コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

78 / 150
第77話 「魔法使いとオルフェウスと紛い物」

 アフリカ大陸アルジェリア。

 神聖ブリタニア帝国が本格的なアフリカ大陸侵攻を開始して、アルジェリアも戦火に包まれた。

 勿論自分たちの国土へと侵攻してきたブリタニアを黙って見ていた訳ではない。必死の抵抗は行ったが、ブリタニアとの機体性能差と経験、戦力差は覆せなかった。

 

 アルジェリア軍が使っていたのはアフリカ大陸でもっともポピュラーな兵器。

 砂漠などの地面を走破出来るホバー走行可能な三脚でその巨体を支え、開けた土地多いこの大陸に合った長距離砲撃戦を得意とする陸戦艇【バミデス】。

 ナイトメアフレームの大きな特徴は機動性や小回り以上に遮蔽物や高所にスラッシュハーケンを打ち込むことで可能になる立体軌道戦が行えることだろう。

 

 開けた時に主要都市でなければ高所の建物も無い地ではナイトメアフレームの利点は死に、バミデスのような長距離砲撃を主とする機体こそが有効だと………当時の軍関係者は判断したのだ。

 実際は遮蔽物の少ない開けた土地でのナイトメアは立体軌道無しの機動能力だけで圧倒したのだ。バミデスはナイトメアに比べて大きく、荒れた地も走破出来ても速度はそれほど早くない。唯一の優位性を誇っていた砲撃能力は機動能力を駆使したナイトメアに突破され、近接能力を持たないバミデスは懐に迫られた時点で敗北を決したのである。

 

 だからと言って敗北を認める訳もなかった。

 反ブリタニア勢力【サハラの牙】はアルジェリア奪還作戦の為に全戦力を以っての大規模攻勢を行おうとしていた。しかもそれはサハラの牙だけの話ではない。

 サザーランドやナイトポリスなどのブリタニア製ナイトメアフレームを所有し、帝都にて皇族を狙ったテロを起こした【タレイランの翼の残党】。

 そして反ブリタニアを掲げるテロ組織【ピースマーク】より派遣された部隊。

 

 人種も機体種類もバラバラな反ブリタニア連合軍は元アルジェリア中規模軍基地に進行している。

 ここは場所的にも基地的にも重要性は皆無。だというのに一個中隊規模のナイトメア部隊が駐留している。前々からサハラの牙は怪しいから注意していると最近動きが活発で、本国から増援部隊を呼び寄せた事を知り、こうして彼らとしては組みたくもないブリタニア人と手を組んでまで攻勢に出ようとしているのだ。

 

 本国から逃げ出すしかなかったタレイランの翼の残党は未だ目的を諦めておらず、潜伏して機会を狙っていた。そこに本国より皇族と関わりを持つ特殊部隊【プルートーン】がアルジェリアに向かったと本国に潜伏中の数少ない同志より情報を得た。皇族がいるとは思っていないが何かがあるのは確実。

 

 サハラの牙とタレイランの翼…仲良くとはいかないが連携を取るにしても不仲すぎる両者を繋ぐ仲介者が必要。そこでサハラの牙とは同じ反ブリタニア勢力、他の反ブリタニア勢力とは根っこが違うが利用できそうという事で潜伏先を提供したピースマークが仲介役として動いたのだ。

 その派遣部隊の中にはオルフェウスの部隊もあった。

 

 ガナバティが運転する大型トレーラーには白炎にサザーランド二機、グラスゴーの四機、そして最新鋭の機体が収納されていた。

 ピースマークを支援している人物の一人、ウィザード専用のナイトメア【アグラヴェイン】。

 アグラヴェインは【コードギアスR2】にてブリタニア軍の量産機となったガレスの試作機で、フロートシステムを積み込んでいる事で単独での飛行が可能でハドロン砲などと高火力の機体である。

 ハドロン砲、3連ミサイルポッド、4連ミサイルポッド、4連スラッシュハーケンと主な武装のほとんどがガレスと変わらないが、ガレスと違ってハドロン砲発射機構が可変にて取り外しが可能な為、手が存在するので接近戦を行えるようにメーザー・バイブレーション・ソードを装備。試作機という事でブレイズルミナスも搭載している。

 仮面を付けたような頭部と肥大化させたマント付きの肩パーツ以外はガレスそのものだ。

 

 「で、なんでこんな作戦を受けたんだオズ?」

 

 ため息交じりに呟いたのは長年オルフェウスの相方を務めているズィー・ディエン。本来ならさっさと中華連邦入りして多少なりとも作戦決行までの休暇を楽しめたというのにと不満タラタラである。

 オルフェウスとしても分からないでないが、最初は自身も巻き込まれた側であるので文句は自分でなく、端っこでむくれている奴に言って欲しい。

 癖のある髪で後ろは背の中腹まで伸ばし、前は顔の左半分を隠した美女。黙っていれば落ち着きのある大人びた魅力的な女性だ。黙っていればというのが見た目と異なって子供っぽいのだ。ミス・エックスという偽名を名乗り、年齢も出身地も不明にしているのだが年齢はオルフェウスより年下らしいのだ。

 

 「俺に言うな。ミス・エックスに聞け」

 「えー…すごく不機嫌そうなんですけど」

 「お前もそう見えるがな」

 「機嫌が悪くともそれを表現してしまっては周りに迷惑ですよ」

 「ネリスもギルもこの前オフ日があったから良かっただろうけどな!俺はその日仕事してたんだぞ。ようやく…ようやくゆっくり休めると思ったのに……くそぅ」

 

 今にも泣きだしそうな視線をネリスとギル――という偽名を名乗っているコーネリアとギルフォードは小さく笑っていた。

 名前が挙がったミス・エックスは頬を膨らませたままゆっくりと近づきポカポカと背中を叩き出した。

 

 「痛――いほどではないがやめて欲しいんだが」

 「むぅ~、何で私があの連中の仲裁役をやらなきゃいけないのよ」

 「仕事だ。諦めろ」

 「納得できないぃ。人種や目的ですぐもめるし、仲裁に入ったら入ったで女はどうたらとか言って怒りをこっちに向けるしぃ…」

 「だから俺を巻き込んだんだろ」

 「うー…」

 

 まだ納得できていないミス・エックスの抗議の視線を向けてくるがオルフェウスは知らぬ顔で通す。

 するとガナバティと行先の話をしていたウィザードが運転席より戻って来た。

 

 小さな帽子に被り物と思われる白の長髪、目元を覆う仮面に手袋など口元以外を覆い、自身の情報を出来る限り隠している。そんな人物でも信用はしている。これまで何度か一緒に戦場を駆けた事もあるが、オルフェウスにとって貴重な情報を持ってきてくれる人物として。

 なにせ今回この任務にあたる事を知って、自身に相手がギアス饗団の関係施設であることやプルートーンの部隊が本国より向かった事を調べて来てくれたのだ。

 

 …その本人はオルフェウスに対する罪悪感で一杯なのだが…。

 

 ウィザードの正体はオイアグロ・ジヴォン。

 ジヴォン家当主であるオリヴィア・ジヴォンの弟でオルドリン・ジヴォンとオルフェウス・ジヴォンの叔父。ナイトメア開発事業にも手を出してガウェインをベースとしたガレスやギャラハットの開発に力を込め、プルートーンの隊長をこなしながらこの作品ではナイト・オブ・ラウンズの一席を担っている人物。

 以前V.V.に命じられてプルートーンを用いて饗団より脱走したオルフェウスとエウリアを追い、エウリアを殺した後悔をずっと抱いている。その後悔からかオイアグロはオルフェウスを護れるのならなんだってする。オルフェウスの目的の為ならばプルートーンの仲間が死のうと関係なく裏切れる。無論、護るためでも目標を達成させるためでも自身の命も惜しくはない。

 

 そんな仇が目の前にいるとも知らずにオルフェウスは普通と変わらぬ態度を見せる。

 

 「そろそろだな」

 「あぁ、今回の任務は危険だ。それでもやるのか」

 「やらない理由が見当たらない」

 「そう――か。そうだな」

 

 不安は大きい。

 ギアス饗団の関係施設で防衛部隊を所有しているところは少ない。本部でさえ防衛能力は無い。無い理由は研究機関でナイトメアの必要性がないというのもあるが、それ以上にナイトメアの関連部品などの輸送で秘密にしていた基地を知られないようにしているというのが一番だが。

 その中で今回向かう基地はそれなりの防衛線力があり、さらに増援要請をしたという事はかなりの重要施設。しかも元々いたという事は戦闘方面に特化したギアスユーザーが居る可能性だってある。

 

 下手すれば全滅だってあり得る。

 公表されていない最新鋭機を携えて援軍としてやってきても不安の方が大きい。それでもオルフェウスだけは護らなければならない。

 …覚悟を決めなければならないか…。

 

 『全部隊に通達。目標より多数のナイトメア部隊の出撃を確認。予定通りに行動を開始せよ!』

 「聞こえたなオズ」

 「勿論だ。行くぞ!」

 

 無線の声でスイッチを切り替えたオルフェウス達は自身のナイトメアに飛び乗り素早く起動させる。不備がないかシステムや装備をチェックして後部へと移動する。後部ハッチが開かれランドスピナーを展開して一機ずつ飛び出してゆく。着地と同時に隊列を形成後、周りの部隊と連携を取れるように配置に付く。

 戦闘能力を持たないガナバティのトレーラーがミス・エックスを乗せたまま戦闘区域より離脱して行く。

 退避したのを確認したオルフェウスは戦況を確認すべく最前線へと目を向ける。

 

 基地より出撃したナイトメア部隊は後方部隊のバミデスの長距離砲撃を掻い潜りつつ突っ込んでくる。直撃や損傷して動けなくなった機体もあったが中々の腕利きなのか、それとも射撃の精度が悪いのかは分からないが結構な数が弾幕を突破してきている。そしてタレイランの残党が務めている前衛部隊とぶつかり合う。オルフェウス達が居る後方部隊と前衛部隊の中間に位置する部隊は敵の手を見極める為にも戦力の消費を避けつつ、援護射撃を行っている。オルフェウスの部隊ではズィーの役目だ。ズィーのグラスゴーは狙撃使用にカスタマイズされており、こういう援護で精度が必要とされる局面では重宝する。

 

 中距離の援護射撃を受けた前衛部隊との交戦で突撃を行って来た部隊の大半がすでに返り討ちにあっていた。さすがに腕の立つ者でも多勢に無勢。物量と弾数に任せた物量戦をひっくり返せれずに押し潰されてゆく。

 戦況が有利に運んでいる事に疑問を抱きつつ、オルフェウスは戦況から目を離さなかった。

 そしてプルートーンの黒と紫色で塗装されたナイトメア以外の機体に着目した。通常機と変わらないペイントに何処かの部隊章が描かれていた。

 

 「ウィザード。あの通常機の紋章分かるか?」

 『ふむ…あの部隊章は確かアルガトロ混成騎士団のものだな』

 「以前アンナバで見た覚えがあるんだが」

 『その通りだ。私の記憶違いでなければアンナバの防衛を担っていた筈だ。しかしアンナバでの戦闘後部隊は解散させられたと聞いていたのだが何故ここに』

 「実験体?」

 『にしては弱すぎる…されど何かはあるのだろうな』

 

 警戒しつつ全体に合わせて前進する。突撃してきた部隊は排除でき、前衛部隊で損傷が激しい機体や補給が必要な機体は後方部隊と合流して補給用・修理用のトレーラーに合流する。

 撃破した機体を通り過ぎ基地へと近づいて行くが基地には対空への防衛設備はあれど対地用の兵器は置いておらず未だに攻撃はなかった。

 

 

 

 ただ二機のナイトメアが出てきた以外には…。

 

 

 

 一騎はランスロットの量産計画で生産されたヴィンセントタイプのカスタム機。もう一騎はナイトメア開発に関わって多くの知識を持っているオイアグロでさえ知らない機体であった。通常のナイトメアと変わらぬ人型であるが類似する機体が存在せず、外装は機械というよりも人間の肉体に似せたような筋肉質に見えるもので覆われている。

 知らないのは当然である。

 なにせこの機体はGX01シリーズと呼ばれるマッド大佐が率いたギアスユーザー部隊【特殊名誉外人部隊】のみに支給された、ギアス饗団でしか扱えない第七世代ナイトメアフレーム。そもそもがギアスユーザーの能力を使用することが基本として考えれらており、ギアス伝導回路が組み込まれ、一人一人の能力に合うようにオーダーメイドで仕上げられた一品だ。プルートーンの隊長と言えども知らなくて当然なのだ。

 

 『たった二機で俺たちとやり合う気か?』

 『一気に蹴散らすぞ!』

 「待て!そいつに近づくんじゃない!!」

 

 無線越しにあの二機に突っ込む会話をした部隊に対して制止をかけるが聞く耳持たず、前衛部隊をあっさりと排除した勢いからかそのまま突っ込んでいった。

 突っ込んで行ったのはサザーランド五機。相手は二機で数では有利だがオルフェウスの予想が正しければ相手は…。

 

 

 オルフェウスの予想は悪い形で当たってしまった。

 アフリカのこの地で突如霜が降りたのだ。

 徐々に下がったり、気象的なものではない。一瞬にてヴィンセントタイプの周りのみ霜が降りた。しかも突撃していったサザーランドを凍り付かせるほどの冷気…。異常気象などではなく考えられるのはギアスユーザーの能力。

 

 『降伏せよ。などと甘いことは言わない。貴様たちはここで死ね』

 

 オープンチャンネルで冷たく放たれた言葉と非現実的な光景を目にした全員が足を止めた。

 ヴィンセントタイプは動かずGX01が前に飛び出した。何かわからないが目には見えない何かが通り過ぎた感じがした。横を通り過ぎたというよりGX01を中心に水面に波紋を響かせたように。周囲に広がった………そんな気がした。

 

 眼前の二機に警戒を向けていると後方で爆発音が響き渡る。

 振り返るとプルートーンとアルガトロ混成騎士団のナイトメア隊が後方で補給や修理を受けていたナイトメア隊やバミデスに襲い掛かっていた。正面の二機に意識を集中させていたがこれほど敵機が接近するのに気付かない筈がない。というかまるで突如そこに現れたかのようだ。

 振り返りながら七式超電磁砲を展開させプルートーン機を撃ち抜いた。直撃したサザーランドは上半身を吹き飛ばしてその場に転がった。

 

 普通ならそれで終わりなのだが、上半身を失ったサザーランドは立ち上がったのだ。

 上半身に繋がる部位より伸びる筈のないケーブルが意思を持った生き物のように動き、飛び散ったパーツと繋がって自機を修復し何事もなかったように攻撃を再開する。

 オルフェウスやコーネリアなどのギアスを知っている面子はすぐさま何らかのギアス能力と判断したが有効な対処法が一つしか思いつかない。それもかなりの難度で。

 

 『おいおいおい!いつからこの世界はゾンビ映画になったんだよ!ナイトメアフレームのリビングデッドとかマジで勘弁してくれよ』

 「ズィー、口より手を動かせ!」

 『分かってるけど撃った矢先に治ってやがるんですけど!?』

 『確かにこれでは…』

 『姫様!前でも同じナイトメアが!!』

 

 ヴィンセントタイプに突っ込んで行った五機も立ち上がり、こちらも向いて攻撃態勢を取っていた。

 ただヴィンセントタイプは基地に引き返し、滑走路上に止まっている輸送機に合流しようとしている。オルフェウス的にはあの輸送機を取り押さえたいところだがそんな余裕はないし、味方の現状を打破するほうが先決だ。

 

 『オズ!』

 「分かっている。ネリス、ここは任せる。俺は元凶を叩いて来る」

 『早めに頼む。ではギル、手伝ってくれ』

 『俺はどうすれば良い?』

 「ズィーはネリスの援護を」

 『ならば私とオズで行くか』

 「頼むウィザード」

 

 敵は間違いなくギアス能力者。

 両者とも自身を中心とした範囲型で一人は凍結、一人は死した者に不滅を与えて指揮下に置くもの。お互いが範囲型であっても決して邪魔することのない能力。凍結のギアスユーザーが前に出て、もう一機が後方でアンデットと化したナイトメア隊で援護すれば何の躊躇いもなく力が振るえる。もし巻き込まれても敵は不滅のナイトメア。何度でも蘇るだろう。そして倒した機体は同じく不滅を与えられ味方になる。

 なんと相性の良い組み合わせだろう。だからこそ攻略は困難を見せたというのに凍結のギアスユーザーは後退して輸送機の護衛に回った。いや、輸送機に乗り込み脱出の準備に入った。おかげで攻略する道筋が生まれたのだが難敵であることは違いない。

 

 後方部隊は壊滅状態で前衛を含めた残りの部隊は混乱を極めて足が止まっている者たちも居る。彼らをまとめ上げて一軍として立て直せれるのはネリス――コーネリアしかいない。しかし元々指揮権を手にする立場に居なかったコーネリアが指揮権を手に入れる、もしくはまとめ上げるまで多少なりとも時間が掛かる。それだけの時間を支える為にはギルフォードの力が必要だ。ズィーの腕も役に立つだろう。

 兎も角復活した機体達をコーネリア達が足止めしてくれるなら何とか元凶であるギアスユーザーを仕留めるだけで済む。その事を理解しているコーネリアは詳しい打ち合わせもなく各部隊に通信を繋げて後方の敵に対して動くように言っている。

 

 オルフェウスの白炎の上空をウィザードのアグラヴェインがカバーしてGX01に突き進む。

 

 『ほぅ…儂に挑むか』

 『今の声は………まさか…な』

 

 オープンチャンネルで向けられた言葉を耳にしたウィザードが何処か引っ掛かったようだがオルフェウスは気にせずに七式超電磁砲を再度展開させて狙いをつける。が、付近で復活させた五機を前に出して射線を塞ぐ。さすがにいきなり大将をやらせてくれないかと狙いを切り替え前に出たナイトメアを撃ち抜く。すぐに治るが少しでも時間を稼げるように何発も直撃させる。

 

 『ここは私に任せて先に!』

 「了解した」

 

 オルフェウスが上半身を吹き飛ばした機体も含んだ三機程をハドロン砲で吹き飛ばし、腕をハドロン砲から手に変え、メーザーバイブレーションソードを握り締めて残り二機に斬りかかる。アサルトライフル、両腕、頭部、胴体の順に瞬間的に切り裂いていった。見事な剣捌きで解体された機体はすぐさま修復しようとケーブルを伸ばすが、それをさせまいと何度も斬りつけられる。さすがにハドロン砲の直撃を受けた機体はドロドロに溶け、粉々に吹き飛んでいる為に修復が遅い。しかし一分もせぬ間に修復するだろう。

 ハドロン砲はエネルギー消費量が激しい。ゆえに接近戦に切り替えて時間を稼ぐつもりで斬り込んだ。ウィザードの腕前なら五対一になっても数十分は持ち堪えれるだろうが素早く済ませないとコーネリアの方が危ない。

 アサルトライフルを構えたGX01の弾幕を回避して、懐に飛び込もうと速度を上げていく。その回避からアサルトライフルの効果は薄いと判断したのか躊躇なく投げ捨て、背に取り付けていた大型ランスを手に取った。

 弐式特斬刀を展開させ、振り下ろして来た大型ランスと斬り結ぶ。

 ランスに刃が食い込んだところで捻って折りに掛かって来た。大型ランスを振るう際には両手を使うが白炎の弐式特斬刀は肥大化している右腕部の七式統合兵装より展開されている。つまり左腕はフリーなのだ。その左手でランスを抑えて、逆に引き寄せるように捻って肘打ちを喰らわせる。衝撃でよろめいた隙に刃を引き抜いて胴体に斬りつける。

 

 『浅いな』

 「だったらこれでどうだ」

 『ぬぅ!?』

 

 七式統合兵装には重装甲ですら貫通させれる威力を誇る伍式穿芯角というドリルもある。振りぬいた先で弐式特斬刀から伍式穿芯角に切り替えて、浅いと言われた切り口よりコクピットに届くように突き刺した。これでパイロットは死亡しただろう。

 

 普通の人間ならばこれで戦いは終了していただろう。普通の人間ならば…。

 

 『中々の腕だ』

 「くっ!こいつも不死か!!」

 『だがまだまだ甘い』

 

 修復を始めた上半身より突き刺した伍式穿芯角を抜き、鋏状の参式荒咬鋏を展開して上半身と下半身を切り離す。切られた衝撃で上半身がずり落ちそうになるが今までの機体の倍以上の速度で修復して大型ランスを振るって来た。身を屈めて避けて今度は高熱の刃である四式熱斬刀を展開して斬り合う。

 実力はオルフェウスが上だがそれを覆すほどの修復能力に押され始める。

 何度も斬りつけ、回避し、コクピットを貫く。その度に機体は元通りに戻っては疲労が重なっていくオルフェウスを嘲笑うかのように立ち続ける。

 凍結の能力者が輸送機と合流したのは眼前の奴を捨てても逃げ出すのではなく、眼前の一機で自分たちを殺しきれる確信があったからだと認識した。

 苦虫を潰したような表情で振るい続ける。

 背後で必死に時間を稼いでいる仲間を救うためにも。これ以上誰かを失わない為にも。諦めることなく殺し続ける。

 

 「これで23回目…こいつは本当に不死身か!!」

 『そろそろ限界が見えて来たな。貴様は儂の良い駒となるだろうな』

 「嘗めるな!まだ終わっていない!!」

 『結果は見えていると言うのに…ぐぅううううう!?』

 

 突然上がった呻き声と同時に動きが鈍った。

 無駄かも知れないが諦めずに振るった一撃が右腕ごとランスを斬り落とした。

 切り口よりケーブルが伸びて腕は元に戻る………事はなかった。

 

 伸びようとしたケーブルは切り口より出て来たが動きが遅く、斬り飛ばした腕まで伸びていない。

 修復されない様子を目にして脳裏に奴の修復能力には限界があるのではという予想が浮かび上がった。

 

 希望が見えた。

 その希望に追い縋るように疲労感溢れる身体に鞭打って操縦桿を握り締めて斬り付ける。

 殴り掛かって来た左腕を切り飛ばし、動きを止める為に左膝を刺し貫く。立って居られなくなったGX01は右膝をついて倒れないように体勢を維持する。抵抗することの出来ないが念には念を入れて、視界を奪うために頭部を斬り飛ばす。その勢いでコクピットの上板まで切り取った。コクピット内部が露出して騎乗者の姿が露わになる。

 

 搭乗者を目にしたオルフェウスは止めを刺そうとした一撃を止めた。

 動揺したとか人を殺すことに躊躇したとかではない。もう止めを刺す間でもないと判断したからだ。

 

 搭乗者は肩までふわりとしたブラウンの髪を伸ばし、鋭い紫の瞳の男性。見た目は三十代前後といったところだったが、三十代には見えない程の威厳を纏っていた。とても整った面立ちであったらしいが顔の半分は幾つもの腫れが膨れ上がって無残なものとなっていた。着ているブリタニア指定のパイロットスーツの上からでも腫れが確認できたので、顔よりも身体の方が酷いことになっているのであろう予想は容易であった。

 

 『紛い物のギアスユーザーではここが限界か…』

 「…これは…一体」

 

 乾いたように笑う男性に何処かで見たような既視感に襲われるがそれらを払い除ける。

 基地方向から輸送機が離陸したのが目に入ったがもう間に合わない。だから情報を多少でも得る為に刃を向けたまま言葉を続ける。

 

 「お前たちはここで何をしていた。答えなければ――」

 『ふははは、その脅しは無意味だと分かっているだろう。もう私の命は尽きるのだからな』

 「…やはりそうなのか」

 『だが、儂を殺しきった貴様の腕に免じて多少であれば答えてやろう』

 「ならまずお前たちは何なんだ?先ほどの紛い物というのはどういう意味だ?ただのギアスユーザーではないというのは理解したが…」

 『ギアスを知っている…貴様、饗団から逃げたオルフェウス・ジヴォンか。ならば話は早いか』

 

 こほこほと咳き込んでしっかりと見据えて口を開いた。

 彼が言うには自分たちは契約ではなくコード所有者の遺伝子を用いた実験でギアス能力者を作り出す実験体の一つだという。以前は多少なりともギアス適正のあるナンバーズで実験を行ったのだが、彼はギアス適正の高い人物の遺伝子で作り出されたクローンにコード所有者の遺伝子を用いてギアスユーザーにする実験で成功した数少ない成功体。

 ギアス饗団の実験で生み出された使い捨ての生命体だというのだ。

 これを耳にしたオルフェウスはギアス饗団に対する憎しみが強みを増した。

 

 『言っておくがもう一人の能力や饗団本部は教えないぞ。さて…最後に忠告だオルフェウス・ジヴォン。絶対に中華連邦に行くな。行けばお前は…いや、お前たちは死ぬ』

 「お前たち?仲間の事か」

 『クハハハ…そうではないが一緒に向かうのであればそやつらも含まれるであろうな…』

 「どういう意味だ!お前は何を知っている」

 『…さてな………そろそろ時間だ…儂はもう…逝く…』

 「オイ!!―――ッ!?」

 

 ゆっくりと瞼を下ろした男はぐったりとシートに持たれた。すると急激に腫れが肥大化して彼の身体が弾け飛んだ。おかしなことに血や臓物、肉片が飛び散ることは無く、辺りには硬そうな欠片が撒き散らされた。同時に不穏な音が響き渡りオルフェウスの直感が危険を知らせ、思わず後ろに飛び退いた。

 搭乗者の死を感知するようになっていたのか機体が爆発したのだ。しかも吹き飛ばすほどの爆発ではなく、内部の機構を燃やし尽くすような爆発だ。機体情報どころかこのまま放置しておけば後も残さないだろう。

 

 どこか虚しさを感じながら振り向き生き残った者を見渡す。

 元居た四分の一に満たないナイトメアの数に肩を落とす。その中で自分の仲間は全機健在なのはオルフェウスの唯一の安堵だっただろう。

 

 『無事なようだな』

 「あぁ…俺は無事だ」

 

 ぽつりと呟いたオルフェウスは短く息を吐き出して操縦桿を握り締める。

 もう覚悟は決めている。例え自分が死ぬとしてもこの復讐を止める気はない。ただ進むだけだ。

 

 後日、オルフェウスはピースマークより依頼を受けて中華連邦に向かう。

 向かう輸送船の中には同じく決意を持ったコーネリアとギルフォード、危険な事を説いたにも関わらず余計に一人で行かせられるかよと告げたズィーの姿もあった。

 彼らは向かう。V.V.が待ち構える中華連邦の地へと…。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。