コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~ 作:チェリオ
ナナリー・ヴィ・ブリタニア。
神聖ブリタニア帝国が日本占領時に行方不明になっていた皇女。
ブラックリベリオン後にエリア11にて発見され、現在は皇族に復帰してエリア11の総督として着任している。
彼女は幼い頃に目の前で母親をテロリストに殺害されて以降、心にトラウマを抱えて目を閉じてしまっている。目は見えず足は歩けないので車椅子生活を余儀されている身で総督の業務は難しいものである。
で、あるが彼女には彼女を支える友人たちが居る…。
ナナリーの一日は他の皇族よりも早くに始まる。
彼女はエリア11に着任したばかりで引継ぎに通常業務、着任同時に発表した行政特区日本の準備と大忙しなのだ。
例え目が見えなく書類に目を通せぬ見であれど、エリア11での最高責任者のナナリーが居なければちょっとしたことでも許可がなければ行う事は困難なのだ。
カーテンの隙間より昇り始めた朝日のうっすらとした光を肌で感じ、ゆっくりと身体を伸ばしながら意識を覚醒させる。
手が誰かの腕に触れて確認のために腕をなぞる。
触られた相手はくすぐったくピクンと動き、う~んと声を漏らす。
「……むにゃ…ん…」
「おはようございますアリスちゃん」
「…おはようナナリー」
ナナリーと一緒に寝ていたアリスが目を擦りながら上半身を起こす。
以前は一人で寝ていたのだが、マリーベルが自分の騎士と一緒に寝ているという事をふとした会話の時に言っていたのでナナリーも採用したのだ。アリスは最初は拒んだのだがナナリーを守るためにもすぐ近くに居るのは効率的と考えて一緒に寝るようになった。と言ってもたまにダルクも混じったりしてパジャマパーティのノリになってしまったりするのだが…。
「準備してくるわね」
「はい、私も準備しないと」
「すぐ呼んでくる」
侍女を呼び出すベルを鳴らし、ナナリーの着替えの指示をするとアリスは自身の騎士の制服への着替えを急ぐ。数人の侍女がナナリーの着替えを行い、終わった頃にはアリスが車椅子を準備して待つ。
着替え終えれば場所を移動して食事である。パンなどの固形物はナナリー自身で食べる事は出来るがスープ類はアリスが手伝っている。本来はこれも侍女の仕事なのだがお互いに信頼している相手のほうが気持ち的に楽なのでアリスが手伝っているのだ。
その間に侍女たちは騎士団のメインメンバーの部屋に向かい、ナナリーがもうすぐ執務室に向かう事を伝えに周る。
食事を終えれば総督執務室での業務。
部屋には先に到着したサンチアにルクレティア、ダルクの三人がすでに資料に目を通し始めている。
「おはようございます」
「「おはようございます」」
「おはよ~……ッイテ」
サンチアとルクレティアは姿勢を正してナナリーに挨拶を返したのに対してダルクは眠そうに言ったのでサンチアの叩きとルクレティアの軽めのチョップが頭に直撃する。
いつもの光景にクスリと笑い、仕事に掛かる。
まずはサンチアが今日の予定を述べて、それぞれに指示を出す。
アリスとダルクはいつも通り護衛の為にナナリーの側で待機。騎士団の参謀役でもあるサンチアはダールトン将軍と特区日本の警備計画を立てに、ルクレティアは姫騎士より前回の行政特区日本の手筈を教えてもらいに行く。
姫騎士はオデュッセウスの騎士であるが誰も彼女の素性や経歴を一切知らない。
分かるのは全身を覆っている試作強化歩兵スーツの形が女性用である事から女性であるという事ぐらい。ナナリー達にとってはもう一つナナリーとの接触を控えているという事だ。
理由は分からないが事あるごとに避けられている節があり、最低限以上の接触はしない様に代わりの者に対応させたりしている。別段何かをしたという事は無い筈なのだが…。
兎も角、避けられているのなら無理にナナリーは接触せず、ルクレティアなどに頼む方向で接している。
あとは……。
と、ある人物の事を考えているとちょうどその人物が来たようだ。
「どうぞお入りください」
ノックをする前に言ってしまった事に失礼だったかなと思っていると、扉の向こうより小さく声が漏れたようだがどうしたのだろう?それも怖がっている感じの…。
失礼しますの言葉と共に入って来たのはアリシア・ローマイヤ。
総督の補佐官兼お目付け役として付いて来られた方なのだけれども、お目付け役の筈が何故か私を怖がって別室で仕事をしている変わった方なのです。
サンチアさんよりナンバーズに差別的な方と聞いていて、特区日本の話をする時も何かしら妨害や反感があると思っていたのですけれども意外にそういう事は無く、こちらの指示に従って働いてくださって助かっています。寧ろ、想像以上に働かれているので体調面が不安なぐらい。
「昨日お求めになられた資料をまとめ、お持ち致しました」
「ありがとうございます。では――」
「……………はい」
手を差し出すとローマイヤは間を開けて、おずおずと手を乗せる。
そんなに怖がらずとも良いのですけど…。
私は幼い頃より目が見えません。
だからと言うべきか他の感覚や聴覚に頼る生活がずっと続いて、こう触るだけで色々
触れた手から色々なものが見え、ナナリーはふっと笑みを零す。
この人は何一つ日本人の方に不利益な事は仕込んでいない。
「はい、確認しました。資料、ありがとうございます」
「―――ッ……では、次の仕事がありますので失礼致します」
ぺこりと頭を下げて出て行こうとするローマイヤをナナリーは呼び止める。
「ローマイヤさん」
「な、なんでしょう…」
「余り具合が良くないようなのでゆっくり休んでくださいね。良い胃薬もありますし」
「………ありがたく頂戴します」
オデュッセウスお兄様曰く、前専属騎士の白騎士も親衛隊長のレイラさんも愛用している胃薬で性能はかなり良いらしい。
話に出たので常備していた胃薬をビンごと取り出したダルクよりローマイヤさんは本当にありがたそうに受け取り、退室して行った。仕事を頼み過ぎたのだろうか?こういう場合は少し休暇を取るように言った方が良いのでしょうか?
ナナリーはまだ気付いていない。
ローマイヤが体調を崩している原因は現在の職場とオデュッセウスにある事に。
差別意識の高いローマイヤは何故イレブンなんかの為に働かないといけないのかと不満を日々募らせている。自分の上司である総督はナンバーズに友好的で自分の考えとは真逆で、職場を共にする騎士団のメンバーはナンバーズばかり。
イライラが募る日々で発散する機会もない。
オデュッセウスにはナナリーに何かしたら分かっているよなと脅しをかけられ、ナナリーに対しては恐怖を感じている。
相手の体温や心音、反応などで嘘かどうかを見破る技法があるのは知っているが、それとは違う超能力に近いナナリーの能力に恐れているのだ。
今回の胃が弱っている件も含めて自分が思っている事や隠している事もすべて曝け出されてしまうと考え、発散する事も自分の好きなように動くことも出来ない。
貯めるしか出来ないストレスは胃に痛みを起こし、日に日に悪くなっていくばかりなのであった…。
それはさておき、ダルクが読み上げて行く書類を判断し、許可を出すとアリスがサイン及び総督の印を押して行く。
目を通すのではなく、読み上げられてから判断するとなると時間が掛かる。こればかりは仕方のない事だ。
書類仕事は昼食を挟んだのちも行われる。
ただし今日に限ってはアリスが離れる事になったが…。
本日午後二時に本国よりアリス専用にカスタマイズされた新型ナイトメアフレームのギャラハッドが到着するのだ。
黒の騎士団に船団が襲われて以降、アリスが待ち望んでいた事を知っているナナリーは到着した機体の元へ行くように促した。護衛はダルクと昼過ぎより加わったアーニャで事足りる。
アーニャは何かと手伝いに来てくれるからナナリーとしてもアリス達としても助かる。たまにジノも来て仕事どころではなくなるのが問題だが…。
夕刻になるとアリスと学園より戻って来た枢木 スザクも加わって仕事を続ける。
夜遅くまで仕事をしようとは思うのだが、オデュッセウスにより止められた。夜更かしは身体に悪いし美容の天敵だとか言って。
夕食もアリスと取った後はオデュッセウスお兄様に今日の報告だ。
何かと心配し過ぎるのも困ったものです。
他愛のない会話から仕事の話まで色々話していると一時間以上喋ってしまう。
着任してから一週間似たり寄ったりの生活が続いているがオデュッセウスお兄様にはあの話はしていない。
ゼロの正体を私が知っているという事実は。
オデュッセウスお兄様は何かを隠している。
それはゼロの正体も含めてだけれど他にも多くの事を…もしくは大きなことを隠している。
知りたいとは思うけど無理に知る事は出来ないしやれない。
以前触れて知ろうとしたけれども何も知る事が出来なかった。大きくて暖かい手と言うこと以外は何も見えなかったのだ。いや、見えたのだが解らなかった。色々とごちゃごちゃして、混ざって、合わさって何がどうなっているのか理解出来なかったのだ。
そしてお兄様…ゼロは特区日本に参加すると言ったが何か嫌な予感がする。
確証がある訳ではない。けれど、どこか遠くへ行ってしまいそうな…。
そう思うとお兄様もオデュッセウスお兄様も何か遠くに行ってしまったように寂しく感じる。
「アリスちゃん」
「なぁにナナリー」
夕食もお風呂も終えてベッドで一緒に横になっているアリスに話しかける。
「ずっと一緒に居てくれるよね」
「――?当り前よ。私はナナリーの騎士で親友なんだから」
どうしたのかと疑問符を浮かべながらも不安げな思いを感じ取って優しく抱きしめられる。
とても暖かく、優しい想いに包まれたナナリーはこの時だけ不安を拭う事が出来た。
ナナリーは安心しきった表情のまま、夢の世界へとおちて行った…。
ちなみに渡された胃薬を服用したローマイヤの表情が少しだけ良くなっていたらしい。
ナリタ演習場。
元日本解放戦線本拠地であったナリタ連山の一部を演習場として整備したエリア11でのブリタニア軍最大級の演習場である。
現在ここでは大規模な演習が行われている。
旧型のグラスゴーに日本解放戦線で使用されていた無頼が展開し、目標に向けて弾幕を張っていた。
弾幕を集中されるがまったく掠りもしない機体―――パイロットはニヤリと笑う。
「飛行能力に問題なし―――続いて近接戦闘を行う!」
飛翔しているナイトメアはぐんぐんと高度を下げて行く。
銃器と言うのは遠い目標よりも近い目標の方が命中率が上がると言うもの。高度を落として接近するからには言うまでもなく命中率も段違いに上がって来るのだ。だというのに一発も掠らず突っ込んでくるのは機体の性能もあるだろうが、パイロットの技量も相当なものだという証。
搭乗者であるアリスはパネルを叩いて操作し、両腕に取り付けられた近接武器を展開した。
サザーランドのスタントンファーを改造した折り畳み式のメーザーバイブレーションソード。
速度を落とすことなくすれ違いざまに二機ほどグラスゴーを切断する。
乗り手のいない無人ナイトメアフレームは切り捨てられ、地面に横たわる。
地面すれすれを浮いて戦場を見渡す機体はオイアグロ卿よりオデュッセウスへ渡った新型ナイトメアフレーム【ギャラハッド】―――そのアリス用にカスタマイズを施された専用機である。
ビスマルクのギャラハッドとの大きな相違点はアリスのギャラハッドには後にエクスカリバーと名付けられる大剣を背負っていない事。内部機構にギアス伝導回路とマッスルフレーミングが組み込まれている事である。
速度重視のアリスの為に武器も機体コンセプトも小回り優先となっている。
両腰や両肩には月影同様のスラスターが組み込まれ、飛行時も小回りの利いた動きを可能とした。おかげでランドスピナーを起動して地上を走るよりも、地面すれすれをフロートシステムで飛行しながらスラスターを吹かした方が機動力が出るのである。
想像通り―――否、想像以上の性能にアリスはご満悦であった。
「行くよ――私のギャラハッド!」
アリスは舞い上がっていた。
先日受け取ったばかりの新しい力を思う存分使えるのだから嬉しくてしょうがない。
背中のV字のフロートシステムで浮遊し、スラスターにより自由な動きを可能とした純白と真紅で彩られたギャラハッドが集まりつつある無頼とグラスゴーの群れに突っ込んで行く。
氷の上を滑るアイススケートのように滑らかな動きで演習場を舞うギャラハッドにより無人機は成す統べなく切り裂かれていく。
そんな光景を眺める二機のナイトメア。
エドガー・N・ダールトンとクラウディオ・Sダールトンが搭乗するグラストンナイツ仕様のグロースター。
『皇女殿下の騎士の腕前がどれほどか見る為に来たがこれほどまでとは…』
『機体性能と言う事もあるだろうがあそこまで操るとは、演習相手に呼ぶだけの自信はあったという訳だ』
すでに十五機もの無人機を無傷で倒している相手に二人は笑みを零す。
最初はどれほどのものかと物見遊山程度にしか考えてなかったが、あまりの実力に驚きつつ嬉しくも思う。
あれほどの実力を持った者と競えるというのも騎士として嬉しいものがある。
ただ騎士として負ける気は微塵もない。
『行くかクラウディオ!』
『そうだな。行こう!!』
操縦桿を握り締め、ペダルを思いっきり踏み込む。
坂を駆け下りる二機に対してアリスは見上げると一気に接近しようと駆け上がる。
接近するギャラハッドに対してコクピット側面のザッテルバッフェよりミサイルを全弾発射する。
本気で来て欲しい。
実戦ではなく演習で相手は敵ではなく味方。本来なら躊躇われるお願いであるがあの腕前を見れば問題ないのは一目瞭然。
だから二人共避けた後の事を考えていた。
ギャラハッドには機銃が取り付けられていない。しかし、空中戦を行うのであれば地上戦の時よりもミサイル兵器などを相手にする必要があるだろう。ゆえにギャラハッドには首と肩の間に隠し武器のように対空機銃が仕込まれてある。
スライドした装甲の下より機銃が現れ、ミサイルを迎撃して行く。
半数以上は機銃により撃ち落されたがまだミサイルは残っている。接近したミサイルをMVSで切り裂くと同時に爆発したミサイルの爆煙で姿を眩ます。
どこから来ると煙を凝視していると煙が大きく横に動いた。
出て来るかと身構えた先の煙よりは何も現れず、おかしなことに煙の色が変わっただけだ。
爆発に生じて発生した黒煙から茶色い埃っぽい煙へと…。
『アレは…土煙?―――しまった!?』
気付いた時にはもう遅かった。
爆煙に姿を隠したギャラハッドは地面を蹴って土煙を起こし、飛翔して接近してきたのだ。
接近してきたギャラハッドの蹴りをクラウディオは左腕で防ごうとするが左腕は肘より先が切り裂かれた。
信じられない光景を目の当たりにしたクラウディオの瞳にはつま先から脛の辺りまで真っ赤になっているパーツが映り込んだ。
『MVS!?』
「さすが一発で見抜かれますか!!」
空中で体勢を変えた二撃目の蹴りを大型ランスで防ごうとするがランスは両断され、グロースターはパワー負けして吹っ飛ばされてしまう。
大型ランスでは不利と考えたエドガーはランスを捨ててMVSを抜こうとするが先にギャラハッドの両手が下ろされ、グロースターの両肩が切り落とされた。その場で横にスピンして頭部を切り払って、剣先を向ける。
「勝負ありました!」
『あぁ……完敗だ』
「ふぅ…」
『
満足げに息をついたアリスに叫んだエドガー。
その言葉の意味に気付いた一歩遅れて気付いたアリスは腕を下げ、距離を取る。
赤い剣が振り下ろされたのはそのコンマ数秒後の事であった。
『今のを避け切った!?』
「さすがに危なかったです」
『だが、これでその武装にはこいつが有効だという事が分かったよ』
斬りかかって来たのはクラウディオのグロースター。
まだ動く右手にはMVSが握られており、アリスは今展開している武器では不利な事を理解する。
折り畳み式のMVSは斬り合い目的に設計されていない。寧ろ仕込むことを目的に造られている分脆いのだ。それが斬り合う事も可能な剣タイプのMVSとぶつかり合えば間違いなく破壊される。刃がではなく折り畳みにしている機構がだ。
足先のMVSでは動きを読まれやすい上にリーチの差で後れを取る。
「―――だったら!!」
展開されていたMVSの輝きが消え、仕舞われると背中から両肩へ剣の柄が飛び出して来た。
斬り合いに発展する近接武器で足と仕込みだけでは不十分としてオデュッセウスは通常の剣タイプのMVSを用意していた。背中に取り付けたサブアームにセットし、必要な時は今のように握れる位置へ持って行くようにと。
抜き放たれたMVS。
優位性を一気に崩されたクラウディオのグロースターは残っていた右腕も斬り飛ばされ、最後は両足を斬られて行動不能となり演習は終了した。
「このギャラハッドならやれる!今度は私がナナリーを守るんだ!!」
高ぶった高揚感と並々ならぬ期待感で溢れたアリスが搭乗するギャラハッド一機だけ立って居る演習場でアリスは叫ぶ。
二度と航空艦隊を襲われた時のように負けないと誓いながら。