霊斗は誰かがゴソゴソと動く音で目を覚ました。
周りに散らばるトランプを見て、寝落ちしていたことに気づく。
その周囲では他のメンバーも眠りこけている。
しかし、その中で一人だけ姿が見当たらない。
視界の端で古城がソファーから転げ落ちるのを見ながら霊斗が部屋を出ようとしたときだった。
「霊くーん……どこ行くの……?」
寝ぼけたような声と共に虚空から天音が現れる。
「天音?お前今日1日何して―――」
その先は声にならなかった。
「―――ッ!?」
眼前に広がる天音の顔。
仄かに香る甘い匂い。
「っは!天音、お前いきなり何を!」
天音から勢いよく離れながら霊斗が叫ぶ。
そんな霊斗に再び近づきながら天音が言う。
「今日ブルエリ行くって教えてくれなかった」
「え?」
よく思い出してみると、天音には一言も言っていない。
「でもお前にも聞こえてただろ?」
霊斗がそう言うと、天音は立ち止まって俯く。
「天音?」
霊斗が声を掛けると、天音は顔をあげる。
その目には涙が浮かんでいた。
「お前、なんで泣いて―――」
「もう霊君なんて知らない!バカ!」
そう言うと天音は部屋を飛び出していった。
「なんなんだ一体……」
そのとき、戸惑う霊斗の背中から、誰かが抱きついてくる。
「霊斗さん……」
「あ、アスタルテ?」
混乱する霊斗の腰に回されている手が少しずつ移動していく。
だんだんと下の方へ―――。
「まてまてまて!お前は何をしようとしている!?」
急いでアスタルテの手を振りほどき、距離をおく。
「何って―――夫婦の営みです」
「よし、落ち着こう。まず俺たちは夫婦ではないしみんな寝てる横でそんなことできないし第一まだそんなことするには早すぎるだろうがぁッ!?」
「大丈夫です、外に出れば問題ありません」
「問題だらけだよっ!」
そう言って逃げようとする霊斗の腕が掴まれる。
異常なまでに強い握力に骨が軋み始める。
「いてててて!?折れる!骨折れるから!!」
悶絶する霊斗を、紅潮した顔で見つめながらアスタルテが言う。
「さあ霊斗さん、覚悟を決めてください」
「嫌だぁぁぁぁぁ!」
どんなに力を入れても振りほどけないこの状況に霊斗が絶望しかけたときだった。
突然アスタルテの身体が青っぽい火花に包まれる。
そのままアスタルテは意識を失う。
「な、なんだ?」
未だに混乱から立ち直れない霊斗の耳に聞こえてきたのは雪菜の声だった。
「大丈夫ですか、霊斗さん」
「で、何が起きてるんだこれ」
「それは彼女に聞いた方が早いかと……」
雪菜はそう言うとコテージの屋上の方を見上げる。
「まさか、結瞳か?」
「ええ、恐らく」
「仕方ない、行くか」
霊斗が言うと二人は頷き、階段を上っていった。
それを確認した霊斗は、足下に倒れているアスタルテを揺さぶる。
「おい、アスタルテ。起きろ」
「ん……霊斗さん?どうして私はこんな所に……」
目を覚ましたアスタルテはそこまで言うと、何かを思い出した様に硬直する。
「あ、あの……霊斗さん……」
「ん?どうした?」
霊斗がそう聞き返すと、アスタルテは顔を真っ赤にしながら言う。
「さっきはその……お見苦しい所をお見せしまして……」
「あぁ、あれな。その話は後だ。先に結瞳の所に行くぞ」
「結瞳ちゃんに何か……?」
「後で説明する。早く行くぞ」
アスタルテが霊斗の言葉に頷き、二人は屋上へと上った。
古城と雪菜が屋上に上がると、そこでは結瞳が待ち構えていた。
「結瞳……これはお前の仕業なのか?」
古城が聞くと、結瞳は歳不相応な笑みを浮かべて言う。
「そうですよ?でも、お兄さんたちには効かなかったみたい」
そして結瞳は魔力で翼を紡ぎ、宙に浮かぶ。
「お前……魔族だったのか……?」
困惑する古城の横で雪菜が呟く。
「精神支配をする魔族……まさか、夢魔……?」
「正解です。まぁ、本当の結瞳は夢魔の力なんて使えないんですけど」
その結瞳の言葉で、古城はある結論に辿り着く。
「多重人格か……今のお前は魔族の人格って訳か」
「正しくは結瞳が嫌いな夢魔の力だけで"造られた"人格ですよ?本人は自覚してないみたいですけど」
そう言って結瞳は笑う。
そんな結瞳の背後に不意に人影が現れる。
「そいつは面白い事を聞いたな」
いつの間にか結瞳の背後に回り込んでいた霊斗が、結瞳を羽交い締めにする。
「なっ……なにをするんですか!?あなたも私たちの協力者じゃ……!」
「俺が協力するのは"奴"に関してだけだ。お前に協力する訳じゃない」
そう言って霊斗は拘束用の魔術を発動する。
しかし、発動直前で魔法陣が破壊される。
「なっ……!?擬似空間切断!?」
その攻撃が飛来した方を霊斗が向く。
そこには二人の少女が立っていた。
「その子を拘束しないでもらえるかしら、暁霊斗」
「霧葉……」
霊斗が視線で理由を問う。
「そうね、今はまだ、話せないわ。残念ながらね」
霧葉はそう言って一歩横にずれる。
そうしたことで、彼女の後ろにいた人物が一歩前に進んでくる。
「"莉琉"を連れていく間、彼女が相手をするわ」
その人物を見て雪菜が息を呑む。
「さ、紗矢香さん……?」
その雪菜の呟きを合図にしたかのように、紗矢香が"煌華鱗"を構えて突進する。
「くたばれ!暁古城!」
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