コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~ 作:チェリオ
入り口から向かって左側には神聖ブリタニア帝国、右側には中華連邦の招待された貴族達が腰かけている。
中央に伸びた真っ赤な絨毯の先には新郎のオデュッセウス・ウ・ブリタニアと新婦の天子が並び、式を執り行うに当たって呼び出された神父が向かい合っていた。
神父の言葉だけが響いている空間を勢いよく開かれた扉の音により、全員の視線が入口へと集まる。
「我は問う!天の声!地の叫び!人の心!何をもって中華連邦の意志とするか!!」
鋭い眼光を向け、叫ぶは中華連邦の若き武官―――黎 星刻。
枢木 スザクに匹敵する戦闘能力にルルーシュ・ヴィ・ブリタニアに匹敵する頭脳を有し、天子に絶対の忠誠心を抱いている者。
式場に乱入した彼は鞘より剣を抜き放ち、同じ志を持った同志と共に天子を…。
大宦官により私腹を肥やすための…政治を扱いやすくするためだけの駒として利用され、今やブリタニアに売り渡されようとしている少女を救わんと立ち上がった。
「血迷ったか星刻!!」
「黙れ趙皓!すべての人民を代表し、我はこの婚姻に異議を唱える!!」
いきなりの乱入者を認識した大宦官が叫ぶと、逆にそれを超える声量と怒気で言い返す。
天子目掛けて駆け出した星刻に対し兵士に「取り押さえろ!!」との命が下る。
相手はラウンズでの上位に入る枢木 スザクに匹敵するほどの猛者。
雑兵数十人で止めれる筈がない。が、現状それで時間を稼ぐしか手がないのも事実か…。
二名の兵士が槍を手に突っ込むが、突き出した槍先が意図も簡単に叩き切られ、驚いた隙に一撃を受けて気絶。
進路を防ぐように立った六名の兵士の槍が同時に振り下ろされる。
それを剣一本で受け止め、押し返す。
「今こそ!!」
袖の中に仕込んでいたひも付きの刃物を投げて槍をへし折る。
もう総崩れだ。
囲んでいた一人が崩されると数の差など、あってないように斬り捨てていく。
まさに無双と言うべき戦い。
そして彼は戦闘だけではなく、頭脳も優れている。
騒ぎを起こしたことで招待客が逃げ惑う事も、大宦官がブリタニアを重視している事から銃による攻撃は行われないと確信している。
予想通りに銃口を向けて射殺しようとした兵士達は大宦官によって制止される。
「不忠なり!天子様を己がものとしようとは!!」
銃器を使わずに取り押さえようと前に出た兵士が叫ぶ。
その言葉にクスリと笑った。
最初に中華連邦の意志などと言ったが星刻にとってはそれ以上に天子様をお救いする事しか頭になかった。
昔助けられ、救われた恩義…外の世界を見せるとして約束した永続調和の契りを果すため…彼は剣を振るう。
「天子様に外の世界を!!」
ただただ大宦官や役職に従うだけで何が正しくて何が間違っているかも気付かない者らを斬り捨てながら、願いを心の底から星刻は叫ぶ。
返事など期待していなかった。していなかったというのに…。
「星刻ー!!」
天子の助けを求めるような表情で涙を流しながら、親指と小指だけを伸ばして他の指は握る永続調和の契りを結ぶときの形で手を振る様子に感極まる。
もう忘れられてもおかしくない。否、天子様は忘れているだろうと思っていた。
だが、彼女は決して忘れてなどいなかった。
剣を握る手に力が籠る。
もはや迷うまい。
中華連邦全ての人民の為になどと自身を偽るのも止めた。
すべては天子様の為に!!
「我が心に迷いなし!!」
強い意志を燃やし、瞳をキラキラと輝かせ、満足げな笑みを浮かべた星刻は突っ込んでくる。
近付くにつれて嬉しそうに笑みを浮かべる天子の元へと…。
私はその光景を間近で見れて、身の危険など一切気にせずに胸が熱くなった。
そして私―――オデュッセウス・ウ・ブリタニアは座乗艦ペーネロペーの艦橋より対峙する黒の騎士団の浮遊航空艦【斑鳩】を見つめていた。
「はぁ~…お茶が美味いねぇ」
ズズズ、とお茶を啜るオデュッセウスに拘束着を解除され、とりあえずクレマン少佐の私服を着させられた紅月 カレンが呆れた視線を向ける。手錠も足枷もされていない状態で放置という訳にもいかないので警備隊のハメル中佐達が周りを囲んでいる。
大きなため息を吐き出しながらカレンはどうしてこうなったかを思い起こす。
披露宴の翌日に行われた式にて星刻達の動きに合わせて天子を予定通りに攫う事に成功したゼロは、急遽寄せ集められた中華連邦の追撃部隊を朝比奈の伏兵が潜む地点へ誘い込み殲滅。
悠々と斑鳩まで帰還を果たしたのだ。
そうそこまでは順調だった。
ラクシャータ・チャウラーが
藤堂の斬月に千葉の月影、卜部と朝比奈の暁【直参仕様】はエナジーの交換と整備に入っており動けず、飛行する神虎に対抗できる機体はライの蒼穹弐式改か私の紅蓮可翔式のみ。
ライは神楽耶と共に天子の相手をしていた為に私が出撃して行ったのだ。
―――強い。
何が紅蓮弐式と同時期に開発したナイトメアだ!性能は紅蓮可翔式と互角に戦えるほどのハイスペックとか聞いていない。それにパイロットの黎 星刻の技量も自身と同等。
手強い敵であるが機体に慣らす前に出てきたせいか僅かに動きに違和感があった。
熟練度では負ける事のないカレンは勝負に出て、その賭けには勝ったが勝負には負けてしまった。
まさかエナジー切れで捕縛されるなんて…。
さらに中華連邦に捕えられ、拘束着を着させられこれからどうなるかと不安に煽られていると、オデュッセウスが大宦官と交渉して私の身柄と紅蓮を引き取る事に…。
そして何故か艦橋でお茶の相手に誘われたのだ。
「どうしたんだい暗い顔をして。もしかして緑茶は苦手かい?だったら黒豆茶とか用意しようか?」
「いえ、苦手では無いです」
「うん?なら……お茶菓子かな。豆おかきやせんべいより若い子にはケーキとかのほうがよかったかい」
「そういう事でもない!なんで私はここでお茶をしているのかと悩んでいるのですよ!」
悩む素振りをしてからキョトンとした表情を向けて来たオデュッセウスに殴り掛かってやろうかと思ったが、銃口が向けられる前に抑えた。
また大きなため息を吐き出し、ソファの上で胡坐をかいてせんべいをバリっと音を立てて噛み締めた。
「あー…殿下。今更ですがこんなことしていて良いのですかねぇ?」
「だってやる事ないしねぇ。まさか動くなって釘刺されるとは思わなかったし」
「普段の行いを悔い改めて下さいよ」
「善処します…って、ウォリック大佐。絶対日本茶にそれ混ぜても美味しくないと思いますよ」
「あれ?確か日本茶にお酒を混ぜて飲むやつありましたよね?」
「それは焼酎や日本酒を使ったやつね。さすがにウォッカの類は知りませんよ」
「いや、本当にアンタら何してんの?」
本気で呆れてしまった。
頭を抱えていると戸惑いながらアンナ・クレマンが資料を手にやって来た。
「殿下。データがだいたい集まりました」
「お、ありがとう。クレマン少佐もお茶にしないかい?」
「いえ、まだお仕事がありますので」
やんわりと断られると資料を受け取り、ざっと目を通す。
「んー、このデータだけで再現は難しいかな」
「今度はなにをやらかす気なんです?」
「神虎の再現」
「こりゃまた博士達が暴走しそうな気しかしませんな」
「どっちの?」
「両方共」
お茶を啜りつつ会話を聞きながら、辺りを見渡す。
オペレーターは情報をまとめてオデュッセウスが持つ端末へデータを送り、技術士官達は忙しそうにデータ収集に努め、豆おかきを齧りながらオデュッセウスは端末越しに指示を出す。
ふざけているようで指揮所として上手く回っている。
これがここのスタイルなのだろう。というかここ以外には無いような気がするが…。
「やっぱりデータだけでは難しいかね。せめて
「朱厭?」
「ん、カレンちゃんはそっちの方が気になるのかい?」
「私は黒の騎士団の皆を、ゼロを信じているから」
「ふ~ん…そっか。ありがとう」
「へ?」
「何でもないよ」
何故か嬉しそうなオデュッセウスに疑問符を浮かべるが、この人がおかしいのは前から知っているし今更だろう。
艦橋正面上には大型モニターがあり、戦況が解りやすく表示されている。
藤堂の斬月が星刻の神虎に押さえられているが、それは黒の騎士団も同じ。
中華連邦軍の中で厄介そうなのは星刻のみ。
カレンが捕虜となったためにいつもに比べて一手遅れるが、中華連邦の部隊に対しては何ら問題なかった。
千葉の月影、ライの蒼穹弐式改、卜部と朝比奈の暁【直参仕様】が空から攻撃し、地上はネモのマークネモを始めとした主力部隊が押し返す。
中華連邦は移動指令所として使用されていたピラミッド状の地上戦艦【竜胆】より高い火力を誇る主砲二門の援護砲撃と大量の鋼髏で応戦しているが、竜胆に大宦官が三名も乗っている為か必要以上に竜胆の周りに鋼髏が集まっている。
さすがに押され始めて焦った大宦官はオデュッセウスに援軍を求め、面白そうという理由で付いてきたノネットとマークネモを足止めするべくアキト、リョウ、ユキヤ、アヤノ、レイラの六名が出撃した。
ちなみにオデュッセウスがここに居るのは神虎のデータ取りの為と言うのが表向きの理由で、本当は原作知識からスザク君がカレンを回収する前に引き取る事である。
アキト達は反応速度で異常な動きを見せるマークネモに対し、ブレイン・レイド・システムを使用しての驚異的な反応速度と運動性を発揮し、操縦者同士の脳をリンクした意思疎通により熟練のチームでも難しいチームワークを取っていた。レイラはそんな彼らの邪魔にならない様にアレクサンダ・ヴァリアント・ドローン一個中隊の指揮を執って周囲の敵機を近づけない様にしている。
その頃、ノネットは楽しそうに千葉の月影と斬り合っている。
「あ、そうそう朱厭ていうのはね神虎の先行量産機の事でね。量産機としてコストダウンをしながら、第七世代ナイトメアフレーム相当の性能を持つとされる機体さ。ナイトメアとすら定義していいのか分からない鋼髏から一気に人型の…しかもブリタニアの第七世代にも匹敵する機体を作り上げたんだ。ロイドやミルビル博士でなくても一パイロットとして乗ってみたいものだよ」
「あんた…皇族よね?」
「どうしたんだい?」
「いや…ブリタニア皇族ってみんなこうなの?」
「あー…どうだろうね。私が知っている限り殿下ぐらいかなと思うけどねぇ」
生き生きと語り出したオデュッセウスを放置して今度は豆おかきを頬張る。
良い塩梅の塩加減に豆の香ばしさを味わいつつ、お茶を啜る。
飲み干したところで自然と息が漏れる。
「――――って、聞いてる?」
「あ、うん。聞いてる聞いてる」
「それ聞いてない人の反応だよ」
がっくりと肩を落としながらも端末の情報から目は離さない。
すると急に端末を操作し始める。
戦っていたブリタニア所属機が撤退を開始し始めた。
なにが起こるのかと目を凝らしていると水が流れて来て安堵する。
「無駄ね。水はゼロの指示で先に抜かさせてもらっているから。機体を流すほどの勢いはないわよ」
「それはどうかな?」
余裕ぶっている態度に違和感を覚えてモニターに視線を戻すと黒の騎士団のナイトメア隊が沈み始めていた。
「なんで!?どうしてよ!?」
「君たちは見くびっていたんだよ。中華連邦の大宦官の愚行を!アイツらは私腹を肥やすためならどんな手段も使う―――手抜きにさらに手抜きを重ねた開拓工事で地盤緩みっぱなしにするなんて訳ないさ!」
「殿下ぁ。本人たちに聞こえてないからって他国の政治に関わっている者を卑下にする言葉はお控えくださいね」
カレンはモニターを食い入るように見つめる。
反応速度が異常なマークネモも足が沈めば生かせずにただの案山子となるしかない。
多くの仲間が動けない中、左右より突撃を敢行する中華連邦軍。
斑鳩のハドロン重砲によりその大半が蒸発したが、現状は黒の騎士団に不利過ぎる。
ゼロが退却を決めたのだろう。
斑鳩が方向転換して撤退を開始。藤堂達が救出作戦を指揮しているが、中華連邦軍がそれを許すはずもない。
鋼髏の銃口が動けない暁に向けられる。
「全機後退を進言するよ」
祈るように見つめ続けたカレンは大宦官に向けて通信したオデュッセウスの一言に驚いた。
いくつか会話を行い戻って来たオデュッセウスは向かいのソファに腰かける。
「どうして私達を助けたの?」
「……助けたつもりはないさ。手負いの獅子ほど怖いものはない。窮鼠猫を噛むなんて言葉もあるだろう。今の彼らに手を出せば損害が大きいからそれを進言しただけさ」
「――そう。でも、ありがとう」
「どう致しまして…で、良いのかな?」
頬を掻きながら和菓子を何処からか取り出したオデュッセウスは抹茶の用意を行う。
三人で一服していると戻って来たレイラより三人とも説教を喰らう羽目になったのであった…。