コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第76話 「第一皇子学園に現る!そして動き出す伯父上様」

 ロロは――否、ロロ・ランペルージ(・・・・・・)は大きくため息を吐き出した。

 事の発端は勝手にテロリストを支援した罰で饗団にて謹慎を喰らっているクララのせいだ。オデュッセウス殿下の下から饗団への帰還命令をV.V.より受けてもうすぐオデュッセウス殿下の下へと戻れるという時に「クララの代わりにルルーシュの監視としてエリア11に行ってもらうから」なんて言われるとは。

 正直クララには怒りを禁じえない。

 勿論、饗団なんかよりも居心地の良いオデュッセウス殿下の下に戻れなかったことも理由の一つであるが、一番は殿下を巻き込むようなテロに加担したことだ。饗団内ですれ違うたびに何度殺してやろうかとおもった事か…。

 

 二度目の大きなため息を吐き出す。

 過ぎたことは頭の片隅に置いておくとして今は現在進行している任務に集中しよう。

 現在ロロが受けている任務はルルーシュ・ランペルージの弟役として学園内と私生活内での監視。

 教員の中にも機密情報局員が潜んで監視体制は進んでいるがまだカメラ類の監視網が完成していない。機密情報局の地下施設は完成し、後は指揮官役のギアスユーザーと施設に詰める人員が到着すれば、カメラなどの機械を使っての監視もやり易くなる。

 

 監視体制より完成云々よりも現状に慣れる事が大事か…。

 はっきり言ってルルーシュの弟役としての生活に慣れない。

 事細かに気にしてくれたり、世話をやいてくれたりと僕を第一に考えて接してくる。オデュッセウス殿下も優しく接してくれたがルルーシュのはそれ以上だ。家族…知識では理解したつもりだけど体験するのとでは違う。戸惑いと不慣れな関係にただ殺せば良いだけの今までの任務以上に難しいが、この生活を手放したくない気持ちがあるんだよね。

 

 これはナナリーという血の繋がった妹に向けられていた感情とは理解している。それでも僕はこの関係を欲してしまう。憧れ、妬み、羨む。記憶が戻れば決して戻ることのない関係に…。

 

 そして今はミレイ・アッシュフォードを含んだ生徒会メンバーに慣れる為に行動を共にしている。なにせブラックリベリオン前より僕は居たことになっており、他校に移った生徒以外の生徒会メンバーと親交があった設定なのだから不自然さが無いようにしておかなければ。

 

 本日はルルーシュはアッシュフォード学園に居ない。

 なにせ今日はマリーベル・メル・ブリタニア皇女殿下がエリア11の視察を兼ねて、庶民の学校一日体験というものを行うのだから、下手に顔を合わせてルルーシュ・ヴィ・ブリタニアとばれては事だ。

 ミレイ・アッシュフォードは他の生徒同様皇帝陛下に記憶改竄されており、ルルーシュ・ランペルージがルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだという事を分かっていないので援護を期待できない。ゆえに本国よりランペルージ夫妻役の機密情報局員がエリア11に訪れてルルーシュはそれの相手をしている。半分以上無理やりだった気はしないでもないけど…。

 

 「手際よく手配して頂いてありがとうございます。ミレイ・アッシュフォード」

 「皇女殿下も庶民の学び舎に触れた方が良いと思いまして。気分転換にも(・・)なりますよ」

 

 何が気分転換にも(・・)ですか。気分転換にしかならないでしょう。

 皇女殿下の一日体験を【一日体験イベント兼日夕お祭り大作戦】と名をうって学園祭同様の規模の祭りを開催しておいてにもはないでしょうにもは。

 この資金は殿下と共同経営しているプチメデ生産工廠キルケ―ファクトリーの売り上げで出ているんだろうな。それと学園の体験の筈が学園祭を楽しむと趣旨が変わっているような気が…。

 

 広場の真ん中にて会長のミレイとアッシュフォード学園の制服を着ているマリーベル・メル・ブリタニアが挨拶を交わしている。いつも元気いっぱいでどこか悪戯癖のあるお姉さんのミレイが貴族らしい振る舞いを取ることで皆が貴族だったなと再認識した。

 護衛の騎士団のメンバーもアッシュフォード学園制服に着替えている。そして私服姿のカメラマンと数人の護衛……。

 

 「ねぇ…あのカメラマンって…」

 「…だよなぁ」

 

 リヴァルとシャーリーがぼそぼそとカメラマンに視線を向けながら小声で話している。

 えぇ、お二人ともお気づきの通り、ニット帽にセーター、ジーンズ姿のオデュッセウス殿下ですよー。

 

 あぁ、懐かしい。僕もよく同じことがあって手をやかさr……否、胃に痛みを伴いましたっけ。

 今はその役目が第一皇子直属の親衛隊に移った事で胃の痛みが緩和され、ほっとしたような寂しいような…。

 目が合ったと思ったらすかさずカメラのシャッターを押され、一枚…いや、今の連射していなかった!?何枚撮る気ですか!!

 

 呆れた視線を向けていると目をそらさずに軽く笑みを浮かべた?

 何かがある。多分…勘でしかないがよくないことが起きる…そんな気がしてならない。

 

 「さて、色々見て回りますか」

 「そんな時間ありませんよ殿下」

 「…少しぐらい…」

 「ありません」

 「すうh―」

 「無い」

 

 即答で親衛隊隊長レイラに断られたが、表情が全然残念そうでない。

 やはり何かがあるとみて問題ないだろう。

 …何かあるかどうかは置いておいてもあの親衛隊長…すごい殺気というか怒気を放っているんだけど…いや、あれは関わってはいけないな。

 

 「アキト少佐!クレマン少佐!」

 「・・・はぁ、了解です」

 「ごめんねレイラ」

 「え、二人とも何を――」

 「じゃあ宜しくね」

 「殿下!私は護衛の任務が――」

 「ハメル中佐とリョウ、ユキヤが居るから大丈夫だよ」

 「私は?」

 「アヤノはアキトと一緒の方が良いんじゃない?」

 「ユキヤ!リョウは笑うな!」

 

 アキトとクレマンに両脇を挟まれて連れていかれるレイラ。揶揄うリョウとユキヤに抗議の視線を向けながらレイラの後ろを固めたアヤノ。

 多分だがアヤノとレイラ以外は最初っからグルだったのだろう。

 

 あの人も大変そうだなぁ…。

 

 「殿下はあいも変わらずですね」

 「普通自分の護衛の足止めってしないでしょうに」

 「たまには一人で出歩きたいときもあるのさ」

 「いや、おっさんはほとんどじゃねぇか」

 

 皇族に対してラフに接するリヴァルにシャーリー、リョウの三人をグリンダ騎士団の面々はどこか納得しながら見守る。これをほかの皇族にしたら確実に不敬罪に当たるんだよな。などと他人事のように眺めているとマリーベル皇女殿下と仲良く露店を周り始めた。

 元々自由な皇族であるマリーベルとオデュッセウスのお付きとあってグリンダ騎士団も親衛隊もこの様子にほとんど動じていない。

 

 訂正、警備隊のハメル中佐だけはそんな余裕は無く、殿下をお守りしようと必死に辺りを警戒している。見ているだけで胃にしくしくと痛みが走って来ましたよ。

 

 「オデュッセウス殿下。あまり無茶をなされない方が宜しいですよ」

 「うん?」

 「後ろの警備の方の負担が凄いです」

 「警備…あー、ハメル中佐。ここは大丈夫だよ。そこまで肩ひじ張らなくとも」

 「しかし私たちは殿下を守る義務があるんです」

 「そんな険しい顔していたらイケメンが台無しだよ」

 「私の表情など良いのです。エリア11は黒の騎士団残党の活動も確認されている危険な部類のエリアですよ。警戒しない方が…」

 「あぁ、それは大丈夫。手は打っておいたから(・・・・・・・・・・)。あ!たこ焼き。食べようかマリー」

 

 ニュアンス的に何をしたかは聞かない方が良い案件ですね。

 両手が食べ物で埋まりつつある殿下の後をついて進んでいく。殿下が先頭を歩いているという事は何処か目的地があるという事なのだろうけど…。

 

 「ここだよここ、さぁ、入ってみようか」

 

 校舎へと入り目的の教室まで談笑しながら進んだオデュッセウスは扉を開けて皆を先に入れる。

 この時、どうして僕は入ってしまったんだろうと後悔した。

 

 入って中を見渡すと簡易的な更衣室に数々の衣装…。

 当時殿下と文化祭を周ったアリス達の話が脳裏を過る…。

 

 ギアス発動と同時に振り返り扉へ向かおうと動く。――が、扉の前にはオデュッセウス殿下が笑みを浮かべて死守していた。確実に読まれていた。諦めたくないがよくよく考えてここで急に消えるというのは不自然…諦めるしかないと判断して元の位置に戻りギアスを解除した…。

 

 「お兄様。ここは?」

 「以前文化祭でもあったんだ。いつも着れないような衣装を着たり出来るんだ」

 「では以前にお兄様も着替えられたのですか」

 「いや、写真を撮って逃げました」

 「…そこだけ聞くと盗撮か何かに聞こえるのは僕だけでしょうか」

 「レオン、深く突っ込んだら駄目だと思うぞ」

 

 「ちなみに以前では女性は自由で男性は女装させられて――」

 

 「オズ!レオンを確保にゃー」

 「ちょ!?ソキアにオズ、待って!」

 「待った無しだにゃー」

 「ティンク助けて!」

 「すまない無理だ。諦めてくれ」

 「私はこれを着ようかしら。オズはどうするの?」

 「え?…えーとこれかな」

 「こっちの方が良いんじゃない?」

 

 騒がしくなった様子を眺めるように見ていたオデュッセウスは壁際にもたれる。

 親衛隊の方も方で騒がしくなってきた。 

 どうやらユキヤの女装は難なく決定したらしいが今度はリョウとユキヤがハメルにも女装を迫っているようだ。

 

 「慣れたかい?」

 

 ぼそっと掛けられた言葉に小さく頷く。

 どうしてこの人はこう気にかけてくれるのか。

 

 「殿下の方はどうなのです」

 「いやぁ、レイラをまくのは難しくて未だに慣れないね」

 「そっちではなく…というかまだ一人で外出をなさっているんですか」

 「まぁ、ね。ロロもだけどトトも大変そうだねぇ」

 「どうしてもあの人(V.V.)の命令を受けねばなりませんから」

 「そろそろ二人とも自由にすれば良いと思うんだけどさ」

 「あそこ(饗団)からは逃れられませんよ」

 「さぁて、それはどうかな?」

 

 ニカっと笑った殿下は頭を撫でてくる。

 これだ――こういう事を素でしてくるから僕は前の自分に戻れない。今の関係を守りたくなるんだ。殿下に出会う前ならそんなことは無かったのに。

 多分トトも同じ気持ちを味わっているのだろう。彼女の役目はオルドリン・ジヴォンの監視だけど着替えを手伝っている様子などを見ていると役目など関係なく接している。

 あぁ――まったく僕たちはこれからどうなるのかと不安になる日も来るが、今はこの一瞬のひと時を楽しもう。

 

 

 

 そう想ったロロだったがミレイ達が衣装を選び始め、オデュッセウスがナイト・オブ・シックスの衣装を手に取って迫って来たことで前言撤回。逃げようと試みたがリヴァルにがっちり捕まり着替えさせられることになったとさ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中華連邦。

 幼い扱いやすい天子を君主に置いて、大宦官が支配する広大な国。

 ユーロピアがユーロ・ブリタニアにより崩壊寸前まで追い込まれた現在ではブリタニアと対抗できる唯一の大国である。が、ナイトメア技術は進歩を見せず、民は貧しい想いをし、金持ちだけが私腹を肥やしていく。汚職や談合などで固められたこの国は情報統制と軍事力にて国を保っていた。

 

 人はいるが管理は行き届いておらず、人員の不足は手抜きに繋がり、広大な土地の管理は手に余り切っていた。

 

 ゆえにギアス饗団はここに本部の地下施設を築いたのだ。

 そして饗団の施設は本部以外にもいくつか点在する。それは中華連邦のみならず他の国にもだが。

 

 アルジェリアにもアルジェリア正規軍が放棄した施設を再利用して饗団の実験施設にしている。

 饗団本部のV.V.はそのアルジェリアへの映像回線を開いた。

 

 『これはこれは。お久しぶりでございます』

 「元気そうだねマッド大佐」

 『元大佐でございます』

 

 映ったのはゴーグルを付けたスキンヘッドの男性。

 ギアスユーザーをコード所有者との契約で作るのではなく細胞などを用いて人工的に作った人物で、アリス達特殊名誉外人部隊の指揮官。

 特殊名誉外人部隊のメンバーを全員オデュッセウスに引き抜かれてからは饗団に戻り、ここで実験を続けていたのだ。

 

 「さて、進行具合を聞こうか」

 『はい。現在までの実験を237回ほど行いましたが二例を除き悉くが失敗。183名が死亡し残りは昏睡状態であります』

 「ふーん、失敗した原因については」

 『戦闘向きで特殊名誉外人部隊の実験体を超える者を作ろうとしたことが原因かと』

 「やっぱり強すぎる力を作るのは人工的では難しいか…。かといって契約だとどんな能力になるか分からないし」

 『そちらでも洗脳と暗示をかけて契約してみるのはどうでしょう?』

 

 うーむと唸って見せたが別に良いかと考えを放置した。

 それよりもやるべき事があるのだから。

 

 「もうそこでの実験は良いから次の地点に移って」

 『はぁ?ここを放棄するのですか?未だ戦闘は続いており実験場には適しておりますが』

 「確かに材料調達に性能テストに持って来いの場所だけどちょっと良くない感じがするんだよ」

 『と、申されますと?』

 「ブリタニア正規軍の情報ではそこに反ブリタニアを掲げた部隊が相当数集まっているらしい。これだけなら良いんだけどその中にオルフェウスが混じっててさ。そこを標的にし兼ねない」

 『そうですか…では、データは全部消去するとして残っている実験体と被験体は如何しましょう』

 「全部処分で。あ、頼んだ実験体と成功例は持って行ってね」

 『畏まりました。それでどちらに』

 「龍門石窟。場所は追って伝えるよ」

 『分かりました。数日内に準備を完了させますので』

 「うん、頼んだよ」

 

 龍門石窟――巨大な仏像が幾つも彫られ、壁際に並べられた遺跡。

 ここもギアスの紋章が刻まれた遺跡であり、打倒大宦官を掲げる紅巾党の根城になっている。

 根城だと言っても付近であり、石窟自体はこちらで管理している。資金提供など支援を行い使い捨ての駒として置いてあるに過ぎない。

 

 近々オデュッセウスやシュナイゼル、マリーベルが訪れるらしく少し準備を進めている。

 まぁ、その三人がというよりはマリーベルのオルドリン・ジヴォン。

 同時期の中華連邦のパーティーに参加を表明したオイアグロ・ジヴォン。

 ギアス饗団を嗅ぎまわり、どうやら中華連邦辺りを調べているらしいオルフェウス・ジヴォン。

 あのジヴォン家の人間が集まるのだ。

 きっかけがあればすぐにでも事は起きる。

 特に今回は大宦官とブリタニアの会談が予定されている事から紅巾党という火種も動かざるを得ない。

 

 さぞ派手なパーティーになる事だろう。

 あの()の調整も進んでいるし、アレ(・・)の改修も進んでいる。

 

 「フフ、楽しみだなぁ…」

 

 V.V.は通信を切り、一人微笑む。

 遠く海を越えたエリア11にてオデュッセウスは何か悪寒を感じたのであった…。


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