コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第69話 「アンナバでの戦闘」

 マリーベル・メル・ブリタニア皇女直属騎士団【グリンダ騎士団】

 旗艦グランベリーはユーロピア侵攻軍から離れ、アフリカ大陸アルジェリアのアンナバ上空に差し掛かっていた。

 

 神聖ブリタニア帝国はユーロピア侵攻をユーロピアより亡命した貴族に援助を行いユーロ・ブリタニアとして侵攻を任せていたが、シン・ヒュウガ・シャイングの計画した本国への叛逆行為と騎士団の崩壊により介入。崩壊しかけた戦線を維持するどころか指揮系統を乱したユーロピア共和国連合軍を押し返し、占領地域を着実に増やして行った。

 

 そのまま神聖ブリタニア帝国が戦場を有利に進め、ユーロピアでの力を強めるかと思われたが宰相のシュナイゼルの言で、後はユーロ・ブリタニアに任せて一部を除き、次の侵攻先であるアフリカ大陸にユーロピアに向けたブリタニア軍を進めた。

 

 グリンダ騎士団が向かったアフリカ大陸アルジェリアのアンナバには、ユーロピアと繋ぐ軍港に各方面に送る物資を貯める集積地がある侵攻軍の重要拠点。

 現在、補給線の要であるアンナバを攻撃してブリタニア軍の兵站に打撃を与えようと反ブリタニア勢力が攻勢に出ていた。補給線が絶たれれば進行状況の遅れどころか時間が経てば支配地域の維持もままならない。と言う事で足の速いカールレオン級浮遊航空艦を旗艦に持つグリンダ騎士団が援軍に向かう事になったのだが…。

 

 『いやはや皇女殿下自らご足労頂き恐悦至極。ですがすでに大勢は決しました。これ以上の戦力投入は愚行と具申いたします』

 「そのようですね」

 

 グリンダ騎士団騎士団長オルドリン・ジヴォンはモニター越しにマリーベルと会話しているアルジェリア侵攻軍アンナバ進駐軍主力、第二皇子隷下【アルガトロ混成騎士団】アルベルト・ボッシ辺境伯に対して表情に出さないように怒りを積もらせていた。

 マリーベルは母親が亡くなったことで皇位継承権を一時的に剥奪され、軍学校を卒業後再び与えられたが一度も剥奪されずに皇務に携わってきた他の皇族は役職を得ており、マリーベルは皇族内でも低い存在として軽く見られる事があった。ボッシ辺境伯もそういう人物であった。特に彼は宰相の役職を与えられたシュナイゼルの隷下。余計に軽く見ているのだろう。

 だからこそオルドリンは憤る。

 自分が何を言おうが良い事にはならないだろう。念願の騎士になったと言うのに護る事が出来ないなんてと自身に対して憤る。

 

 「では、私達はここで見物させて頂きますわ」

 『持て成しも出来ませんがどうぞご観覧下さい。それでは仕事が残っておりますので失礼致します』

 

 ニタリと笑みを浮かべて映像を切ったところで大きなため息をつく。

 吐いた所でため息が重なった事に気付き、視線を向けるとヨハン・シュバルツァー将軍も同じくため息をついていたようだ。その様子を見たマリーベルは可笑しそうに微笑む。

 

 「二人ともそれほど気にしないで。いつもの事よ」

 「でも!」

 「オズや将軍の気持ちは嬉しいわ。でもそう見ている人にはそう見せておけば良いのよ。

  蔑みを向ける連中や見下す人達は油断し自分が如何に無能かを曝け出す。

  経歴だけではなく真に見抜く相手を見極め易くなる」

 

 楽しそうに微笑みを浮かべるマリーベルの横顔は可愛らしく、美しく、綺麗に見えた。

 そして何故か不気味さを感じた…。

 

 「私の周りには経歴だけでなく評価してくださるお兄様やお姉様、そしてオルドリン達が居るんですもの。ああいう方のお言葉なんて気にもならないわ」

 

 満面の笑みを向けられ、先ほど感じたものを追い払う。

 シュバルツァー将軍はマリーベルに対して何処か困ったような笑みを浮かべたかと思えば、呆れた視線をある人物に向ける。

 

 「それにしても皇女殿下を前にそのような態度を取るとは…まったく…」

 「……んぁ?」

 

 椅子に腰掛けふんぞり返るような体勢で居眠りをし始めていたアシュレイ・アシュラが抜けた声で返事をし、眠気眼を擦りながら顔を向ける。

 第一皇子オデュッセウス・ウ・ブリタニアより借り受けた部隊【アシュラ隊】。実力は並みの騎士団以上の猛者揃いだが、好戦的過ぎて手に負えないところがある。しかも皇族に対する忠誠心は無く、誰の前でも自由にしている。高潔な軍人・騎士が見たら眉を顰めるどころか、その場で罰しようともするだろう。

 シュバルツァー将軍は再教育と言ってみっちり説教などを行なうだろうが、マリーベルの判断は自由にさせると言うものだった。元々オデュッセウス殿下から借り受けた部隊であることもあるが、それ以上に彼らの性格を理解した為の判断。

 

 「なんだ?戦闘か?」

 「戦況は我が方が優勢。手出し無用と遠まわしに言われたばかりです」

 「ふーん、それは暇だなぁ…」

 

 大きな欠伸をして再び目を閉じようとする。

 正面の大型モニターに映してある簡易な敵味方の識別信号からなる戦況図を見るまでは…。

 

 「…ん?姫様、我が方に乱れが生じております」

 「敵の誘い出し―――にしては妙ですわね」

 

 映像には中央本隊が敵に押され始め、続いて左翼・右翼が崩れ始めてきた。

 戦術には油断を誘って相手を誘い込み、殲滅したりする戦術があるがそれとは異なり、普通に部隊が押され後退を開始していた。立て直す采配も見受けられない。

 

 「マリー、これって…」

 「ボッシ辺境伯に通信を」

 「それがG-1ベースに通信が繋がりません」

 「未確認情報ですがベースが落とされたとの情報が」

 「各部隊が命令を求めて通信が乱れてます」

 

 最悪の状態だ。

 優勢に事を運んでいるからと言って油断から本陣の守りを緩める事は決してない。なのに本陣をやられたという事は伏兵か裏切り、工作部隊が忍んでいた可能性がある。それもばれずにやり過ごし旗艦を落とすだけの精鋭が。

 なんにしても指揮系統が急に消滅して前線の崩壊が始まりかけている。このままでは部隊の壊滅どころかアンナバを奪還され、各地の補給線が枯渇してしまう。さすれば各戦線は物資不足により思うように戦えず、アフリカ大陸に展開している部隊――否、軍団単位で壊滅するだろう。

 

 「指揮は私が行なうと現在展開中の部隊に通達してください。その際にG-1ベースが攻撃を受けて指揮能力が無いことと、私の名前を告げてください。ブリタニアの皇女の肩書きがあれば従ってくれるでしょう」

 「りょ、了解しました」

 「シュバルツァー将軍。指揮の補佐をお任せします」 

 「俺達はどうすれば良い?」

 「アシュラ隊の方々は正面に展開。中央本隊の援軍へ―――あとはいつものように好きなように」

 「おっしゃ!アシュラ隊の出撃だ!」

 「オズ…G-1ベースを潰した賊の排除を」

 「イエス・ユア・ハイネス」

 

 オルドリン・ジヴォンは駆け出す。

 マリーベルの命令をこなす為に。

 マリーの騎士として護り、矛として敵を穿つ為に。

 何よりマリーを見下している連中を見返してやる為に。

 

 

 

 

 

 

 燃え盛るアルガトロ混成騎士団旗艦であるG-1ベースに背を向け、オルフェウス・ジヴォンは通信を入れる。

 

 「ズィー。戦況は?」

 『おう、ブリタニアの連中指揮系統を乱して押され始めてる。俺達の任務完了だな』

 「あぁ、わざわざ手伝わせてすまなかったとネリス達に伝えてくれ」

 『了解したよ。さっさと逃げろよ』

 「分かっている」

 

 オルフェウスは短い通信を終えると自身の機体――白炎の武装を収納する。

 白炎とは紅蓮弐式や月下を開発したラクシャータが作ったナイトメアの一つで姿形は紅蓮弐式に類似している。弐式の前段階の紅蓮壱式をオルフェウス専用にカスタマイズしたものなのだから似ていて当然なのだが、輻射波動機構は取り付けられていない。代わりに七種類もの武器をツールナイフのように収納できる肥大化した右腕部を保有している。

 後の違いと言えば白を基準とした色とカブトムシを連想するような角だろうか。

 

 今回オルフェウス達は反ブリタニア組織【ピースマーク】の依頼でアンナバを襲撃する反ブリタニア勢力の援護を頼まれていた。報酬は見合った金額と中華連邦での任務を優先して回してくれる約束を取り付けた。

 オルフェウスとナイトメア一騎ぐらいならガバナディに頼んで中華連邦まで密輸という形で運んでくれるだろう。しかし中華連邦に行くならネリスと名乗っているコーネリアと、ギルと名乗っているギルフォードも付いて来る。さすがに個人の力でナイトメア三騎を密輸するとなると難易度が高い。だから大きな力を持つピースマークの輸送手段を使って運んでもらおうと画策したのだ。

 

 任務であった敵司令部の破壊には成功。これで任務は達成。残るは無事にこの戦場から離脱するのみ…。

 

 『よくもやってくれたわねテロリストが!!』

 「なに!?空から―――アレはあの時の…」

 

 外部スピーカーより発せられた女性の声とレーダーに映った機影を確信して上を見上げた。

 サザーランドでもグロースターでもない。

 読み込んでいたナイトメアのデータから形状が最も酷似している機体データを表示する。

 エリア11で華々しい初陣を飾り、多大な戦果を挙げ、ナイト・オブ・ラウンズのひとりの愛機としてしられるランスロット。

 機体形状に変化が見られることとメインカラーの違いからラウンズとは別のカスタム機と判断する。

 背に取り付けた翼のようなパーツに何本も剣をぶら下げた真紅のランスロット。さらに上空に見える航空艦。

 

 ――ヴァイスボルグ城で見かけた航空艦…。

 

 上空から速度を付けた一刀を肥大した右腕部――七式統合兵装よりブレードを展開して受け止める。

 刃と刃が激突して火花が散る。

 さすがに受けきるのは不味いと判断し、受け流す。

 流されたランスロットはそのまま地面に刃を振り下ろした。

 

 『こいつっ!?』

 「そんな甘噛みで俺は殺せない!」

 

 放たれたスラッシュハーケンを操縦技術と白炎の性能で掻い潜り、懐へと飛び込む。

 相手は近接戦闘が得意なランスロットと言えどもパイロットの腕前一つで本来の性能を引き出せない場合がある。このランスロット・グレイルのパイロット、オルドリン・ジヴォンは母親のオリヴィア・ジヴォンに習った剣術を使った戦闘が得意なのだ。パイロットがスザクならばブレイズルミナスを展開した腕部を用いた近接戦闘を挑むだろうが、剣に執着するオルドリンは対応し切れなかった。何しろ剣を振ろうにも近すぎて振れないのだ。

 逆に白炎は収納できるようにある一つの武器以外は剣よりも短めに作られている。

 

 ブレードを収納した七式統合兵装より展開させたのはナイトメアの装甲も切断できる大鋏。

 

 『武器が変わった!』

 「これで――ッ!?」

 

 大鋏で頭部を捉えようとした瞬間、ミサイル警報がコクピット内に鳴り響く。

 すかさず後方に飛び退く。

 横目で発射地点である両肩にミサイルポッドを装備したサザーランドを確認する。大鋏を収納し超高出力電磁加速砲を展開し素早く撃つ。コクピットは狙えなかったが脚部を吹き飛ばす事には成功した。

 

 『ティンク!?』

 

 ミサイル着弾の為に発生した煙から声が響く。

 晴れていく煙を睨むと突き出された腕部より薄っすらとバリアのような物が展開されているランスロットの姿が確認できた。味方ごと撃った理由に納得し、再度ブレードを展開する。

 

 『ぼけっとしないで!!』

 「くっ!!また新手か!?次から次へと…」

 

 上空から降り注いだハドロン砲を回避し、上空を駆ける戦闘機らしき物を見上げる。

 ランスロットが移動し右側面に移動。左側面に回った戦闘機と挟み撃ちにするつもりなのだろう。

 

 『下がれ!』

 「ネリスか!助かる」

 『礼はいい。ランスロットタイプを』

 

 戦闘機にネリスとギルのサザーランドの銃撃が襲う。しかし機動性が高すぎて中々当たらない。いや、その間に目の前の一騎を討てばいい。もう一騎サザーランドが降下してきたが銃弾飛び交う戦場から先ほどの脚部を撃ったサザーランドのパイロットを救助に来たらしい。

 

 

 『このぉおおお!!』

 

 斬りかかって来るランスロットと刃を交え、一進一退の攻防戦を続ける。

 ナイトメアの性能的に白炎もランスロット・グレイルも同等。パイロットの技量はオルフェウスのほうが勝っている。しかし攻めきれないのはランスロットに使用されているシュロッター鋼による防御力にあった。

 

 「中々に硬い機体だな」

 『このテロリストが!!』

 

 眼前のパイロットは敵が倒せない事に焦り熱が入りすぎて周りが見えていない。ここは無理に勝負に出ずに周りを生かすように立ち回らなければならないというのに…。

 オルフェウスは周りの状況を確認する。

 戦闘機と思っていた機体はナイトメアに変形し、ネリスとギル、そして合流したズィーのグラスゴーの三騎と戦っている。そちらは問題ないのだが新たに空中から似たような戦闘機が降下してくる。

 これ以上はこちらが危険と判断して諸刃の剣である兵装を起動させる。

 

 「ネリス、ギル、ズィー!ゲフィオン・ブレイカーを使うぞ」

 

 頭部の角が三つに割れ、中より赤く輝く部位が露出する。

 紅蓮弐式にも搭載されていない兵装【ゲフィオン・ブレイカー】。ナイトメアのエネルギーとして使用されているサクラダイトに干渉する兵装で範囲内の機体を行動不能に陥らせる。ただし、発動した白炎も機能停止になるので出来れば使いたくなかったが…。

 

 範囲内から一気に離脱したネリスとギルのサザーランド、ズィーのグラスゴー以外は機能を停止した―――筈だった。

 

 『よくもレオンを!!』

 「なに!?ぐぅううううう!!」

 

 先ほどの機体同様変形したランスロットに似た機体は勢いを付けて膝蹴りを白炎に喰らわせたのだ。

 ゲフィオン・ブレイカーの影響で範囲内の機体は停止すると思っていたオルフェウスは驚きのあまりに動く事すら出来なかった。驚いていなくとも機体は停止しているので動けないが、しがみ付くなど対策を取れなかった。ベルトのおかげでコクピット内を跳ね回る事はなかったものの、頭を強打してしまった。

 

 『機体のサクラダイトに干渉して機体を行動不能にするゲフィオンディスターバー…。厄介な物ですがこのヴィンセントにはすでに対策が施されています。その攻撃は通用しません!』

 

 若い女性の声に薄れ行く意識を保ち、思考を巡らす。

 ゲフィオン・ブレイカーで動けない機体。

 頭を強打した事で満足に動けそうに無い自身。

 機体を見捨てて逃げ出しても眼前のナイトメア。

 

 完全に詰んだ状況に苛立ち、無意味と知りながら操縦桿を動かしペダルを踏み締める。

 

 「ここで終わる訳には行かないんだ。あいつに…あいつに復讐するまでは…」

 

 言葉を吐き出しながらなにか手はないかと灯りの消えたコクピット内で思考する。

 すると外から銃声が響き、機体が揺れる。

 着弾したのではなく、なにかに揺らされた、もしくは掴まれた感じが伝わる。

 

 『大丈夫かオズ!?』

 「……ズィーか?」

 『生きてたな。このまま引き摺って撤退する。良いな』

 「あぁ…頼む…」

 

 助けてくれた仲間に感謝しつつ、オルフェウスは意識を手放した…。

 

 

 

 

 

 グリンダ騎士団旗艦グランベリーはアンナバに着陸し、マリーベルは指揮官代行として仕事に追われていた。 

 そんな中、ナイトメア格納庫ではオルドリンがため息混じりに項垂れていた。

 今回の戦闘でグリンダ騎士団の戦闘能力は半減していた。

 

 現在グリンダ騎士団はアシュラ隊を除けば飛行能力を持つレオンのブラッドフォードとマリーカのヴィンセント・エインセル、ソキアとティンクのサザーランド、オルドリンのランスロット・グレイルを所有している。

 飛行能力のある二機が空中より攻撃、もしくは遊撃として動き、サザーランド二機の援護を受けながらランスロット・グレイルを全面に押し出す戦法を主に行なっている。

 

 が、ランスロット・グレイルとブラッドフォードは機能停止状態。ティンクのサザーランドは脚部を撃ちぬかれた。無事なのは救助活動に周ったソキアのサザーランドとヴィンセント・エインセルのみ。

 

 ちなみにアシュラ隊は中央を持ち直させると左翼に周り、右翼に駆けつけて、大破こそしていないものの、機体は満身創痍である。

 

 これからグリンダ騎士団はゲフィオン対策を施すために本国に帰国する。今までの勝利とアンナバ防衛の功で簡易な凱旋パレードが開かれるそうだ。

 

 オルドリンは素直に喜べない。 

 レオンは自分を助け、腕の良いナイトメア三機相手を相手にして時間を稼いだ。

 ティンクは不意をうつのと同時に自分の救援に駆けつけた。

 ソキアは戦闘こそしなかったものの戦場のど真ん中に居たティンクを助け出した。

 マリーカは動けなくなった自分とレオンを護る為に一騎で相手を牽制し続けた。

 それらに対してマリーの騎士である自分は苦戦したどころかもう少しでやられるところだった。

 

 悔しい…。

 悔しさで力を込めて食い縛り、唇から血が垂れる。

 

 携帯電話を懐から取り出し、躊躇いながらも電話をかける。

 本来なら躊躇って止めるだろう。しかしマリーの騎士として止める訳にはいかなかった。

 

 「もしもし…」

 『あー、もしもし。どうしたんだい君からなんて本当に珍しい』

 

 緊張しつつ電話をかけると相手の明るく優しげな声色に多少落ち着かされる。

 相手はオデュッセウス・ウ・ブリタニア第一皇子。マリーと昔から仲良くしており、母親と妹をテロで亡くしてマリーが情緒不安定になったときに教えて貰った連絡先。一応の緊急時用連絡先としてだったが。

 

 「そのですね、殿下にお頼みしたい事がありまして」

 『頼みごと?なんだい?』

 「殿下に……ナイトメアの操縦を教えて頂きたいのです!」

 『うん、良いよ…って、え!?』

 

 昔聞いた事がある。

 オデュッセウス殿下は閃光と呼ばれるほどお強かったマリアンヌ皇妃とナイト・オブ・ワンのビスマルク卿に習ったのだと。そしてマリーからラウンズ並みの腕前を持っていると聞かされた事もある。

 自身と繋がりのある人物で格上だと思われる相手はオデュッセウス殿下しか居ない。勿論、ご多忙の為に断られる可能性が高い。けれど…。

 

 「どうしてもマリーを護る為に強くなりたいんです。お願いします」

 『マリーの為にか―――分かったよ。と言っても私が体験した奴を教えるだけになりそうだけど』

 「ありがとうございます殿下」

 

 電話越しに深々と頭を下げてお礼の言葉を続ける。

 自身でも卑怯だと思う。オデュッセウス殿下は身内や親しい者にとても甘い。だからマリーの名前を出せば断られないと。

 罪悪感は感じるもののそれでも自分は強くならなくちゃいけない。

 

 そう心に決めたオルドリンは帰国するのを心待ちにする。

 ………その訓練にグリンダ騎士団のパイロット全員が巻き込まれ、地獄を見る事になるとは誰も知る由もなかった。


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