骨太元ギルド長は穏便に   作:月世界旅行

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 平和とは戦争と戦争の間、戦争が起きてない期間に名前をつけたものである。  

 


エピローグ 死の支配者サイド+A

 

 

 魔導王、すなわちナザリック地下大墳墓およびアインズ・ウール・ゴウン魔導国の絶対支配者。 至高にして最強の存在は大きな仕事を終え、執務室で頑丈そうな椅子に体重を預けながら天井を見上げている。

 「アインズ様、アダマス幹部との会談、お疲れ様でした」

 豪奢な黒檀の机の向こうに立つ、背筋をピンと伸ばした悪魔が満面の笑顔で口を開いた。

 「ああ、ありがとう、デミウルゴス」

 アインズは真上に向けていた視線を落とし、ナザリック地下大墳墓第七階層守護者、デミウルゴスの労いに感謝で応える。

 「流石は天上の一三人の中でも選りすぐりの五人、中でもあのトラバサミなる男は…」

 「あの男はこの世界に来て数百年もの時を過ごしている。 長い時間を生きるというのは、それだけで精神をすり減らすものだ。 しかし…」

 不壊国アダマス幹部との会談終了後、トラバサミだけを呼び止めて、アインズは気になっていたことを尋ねていた。

 ラージ・ボーンとエ・ランテルですれ違ったとき、密かに尾行をつけさせたことがある。 しかし、半日もしないうちに、そのシモベが何者かによって殺されてしまったのだ。

 シモベを殺害した存在は、ラージ・ボーンを陰ながら見守り続けていたトラバサミだと推理したアインズは、本人にそれとなく「ラージ・ボーンに近付こうとした者を殺したことがあるか」という意味合いの言葉を投げかける。

 トラバサミの返答は「ノー」だった。 彼曰く「相手を殺せば取り返しのつかないことになりかねない。 だから、キーン村の周りに仕掛けた罠も、致死性のものではなく、転移させるものにしていた。 多少の嫌がらせはしても、命まで奪ったことはない」 

 トラバサミの言葉をそのまま信じるのであれば、いったい誰が尾行させていたシモベを殺したのか。

 

 「アインズ様、どうされました?」

 アインズが口元に手を添えて熟考していると、デミウルゴスが口を開いた。

 「いや、少し考え事をな… それにしても、あのトラバサミとかいう男… いや、あれは本当に男なのか? 人間形態の顔を見る限り、中性的でどちらとも判別できないものだったが… それとも、エントマのように擬態とか? まあ良い、それは大した問題ではあるまい」

【挿絵表示】

 

 「…人間形態と言えば、かのハーフブリンク殿も、会談の折は人間の姿を取っておられましたね。 魔獣との戦闘時には緑柱色の神獣の姿をしていたので、少し驚きました」

【挿絵表示】

 

 「ああ、なんというか… 可愛らしい姿だったな、どちらも」

 「神獣形態のハーフブリンク殿を見たアウラが目をキラキラさせていました。今後、多少の交流程度であれば、その時間を設けても良いかも知れませんね」

 

 魔獣達との戦闘について話が上がり、アインズは「アダマスの元メンバーが現れた際に、ナザリック守護者との混合チームを作成し、魔獣討伐に当たった理由」を思い出していた。

 「そういえば、魔獣との戦闘で、得られたものはあったか?」

 「アダマスメンバーの戦闘データのことですね? チームを組んだ守護者より、まとめられた情報は既に上がっております。 私とアルベドとで清書した後、アインズ様にお渡しする予定となっております」

 「うむ。 赤錆とトラバサミが作成した、例の情報に改竄(かいざん)部分が存在することが分かった以上、より確かなデータが必要だ。 不壊国と戦争など、やりたくないが、万が一の備えはしておかなくてはならない。 現時点で正面衝突した場合、敗北はなくとも、甚大な被害は避けられないだろうからな」

 「仰る通りかと… 早急に纏め上げ、提出させていただきます」

 「そう焦るほどのことではない。 お前達には魔導国の法律についても注文をしているのだから、そちらを優先させろ。 それと… 無理だけは絶対にするな」

 「とんでもない! 我々はアインズ様の忠実なるシモベ! 頂いた職務を全うすることに、無理などあるはずはございません。 アインズ様からのご使命は、正に至上の喜び!」

 「あ、ああ… 感謝するぞ」

 「感謝などもったいない! 我々シモベ一同…」

 

 デミウルゴスの賛美は止まらない。 アインズの眼窩に灯された赤い火の輝きが、目を伏せるように小さくなる。

 「あー… デミウルゴス、たしか赤錆はバックアップを使った頃からの記憶がないと言っていたな」

 アインズは話題を変えるため、口を開いてデミウルゴスに尋ねる。

 悪魔は歓喜の笑顔をまるで機械がスイッチを切り替えるように、表情を整えた。

 「その通りです。 シャルティアを精神支配したときに使われたと思われる世界級(ワールド)アイテム… その複製品(レプリカ)を、赤錆殿の部下である巫女が使用したという事実、決して看過できるものではありませんが、赤錆殿…いえ、その時は『予言者ノア』になっていたわけですが… そのノアがオリジナルをどこで手に入れたのか、巫女は知らないと言っていました。 ノアや巫女がスレイン法国と繋がっていたことは明らかですので、世界級(ワールド)アイテムと…」

 「デミウルゴス、早合点するなよ? それこそ、ナザリックと法国との関係性を悪化させようとする者がいるかも知れん」

 「なんと! そ、その発想はありませんでした」

 デミウルゴスは心底驚いた表情になる。

 アインズはカルネ村を襲った帝国騎士団の装備をした一団のことを思い出していた。 相手に間違った情報を信じ込ませる。 その方法の有効度も危険性もよく知っているための警戒心だった。

 「赤錆の記憶が無いとしても、巫女は傍にいただろうから、まったく何も知らないということは有り得ないんだがな」

 「会議に同席していた巫女の話では、ノアには「お隠れになっていた時期」があるために、全てを知っているわけではない… とのことでしたが、それでもこちらに提示していない情報はまだまだありそうですね」

 「デミウルゴスから上がってきた、「ノアの方舟」の接収結果だが… 空だったそうだな?」

 「はい。 確かに、方舟の装甲や残されたマジックアイテム、メインエンジンである概念炉… は壊れていましたが、それらを手に入れられたのは良き収穫だったと言えます。 ただし、予言者ノアに関する資料は発見できておりません」

 「…ナザリックの情報も、全てアダマスに提供しているわけではない。 ならば、これで良いのかもしれんな。 デミウルゴスよ、全シモベに伝えろ、「アダマスに対する調査の類は一切禁じる」と」

 「…恐れながら申し上げます。 おそらく不壊国は周辺国家で唯一、我らがナザリックの脅威と成り得る組織、警戒は必要かと」

 「調査は禁じるが、情報収集まで止めるとは言っていない… わかるな?」

 

 アインズの言葉を聞いたデミウルゴスは目を見開いた後、悪魔の微笑みを浮かべる。

 「畏まりました。 確実に伝えておきます。 流石はアインズ様… そこまでお考えとは…」

 「アウラとハーフブリンクの交流の話、前向きに進めても良いかもしれんな」

 「はっ!」

 

 

          ●

 

 

 「つかれたよー」

 新興国家、不壊国の王、ラージ・ボーンは大理石でできた豪奢な執務机に上半身を投げ出す。 肉も皮も無い、骨だけの身体に、綺麗な光沢を持つ絹のガウンを羽織った主人に対し、机の向こう側に立つ秘書、ヴァーサ・ミルナは優しい微笑みを浮かべながら、労いの言葉を寄せる。

 「お疲れ様でした、陛下。 これで、自分で溜め込んでおられた仕事は完了です」

 辛辣な文言とは裏腹に、声色はとても柔らかい。 心の底から敬愛を込めた言葉であることは、言われた本人も理解できる。

 「ああ、ありがとうヴァーサ。 手伝ってくれたお陰で今日中に終われたよ」

 「どういたしまして。 これかは溜めないよう、毎日時間を決めて…」

 

 ラージ・ボーンは王という責任ある立場になってからというもの、人間だったころのサボり癖が現れ、度々ヴァーサの目を盗んでは城下町やナザリックに逃亡していた。

 ナザリックがバハルス帝国協力の下、建国するにあたって、やや強引に推し進められたもう一つの建国。 それはリ・エスティーゼ王国と帝国との国境に存在していたキーン村と、その周辺、かつて帝国騎士の装備をした一団に攻撃を受け、崩壊した村々を含んだ範囲が独立してできた国である。

 魔物の大群から王都を救った二人の英雄の片割れ、ラージ・ボーンを王に据えた「アダマス・ラージ・ボーン不壊国」縮めて「不壊王国アダマス」や「不壊国」と呼ぶ者もいる。

 

 

 不死者(アンデッド)であるラージ・ボーンは疲労を感じないはずではあるが、人間時代の残滓が「精神的疲労」という幻を見せる。

 溜め込んだ仕事と言っても、部下が持ってくる資料に目を通すことぐらいではあるが、重要な案件の、実行許可を下すのは最高責任者であるラージ・ボーンにしかできない。

 責任という言葉が、なによりラージ・ボーンに「幻」を見せるのだ。 「ごめんなさい」の一言で済ませられるようなことは、王が判断を下すまでもない。 であれば、自分の前に持ってこられるような事案とは、最悪、国の財産を浪費させかねない内容ばかり。

 斜め読みなど、できるはずもない。

 

 目に見えない何か、身体のどこかの部分を磨り減らす思いで数時間に及ぶ死闘を終えた大戦士は、猛烈に誰かに甘えたくなっていた。

 筋肉も失った四肢のどこの筋を伸ばすわけではないが、理由もなくラージ・ボーンは両手を前にだす。 五本の指を広げ、その先までピンと伸ばした。

 

 「陛下?」

 ヴァーサは首をかしげながら自分の方向に伸ばされた骨の手に、その一回り以上小さな手の平を重ねた。 その瞬間、ラージ・ボーンの肩がビクッと大きく震える。

 「し、失礼しましたっ!」

 すぐに手を引こうとするヴァーサの手を、骨の指が掴む。

 「ちがっ… 嫌じゃないんだ。 むしろ、もう少しそのままで… なんていうか、癒されるよ」

 「ラージ様… 」

 

 ラージ・ボーンは伏せていた顔を上げて、重ね合う手のひらを見つめた。 そこから伝わる体温に、言い得ない喜びや、嬉しさを感じながら。

 彼女と出会ってから様々なものを共に乗り越えてきた。 時に励まされ、時に頼られ、弱音を吐いたこともある。

 「いつもありがとう、ヴァーサ。 君がいなかったら、本当に… 自分はダメになってしまっていた」

 「そんな… 私の方が、何度も救っていただきました。 私は今、陛下のお傍にいられることが、何より幸せなんです…」

 

 ―――コンコン

 「骨太くん、仕事終わった~?」

 

 執務室の扉の方から聞こえたノック音と声に王と秘書は合わせていた手を咄嗟に引いた。 その動きは訓練を受けたものでさえ見逃すほどの速さ。

 一度深呼吸をして心を落ち着かせたラージ・ボーンは声の主に返事をする。

 「ああ、終わってるよ、スカアハ」

 

 勢い良く開かれた扉から、元気いっぱいの美少女が現れた。

 スカアハは長い黒髪を揺らしながら、やや早歩きでラージ・ボーンに近づく。

 「今日のお仕事終わったら、あたしと稽古してくれるって約束してたよね!!」

 「あ、ああ… その通りだ。 今終わったところだから、付き合えるよ」

 「それなら早く! 早く~!」

 椅子に座るラージ・ボーンの手を引っ張りながら強請(ねだ)る少女に、王は戸惑いながらも席を立ち、秘書に目を配る。

 「すまないヴァーサ、そういうことなんで、行ってくるよ」

 「はい、行ってらっしゃいませ。 大きな怪我にならないよう、気を付けてくださいね」

 「ああ、ありが… うおっ!」

 「はーやーくー!」

 

 スカアハは強引に立たせたラージ・ボーンの背を強く押しながら執務室の出口へと向かう。 途中、一度振り返り、退室しようとする二人を見守るヴァーサへと顔を向ける。

 

 「それじゃ、お借りしま~す」

 押されるラージ・ボーンにはスカアハの元気の良い声が聞こえる。

 しかし、ヴァーサへと向けられた表情は、勝ち誇った笑み。

 

 「どうぞ、また明日には『二人で』作業いたしますので、お構いなく」

 部分部分を強調させた言葉でヴァーサは返事をした。

 

 

 平和的共存とは、歴史に鑑みても、人類が最も苦手とするものである。

 

 





 【うp主コメント】

 『骨太元ギルド長は穏便に』これにて終幕となります。
 最期まで読んでいただき、ありがとうございます。
 一応前回で完結しているのですが、エピローグとして今回を投稿させていただきました。
 エピローグを含めると全48話。 1クール12話の4クール分…とかキリが良さそうな気がしないでもないです。

 気がつけば初回のUA数が一万を越え、五百近い方々にお気に入りにしてもらい、大変ありがたく、そして原作『オーバーロード』の人気振りを感じました。

 原作が未完結作品であり、本作は原作に沿った物語としているので、完全完結はさせていません。
 第一部『ノア編』完! といったところです。

 ご要望があり、もし『第二部』を投稿するとしたら年度明けになると思います。
 内容は原作10巻~11巻、アインズ様があっちに行ってる間、ラージはあっちに行って、あの方があそこに行くのにヴァーサが同行して、11巻ラストの例の話を聞いたラージがー…完 といった簡単なプロットは作っています。
 もしくは、別視点の『外伝』を投稿するか…

 エピローグで新たに書いた二人の元メンバー(人間形態)のイラストを挿絵として載せています。 所謂セバス・チャンみたいな、ノー本気モード。
 一人は口癖が「ぶふー」なのに、人間形態はあの見た目。

 第二弾開始前にご要望があったものや思いついたものをいくつか書いてみたいと思っています。 ある意味蛇足かも知れませんが…
 ナザリックお風呂回(ラージもいるよ)やジルクニフとラージの面談、アウラとハーフブリンク(+ハムスケ)の交流、トラバサミ少年の事件簿、赤錆とデミウルゴスの対談etcetc......

 思考の羅列となってしまいましたが、以上であとがきとさせて頂きます。

 重ね重ねではありますが、最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。
 
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