では、宜しくお願いします!
水の音。
より詳しく言えば強く水面を叩く音。
描写するなら高台から細長い緑がプールへ一直線に落ちる光景。
水飛沫が真っ直ぐに立ち、辺りの水面を大きく揺らす。
次の瞬間には足元から崩れるように柱が水面へ吸い込まれていく。
彼女がプールから上がる頃には、僅かな波紋も消え去ろうとしていた。
「皆大好きだろう?正義の味方。なぁ?」
皮肉気な顔をこちらに寄越す、正義の味方というより悪の味方の様な彼。
それに、若干の自嘲を込めて返す。
「・・・生憎、私は正義の味方が好きではないのでね」
「なんだ、お前は嫌いな者になろうとしていたのか」
『水も滴るイイ魔女』といった彼女は、髪の水を切りながら事も無げに言う。
いつもなら口角が上がり、これからどう料理するかと舌なめずりさえしそうな場面だが、今はこれといった表情を浮かべていない。
そんな彼女が放つ雰囲気に、話を逸らすという選択肢が消えていくのを感じた。
もしや、こういったときの為に普段あんな態度をしているのか?いや間違いなく素だな。
誰も居なくなり、静かになったプールへ自然と視線を向ける。
「私には、それしか無かったからな」
それでも、紡ぐ言葉は必要最低限。
全てを語る必要もあるまい。
誰かに理解されたかった訳ではない。ただ皆が幸福という結果が欲しかっただけ。
あの時の”自分”の言葉は全て間違いではないのだから。
「・・・」
そうだ、これでいい。
別に知る必要は無い。
「・・・だが、それはお前の世界での話しだ。今は俺達にとって必要な存在だ」
なんだ、存外やさしいではないか。
最も彼のことだ。自暴自棄になられては困るとでも考えて手を打ったのだろう。
だが一瞬思案する顔を見せたのは失敗だったな。
ほら、彼女も笑っているぞ。
「ふっ、覚えておこう」
ーーーーー
「紅蓮、か」
目の前の機体の名をこぼす。
量産機とは明らかに違う、どこか風格のある紅はそこにあるだけである種の存在感を放っている。
こいつがいつか黒の騎士団の旗印となる事は今から予想させられた。
鍵が放り投げられる。
「紅蓮弐式はカレン。君のものだ」
だろうな。聞くに彼女の腕はエース級らしい。
あの倉庫でも、人1人守りながら戦っっていたのは驚くべき才覚だ。
「えっ。でも、紅蓮の防御力ならあなたの方が。それにアーチャーもいるし」
「私にナイトメアは必要ない。それに乗りたいなら乗りたいとそう言いたまえ」
「ナイトメアが必要ないって・・・」
「そうだ。あくまで私は指揮官、アーチャーは基本援護。戦いの要は君だ」
実際、ナイトメアに乗って戦うメリットは神秘を隠し接近戦が出来るだけで、重要な場面で全力が出せないのはよろしくないだろう。
もし空でも飛べるというのなら、機動力確保の面では使えるやもしれんが。
「それに、君には戦う理由があるだろう」
「っ、はい!」
いい表情をしている。
本当なら君に戦って欲しくは無いのだが、そのようなカオをする者に言うのは無礼だろう。
「ゼロ、ちょっといいか?」
そう遠慮がちに投げかけるのは黒の騎士団の副リーダー扇要。
副リーダーと言ってもゼロと共に作戦を考えるといったことではなく、皆のまとめ役としてその地位に就いているのはまだ数度しか会っていない私にも掴めた数少ない事の1つだ。
そんな彼が告げるのはこれからの重大な分岐点の1つだという事を、この場にいる誰一人としてまだ知るよしもない。
ーーーーー
「山一つを丸ごと要塞化としているのか」
今私が立つのは、要塞化された山と別の山。
山の片面全てが視界に入るその場所は、私以外誰もおらず動物や草木さえ息を潜めているかのような静けさが漂っている。
空に広がるは、鉛玉を溶かし雑に塗りたくったような雲雲が一面を覆い、陽の光を通さない。
これから起こる事の暗示かの様なその色はしかし、これから派手に吹き飛ぶことになるだろう。
さて、それでは今回の作戦の復習でもしておこうか。
今回の作戦、どうやらゼロとしてだけではなくルルーシュ個人としても用があるようだ。
その事もあり、作戦の第一目標はコーネリアの確保にあるらしい。
どの様な用事があるのかは知らないが、ゼロとしてみても重要なのは確かだろう。
第一目標の他には黒の騎士団の力を見せ付ける事がある。
誰の目にも容易く勝てた事を証明するために、山には申し訳無いが少々不恰好になってもらう。
その上で犠牲が少なければ、手を抜いても勝てると見ている人全てにわかって貰えるだろう。
だが、それだけでは降参しない可能性が高く、そうなれば頭であるコーネリアを叩かないと意味が無い。
山の裏側に居るともしれないので、その時は紅蓮の役目だ。
全てが上手くいき、簡単に手を出せない戦力が日本人の見方をしているとなれば、ブリタニアの気まぐれで虐殺したり余りにも不利な政策は進めずらくなるだろう。
それに、コーネリアを圧倒的に敗北させれば他国からも多少の注目はされるだろう。
そうなればこちらに取り込むのは容易くなる。
世界を纏める第一歩となる訳だ。
かなり重要な作戦だが、する事がこの間と変わらないのが何ともまた。
この世界に来てから自分の本分が遺憾なく発揮されているのは喜ぶべきなのかどうか。
一つ息をつき、山の方で作戦を開始したであろう、ブリタニア軍のナイトメアを補足する。
さて、そろそろ開始の時間かね。
魔力で編んだ弓に、記録から掬い上げた全てを捻じ切る螺旋剣を番える。
周囲をエーテルの嵐が吹き荒れる。
そうしていると無機質な通信音が開始を合図する。
張り詰めた糸が限界まで引き伸ばされたと感じた瞬間に放つ。
放って直に着弾するであろうそれは、だが手を離すその時には既に山の頂上に吸い込まれて行くと”見えて”いた。
ーーーーー
僅か数分で辺りの地形は凸凹に変形し、それでもなおそこに転がるナイトメアは爆発ではなく穿たれた穴によって行動不能となっている。
これがただの烏合の衆ではなく、ブリタニアでも精鋭のコーネリア率いる隊だと言うのはその場にいるブリタニア軍に衝撃を与えた。
私といえば、目に映る範囲を派手に爆発させナイトメアを行動不能とした後直にゼロの方へ向かっていた。
前回の様に不測の事態に手が出せないのはよろしくない。
その為、連なる山の木々を足場に反対側へ移動する。
反対側には丁度コーネリア隊が黒の騎士団の総戦力と対峙しているはずだ。
日本解放戦線がどうなっているかわからないが、あれだけ要塞をボロボロにされただ。
そう簡単に混乱が収まるとは思えないが、それでも慢心だけは切り払う。
状況は常に最悪を想定しておく物だ。
更に足へと力が入る。
己の駆る身体が、心がもっと早くと先を急ぐ。
これは数えるのも億劫になるほどの経験に裏打ちされた予測だ。
ある種のパターン性ともいえるそれが速く早くと警鐘をならす。
追い込まれた者の行動は端的に2つに分類される。
ー逃げるか、徹底的に抗うかー
もっと速く。もっと早く。
それは突然だった。
戦火も下火となった今突然響いたのは全てをなぎ倒す爆発音。
これは間にあっというべきか否か。
「ゼロ、間もなく到着する。今の音は?」
「例の白兜だ。急げ!コーネリアはまだ捕縛していない!」
状況を見通せる高さの木の上に立つ。
「今着いた」
「よし。では白兜の破壊を。全軍に告げる。残存勢力をここへ通さぬように私を中心に陣を敷く」
成る程。あくまで方法を見せるリスクを抑えながら周囲の索敵を開始する、合理的な選択だ。
聞きながら、ナイトメアを下せるだけの神秘を放つ。
同時に、黒の騎士団のナイトメアが撤退しながら銃弾を放つ。
白兜へ先に届いたのは銃弾。
だがそれは突如現れた薄緑をした盾で防がれ、続く私の矢も完全に防がれる。
思わず歯噛みする。
そんな心とは別に体は既に次の矢を放つ工程に入っている。
一切の隙を与えず、絶え間なく白い機体に矢が降り注ぐ。
「ゼロ。あの機体を落とすには状況が悪い。破壊しようとすれば君も巻き込むことになるぞ」
「あわてるな。その状態を維持すれば奴のエネルギーもそう長くは持たない。続けられるか?」
「問題ない」
山片面を制圧した時と同等の時間が過ぎ、その時はやってきた。
エネルギー切れだろう、薄緑の盾が消えた。
見れば、ずっと攻撃を受けていた余波からか既に機体はボロボロだった。
そこへ容赦なく両足に穴を開ける。
”死んだフリ”というのは野生の世界にも存在する生き残る為の手段だ、用心は欠かさない。
白兜、コーネリアは制圧済み。
コーネリア軍の大半は既に行動不能、残った戦力もコーネリアの指示だろうか撤退を始めている。
だが油断は出来ない、さっきのような想定外を起こされる前に、作戦を終了するのが賢明だろう。
「諸君、遂にコーネリアは我が手に堕ちた。これより速やかに撤退する」
「アーチャー。君は白兜のパイロットの確保を」
壊れた機体を回収するのはこの状況では厳しいだろう。
ここを潔く引けるのは彼の戦術眼の成せる業だな。
木を降り、倒れている白兜の元へと歩みを進める。
それと呼応するようにコクピットが開き中からは少年と言って差し支えない風貌の男が・・・。
というより、見覚えがある?
枢木スザク・・・か?
「失礼。悪いが君を拘束させてもらう」
彼の目がこちらを捉える。
ふむ、あれは最後まで抵抗する者の目だな。
コクピットから飛び降りると同時にこちらへ向かって疾走する。
なるほど、運動能力は人より幾分か高いようだが、それでもまだ”その域”には遠く及ばない。
繰り出される右腕を捉え最小の動作で背中から地面へ落とす。
そのまま掴んだ腕を捻り地面へとうつ伏せの状態へ移行させ身動きの出来ないように捉える。
「出来れば手荒な真似はしたく無いのでね。これ以上の抵抗は止めてくれると私も助かる」
首を捻り、こちらを見やる眼光はまだ鋭い。
「君達のやり方は間違っている」
・・・これは彼がブリタニア軍に所属している事と関係していそうだな。
だが今問答をする事は出来ない。
「その話は後でしよう。悪いが早急にここから離脱する」
拘束を終えた彼を片腕で担ぎゼロの駆る無頼の手へ飛び乗る。
さて、今回の作戦は完全に成功したがこれは足掛りに過ぎない。
これから更に忙しくなるだろう。
ふと空を見上げる。
先ほどまで重く圧し掛かる様だった空はしかし、予想通りに所々から陽の光が漏れ今にも鉛は溶け出していきそうだった。
ナリタ連山での出来事は世間を、いや世界を圧巻させた。
たった数分でコーネリア軍が追い込まれていくその手腕、軍では緘口令が敷かれていたが『人の口に戸は立てられぬ』という言葉があるように、それは瞬く間に広がっていった。
元々あれだけの規模だったのだ。簡単に隠せるものでもない。
それにコーネリアが黒の騎士団の新型ナイトメアに敗れ、拘束されたとあっては今更その力を疑うものはいなかった。
何より、ナイトメアに穴が開いていてなお搭乗者が生きているというその状態は、日本人にとって7年前の”奇跡”の再来と大きく反響を生んだのだった。
そして
「お久しぶりです。姉上」
各々の戦いは
「さて、私達は現在暇人同士。どうだね少し話でも」
次のステージへと進んでいく。
実はハロウィンに合わせて番外編も考えていたのですが(ハロウィンの起源がケルト人だったので)途中でしんどくなって諦めました()
ともあれ、本編いかがでしたか?
弓に徹したエミヤさんはこの位平然とこなすだろうとこんな感じの展開に。
次回はまたもや「お話」回でしょうね。
では、ありがとうございました!