コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第93話 「オデュと天子の政略結婚に対する反応」

 黒の騎士団は日本を離れ、中華連邦に到着した。

 受け入れた大宦官達より黄海に浮かぶ潮力発電用の人工島【蓬莱島】を貸し与えられ、拠点として活用している。

 騙し騙しに修理や改修を繰り返していた紅蓮はラクシャータにより完璧に仕上げられ、蒼穹弐式改も月影もすでに整備は終えていつでも出撃可能な状態を維持している。当面は出撃する事は無いと思うが…。

 保有戦力の状態改善が図れたところでさらにインド軍区より荷物が届いた。

 月下をベースに改良されたこれからの黒の騎士団主戦力を飾るであろうナイトメアフレーム【暁】が騎士団単位で届き、暁をエース用にカスタマイズした暁 直参仕様が三機、藤堂用に開発された斬月、ゼロ専用機の蜃気楼などナイトメア戦力が充実し、さらにまだ未完成であるが浮遊航空艦【斑鳩】の受領も終了した。

 浮遊航空艦隊を襲った時に回収した反ブリタニア勢力であったと言うネモはマオにギアスで思考を覗かせたため、大丈夫だと判断して本人の意思に沿って黒の騎士団で働いてもらう事に。ただ機体のマークネモは特殊な機体でラクシャータでもまだ全貌を掴めていないというのは不安が残る。現在の整備の指揮が終わればかかりっきりでも調べてもらう予定でいるが何時になるのやら。

 

 なんにしても戦力は整い、あとはピースマークのウィザードと一度合流するだけだ。

 そう、それだけだった筈なんだ。

 

 「―――今、何と言った?」

 

 ルルーシュは聞き取った言葉を否定したくて、もしくは嘘だと思いたく聞き間違いであってくれと祈りながら問い直すが、結果はルルーシュの耳は正常に機能してちゃんと聞き取っていたという事だった。

 

 「皇コンツェルンを通して式の招待状が届いたのですけど新婦はこの中華連邦の象徴天子様。私を友人として招きたいとの事なんですけれど…」

 「そして新郎はブリタニアの第一皇子――」

 「オデュッセウスとか言う人」

 

 その名に千葉はイラつきを隠せず、俺は胃がキリキリ痛む。

 ブリタニアが動く前に天子を押さえる計画だったのだが、まさかこのタイミングで現れるとは…。

 

 「用意していた計画は間に合いません。まさか大宦官が――」

 「いや、これはブリタニアの仕掛けだろう」

 「なに心配してんだよ。俺達国外追放されてんだからブリタニアと関係ないだろぉ」

 

 玉城の抜けた言葉に皆が反応する。

 確かに国外追放の処分を受けたが罪は消えたわけではない。それに事の次第によっては中華連邦が黒の騎士団を差し出す可能性だってあるのだ。

 その事を新しく黒の騎士団に入ったオペレーターの水無瀬むつき、双葉綾芽、日向いちじくの三人娘が解りやすく話していく。

 話を聞いてようやく事の次第を理解して青ざめる。

 

 「じゃあ何かよ、黒の騎士団は結婚の結納品代わりにされるっていうのかよ!?」

 「あら?上手い事言いますのね」

 

 俺達が結納品………。

 「え?ルルーシュと神楽耶さんが結納品だって?ありがたく受け取るよ」とすっごい嬉しそうに笑みを浮かべる兄上の姿が脳裏に浮かび上がった。

 最悪の状況だがなぜか微笑ましく思えるのは俺だけだろうな。

 

 「呑気にしている場合か!?」

 

 あまり焦った様子のないC.C.や神楽耶などに言った一言だが危うくルルーシュが返事しそうになった。

 それにしても不審な点がある。

 

 オデュッセウス兄上が政略結婚を行う。

 まずそれ事態があり得ない。

 何か企んでいるのかも知れないがそれが何なのかも分からない。

 かといって静観なんて以ての外だ。

 

 「どうしたものか…」

 「式を止めるしかねぇだろ?天子を攫っちまえば良くね?」

 「はぁ、アンタ本当に馬鹿ね」

 「ッんだと!?」

 「玉城さん。天子を攫うにしても後々の事を考えて準備が必要です。行き当たりばったりでは黒の騎士団は信用を失い、ブリタニアだけでなく中華連邦全土を相手にしなければならなくなります」

 「そうなったらインド軍区も手を引くでしょうねぇ」

 「ピースマークもだろうな」

 「だったらオデュッセウスを攫っちまえば―――」

 「「それは駄目だ(です)!!」」

 

 ゼロと神楽耶の言葉が重なり、発言した玉城が肩を震わせ驚く。

 仮面でバレていないがルルーシュの顔色は神楽耶同様酷く悪くなっているだろう。

 

 兄上を攫ったりすればどうなるか…。

 それを知っているのは俺と神楽耶。もしかしたら当時軍人だった藤堂や卜部、あとは亡くなった仙波ぐらいは知っていたかも知れないか。

 エリア11がまだ日本だった頃、当時の首相である枢木 ゲンブはナナリーとの婚約話を進めようとし、その事を知ったオデュッセウスが弟妹に艦隊指揮や諸外国の参戦を防がせ、ラウンズを動員して婚約話を潰したという事件があった。

 皇族からも民衆やナンバーズからも圧倒的な支持と信頼を寄せられている。

 もしも手を出すような真似を―――否、傷一つ負わせたらブリタニアと植民地エリアの反感を買い、世界の大半が文字通り敵になるのだ。

 現状の黒の騎士団は戦力を整えたがブリタニア全てを敵に回せるほどの力はない。

 

 その事を玉城を含めたメンバーに伝えると顔色が悪くなった。

 

 「つまり奴を相手にせず、この状況を打破しないといけないと言う事か…」

 「そもそもブリタニアより宰相やラウンズが中華連邦入りしたという話が出ております。現段階でブリタニアに手を出すのは非常に不味いでしょう」

 「当初の計画を多少変更して進めるしかないか。ディートハルト、計画を進めておいてくれ。追加の指示は追って伝える」

 「了解ですゼロ」

 

 ディートハルトが席を外すがこれからの議論は進む。

 聞き耳を立てながらルルーシュ自身考え込む。

 

 大宦官と言う連中の性質から兄上が嫌う種類の人間。その事から手を組むとは思えない。となれば天子に関連する事か?ウィザードからの情報ではゼロとして活躍する前は中華連邦によく来ており、天子とも交友関係を築いていたらしい。大宦官から天子を護るために政略結婚を………可能性として挙げたがこれもあり得ない。政略結婚なんてものを己が手段として用いる筈がない。予想ではあるが政略結婚で中華連邦を手中に収めるように手回ししたのはシュナイゼルだ。それに乗っている以上なにか別の考えがあるに違いない。それも天子を犠牲にしないような手を。ほかにも大宦官が呑んだ中華連邦に不利な不平等条約などおかしな点が多すぎる………。

 

 「それとゼロ様。こちらも皇コンツェルンを通してゼロ様にと」

 「なに?私宛―――――なぁ!?」

 

 神楽耶から手渡されたのは紛れもない式への招待状。

 出した相手は新郎であるオデュッセウス・ウ・ブリタニアとなっていた…。

 

 

 

 

 

 

 神聖ブリタニア帝国第一皇子オデュッセウス・ウ・ブリタニアの座乗艦 アヴァロン級浮遊航空艦ペーネロペー。

 レイラ・マルカルは不満げながらも職務に従事する。

 

 現在オデュッセウスは大宦官や天子と会談中でここにはいない。護衛はハメル少佐を含めた警備隊にアキト達が務めている。

 親衛隊隊長であるレイラと言えばペーネロペーで警備の準備で大忙しなのだ。

 すでに持ち込んだドローンをペーネロペーを駐留させている飛行場周辺に展開して防備を固め、披露宴や式での警備体制の確認を執り行っている。警備と言ってもこちらのナイトメア隊は念のための予備部隊で警備の主力は中華連邦が務める。

 

 「マルカル大佐。式近くでの警備計画を送りましたよ」

 「ありがとうございます。ウォリック大佐」

 

 酒瓶片手に軍服を軽く着崩したウォリックに礼を言うと、困り顔を浮かべられてしまった。

 頬をぽりぽりと掻いて少し口篭もる。

 

 「あー…なにかありました?」 

 「なにがでしょう」

 「気のせいだったら良いんですがどこか不機嫌そうだったので」

 「そんなこと――――ありますね」

 

 今でも鮮明に思い出せるあの時の言葉。

 『うーん、そうだね。穏かな田舎にでも移り住んでのんびりと過ごしたいかなぁ。弟妹や友人とはいつまでも仲良くしてね。あとは農園か喫茶店でもしようか。でもその前にお嫁さんも欲しいし…うーん……』

 困った笑みを浮かべながら答えて下さった殿下が望む未来。

 

 親衛隊として近くに居て殿下がどれだけお優しく、温厚な人柄なのかが良く分かった。

 (※戦闘は除く)

 弟妹は勿論、友人や部下、知り合いに対しても大事にされる。

 そんな方が友人としている天子さんと政略結婚し、中華連邦に不平等条約を叩きつけるなどおかしな話だ。

 これでは殿下が嫌っている大宦官と何ら変わりない。

 その事に疑問や不満を抱くのはおかしなことなのだろうか。

 いえ、アヤノもリョウもアンナも同意見だった。

 もしも何かしらの理由で変わられたのならそれを問い質さなければならない。

 

 いや、私が不満に思っているのはそれらもだがそれ以上にペーネロペーの積み荷についての方が大きい。

 

 「殿下は何を考えているんでしょうか」

 「政略結婚の方ですか?それともロリコン疑惑?」

 「そちらではなくアレの事です」

 

 大きなため息を先には一騎のナイトメアフレームが佇んでいた。

 中華連邦に向かう直前に積み込まれた試作ナイトメアフレーム。大グリンダ騎士団が鹵獲したナイトメアフレームより入手した技術【プルマ・リベールラ】を使用した防御力を向上させたアレクサンダだ。

 同時に完成品であるアレクサンダ・ドゥリンダナは防御力の高さからレイラ専用として持ち込まれた。

 他にもリョウ、アヤノ、ユキヤのアレクサンダ・ヴァリアントⅡにはそれぞれ専用の武装、改修されて強化されたアキトのアレクサンダ・リベルテ改も積み込まれている。

 中華連邦に向かう直前に行われた戦力の強化。

 

 あの殿下の指示で積み込まれたからには何かが起きる。

 しかもプルマ・リベールラを取り付けた試験機であったアレクサンダ・ブケファラス・ドゥリンダナまで積み込まれたのだ。

 

 「殿下が飛び出して行く未来が見えるのですが…」

 「ははは、実際にそうなりそうですな」

 「笑い事ではありません!」

 「これは失礼しました。けど何が起こると言うのです?」

 「それは…」

 「以前の反中華連邦勢力はとっ捕まえたらしいですし、不穏な動きはブリタニアでも確認されておりません。今回ばかりは大佐の考え過ぎだと思いますよ」

 「だと良いのですが…」

 

 考え過ぎだ。

 そう思い込みたいが心が騒めく。

 ブリタニアからは宰相のシュナイゼル殿下を始め、ラウンズが三人も居るのだ。

 殿下自ら飛び出す事態など早々起きるものではない。

 

 ウォリックの言葉を飲み込んで大丈夫だと自分を落ち着かせる。

 しかし悪い意味で予感が的中することになるのであった…。

 

 

 

 

 

 

 朱禁城。

 中華連邦首都洛陽に位置する天子の居城―――ではあるが実質実権を握っている大宦官の居城と成り果てていた…。

 その朱禁城より離れた郊外の倉庫にオルフェウス達はナイトメアの整備をしながら待機をしていた。

 

 ウィザードより黒の騎士団が中華連邦入りしたと聞き、合流すべくここを拠点としたのだ。。

 黒の騎士団の仲間になる為ではなく、お互いの目的の為に協力する為にだ。

 オルフェウスはウィザードであるオイアグロの復讐を一時的に止めたが許したわけではない。だが、まずはV.V.を…ギアス饗団を潰す方が先決。しかしこちらの戦力でギアス饗団を相手に出来る筈もない上、本拠地の特定もすんでいない。

 コーネリアを危険すぎる戦いに巻き込まない様にとオデュッセウスが黒の騎士団と共闘するならば場所を教えると譲歩してきたのだ。すでにウィザードがオデュッセウスの指示で黒の騎士団に助力し、幾らか借りを作っている。

 理由は分からないがゼロもギアス饗団を憎んでいるんだとか…。

 

 ギアス饗団を潰すためにも機体のメンテナンスと慣らし運転を繰り返し、いつでも使いこなせるように練度を上げて行く。

 ガナバティの手により強化・改修が行われた烈火白炎。

 月下をベースにズィーの要望に合わせてトリッキーな動きを可能として多種多様な近接武器を複数積んだ機体へと変貌したナイトメア。つい二日前にインド軍区より届けられた月下紫電。

 コーネリアとギルフォード(もはや名前を隠す意味がなくなった)用に取り寄せたグロースターの改修型。

 

 戦力は整い、あとは―――――――…。

 

 「おい、オズ」

 「なんだ?」

 「いい加減見て見ぬ振りするの無理じゃねぇか?」

 「そう……だよな…」

 

 出来るだけ視界に入れない様に工夫していたが無理があった。

 

 「兄上が結婚……はは……」

 

 隅っこが異様に暗く見える。

 照明は問題なく点いている筈なんだがコーネリアを中心に暗い。そして重い。

 ぶつぶつぶつと何か聞こえてくるから怖い。

 

 「こんな時にギルフォードは買い物に出てるし、ガナバディは部品取りにいったしよ…どうすんだアレ」

 「さぁな。というか二人とも逃げる口実だろう」

 「俺も逃げようかな…」

 「逃げても状況は変わらないぞ」

 

 ここに来た時は「やっとギアス饗団を潰せるのか」とやる気十分だったのに、流れた『天子様とブリタニアの第一皇子の婚約が決定した』というニュースで一気に落胆して今に至る。

 ブラコンとは思っていたがまさかここまで拗らせていたとは…。

 

 しかし、放置も出来ない事態であるのも理解している。

 

 大きくため息を吐き出してズィーと視線を合わせる。

 二人してアイコンタクトでお前が行けと押し付け合うが最終的にじゃんけんとなってズィーが行くことになり、オルフェウスは遠目に眺める。

 

 「おいおい、そんなにしょ気なくても良いだろうに。愛もへったくれもない政略結婚だろうアレ」

 「―――――――あ?」

 「ヒィ!?」

 

 ひと睨みで腰を抜かしたズィーは地を這うようにして逃げ帰って来た。

 というか俺を盾にするように隠れるな。あの禍々しい視線が俺に向けられただろうが。

 ゆらりと立ち上がったコーネリアの瞳には眼力で人を――否、あらゆる生物を殺せるような怒気が込められていた。あの瞳の前では腹をすかせた肉食獣でさえ逃げ出すだろう。

 あまりの怒気に身体が震えてカップが上手く持てない…。

 

 「兄上はお優しいからな。少しでも相手の為にと動くんだろうな…。私達にはもう構ってくれないかも知れない」

 「いやいや、そんなに考え込むことないと思うんだけど。」

 「ななな、ちょ、待って!えーと、アレだ。ほらぁ…」

 「――――――言ってみろ」

 「ヒィイイイイ!?」

 「お前ら俺を挟んでやり合うな」

 「一人逃げるなよ!?てか助けて!!」

 

 無理だ。

 身体の震えは無理に抑え込んだがこの悪鬼羅刹のごとく生物をどうしろと?

 

 この後、オルフェウスは帰って来た瞬間に逃げ出そうとしたガバナディとギルフォードを捕まえ、四人で必死にコーネリアを落ち着かせようと頑張るのであった…。


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