮かべたブラッドリー卿が自慢するように言ってましたよ」
「ああ、私もそれ聞かされました。アーニャなんか信じられないものを見たような顔してましたよ」
「それは貴重な…作戦の性質上彼が適任だったんだ。こんど何かあればお願いするよ」
あははと朗らかに笑いながら『おのれブラッドリー卿』と内心毒づいていた。
ケーキのおかわりを大皿より取っているとシュナイゼルが何かを思い出したかのように薄っすらと声を漏らし、顔を向けてきた。
「兄上。兄上が居ない間に申し訳ありませんでした」
「――ん?何のことかな?」
「ニーナさんの事です。兄上直属の技術士官だと言うのに勝手に協力して貰いました」
あまり思い出したくないフレイヤ関連の話題に微笑が苦笑いへと変わる。
確かにあまり良い話ではないが、あまり我が侭を言わない弟が始めて我が侭を言ってくれたようで怒るに怒れない。もしかしたら子を持つ親はこういう感情を味わうのだろうか…。考えても嫁さんも居ない以上子供は望めないが。
「良いよ別に。ニーナさんも自分から進んで手伝ったんだろう。無理やりだったらいう事もあったろうけどね。身元を伏せてくれたりと色々と気をまわしてくれたことには感謝しているよ」
「…兄上」
何処か悩むような表情を浮かべているシュナイゼルに首を傾げる。
なにか間違っただろうか?
「せめてもの埋め合わせがしたいのですが…なにか欲しい物やして欲しいことはありませんか?」
別にそこまで思わなくても良いのに。けれど普通にプレゼントは嬉しい。ここは素直に受け取っておくとしよう。しかし欲しいものか…今欲しいと言えば騎士団に配備するヴィンセントだけどこれはレイラに書類を出して貰ったし、アフラマズダの少数生産はうちでやってるしなぁ…。
唸りつつも悩んでいたオデュッセウスは咄嗟に先ほど脳裏に浮かんだ言葉を漏らした。
「うむ…お嫁さんが欲しいかな」
「なぁ!?あああ、兄上に嫁など早いです!」
「いや、早いことはないよお姉様。もうお兄様も30歳なんだから」
「ではどのようなタイプが好みなのでしょうか?」
あれ?意外と本気で私の嫁探しをしようとしていないかい?止めようにもほかに欲しいものがないのは事実。もしかしたら婚約者が出来るかもしれない。まぁ、出来れば良いってもんじゃないが。
「うーん、容姿はどうこう言うつもりはないけどお互いに一緒に居てホッとする相手が良いよね」
「性格、相性の一致ですか」
「一番想うのはそこかな…うん」
確かに可愛かったり、綺麗だったりしたら嬉しいけれど関係が冷え切った結婚は嫌だ。自分がとかじゃなく相手に悪い。出来れば政略結婚はあまり嫌だな。国の都合でどうこうっていうのは。と、言っても父上様は政略結婚で情勢を変えるぐらいなら攻めるから政略結婚の話題すら振ってくる事はないけどね。
「殿下。そろそろ…」
「ん、あぁ、もう時間か。楽しい時間は過ぎるのも早いね」
「行かれるのですか?」
「今日は視察が二件もあってね。明日はフラッシュモブがあったりと楽しみが…コホン、仕事で大忙しさ」
「本音が漏れてましたよ殿下」
「フラッシュモブですか。私も参加しようかな」
「ご遠慮願います。ヴァインベルグ卿とオデュッセウス殿下が合流したらお止め出来る自信がありませんので」
「この前は失敗したからなぁ。リベンジも兼ねてどう?」
「お断り致します」
「では、またあとで」
少し寂しいが仕事は仕事。部屋を出てレイラを連れて歩き出す。
「殿下って婚約者居なかったのですね」
「うん?ぁあ、居ないよ」
「てっきり皇族なので誰かしら居るものと思ってました」
「それ私も思ったよ。皇族だから政略結婚とかさせられるだろうと思ったこともあったけど父上は別段お考えになられないし、大貴族や他国から申し込まれる事もないんだよね」
それはすべてギネヴィアとコーネリアに阻止され続けているとは欠片も考えてはいない。
兎も角、今日の視察を楽し―――こなそうか。
軽い足取りでウォリックが車を回している正面入り口に向かうのであった。
オデュッセウスが出て行った後、シュナイゼルはいつもの涼しげな笑みではなく困ったように眉を下げていた。
フレイヤの件では確実にお叱りを受けると思っていた。世界初となる広域殲滅が可能な兵器の基礎を考えた学生を自身の直属技術士官にして手元に置き、武器ではなく別分野で働かせているところを見るとフレイヤに関わらせたくないのは明白。そもそもあのお優しい兄上がフレイヤのようなものをよしとする筈がない。だけれども自身が思い浮かべている計画ではあの兵器は理想的。兄上に多少怒られてもと思いながら行動したのだが…。
『身元を伏せてくれたりと色々と気をまわしてくれたことには感謝しているよ』
許されるどころか逆に礼を言われるとは…。
予想していなかったことに罪悪感が高まる。だから埋め合わせにと思ったのだが。
「まさかお嫁さんと言うとは…どうしたものかな」
「シュナイゼル。分かっていると思うが兄上には…」
「いえ、ここは兄上の頼みを叶えたいと思います」
「何!?」
「そうでもしないと姉上が邪魔をして兄上は一生出来なさそうですから」
コーネリアとギネヴィア姉上とで婚約阻止していたのはさすがに分かっている。
だから自分などが捜す必要がある。
「しかしオデュッセウス殿下と相性の良い女性ですか」
「エニアグラム卿。君が知っている人物には居ないかい?」
「皇女様方…」
「以外で頼む」
「クルシェフスキー卿ともエルンスト卿とも仲は普通ですしねぇ」
「アーニャとは仲が良いようですよ。よくメールのやり取りしてますし、ブログにオデュッセウス殿下が抜け出した時や仕事中の写真アップしてますし」
「何ですって!?アーニャ・アールストレイム卿のブログですね!!」
「お姉様落ち着いて」
アーニャ・アールストレイム卿。
最年少のナイト・オブ・ラウンズで記憶が定かではないが、マリアンヌ皇妃が存命だった頃より付き合いがあったと思う。身分も腕も確かな相手だが相性が良いのかどうかが確められない。いや、仲が良いのであれば少なくとも良いのだろう。
「姉上。姉上のオデュッセウス殿下の婚約者の条件はなんですか?」
「それは勿論、気品があり、兄上の事を想い、支え、家柄の良い…」
「……だいたい分かりました」
「まだ条件はあるけれど」
「もう十分です」
これは中々骨が折れそうだ…。
まずはオデュッセウスと仲の良い女性を知ろうと判断し、ニーナへと顔を向ける。
オデュッセウスが出て行った事でギネヴィアの視線をもろに受けることになって最初はオドオドしていたが、シュナイゼルの話で解放されて一息つきながらコーヒーをゆっくりと飲んでいた。
「ニーナさんは兄上と仲の良い女性を知りませんか?」
「わ、私がですか?」
「えぇ、確かアッシュフォード学園の生徒とも仲が良かったと聞いていますので」
「えと、ミレイちゃん…ミレイ・アッシュフォードさんとも仲が良かったですけど恋愛感情があったかどうかは…アリスさんとは良く話していたようですけど」
「アリス…確かナナリーの騎士になった子だね」
ふむ。ここまでの相手を見てみると比較的年下が多い。そういえばエリア11が日本だった頃、日本の名家である皇家のご息女と親しくしていた筈だ。
恋愛対象と言うよりはもしかして妹や娘のように接していたのではないかと思う。
「難しいわね。二人っきりの食事に誰かを誘ったり、抱き合っていたりなんて話もないからね」
「そんな兄上が節操のない行動を取るわけが―――」
「あ、あの…」
話を終えて消え去りそうに縮こまるニーナはおずおずと手を挙げて、皆の視線が集まる。
「わ、私、抱き締められた事があります。ブラックリベリオンの時、私を落ち着かせようとして殿下が…」
「抱き締めっ!?」
話したニーナは顔を真っ赤に染めて恥かしそうに俯いた。その言葉にギネヴィアは目を見開いて口をパクパクと開け閉めを繰り返していた。
ノネットとジノ、カリーヌはその時の事を詳しくと迫っている間、シュナイゼルは思案する。
兄上は恋愛感情を求めるというよりも安心出来る関係。兄妹、父娘のような関係を求めていると推測しよう。接していたのが年下ばかりの女性なのはそういう事なのだろう。多分ロリコンと言うわけではないだろうがこれを言ったらギネヴィア姉上が暴走しそうなのは明白なので絶対に口にしないし思わないように務める。
この条件下で姉上の条件…特に家柄の点に絞って仲の良い相手を検索する。
先の皇家のご息女が脳裏に浮かんだが彼女は黒の騎士団を支援していたキョウトの一員として追っている身。ならばと思考を巡らしているととある人物を思い浮かべた。
彼女なら家柄も良いし、兄上には悪いが政治的にも使える。
このことが原作のコードギアスR2第九話【朱禁城の花嫁】に繋がる事になるのだが、それはまだ先の話である。