ストライク・ザ・ブラッド~幻の第五真祖~   作:緋月霊斗

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黒の剣巫編Ⅷ

「なぁ、アスタルテ……俺が悪かったよ、いい加減機嫌直してくれよ……」

「別に怒ってませんし、機嫌なんか直しようがないです」

霊斗と目も合わせずに言うアスタルテ。

そんな二人を見て古城が言う。

「とりあえず静かにしないか?敵に見つかったらどうするんだ?」

「そうだな……まずはそっちだな」

そう言って霊斗は物陰から魔獣庭園の様子を伺う。

入口の門の前に人はいない。

「よし、行くぞ」

霊斗の合図で紗矢華が門を破壊しようと煌華鱗を振りかざす。

しかし、動きが途中で止まる。

魔獣庭園の更に奥、海の方から強力な魔力を感じたからだ。

「なにこれ……!?」

「マズイな……動き出したか……」

霊斗がそう言うのと同時に、魔獣庭園の中が騒がしくなる。

レヴィアタンの魔力に怯えた魔獣が一斉に暴れだしたのだ。

「どうすんだよこれ!」

「煌華鱗の範囲催眠で大人しくさせるしかないだろ!紗矢華!行けるか?」

「無理よ!範囲が広すぎてカバーしきれないわよ!」

舌打ちして、霊斗は古城に言う。

「古城!眷獣で1箇所に集めるぞ!」

「やっぱりこうなるのかよ!疾く在れ(きやがれ)双角の深緋(アルナスル・ミニウム)!」

降臨せよ(こい)天照大御神(アマテラス)!」

二体の眷獣が中央に向けて魔獣を追い立てる。

「今だ!紗矢華!」

「獅子の舞女たる高神の真射姫が讃え奉る!極光の炎駒、煌華の麒麟、其は天樂と轟雷を統べ、妖霊冥鬼を射貫く者なりーー!」

放たれた呪矢が空中に魔法陣を描き、そこから鎮静作用のある光が放たれる。

光を浴びた魔獣達は段々と大人しくなっていき、その場で眠りについた。

「なんとかなったか……」

眷獣の実体化を解き、古城が言う。

「まぁ、今ので俺達の存在はバレちまった訳だが」

霊斗はそう言って眷獣を人間体にする。

そこには未だにムスッとしている天音がいた。

「お前もか……」

疲れ果てたように霊斗がため息をつき、古城に助けを求める様な視線を向ける。

「俺にはどうにも出来ねぇぞ」

「はぁ……行くか……」

そう言って歩き出した霊斗の前に双叉槍が振り抜かれる。

「霧葉……」

「それが貴方の選択なのね、霊斗」

「そもそも聞いてた話と違うからな。詐欺だろ」

そう言って霊斗が氷牙狼を構える。

隣では雪菜も雪霞狼を構えている。

しかし、その間に紗矢華が割って入る。

「雪菜、霊斗。ここは私に任せて先に行って」

「でも、紗矢華さんは……」

「この女には借りがあるもの。倍返ししてやらなきゃ気が済まないわ」

「わかった、任せる」

霊斗はそう言って先に向かって走り出す。

その他の面々も霊斗を追っていく。

「あら、一度負けたのを忘れたのかしら?勝算のない勝負に挑む事ほど愚かな事はないわよ?」

「前は江口結瞳を護りながらだったから実力の半分以下で戦ってたのよ。本気出したらあなたなんか相手にならないわよ」

「言ってくれるじゃない……本気で殺すわよ?」

霧葉が獰猛な笑みを浮かべて双叉槍を構える。

それに合わせるように煌華鱗を構えて紗矢華が言う。

「殺せるもんなら殺してみなさい……対魔族戦闘のエキスパートの力、見せてあげる」

紗矢華の挑発的な台詞と共に、激しい戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんなのよこの厳重なプロテクトは!」

コテージでノートパソコンを睨みつけながら浅葱が言う。

『面倒な防壁だな。案外同業者がいるかもな、嬢ちゃん』

「そう思うならもっと処理能力上げなさいよポンコツAI!」

『ポンコツなのは俺じゃなくてこのパソコンだろうよ。ノーパソじゃスペック不足にも程があるぜ』

そう言ってモグワイがケケッと笑う。

浅葱自身ノートパソコンでは処理能力が足りないのはわかっているが、それでももどかしいことに変わりはない。

そこに、唐突なボイスチャットが割り込んでくる。

『お久しぶりでござるな女帝殿!』

聞いた事のない少女の声だった。

何となく喋り方に聞き覚えがない訳では無いが、浅葱の知り合いにこんな幼い声の少女はいない。

「誰よ、あんた……ってか女帝って呼ぶな!」

『誰とは酷いでござるな女帝殿!共に仕事をした仲間ではござらんか!』

「仕事って……まさかその喋り方、あんた"戦車乗り"!?」

戦車乗りとは、浅葱が公社でしているバイトの同業者で、何故か侍口調で喋る謎の人物だった。

『ボイスチェンジャー無しで話すのは初めてでござるな、女帝殿。とはいえ今は敵同士、呑気にお喋りしてる場合ではないでござる』

「このセキュリティはあんたが作ったのね……それならこの硬さも納得だわ」

そう言って浅葱は再びプロテクトを破りにかかる。

『あの女帝殿とこうして戦うことが出来るとは、拙者ワクワクするでござる!』

「こっちはちっともワクワクしないわよ……まぁ、すぐぶち抜いてやるから覚悟しなさい」

『拙者への挑戦でござるな?戦車乗り、リディアーヌ・ディディエ、その勝負に乗らせていただく!』

戦車乗りーーリディアーヌがそう言うと同時に、浅葱のパソコンのディスプレイに複数の防壁が展開する。

「面倒ね……モグワイ!このプログラムを流して!」

『了解だぜ嬢ちゃん。しっかし、喋りながらこんなプログラム組むなんてどんな思考回路してんだか』

「無駄口叩く暇があるならその分処理能力に回しなさい!本気で行くわよ!」

浅葱はそう言うと別のプログラムを即興で組み始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう出発した後か……一足遅かったな」

霊斗の視線の先にはもぬけの殻となった格納庫があった。

「出発したって……結瞳はどうなったんだよ!」

「今頃は主犯と一緒にレヴィアタンの近くだな。沈んでないといいが……」

「主犯、ですか?」

霊斗に雪菜が聞く。

「ああ、恐らく主犯はクスキエリゼの会長、久須木和臣。奴は前から怪しい動きをしてたからな、獅子王機関でも警戒対象になっていたんだ」

「そいつが結瞳を利用しようとしてるんだな?」

「ああ。早く追わないと最悪のテロが起きる。確かこっちに予備の潜水艇があったはずだ」

そう言って霊斗は格納庫の奥に走っていく。

格納庫の最奥にあった扉を開けると、予備の潜水艇が二台残っていた。

「そっちには古城と雪菜で乗ってくれ。アスタルテと天音はこっちだ」

霊斗はそう言って潜水艇の扉に手をかける。

「待てよ、キーがないと動かないだろ?どうするんだ?」

「そうだったな、ほら」

霊斗が古城に向けて鍵を投げる。

「なんで持ってんだよ……」

「だから、レヴィアタン撃退の為に協力してたって言ったろ。まぁ、一つしかないんだけど」

「ダメじゃねぇか!どうするんだよ!」

「まぁ見てろって」

そう言って霊斗は針金を二本取り出す。

それを鍵穴に入れ、数秒ほど動かす。

「はい、開いた」

霊斗はそう言って潜水艇のハッチを開ける。

「お前ってほんと無駄な技能ばっかりもってるよな……」

「今役立ったんだから無駄じゃないさ。ほら、そっちも早く準備しろ。急がないと間に合わなくなる」

霊斗はそう言って潜水艇に乗り込む。

アスタルテは霊斗の後に続き、天音は実体化を解く。

それを見て古城達も潜水艇に乗り込む。

ハッチを閉めると、無線で霊斗の声が聞こえてくる。

『そっちは追従運転にしてくれ。ディスプレイに出てるはずだ』

「これか?押せば良いのか?」

『ああ。レヴィアタンまで最速で向かう。酔わないようにしろよ』

「は?酔わないようにって、どうやってーー」

古城がそう言った瞬間、潜水艇は急発進を始めた。

「先に言えぇ!」

古城の悲痛な叫びと共に、潜水艇は海中へと進んでいった。




観測者の宴で戦車乗りは出し忘れてたので、今回が初登場になります。

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