コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第09話 「僕とあいつ」

 僕の名前はルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。神聖ブリタニア帝国第十一皇子で第十七皇位継承者である。皇子や継承の番号でも分かるように多くの兄弟・姉妹が存在する。

 

 次代の皇帝を担う為に皇帝の子供が必要なのは理解する。兄弟・姉妹が出来る事は嬉しい事なのだが、皇帝の子供が年々増えていくのはどうなのだろう?この質問をギネヴィア姉様にしてみると『競い合わせてより優秀な子が皇帝を作り出す為』と答えられた。

 

 八歳になった自分もいろいろな習い事をさせられている事を思い返して納得した。通常の勉学は勿論、戦術に戦略、エリアの統治の仕方から軽い護身術まで必要なものは叩き込まれた。けれど、それらがまったく通用しない人物が居る。

 

 それは外交を行なっている十八歳のシュナイゼル兄様でも帝都ペンドラゴンよりエリアの一部を支配しているギネヴィア姉様でもない。ましてクロヴィス兄様はありえない。

 

 ルルーシュが居る室内にコトンと軽い音が響いた。

 

 「キングから?」

 「王様から動かないと皆がついてきてはくれないだろう」

 「そういうものですか」

 

 疑問に思った言葉を呟くと微笑を浮かべたオデュッセウス・ウ・ブリタニアが答えてくれる。今二人が居るのはオデュッセウス兄様の執務室で、久しぶりにチェスでも打たないかと誘われたのだ。

 

 彼こそすべてが通用しない人物である。そんな相手の打たれた一手に対してこちらも打ち返す。

 

 指揮をとれば最短で有効な手をいくつも行なう知将で、剣術はラウンズに並ぶ実力者。性格は温厚で平穏を求める平和主義。幾つもの国家プロジェクトを成功させ、あの父上からの信頼も厚いと聞く。

 

 正直に言うと僕はオデュッセウス兄様が気に入らない。

 

 別にあの地獄のようなガニメデ訓練に叩き込まれた事を恨んで気に入らないなんて事はない。いや、それも恨みのひとつと訂正しよう。

 

 『第一皇子様はそれぐらい簡単に出来たのに』

 

 何かしら比較される事が多いのだ。皆は声には出さないがそういう視線を感じるときがある。それもお母様から感じる事もあるからかなり堪える。自分はそんなに不出来だったのか、と。

 

 シュナイゼル兄様はオデュッセウス兄様と歳も離れておらず、比較される事はあったもののそれほどではなかったらしい。と、言うのもオデュッセウス兄様に十二歳の時に国家プロジェクトを幾つか任せられた事が大きかったのだと言う。普通は十二歳の子供にそんな事をさせる者など居ないだろう。実際は頼む者が居て成功させたという事実が出来た。それはギネヴィア姉様も同じで同時期に国家プロジェクトを幾つか成し遂げている。これらにより成功させた本人は周りから能力を評価され、頼んだ兄様は相手の力量を見抜く目を持っていると謳われた。

 

 僕も請け負ってない訳ではない。つい先日いきなり建物の設計図を渡されて、テロ対策の警備の配置を組んでくれと言われた。最初は何処かの廃れた劇場の設計図かと思ってやっていたら、新しく建てられた劇場だと知ったときは心底驚いた。お母様やナナリーと劇を観に行ったのだが、ちゃんと出来ていたかが気になって内容なんて覚えてもいない。

 

 コトリと音を立てて奇妙な手を打ってきた。意図が読み切れずに手が止まってしまう。悪手とも誘いの手とも受け取れるこの一手をどう返すか…。誘いの一手と考え乗ってやる事にする。

 

 「ほぉ…そう来るのか。どうしたものかな」

 

 いつからか伸ばし始めた顎髭を撫でながら困った表情で悩む兄様を見て、どうやら誘いの一手ではないと判断する。

 

 シュナイゼル兄様やギネヴィア姉様はオデュッセウス兄様を何でもこなす超人のように語られるが僕はそうは思わない。思っている事が表情で分かるタイプらしく腹芸は無理らしい。らしいと言うのが本人の言葉だから鵜呑みには出来ないが。後、本人曰く楽器の演奏や歌を歌ったり、絵を描いたりする事は苦手なのだとか。この辺りの話は僕にしかしていないと言われてもどう反応していいか困ったのを覚えている。

 

 「あ!そういえばナナリーがルルーシュの事を嬉しそうに話してきたよ」

 「僕のことを?」

 「この間の警備の事さ。お兄様は凄いって随分嬉しそうに語ってくれたよ」

 

 はははと笑う兄様を見て少しムッとしてしまう。

 

 ギネヴィア姉様は『競い合う』と言ったが兄様は違った。僕とナナリーはお母様が庶民の出だから差別的に見られることがあり、姉妹ではカリーヌと仲が悪かったりする。中には自分の方が優れていると主張する者も出てくる。しかし兄様は競う事を嫌っており、誰とでも仲良くしている。勿論お母様やナナリーとも仲が良く、僕が知らないところで会っていたりもする。

 

 面白くない…。

 

 僕の所有物ではないのだがなんだか盗られたような感じがするんだ。それが一番気に入らない。さっきの言葉はこんな事があったよと話してきただけなのだろうが自慢されているような受け取りをしてしまう。

 

 「…最近お仕事忙しそうですね」

 

 自分の中で大きくなりつつあった感情から目を逸らす為に違う話題を振ってみる。ちょっと前まで暇そうだったのに最近は忙しいのか執務室から出てこないのだ。僕が生まれる前後はもっと忙しかったらしいのだが。

 

 朗らかに微笑んでいた兄様は微笑んではいるが雰囲気が沈み、そのまま俯いてため息をついた。何か聞いてはいけないことだったろうか?

 

 「…うん、忙しいよ。メディアの仕事や父上からの書類仕事はまだいいんだよ。問題はマリアンヌ様なんだよね…」

 「お母様が?」

 

 予想外の名前に首を傾げる。確かにお母様はガニメデの性能テストと称した遊び…模擬戦を何度も兄様と行っている事は知っているし、聞きもしている。が、最近の仕事は模擬戦ではなく執務室での仕事。ならばお母様とは関係ないのではないかというのが率直な考えだ。

 

 「書類仕事ならお母様は関係ないのでは」

 「それがね…模擬戦を行なう為に新しい性能テストの企画を作ってくれと言われてね。どうしたものかと」

 「そ、それはなんと言ったら」

 「まぁ、それは置いといてチェックだよ」

 「あ!」

 

 まさかこんなに早くチェックをかけられるとは思ってなかった。というよりもあの一手に気をとられ過ぎた。何とか現状を打破して攻勢に持ち込まないと。しかし先の一手がその邪魔をしている。

 

 「最初から読んでいたのですか?」

 「ん?何のことだい?」

 

 白を切られたが十中八九こうなる事を読んでいたのだろう。なにが腹芸は無理だ。十分しているではないですか!!そうは思っても言葉にする事なく現状を打開する為に次の一手を思考する。

 

 このルルーシュはオデュッセウスが気に入らない。確かに気に入らないのだがイコール嫌いという訳ではないのだ。

 

 母親と妹を独占される事は確かに面白くないだろう。しかし多くの力添えを与えてもらっている事を知ってしまっている。

 

 ギネヴィアやクロヴィスの母親などは庶民出のマリアンヌの事を良く思ってない。表立っては行わないが嫌がらせは何度も行われている。マリアンヌ自体は気にも留めてないが、ルルーシュとナナリーは別だ。幼いぶん余計に敏感になってしまう。その盾になってくれているのがオデュッセウスだ。

 

 嫌がらせそのものを止める事はしないがその嫌がらせを本人に気付かせないようにするか、行おうとする時点で話しかけて話を逸らしたりといろいろと手を打ってくれている。それも相手に敵対しないように。相手に敵対させないように上手く立ち回っている。おかげでナナリーが心を痛めずに生活できている。

 

 カリーヌの件が良い例だ。カリーヌも周りの母親達の影響であまり良く思ってない。陰湿な嫌がらせはして来ないが口で攻めてくる。その意識を否定しないように説得して前よりはかなり減った。それでも会ったら会ったで少しは言われるが前に比べて優しくなったものだ。

 

 自分自身が冷たく接した事が幾つもある。その度に優しく受け止め、気にかけてくれた。突き放してくれたほうが楽だった事があっただろうに。

 

 これらの事や彼の性格も好ましく感じているからこそ嫌いになれないのだ。だからと言って気に入らない事には変わりないのだが…。

 

 ちなみにチェスで勝て無い事はその中には含まれていない。いつかは絶対に追い抜く目標としているからだ。

 

 

 

 ルルーシュをチェスで負かしてしまった後の執務室でオデュッセウスは頭を抱えていた。

 

 マリアンヌ様からの無理な要請は何とかなった。いや、何とかしたが正解か。一度撥ねられた試作兵器から試作センサー類などの再試験という項目で数十回の模擬戦を予定に組み込めた。ロイドに話を持っていったら嬉しそうに試作機器類のデータを送って来た。中には一発でオーバーロードして大爆発を起こしそうなものまで…。

 

 頭を抱えている理由はルルーシュにある。彼の好感度を上げようとない頭なりにいろいろ行なっていたが、あまり芳しくない。

 

 「はぁ…。どうするかなぁ…」

 

 シュナイゼルに訊いてみるのもいいかも知れないかな。やっぱり止めておこう。

 

 「あぁ…ユフィの事も何とかしないと」

 

 別にユフィに何か問題が起こった訳ではない。これから先に起こるのだ。

 

 エリア11に副総督についた時に周りの者はお飾りとしか見ていなかった。そのわりにはナリタでは責任を負いたくないだけにユフィに指示を急がせたりしやがった。

 

 私が他人なら同じことを思ったり行っていたりもしていたかも知れない。が、今は可愛い大事な大事な妹のひとりだ。もし目の前でそんな態度をとる者がいたら殴りかかってしまう。だからそんな事を言われないように準備をしなければならない。それはナナリーにも同じ事が言えるが…。

 

 出来ればそんな事にならないのが一番なのだがね。

 

 オデュッセウスは大きくため息をつきつつ、机の上に残していた書類を片付けることに専念する事にした。未来への不安を残し、ルルーシュの感情を読み取れないままに…。

 


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