海中でもぐんぐんと加速していく潜水艇の中で古城は霊斗に無線で聞く。
「おい霊斗!これあとどのくらいで着くんだ!?」
『もうちょっとだ。距離で言えばあと1キロくらいだが…見えてきたな』
「は?どこだよ……」
『目の前の壁みたいなやつだ』
「これ全部そうなのか…?洒落になってねえぞ…」
想像以上のサイズ感に困惑しながら古城は額の汗を拭う。
「それで、結瞳たちは?」
『ここからじゃ確認できないな。たぶんもうレヴィアタンの中だろう』
「マジかよ……早くしねぇと」
『ああ。とにかくまずはレヴィアタンに突入する。古城、ヤツでレヴィアタンの腹を食い破ってくれ』
「食い破れって……他にないのか?」
『ないな。迷ってる暇はないぞ』
霊斗の言う通り、ここで迷っていてはいつまでも結瞳を助けに行くことはできない。
「やるしかないってことか……」
2つの潜水艇が浮上し、霊斗の操作でハッチが開く。
「しくじるなよ!古城!」
「ああ!
古城の呼び声と共に、双頭の龍がレヴィアタンに向けて顎を開く。
しかし、レヴィアタンに触れる直前で弾き返される。
「なんだ!?」
「生体障壁か……雪菜!行くぞ!」
「はい!雪霞狼!」
「氷牙狼!貫けぇ!」
雪菜と霊斗の寸分違わぬ突きが生体障壁を貫く。
同時に古城が再び攻撃を繰り出す。
「喰い破れ!龍蛇の水銀!」
今度は確かにレヴィアタンの腹を喰い破ると、古城は眷獣の召喚を解く。
「潜水艇ごと飛び込むぞ!しっかり捕まってろよ!」
霊斗がそう言うと同時に、潜水艇がフルスロットルで発進する。
「そういう事は先に言え――!」
古城の絶叫と共に、潜水艇はレヴィアタンの中へと飛び込んだ。
「そろそろ準備は終わった?モグワイ」
『いつでも行けるぜ、嬢ちゃん』
その返答を聞き、キーボードを絶え間なく叩き続けていた浅葱の手が止まる。
『どうしたでござるか、女帝殿!よもや降参でもするでござるか?』
「そんな訳ないでしょ?今からあんたに警告してあげようと思っただけよ」
そう言って浅葱はエンターキーを押し込む。
「全力で防御しなさい。まぁ、もう遅いけどね」
『な……!ハッキング!?一体何処から!』
「あんたのとこの会社、セキュリティ甘いわよ。もっと良いファイアウォールでも作ってやんなさい」
浅葱の一言に、リディアーヌが息を飲む。
『まさかディディエ重工のコンピュータを経由して……!?相手は軍事企業でござるよ!?』
「だから余計にセキュリティはしっかりしなさいって言ってるの。改善点が見つかって良かったじゃない」
リディアーヌの攻撃が止み、浅葱のパソコンにクスキエリゼの研究所へのアクセス開始を知らせるウインドウが開く。
『ここまでやられてしまったら拙者に勝ち目は無いでござるな……流石は女帝殿』
「負けを認めるのね。だったら教えなさい、あんたがクスキエリゼに協力して何をしていたのか」
『それは……自分の目で見た方が早いでござろう』
リディアーヌがそう言うと同時に、浅葱のパソコンがクスキエリゼのサーバーへと接続される。
そこには大量のグラフの羅列とシステム名が表示されていた。
「LYL……?これは……」
『江口結瞳のリリスの力を引き出す為のシステム。所謂仮想人格でござる』
また面倒なものが現れた、とため息をつきながら浅葱は呟く。
「勘弁してよね……」