コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~ 作:チェリオ
歴史改竄…。
本来あった流れを変えてしまう行為。時に死ぬべき定めの者を救い、生きるべき者を殺す。転生・憑依なんてものがあれば意図しても意図しなくても起こってしまうものである。
「はなしてください!!」
「そっちこそはなしなさいよ!!」
私という存在がオデュッセウス・ウ・ブリタニアに憑依している事で改竄してしまった事も多く見付かるだろう。そのひとつが彼女達だろう。
「オデュッセウスおにいさまとはわたしがあそぶんです」
ふわふわの可愛らしいフリル付きの服を着て、癖のある髪をツインテールにしている五歳のナナリー・ヴィ・ブリタニアが、右腕を小さい手で必死に引いている。
「なぁに言ってんのよ。オデュッセウスにいさまはわたしとおあそびになるのよ!!」
赤い髪を髪飾りで二つに括っていて、ドレスなどではなく身体に合うぴったりとして動きやすい服装の六歳になったカリーヌ・ネ・ブリタニアが、そこまで重くない体重をかけて左腕を引っ張る。
二人の争奪戦の対象である私は困った笑みを浮かべてされるがままの状態である。久しぶりに仕事を終えて暇になった今日を休日と設定した私の執務室には弟&妹が大集合していた。確かこのことはマリアンヌ様しか知らない筈なのだが…。あぁ、完璧にあの人が漏らしたんだろうな。こうなる事を分かって。
「兄上は人気者ですね」
ソファで紅茶片手にくつろいでるシュナイゼルから微笑みながらかけられた声が聞こえるが、それよりも助けてくれないかと願う。カリーヌとナナリーの仲が悪いと言うのはなんとなく知ってはいたが、私が憑依したことでより一層悪くなった気がする。主に私が原因だが…。
「本当に兄上は人気者ですね」
ナナリーやユフィには天使のような笑顔を見せるルルーシュなのだが、私に対してだけ冷たい視線と棘のある言葉が突き刺してくる。今まで兄弟・姉妹皆と仲良く接してきたのだが、何故かルルーシュに嫌われている節がある。未来の事を考えると非常に不味い。顔を合わせた途端に「死ね」ってギアスをかけられたらどうしよう?
何がいけなかったのか…。
チェスで20連勝した事かな?
それとも将来を見越してビスマルクやマリアンヌ様との模擬戦に参加させた事かな?
もしかして間違ってルルーシュのおやつを食べてしまった事がばれたのかな?
…いや、最後のは気付いて作り直してもらったから大丈夫。大丈夫のはず。
いろいろな事を思い返してる間も左右に揺らされ続けられ、さすがに気分が悪くなってきた。
「お二人ともお止めなさい」
取り合いをしている二人を止めたのはコーネリアも溺愛しているユーフェミア・リ・ブリタニアだった。桃色の髪を腰まで伸ばした少女はムッと表情をして注意する。
「だってナナリーが」
「だってじゃありません。二人ともお兄様が困ってるのが分からないの」
「うー…ごめんなさい」
「わたしもごめんなさい」
確かに困っていたが、これだけ慕われることは嬉しい事でもある。笑みを浮かべたまま二人の頭を撫でて、怒ってない事を伝える。撫でられて嬉しかったのかにっこりと笑う二人を眺めていると、ルルーシュより刺すような視線を感じる。
「ルルーシュ!勝負の途中だぞ!!」
「…そうですねクロヴィス兄様」
まるで腹を空かせた肉食獣が弱った小鹿を見つけたような獰猛な笑みを浮かべた弟に少しだけ恐怖した。ルルーシュとチェスをしていたクロヴィスに心の中だけで手を合わせる。
と、余所見をしていた私の手を誰かが掴んだ。振り向きその相手を認識するとそれは満面の笑みを浮かべるユフィだった。
「オデュッセウス兄様。わたくしと遊びましょう」
「「ユフィねえさまずるい!!」」
さっきまで争っていたカリーヌとナナリーが同時に抗議する。ここでユフィは二人のように独占しようとせずに、皆一緒に遊んで頂きましょうと提案する。最初の頃は独占しようとしていたのだが、ナナリーやカリーヌなどの妹が出来てからお姉さんらしい余裕を持った態度で接するようになった。
「大変そうですね」
「ああ…けれどこういう時間は好きだからね」
今感じる幸せを噛み締めながら部屋の中を見渡す。
容赦の無い攻めで完全勝利を収めるルルーシュに、肩をがっくり落としながらもリベンジに燃えるクロヴィス。
ユフィを中心になにをして遊ぶか決めかねているナナリーにカリーヌ。
騒がしいのは嫌いと言っている割には満更ではなさそうに眺めるギネヴィアと、温かい眼差しでユフィを見守るコーネリア。
静かに笑みを浮かべつつ、静観するシュナイゼル。
本当に殺しあうのだろうかと疑問を抱き、こんな平和な日常がずっと続くんじゃないかと期待する。
した途端にけたたましくドアが開けられた。突然の事だったがコーネリアは立ち上がって腰に提げていたナイフに手を伸ばす。同時に私はユフィ達を庇うように前に出ながら懐に手を伸ばす。
「ハァ…ハァ…」
ドアを開けたのはナナリーと同い年のキャスタールだった。よほど急いで来たのだろう。艶のある薄い緑色の髪が乱れ、呼吸は乱れきっていた。
「どうしたんだいキャス?そんなに慌てて」
「ま、また…パラックスが」
「まさか……またかい?」
「ボ、ボクは注意したんだよ。でもパラックスの奴が」
「心配しなくても大丈夫だよ」
「兄様。なんなら私が行きましょうか?」
「いや、私が行くよ。慣れたしね」
代わりを申し出たコーネリアを手で止めて、足早に部屋を後にする。後ろに付いて来るのは困った顔をしているキャスだけだった。
キャスタール・ルィ・ブリタニア。
兄弟の中では珍しい双子だ。そもそもブリタニアでは双子は忌み嫌われている存在である。特に貴族では跡継ぎの問題も絡んで余計に嫌われる者だが、皇族に関しては子供が多くて今更双子が出来たからって別に問題は無い。問題があるといえば皆が弟と間違えることぐらいだろうか。瞳の色を見ないと分からないと言うのだが別にそんな事はないと思うのだが。
中庭に近付くにつれて、木と木がぶつかり合う音が耳に入ってくる。これで何回目と数えるのも馬鹿馬鹿しくなる。それだけ元気がある子に育ってくれたと喜べばまだ良い方かな。
予想通り中庭では二人の子供が木の剣を振り回して戦っていた。
ひとりはパラックス・ルィ・ブリタニア。
キャスタールの弟で少しばかり血の気が多い男の子。キャスもナンバーズに区別ではなく差別意識を持っているが、パラックスのそれはキャス以上で、幼いゆえかはまだ分からないが結構な残虐性も持っている。コーネリアには危険視され鬼子とまで言われていた。その性格が問題視されたのか父上様に呼び出されたのだ。行く時に話を聞いた私は一緒に付いて行って先に謝ると、何故か困ったような表情をしていたのは不思議だったな。
パラックスと木の棒をぶつけ合っている相手はオルドリン・ジヴォンと言う貴族の娘だ。
一族からラウンズを輩出した事もあるジヴォン家のルルーシュと同年代の少女。しかし、少女だからと侮ってはいけない。彼女の母親の剣技はナイト・オブ・ラウンズにも劣らず、手合わせした時には正直見惚れるほどだった。そんな母親からマンツーマンで剣技を習った彼女が弱いわけが無い。実際、我流のパラックスを赤子を捻るかのように圧倒している。
限界が来たのだろう。悔しそうにパラックスが大の字で地面に転がった。それを見たオルドリンは短く息を吐いて、剣を納める動作をして一礼する。
「やぁ、またやっているようだね」
「―っ!?こ、これはオデュッセウス殿下!失礼致しました」
私に気付いたオルドリンは片膝をついて伏せる。幼い彼女の仕草は様になっており、どれだけ教え込まれたのかがよく分かる。
「兄様…」
「まったくパラックスはやんちゃだね」
「すみません」
「いや、そこが君の良い所でもあるんだ。怪我は無いかい?」
倒れているパラックスを一通り見たが小さな擦り傷などはあるが、大きな痣や血が出るほどの怪我は皆無だった。さすがと褒めるべきだろう。
「さすがマリーの騎士だね」
「ありがとうございます♪」
『マリーの』と言う言葉に喜んで笑みを浮かべる。オルドリンの後ろから近付いた少女がぎゅっと愛おしく抱き締める。
「ま、マリー!?」
「さすが私の騎士です」
後ろから抱き締めたのは天使のような羽を付けたドレスに身を包んだマリーベル・メル・ブリタニア。オルドリンの幼馴染でルルーシュと同い年。あの時はルルーシュだけでなく、妹も出来たと大喜びしたっけ。
マリーはオルドリンの手を引いて駆けて来る。パラックスは忌々しそうに睨んで、横に居るキャスタールが心配そうに見つめている。
なんだか歳をとるにつれて前世の記憶を失いつつある。この四人はコードギアスのゲームか漫画に出ていたような気がするのだが記憶が薄いぶん思い出せない。思い出せないからって別に不都合は感じてないが。現にこうやって仲良くなれたのだから、それ以外は問題ないと判断したと言うのが正しいかな。
「さて、皆も私の部屋に来て一緒にお茶でも如何かな?」
「もちろん行きますわ」
「ボクも行きます」
「わ、私も宜しいのでしょうか?」
「当たり前じゃないか」
「ありがとうございます」
「チッ…決着は今度つけてやるからな」
キャスとパラの手を繋いで皆で並んで部屋へと戻る。戻ったらナナリーにカリーヌ、ユフィに囲まれ、居ない間に話し合った遊びの数々に付き合わされた。愛おしい妹・弟に囲まれる生活。本当に幸せだな。
いずれ訪れる悲劇に気付かないまま今の幸せを噛み締めるのであった…。