コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~ 作:チェリオ
瞼を閉じて横たわるオデュッセウスから目が離せない。
幼い頃からマリーベルと関わりを持っていたオルドリンは必然的にオデュッセウスとも多くの関わりを持つこととなった。
何時如何なる時も優しく、温厚で微笑みを絶やさない。
家柄や地位に関係なく人と接し、自分にもよくして下さった事を昨日の事のように覚えている。
涙が止まらない。
視界がぼやける。
「まさかトトなんかを庇う為に出てくるなんてね…彼は―――ルのお気に入りだから殺したくなかったんだけど。仕方ないか…ここに居る全員を始末して紅巾党が手をかけた事にでもしようか。
後は任せたよマッド大佐」
「ハッ、畏まりました」
先ほどオルフェウスと母様に撃たれて死んだ筈の少年の声が聞こえる。
けどどうでも良い…。
母親と妹を失ったマリーベルの為に騎士になると宣言した。
マリーを護り、大事な者を護る騎士に。
あの頃のマリーの状態は酷いものだった。
私か殿下が近くに居なければ自我を保てない程に…。
そのせいなのか私や殿下に依存していて、寝る前には私の寝室に潜り込んでくる。
もしマリーがこの事を知ったらどうなるのだろうか?
目に見えている。あの頃よりも酷くなるだろう。私も必死に支えようとはするけれども、多分マリーは…。
「立ちなさいオルドリン!」
「…私は……」
気力が出ない。
母様が急かしているのも焦っているのも分かっている。
でも、足に手に力がまったく入らないのだ。
多分、オルフェウス…兄さんもトトもそうなのだろう。
両膝をついて呆然としている。
階段の上にあった遺跡が崩れ、蜘蛛を模したようなナイトギガフォートレスが姿を現す。
オデュッセウスがロイドに試案だけと頼んで、勝手に制作していた陸戦用ナイトギガフォートレス【プロトアラクネ】。
少し離れたところに立って居るマッドはニヤリと笑みを零しながらオデュッセウスを見下ろす。
彼にとってオデュッセウスは敬うべき皇族でありながら恨みの対象。
オデュッセウスがアリス達をV.V.に頼み込んで欲しなければ、堂々と戦場と言う戦場を渡りながら実験が行えたというのに、
その憂さが少しでも晴れて彼は喜ばしい限りだ。
歪んだ笑みで元々悪人面の顔がさらに邪悪になるがオルドリンの視線はオデュッセウスに向けられたままだ。
眠っているかのような殿下の顔を覗き込む。
ぽたぽたと涙が零れ落ちる。
本当に寝ているだけで今にも動きそうな―――――………ムクリ。
「……………あれ?」
「――ッ!?で、殿下!?」
突如、上半身を起こしてぱちくりと瞬きをしているオデュッセウス殿下に悲鳴に近い音質で声を出してしまった。
この光景に私だけでなく兄さんに母様、叔父様にトトが目を見開いていた。
「え?あれ?私は撃たれて…どうして生きてるの?」
「良かった!本当に良かったです!」
「あぁ、本当に良かっ―――ぁああああああああああああ!?」
撃たれた左胸を撫でて自身の無事を確かめていたオデュッセウスが叫び声を挙げた事で、安堵しかけた皆が一斉に身構える。
「カリーヌからのプレゼントがああああ!!」
服の下から出て来たのは弾丸が突き刺さっているロケットであった。
第71話「オデュ+皇族=周囲の人間の疲労度」の話でカリーヌがオデュッセウスにプレゼントすると言って購入したカリーヌと二人で写っている写真が収められているロケット。渡されてから肌身離さずつけていたことが幸いしてオデュッセウスの命を救ったのだ。
「なんにしても殿下がご無事でよかったです」
「本当にね。まだ死ぬわけにはいかないし―――――ってプロトアラクネ!?」
振り返ると巨大な足が振り上げられ、殿下ごと踏み潰そうと勢いをつけて振り下ろされる。
その一撃を白炎が受け止める。
『何時までそうしているつもりだ!!』
「…お兄ちゃん」
「助かったよオルフェウス君」
今、ナイトメアに乗り込んでいないのはオデュッセウスにトト、オルドリンの三人のみ。
オルフェウスを始めとした三人はロケットを取り出して安堵した辺りで乗り込もうと動いていた。
『その機体…その声……覚えている。覚えているぞ野良犬――― 一本角ォオオオオオオ!!』
「まさか…ボッシ伯!?」
プロトアラクネより発せられた声にオルドリンは思い出す。
アルジェリア侵攻軍アンナバ進駐軍主力、第二皇子隷下アルガトロ混成騎士団、騎士団長アルベルト・ボッシ辺境伯。
一度皇位を剥奪されたマリーを軽んじていた人物。
しかし、ボッシ伯はアンナバでG-1ベースごと爆破されて戦死した筈。
『ブリタニア医学とサイバネティクスにより蘇ってきてやったのだ!!』
『厄介な…』
『大人しく殺されロォオオオオオ』
パワー差と重量によって白炎が徐々にだが押されてゆく。
足の下から駆け抜け各々のナイトメアに飛び乗り、モニターにプロトアラクネを捕えた頃には先に乗り込んでいたオイアグロとオリヴィアが突っ込んでいた。
まずはオリヴィアのヴィンセントが圧し潰さんとする足の関節部分を切り裂き、オイアグロのアグラヴェインがタックルを喰らわせてプロトアラクネのバランスを崩す。足に掛かる力が抜けた事で離れた白炎を確認したネリス達の集中砲火がプロトアラクネを襲う。
『あにu――無事でなにより』
『コー…ネリスかい。ありがとう、おっと、全機に言っておくよ。あの機体の後ろには攻撃厳禁だから』
『何故です?』
『あれだけの攻撃システムを使用するには大量のサクラダイトが必要なんだ。つまり後ろの部位のほとんどはサクラダイトの容器となっている。下手に攻撃して引火して爆発させるとここ一帯が吹き飛ぶよ』
『つまりどうすれば?』
『近接戦に自信がある少数精鋭でその他の部位を潰すしかないよ』
『オズ!』
『なんだ?』
「なに?」
『あ、すまないけどオズと呼ばれるのが二人いるんでフルで呼んだ方が良いよ』
『そうなのか!?じゃあ、オルフェウス。奴さんが来たぞ…紅巾党の鋼髏だ』
『どうやらこちらを敵として認定しているらしいですね』
地上では鋼髏の群れに、地下の遺跡内にはプロトアラクネ。
挟まれた状態でプロトアラクネだけを相手にするのは不可能だ。
なら、部隊を二つに分けなくては…。
『オルドリン、トトちゃん借りるよ。上の相手には私も行こう』
「殿下!?」
『危ないですとかは無しだよ。どのみち挟まれて危険な状態なんだから。それに私は接近戦より狙撃――射撃戦の方が得意だ。アラクネ相手にするより鋼髏を相手にするよ』
『なら俺達でアレを相手にするか』
白炎の眼前ではバランスを崩した状態で集中砲火を浴びて倒れ込んだアラクネが再び起き上がろうとしていた。
対峙して構えるのはオリヴィアにオイアグロ、オルフェウスにオルドリンのジヴォン家の人間。
近接戦能力の高さも機体性能もここにいる誰よりも高く、挑むならこの四人しかいない。
『えぇい!何をやっておるか!!早くあの者共を始末せんか!!』
『ウガアアアアア!!殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス―――皆殺シダァアアアア!!』
『こんな時に暴走だと!?クソッ…未調整の失敗作が――――待て!止めろおお!?』
奇声を発したボッシ伯は蜘蛛でいう腹部に搭載された十六連装小型ミサイルポッドを使用しようと上部発射管を開いた。こんな地下空間でそれを使えば明白。
『しっかりつかまってトト』
『は、はい!』
『総員ここより離れろ!!』
アレクサンダの上にトトのグロースターが捕まり壁をよじ登り、アグラヴェインが白炎を、ランスロット・グレイルがヴィンセントを持ち上げ飛翔する。
放たれた十六発ものミサイルが遺跡の壁や天井に直撃して、遺跡の崩壊を招いた。
上昇する中で降り注ぐ岩盤によりマッド大佐が潰される様子がモニターに映し出される。
『逃ガサナイ…』
巨体を八本の足で持ち上げ、壁を登り地表へと姿を現したアラクネは禍々しい光を放っていた。
その光はアグラヴェインのハドロン砲収縮時の光にとてもよく似ていた…。
気付いたオイアグロは白炎を地面に着地できるように放り投げて回避行動に入った。
頭胸部前方の発射口より放たれたのは通常の威力のハドロン砲ではなく、グレイルとゼットランドが使用したメガハドロンランチャー・フルブラスト相当のものであった。
「オデュッセウス殿下。あの機体をご存知のようですね」
『まぁ…私がロイドに言っていた物だからね。制作してくれとは言ってはいなかったけど』
「大まかな性能と武装をお聞きしたいのですが」
『プロトアラクネ――拠点制圧重武装型アフラマズダの試作機だ。
見ての通り蜘蛛の形状をした追加武装とアフラマズダをくっ付けたナイトメア。いや、装備に大きさからナイトギガフォートレス。
武装は腹部に十六連装小型ミサイルポッド、頭胸部前方の三連装大型ガトリング砲、高出力超電磁砲を二門、各足関節部に機銃などだが当てにはならないだろう。私の元に有った時にはハドロン砲なんて装備していなかった』
「弱点は無いのですか?」
『腹部のサクラダイトを引火させるかパイロットを狙うのが一番なんだろうけど』
『早々に近づけさせてくれそうにないな』
『兎も角そちらは任せるよ。私は鋼髏の相手をする』
『お嬢様お気を付けください』
「殿下もトトもお気をつけて。それとトト、後で話があるから」
オルドリンはそう言うとアラクネに向かって突撃する。
合わせるようにヴィンセントと白炎が左右を固め、上空よりアグラヴェインが援護する。
各関節部に取り付けられた機銃と高出力超電磁砲二門が対空迎撃と言わんばかりにアグラヴェインに狙いを付けて撃ちまくる。オルドリン達には正面からは三連装大型ガトリング砲、頭上からは十六連装の小型ミサイルが降り注ぐ。
それぞれラウンズ級の腕前を持つ彼・彼女らにただ撃つだけの弾幕では足止めにしかならない。
これが単なる
頭胸部前方に設けられたメガハドロンランチャー発射口よりハドロン砲を拡散させて放って来た。さすがにこれは最小限の回避では避けきれずに大幅に隊列を崩す。
回避しながら白炎は七式超電磁砲を展開して放つも装甲により弾き飛ばされる。
『七式超電磁砲を弾いた!?』
「もしかしてあの機体…グレイルと同じシュレッダー鋼で出来ているの!?」
『オルドリン!オルフェウス!足を止めずに懐に飛び込め!!』
強固な装甲に驚いているとオリヴィアのヴィンセントが弾幕を掻い潜って肉薄する。
狙うは頭胸部に取り付けられているナイトメアのアフラマズダのコクピット。
躊躇いもなくメーザーバイブレーションソードを構えて突き進む。
眼前まで迫った所で頭胸部メガハドロンランチャー発射口左右についている触肢が赤く輝き、近づいたヴィンセントに振り被った。顔色を変えることなく受け止めたヴィンセントは圧し負けて後退させられる。さらにそこにガトリングの嵐が向けられて一旦距離を離すほかなくなった。
「母様!大丈夫!?」
『えぇ、大丈夫よ。それにしてもあの機体の反応速度は異常ね』
『オルドリン、ボッシ伯はラウンズ並みの腕があるのか?』
「そんな話は聞いてないけど…現に対応しきったって事はそうだったのかな」
『複数の火器管制システムを使いこなしながら近接戦闘も行える人間など居るのか?』
ギアス饗団へと引き渡されたプロトアラクネは豊富な資金と最新鋭の技術で強化されている。
追加武装にメガハドロンランチャー発射口に触肢型メーザーバイブレーションソード。防御面ではシュレッダー鋼と電磁装甲を組み合わせている。
さらにこの機体は神経信号を直接機体に伝達して意志で動かせる【神経電位接続システム】で人間では不可能とされる操作を可能とし、GX01シリーズに使用されているサクラダイト合成繊維が形成する【ギアス伝導回路】と合成樹脂と電動シェルの芯をサクラダイト繊維で覆った【マッスルフレーミング】まで搭載されている。
…ギアス伝導回路はギアス能力を自身だけでなく機体にまで発揮することが出来る回路。
つまりはボッシ伯は医療とサイバネティックスだけでなく、人工的なギアスユーザーにする為でも身体を弄り回されたのだ。おかげで発現したギアスは
『装甲は堅固で攻撃力はちょっとした基地クラス。拠点制圧重武装型とオデュッセウス殿下は仰っていたが正直なところ――』
『移動要塞と言った方がしっくりくるな』
『追従するナイトメアが居ない事が慰めか』
三人が話す中、オルドリンはしっかりと相手を見据える。
焦らず、得た情報を精査し、味方の技量と武装を評価し、頭の中でパズルのように組み立てていく。
「母様、叔父様、お兄ちゃん、私に良い考えがあるの」
オルドリンの一言に話し合っていた三人が口を閉じて聞き入る。
正直なところ絶対の自信は無い。
ラウンズの母様のほうが良い作戦を立案するかも知れない。兵器関連に詳しい伯父上が機体の弱点を見つけるかも知れない。幾つもの不正規戦闘を潜り抜けて来た兄さんのほうが上手く倒せるかも知れない。
でも、全部かもしれないの希望で現在何も手がない状況では自分が引っ張るしかない。
あのボッシ伯を放置するのは大変危険というのがビシビシ伝わってくる。距離はあるが朱禁城付近には大きな街が広がっている。もしもアラクネがそちらに向かえば被害は言うまでもない。
マリーの騎士としても、一人の人間としても一般人を巻き込みかねない脅威を放置できるわけはない。
「手伝ってくれる?」
『お兄ちゃんか…。なんだか擽ったい響きだな。だけどオデュッセウスが弟や妹の頼みが断れない感覚が少しわかった気がする』
『私は勿論手を貸そう。姪からの頼みでもあるしね』
「母様は…」
『――良いでしょう。貴方がどれだけ成長したか見せて貰いましょう』
皆の返事を聞いて大きく息を吐き出す。
そして肺にまで届くように大きく息を吸い、また吐き出す。
何度か繰り返して気持ちを落ち着かせ、短く吐き出すと同時に相手を静かに睨みつける。
覚悟は決まった。なら今出来うる最善を尽くすのみ。
「母様と私でお兄ちゃんを護りながら突っ込みます。叔父様は兄さんの後ろで低空飛行を」
指示を出すと同時にブレイズルミナスを展開しながら突っ込む。経験の差だろうかレオンやティンク、ソキアやマリーカに比べて指示してからのラグが格段に少ない。指示を出した時には理解して行動しているという感じだ。
やり易さを感じながら、まだまだ自分たちの練度不足を思い知ってしまう。
『ガトリングガンだけに気を付ければ良いのね』
「はい。下手に散らばるよりは直撃覚悟で守る感じでお願いします。兄さんはさっきの超電磁砲を用意しておいてください」
『分かった。だが奴の装甲は硬すぎて傷をつけるのが精いっぱいだ』
「大丈夫です。装甲が硬かろうとゲームのように無敵装甲ではないですから」
正面のガトリングガンと左右前脚一本ずつに取り付けられた機銃が迎撃を始める。
脚に仕掛けられた機銃は角度や位置によっては他の脚が邪魔になって撃てない死角が複数存在する。正面から突っ込めば前の一本ずつ、右なら右側のみ、左なら左側のみ、後ろなら後ろの一本ずつと言った感じで。
その事からオルドリンは脚に取り付けられている機銃は対空迎撃用と判断したのだがそれは大当たりであった。
『オノレェエエ猪口才ナ!喰ラエ!!』
「叔父様迎撃を!!」
『そういう事か。全部撃ち落とす!!』
頭上から降り注がんとしたミサイル群はアグラヴェインより放たれたハドロン砲により、発言通りに全部撃ち落とされた。
最初は飛行能力のある自分とアグラヴェインで空中から仕掛けて注意を引くという手も考えていたが、四機まとまって機銃の死角を突いて接近した方が良い。ここに居る四機の技量ならまとまっていても敵の弾丸に当たる確率の方が低い。その上、アグラヴェインを今のようにミサイル迎撃の為に余力を持たせられた。
ブレイズルミナスに何発か直撃するが気にせずに直進する。
もう少し…出来れば敵の近接戦闘領域にまで肉薄したい。
メガハドロンランチャーの射線が重なった所で発射口が開かれる。
「お兄ちゃん!発射口を」
『確かにそこならば!!』
七式超電磁砲の弾丸が発射口を放たれ、数発が直撃する。
貫通して内部を粉砕する事が出来れば最良だったが、結果は発射口を変形させる程度だった。シュレッダー鋼ほどではないとしても元々が装甲厚めにしてあったのが貫通を防いだのだ。
だが、発射口が歪んだだけでも撃つことは出来なくなる。その事にボッシ伯は苛立ちを隠せず奇声を発する。
そしてその隙にオルドリンは肉薄する。
「ゲフィオンディスターバーを!!」
『何となくだがそうだと思っていた!』
「母様退避を!」
『私は近接武器を抑える。止めは貴方が刺しなさい!』
グレイルを抜いて白炎が突っ込んで行く。
勿論近接武器での迎撃が行われるがヴィンセントのメーザーバイブレーションが受け止める。さらには意図を感じ取ったオイアグロは一直線に重なったプロトアラクネの右脚を両手のハドロン砲で貫く。狙われていなかったことでチャージを狙われることは無く、近づいたことで威力の減衰も少なく脚を三本程貫くことが出来た。
手が触れれるほどに迫った白炎の角が三つに分かれて、ゲフィオンディスターバーが発動し、プロトアラクネと使用した白炎が機能を停止させた。
そこを一気に駆け抜け、アフラマズダの胴体下部を狙って剣を構える。
ボッシ伯には聞きたいことがある。
機体がゲフィオンディスターバーで動かないのだが、念には念を入れてアフラマズダとプロトアラクネを切り離す。
『マダダ、マダ終ワラヌヨ!』
「――ッえ!?」
振り抜こうとした矢先にアフラマズダが飛び出して、抱き着くようにタックルを仕掛けて来た。
思いもよらぬ一撃を受けてそのまま縺れ合って地面に激突する。
『邪魔ヲスルナ!!私ガ用ガアルノハアノ一本角ダケダ!!』
「余計に邪魔するわよ!!」
地面に激突した衝撃で離れたアフラマズダだが背に差してあったメーザーバイブレーションを施された鉈を振り上げ近接戦を挑んでくる。
アフラマズダにゲフィオンディスターバー対策を施されていた事に苛立ち舌打ちをしながら剣を振るう。
神経電位接続システムを使用しているボッシ伯の反応速度はオルドリン以上で、重量もパワーもグレイルよりアフラマズダの方が高い。追い縋るように、喰らい付くように必死に相手の動きを見ながら受け流し、反撃の隙を狙う。
ボッシ伯は暴走気味であるが思考を放棄するほどでは無かった。周りに動けるヴィンセントとアグラヴェインがいる事は理解しており、グレイルから付かず離れずの距離で斬り合っている。
援護しようにもし難い立ち位置で動けないオイアグロとオルフェウスは焦るが、オリヴィアだけは微動だにせず見守る。
剣と鉈が幾度となくぶつかり合うがオルドリンが見事にタイミングを合わせて、力を受け流しているので剣にダメージがそれほど蓄積されていない。もし力で対抗しようものなら重量の差もあって一発でへし折られているところだ。
大振りの一撃。
グレイルの渾身の一撃が振るわれるが、ボッシ伯はそれを見てほくそ笑んでいた。
なにせ反応速度が速い伯なら多少出遅れた所で対応しきれるのだから。
迫る剣の軌道に合わせて鉈を振るう。
この一撃で剣はへし折れてグレイルの胴体へと鉈が食い込む。
そこまでを思い描いたボッシ伯の考えは、コクピットを大きく揺らした衝撃と共に打ち砕かれた。
鉈とぶつかり合う瞬間に剣が手放されて宙を舞ったのだ。そして振り抜けた右腕はブレイズルミナスを展開してアフラマズダの左腕を斬り飛ばしたのだ。
『――ッ!?ヨクモヤッテクレタナ!!』
グレイル同様振り抜いた右手首を返して振るうが避ける動作は一つもない。寧ろ左腕を曲げて受け止める体勢を整えていた。
気付いた時には時すでに遅し。左腕部を斬り進んだ鉈は腕を捻る事で刃でなく腹の部分が捻られて持ち手との中間でへし折れたのだ。
反応する間もなくグレイルの頭突き。
左手から落ちた剣を右手で拾い、胴体下部に突き立てる。
最後に頭部モニターを潰そうと拳がめり込んだ。
衝撃に耐えれずにアフラマズダは後ろに転がりながら立ち上がった。
左腕は失い、腹部に剣が突き刺さり、メインカメラの半分が潰されたこの現状では勝ち目は少ない。
だが眼前に立って居るグレイルも剣を失い、頭部を殴りつけた時に右手の指がへし折れて使い物にならないなど、損傷は大きい。
『私ハマダ……負ケナイ。中東デノ汚名ヲ晴ラスマデハ―――死ネナイノダアアアアア!!』
並々ならぬ気迫と命を削って発しているかのような声にオルドリンはたじろぎ、後ろへと下がってしまった。
潰れた頭部が再生している事に気付いてさらに一歩下がった。
斬り飛ばした左腕の切り口からは失ったはずの腕が
これは夢か幻か。
絶対に説明のつく現象ではない。
『一本角ォオオ……』
ゆらりと足を引き摺るように動いたアフラマズダに恐怖しながらオルドリンは操縦桿を握り締める。
が、それ以上アフラマズダが―――ボッシ伯が歩むことは無かった。
グレイルを跳び越えたヴィンセントの剣が頭部と胴体の隙間よりアフラマズダのコクピット付近を貫いたのだ。剣を引き抜くと同時に飛び退いた事を確認して、アグラヴェインのハドロン砲がアフラマズダを完全に粉砕した。
すぐ隣に着地したヴィンセントと向き合う。
『戦場では気を抜けばやられるぞ』
「ご、ごめんなさい…」
『作戦のほうは上々だ。最後のが無ければ合格点だったな』
『手厳しいな。もう少し褒めてやってはどうです?』
『――――良くやった』
「――ッ!?はい」
母様に褒められて頬が緩んでしまう。
機体はボロボロでグリンダ騎士団筆頭騎士としては情けない恰好ではあるが、今は嬉しさが勝っている。
『それにしてもジヴォン家の剣術ではなくて肉弾戦を仕掛けるなんて』
「あはは…殿下の特訓ではどんな手でも使わないといけなくて―――って殿下の応援に向かわなくちゃ!でもお兄ちゃんは――」
『オルフェウスなら私が付いている。だからオルドリンと姉さんは殿下の下へ。あの方は何を仕出かすか分からないからな』
「えぇ、本当に。よく身に染みているわ」
クスリと笑みを零してオルドリンはオデュッセウス達の下へと急ぐのであった。