コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

88 / 150
 すみません一日遅れの投稿です。
 活動報告に書いたように遅れて申し訳ありませんでした。


第87話 「キャンパスパニック」

 アッシュフォード学園。

 ブラックリベリオン時には黒の騎士団に拠点の一つとして占拠された。

 大半の生徒は本国へと帰還し、他校へと転校して行った。

 今や一年前のアッシュフォードを知るのは生徒会役員に属していた極一部の生徒のみである。

 帰って行った生徒の人数分だけ他の学校より生徒が押し掛け、今や一年前と変わらない賑わいを見せていた。

 

 学園を再開するにあたって生徒を求めると、テロリストに占拠されたという割にはすぐに定員オーバーした。

 理由は簡単。

 一般的には噂程度だが神聖ブリタニア帝国第一皇子が姿を現す地として知られているのだ。一目見る事が叶うならと押し寄せた者も多い。学園長のアッシュフォードとは昔からの付き合いでプチメデの製造工場を共同経営している事から噂だからと馬鹿に出来ない。寧ろ、可能性が増すばかり。

 他にも武器の携帯も許可されなかったナンバーズの兵士から皇女殿下の騎士、皇帝最強の十二騎士と成り上がった枢木 スザクが在籍していたという事でその験を担ごうと来た者もいる。

 

 そして今、ナイト・オブ・ラウンズ第七席の座を持つ枢木 スザクが学園に再び通う事でラウンズ入りと歓迎、ミレイ会長のイベント好きが重なったちょっとした催し物が開かれたのだ。

 部活の出し物やいろんな出店などが並んでまるで学園祭のよう。

 と、言っても前回のリベンジで超大型のピザ作りとか普通の学園や学校ではありえないものも複数あるが。

 バンジージャンプやナイトメアの頭部を使用した出し物とか。

 

 なんにしても祭りは始まった。

 新入生や転入生は勿論、記憶を改竄されたミレイ会長達も覚えていない前回の学園祭。

 開幕の合図はナナリーの猫の鳴き真似で始まった。

 今回は主役であるスザクが行ったのはスザクがアーサーを連れて来たからか、それとも心のどこかで覚えていたのか…。

 

 懐かしい思い出を蘇らせられ、ナナリーに対する思いが強くなったルルーシュは始まって早々問題が発生していた。

 彼自身の問題は黒の騎士団に関わる物が山積みであるが、目の前の問題はそれとは異なっていた。

 

 「貴方は何をしているんですか!?」

 「ん~?何ってお祭りを楽しんでるんだよ」

 「右に同じく」

 「同じくではない!追われている事を自覚しろ」

 「まったくいきなり飛び出して慌てたわよ」

 

 眼前にはアッシュフォード学園の学生服を着たC.C.とマオが学園内を闊歩していたのだ。

 この光景を目にした瞬間、ルルーシュは思考能力が一時的に硬直し、現実逃避しようとしたほどの衝撃を受けた。

 確かに学園内の機密情報局員はギアスにより完全な管理下に置いているが、機密情報局の指揮を任されたスザクは何の対策も出来ない。ギアスは式根島にて【生きろ】とギアスで命じたので一人に一度しか使えないルルーシュのギアスは効かないし、ロロのギアスなどを用いた実力行使は皇帝に感づかれて手を打たれる可能性が高い。

 つまり見つかれば一発でゲームオーバーなのだ。

 

 「で、カレンはなんでそんな恰好なんだ?」

 「仕方ないでしょ!私は貴方達と違って指名手配されてるんだから」

 

 C.C.を目撃して大慌てで校舎裏へと引っ張っていると出くわした緑色のラッコをモチーフにした【タバタッチ】という着ぐるみ。ロロが警戒してナイフに手を伸ばしていると、中からカレンの声がして敵ではない事に安堵しつつ、何をしているんだと脱力感に襲われた。

 

 「はぁ…とりあえずC.C.を頼むぞカレン。マオは――好きにしてくれ」

 「あはは、だいぶお疲れだね」

 「誰のせいだと思っている」

 

 頭痛に襲われる頭を押さえながら歩き出す。

 多少ふらついたルルーシュをロロが支え、二人は元々向かおうとしていたコート近くにある食糧庫へと向かう。

 

 「本当に頼むぞカレン」 

 「ちょっと本当に大丈夫?」

 「……あぁ、兄上の周りもこんな気苦労が多かっただろうな」

 「え、なに?」

 「ただの独り言だよ」

 

 始まって早々精神的に疲れたルルーシュはこれからの仕事量を考えてドッと疲れを増したような感覚に襲われる。

 今回の学園祭は人手が足りない。ニーナとナナリーは置いておいたとしてもカレンはクラスの手伝いなどに周ってくれた。細かい作業は無理でも行動力はあるシャーリーは水泳部がメイド喫茶もとい水着喫茶なるものをやっており、そちらのほうで手一杯。リヴァルはピザ関係を担当して、ミレイ会長は何処に行ったのやら…。スザクはピザの生地作りまでは自由だが、主役であることから多くの生徒に顔見せした方が良いと会長の判断で色々周るので手伝いは難しい。

 結果、ルルーシュとロロに仕事が多く回って来る。

 

 まずは食材庫へ向かいジャガイモの皮むきを頼まれているからそれを済まさないと。

 現状の黒の騎士団の事を考えるとこんなことをしている場合ではないというのに。

 捕まっていた藤堂達を助け出したことでパイロットの質やほとんどの部署の再構築は終えたが、中華連邦に逃げ延びたメンバーとの合流する手立てが今は難しいので情報部のディートハルトや開発部のラクシャータなどが合流出来ないでいる。現状所持しているナイトメアでは数や性能的に戦力低下は否めなく、特に輻射波動機構を応急処置しか施していない紅蓮弐式は性能の低下が厳しく、スザクのランスロットと戦えば勝利は難しいだろう。

 エリア11のブリタニア軍の被害はバベルタワーと救出作戦でかなり出せたがカラレスが本国に送還された事で新総督着任までの指揮系統はコーネリア直属のダールトン将軍が執る事になって指揮能力は向上、特別親衛隊の役割を担っていたグラストンナイツは健在。さらにスザクが来て戦力格差が開く一方。予想では数日中に兵士の補充も送られてくるだろうから今の黒の騎士団では対処しきれない。

 せめてラクシャータとは合流したいものだが。

 

 「兄さん大丈夫?」

 「何とかな」

 「あの人たち本当に何を考えて――」

 「過ぎた事を考え出したらキリがない。逆にあれ以上の厄介事は起きる事は無いと思えば…」

 「あ!すみません、巨大ピザってどこでやるか知りません?」

 

 心配そうに声を掛けてきたロロに返事をしていたら、声を掛けられ振り向く。

 生徒だけでなく一般の入場も許可しているので、学生や教員以外の姿がちらほらしている。だから目的地が分からない一般人が場所を聞いてきたんだなと気軽な心構えで振り返った。

 

 青の白をペースにコーディネイトしたラフな服装を着こなしているナイト・オブ・スリーのジノ・ヴァインベルグに、赤系をベースに服装の色を揃え、ラウンズの正装よりも露出が少なく落ち着き感があるアーニャ・アールストレイム。

 

 眼前のブリタニア最強騎士二人に内心絶望が襲ってくる。

 

 「あれ?もしもーし」

 「に、兄さん?」

 「………ハッ!?」

 「大丈夫か?」

 

 一瞬、意識が跳んだルルーシュは意識を取り戻しこちらに視線を向けている二人に視線を合わせる。

 スザクが来ただけでも厄介なのに何故ラウンズが二人も居るんだ!?それにこの二人……確かオデュッセウス兄上と関りがあったような…。

 

 「な、何故ラウンズがここに…」

 「お!いつもの正装じゃないけどやっぱりバレちゃうか。いやね、このエリアに来たらスザクが通う学園でお祭りがあるって聞いて、庶民のお祭りを見てみようと思ってさ。本当なら殿下も来る予定だったんだけど。って、殿下ってオデュッセウス第一皇子なんだけど、色々忙しい上に抜け出す隙が無くて本国に居るんだよねぇ」

 「あ、そうですか」

 

 やはり兄上の知り合いだったか。いや、ラウンズは皇族と何かしら接点を持ち易いから持っていてもおかしくないが、兄上と友人関係を築いているラウンズはスザクを入れて四人、そして師匠的な感じでビスマルクとも接点を築いているからな…。

 予想が嫌な方向で当たるものだからルルーシュの精神面にさらに追加ダメージが加わる。今にも表情から笑顔が消え去りそうなところを頑張って営業スマイルに近しい笑みを続ける。

 

 「でだ、そんな殿下にどんな感じか伝える為に色々と写真を送っててな。巨大ピザも送ろうって話になって、今場所を探してるんだ」

 「で、殿下と仲が宜しいようで」

 「仲がいいって言っても殿下は誰とでも――」

 「……誰とでもじゃない」

 「うん?あぁ、そうだった。ブラッドリー卿とは仲良くなかったな。まぁ、なんにせよ俺達は仲良くしてもらっているのは確かだな」

 

 にこやかに笑うジノに愛想笑いで対応しているのに気付いたロロは持っていたパンフレットを取り出して巨大ピザ作りの会場を探す。すると地図と分かったアーニャが横に並び携帯で映し、一言お礼を述べられた。

 ジノはそんな様子に気付く素振りもなく、ルルーシュにスザクに絡むように馴れ馴れしく接していた。そこを一枚パシャリと撮り、一人先に進もうとする。さすがにそれには気付いてジノはルルーシュより離れて大きく手を振る。

 

 「なんか邪魔して悪かったな。おいおい、置いて行くなって」

 

 嵐のように騒がして立ち去っていく様子を後ろから見送り、大きく息を吐く。

 もはや能面のような笑みを浮かべるルルーシュを気遣いロロが一人ジャガイモの皮むきをすると言い出し、ルルーシュは休もうと校舎屋上に向かう。

 学園内を見渡せる屋上に上がればとある生徒が壁に削って線を引いていた。

 ギアスの持続時間を確かめる為に毎日そこに印を入れるようにギアスをかけたが、卒業してもここに書きに来るのだろうか?

 そんな疑問を浮かべながらただただ下を眺めていると携帯が鳴り響き電話に出る。

 電話をかけて来たのは卜部でピースマークを支援しているウィザードより連絡があったとの事。

 内容は今週中に新総督がエリア11に赴任する事であった。

 重アヴァロン級と呼ばれる航空艦を中心に護衛を務める航空艦三隻を引き連れての航空艦隊での移動。航空戦力はフロート付きのナイトメアでなく戦闘ヘリのみ。

 陸戦兵器メインの黒の騎士団の兵器事情から考えて空戦してまで襲う価値はこの段階では小さい。が、これの続きを聞いてルルーシュは興味を持った。

 なんでも反ブリタニア勢力の容疑がかけられている人物とその人物のナイトメアがついでに輸送されているらしい。それとオデュッセウスの部下である姫騎士の部隊へ空戦可能に改修されたナイトメアも積み込まれているとの事。前者はついででも引き入れれる可能性があるなら引き入れ、後者は喉から手が出るほど欲しい。ガウェインを失った現状空戦を行えるナイトメアは手持ちにはいない。地上で配備されるよりは空中で襲ったほうが幾分マシか…。

 

 連絡を聞き終え、通話を切ってポケットに仕舞い屋台を周る学生や一般客を眺める。

 涼しげな風が流れ、何の気なしにその風に当たっては行動も思考もせずに無意味な時間を過ごす。

 こんな時間を過ごすなど普段ではありえないが今はとても心地よく感じ、精神を安定していられる。

 

 背後で扉が開く音がして視線だけを向けると何処か暗い雰囲気を纏っているスザクがそこに居た。

 俺を売ってラウンズ入りした友人…。

 思う事は多々あるものの、記憶を失ったままの状態を演じなければならないルルーシュは、優し気な笑みを浮かべて振り向く。

 

 「どうしたスザク。主役がこんなところで油を売っていて良いのか?」

 「いろんなところに顔出しは済んだから少し休憩さ。それよりもルルーシュだってこんなところで油を売っていて良いのかい」

 

 にこやかな笑みを浮かべての会話だがお互い探り、騙しの話し合い。スザクはそういう腹芸は性分的に苦手なのだろう。表情や雰囲気を見れば手に取るように分かってしまう。

 

 「何かあったのか」 

 「え?」

 「あからさまに暗い表情しておいてえ?はないだろう」

 「…ルルーシュ、君は………いや、何でもない」

 

 出掛かった言葉を飲み込み、隣に並んで手摺に持たれる。

 同じように風を受けながら意を決してこちらを見つめるスザク。それにルルーシュは微笑みを浮かべて見つめ返す。

 

 「実は君に伝えたいことがあってね」

 「伝えたいこと?」

 「新総督が着任する話は…」

 「公のニュースはされてないがカラレス総督が本国に戻ったんだ。そう遠くはない内に来るとは思っているけど」

 「その新総督が君に―――――ッ!?すまないルルーシュ。話はまたあとで」

 「おい、どうした!?………まったく本当にどうしたと―――ホワァアア!?」

 

 懐から何かを取り出そうとしたスザクは目線をルルーシュから前に戻した瞬間、何かを見つけたのか大慌てで扉へと戻って行った。何だったんだと思いながら自然をその視線と同じ方向を見つめて理解した。

 巨大ピザの会場へ向かって行くC.C.の姿がそこにあった。

 

 「クソッ!!なんでこうあいつは!!」

 

 見つかった時点でかなり不味いがそれでも確保される事だけは阻止しなければならない。スザクの速力に追い付かないのは分かり切っている。それでも全速力で階段を駆け下り走り続ける。走りながら策を考えるがどれも妙案と呼べるほどのものがない。

 思考を切り替え、カレンにロロ、マオへと連絡を取ろうとするがロロは食糧庫で間に合わないし、マオは電話に出ない。唯一の希望は捜索中のカレンだったが、ピザ会場から離れていた為にスザクより早く付けるとは思えない。

 息を切らし、肺に負荷が掛かり、足は重く感じるがそれでも動かし先へと進み続ける。

 校舎から出てピザの会場へと向かい人ごみを掻き分けて行く。

 

 巨大ピザの会場近くで見つけてしまった…。

 スザクが不機嫌そうな表情で手を引いて行く姿を………。

 

 

 不満そうな表情を浮かべるマオを、だが。

 

 「仕事をサボって何をしているんだか」

 「えぇ~、折角の祭りだから少しぐらい良いじゃないか」

 「駄目だ。まったく…」

 

 スザクとマオを見送り安堵から大きく息を吐き出したルルーシュはC.C.を見つけ、腕をつかんだ。

 その表情は何かあったかと言わんばかりの表情でルルーシュのストレスを加算させる。

 

 「自分の立場を考えろ。スザクに見つかる可能性もあるんだぞ」

 「しかし、アレを回収せねば」

 

 本当なら怒鳴り散らしたいところを我慢してC.C.に聞こえる程度の小声で言ったのだが、どうしても巨大ピザを優先しようとしているC.C.に対してルルーシュのストレスは限界突破した。

 

 人間ストレスが溜まると色々な表情を引き起こす。

 注意力が低下したり、怒りやすくなったり心理状態の異常や肩こりや腹痛、嘔吐などの身体に及ぶ影響などなど人によって大きく変わる。

 

 今日一日…いや、前から抱えているストレスも合わせて限界突破したルルーシュの身体は、ストレスを心より出そうという選択を取った。

 つまり泣き出したのだ。

 

 俯いて涙を袖で拭く姿にC.C.は驚き、さすがにこれはと後悔し合流したカレンと一緒にルルーシュを人目の付かない所まで誘導し、最後にはロロにこっ酷く叱られたとさ。

 その時、ロロがやけに説教慣れしている事に気付いたが別段気にすることなくルルーシュは涙を流し続けていた。

 

 ちなみに巨大ピザ作りだが、マオを機密情報局に戻しに行ったスザクは間に合わないのでミレイ会長に話してジノに代役を頼み、会長念願の巨大ピザのリベンジは何とか果たせたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本国のとある一室。

 エリア11に新総督として着任する日が近づいているナナリー・ヴィ・ブリタニアの前にはオデュッセウス・ウ・ブリタニアが難しそうな表情で目線を合わせるように膝を付いて対面していた。

 

 「ナナリー。エリア11は本当に危険なところだ。本当に行くのかい?」

 「はい、オデュッセウスお兄様」

 「そうだよね。君の決心は揺らぐことは無い。でも本当に気を付けるんだよ。私は心配で心配で……」

 「もう、心配し過ぎですよ」

 

 心の底から心配そうな表情で訴えかけるオデュッセウスを見る事は出来なくても声色から感情を読み取り、心配し過ぎな兄に困ったような笑みを浮かべる。

 それは近くで待機しているアリスやレイラも同じであった。

 アキトはいつも通り無表情であるが、オデュッセウスとは初見のアリシア・ローマイヤは困惑していた。

 弟妹との仲が良く、一部からブラコン&シスコンと囁かれている事は噂程度には聞いていたが目にして理解した。それは事実だったと。

 すでにこの会話は数分おきに行われているのだから。

 最初は総督としての心構えなどを話していたのだが、合間合間に今のような心配全開の会話を割り込ませているのだ。おかげで小一時間で済むと思われた話が二時間近く行われている。

 

 「オデュッセウス殿下。そろそろ…」

 「え、もう少し……いや、そうだね。アリスちゃん、ナナリーの事…頼んだよ」

 「イエス・ユア・ハイネス。この命に代えても……いえ、どんな困難があろうと切り抜けて見せます。生きて」

 「あぁ…では、ナナリー。また会おう」

 「はい。お兄様も気を付けて」

 

 この後、オデュッセウスは仕事でユーロピアへ向かい、中華連邦入りする為に本国より離れる。

 だから、レイラはずっと時間を気にしている。まぁ、ナナリーと話しに行くと聞いたために時間にはだいぶん余裕を持っていたがすでにギリギリである。

 ナナリーとアリスの横をにこやかに通り過ぎたオデュッセウスはローマイヤの横で立ち止まった。

 

 「君は日本人…いや、ナンバーズに差別的だと聞いている」

 「差別…いえ、その通りです。ブリタニア人とナンバーズは差別…区別するべきだと考えております」

 「大概のブリタニア人は君の思想を良しとするだろう。でもナナリーは差別や区別を良しとしない心優しい子なんだ」

 

 小声で呟かれていた言葉がそこで止められ間が空けられる。

 すれ違おうとしている際に声を掛けられたので視線はオデュッセウスではなく正面に向けていたので表情が見えない。間が空いたために横目で表情を伺うと大きく開かれた鋭い眼光に震えた。

 

 「君はナナリーの補佐役だ。

  目の見えないナナリーの代わりに政務を執り行う事になるだろう。

  だからこそと言うべきか、目が見えない事をいい事に自分勝手な事をしてみろ………あとは言わなくても分かるかな?」

 「い、イエス・ユア・ハイネス…」

 

 恐怖により金縛りにあったかのようなローマイヤにはこの返事を絞り出すことがやっとだった。

 その言葉を聞いたオデュッセウスは満足そうに微笑み、肩をポンと軽く叩いて通り過ぎて行った。

 一目で恐怖を浴びせるような視線から解放され、身体がふわりと自由になってその場にへたり込む。

 

 「本当にお兄様は心配性なんですから」

 

 小声だったが目が見えない分、耳に頼っていたナナリーには聞こえておりローマイヤに笑みを向ける。

 優し気な微笑みを浮かべたナナリーの笑みに先ほどのオデュッセウスの微笑みが重なり息を呑む。

 そして心に決めた。

 ナナリー皇女殿下の意に反する行動は控えようと…。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。