転生者は駆け抜ける   作:ポピュラー

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五千文字で、三週間……だとッ!?

すみません、遅くなりました。
難産でした。



九話っぽい何か

「はぁ~……鬱だ」

『減らず口叩く暇が有れば、とっとと走ればいいじゃないですか。あの程度の距離なんて一秒掛かりませんよ』

「ははっ、手厳しい事で……」

 

 何とも居た堪れないものとこれから対面するかのような、疲れたアルカイックスマイルを浮かべてヘレンへ返す。

 俺と望は森の中にいた。正確に言うと、あの黒煙が上がっていた場所に向かっているのだ。

 もう既に手遅れの状態なら沙月も非情ではあるが諦めが付いたのかもしれない。だが、村の戦士と思われる人間達が、唯の鉄製の様な剣で戦い、戦えない老若男女を必死で逃がそうと戦っていたのだ。

 これに望や希美が良い奴オーラ爆発、そしてそれを訴えられた沙月の良心の呵責の押しもあり、望と俺は救援に、沙月と希美は何かあった時の為にと学校の防衛へと配置が決まり、今に至る。

 ただ、村に到着して生き残りが居れば保護、いなければ戦わずに撤退だと言いつけられているので、不謹慎な考えではあるが、もしかしたら“戦わなくていい”かもしれない――それを考えると、気分は大分軽くなる。

 

「(ま、連中がどうなろうと知ったこっちゃないんだが……)」

 

 今の尊にとって最大の目的は“面倒事”の回避であり、それは即ち“物部学園に危害が及ばないようにする事”である。

 今回の様に、異世界の人間が異世界の事情で幾ら死のうと尊には関係ない。顔も知らない人間を助けるより、身近な友人達を守る事の方がよっぽど危険を冒す甲斐がある……というのが尊の持論だった。

 そも、人間はエターナルに遠く及ばない。それは第四位以下の神剣使いであろうと、エターナルからすれば“唯の人間”に等しい。

 コップを握る感覚で触れれば砕け、散っていく。

 唯でさえ取り扱いが難しい物を、自分が抱えきれなくなるまで抱いてやる義理はない。

 尊の理性は素早く取捨選択を決め、彼らを端から見捨てた。

 

「(ただ、なぁ……)」

 

 そんな尊でも、断り切れない物があった。

 真っ直ぐに向いた、汚いものが無い純粋な眼をした“近しい友人”の頼みだ。

 それが、今隣で必死に走り急いでいる。

 ただ、真っ直ぐ――愚かしいほど真っ直ぐ、望は前を見つめている。

 その先にある村が、今どうなっているかを知っていながら、それでも助けれると信じている眼だ。

 この場でただ一人、望はそれを信じて駆け抜けている。

 

「(あーくそ。コレは腹を決めるしかないフラグか?)」

 

 尊は知っている。

 否、知らされている。

 こうして駆けている間にも、襲われている村から生命力(マナ)が消えていくこの感覚。

 数千年も慣れ親しんだ“感覚(コレ)”に間違いなどない。

 弱者が淘汰される現実を常に目の前からぶら下げられている鬱陶しさに、ただただ苦笑するしかない。

 矢継ぎ早に送られてきては過ぎ去り消える。

 このままでは、おそらく間に合わずに全滅してしまうだろう。

 だがしかし、それを望に伝える様な真似はしない。

 伝え、聞かせ、諦めさせる。その場合、物部学園の安全は一先ず確保され、余裕を持ちながら帰る方法を模索できるだろう。

 それが一番無難な選択だ。

 そう分かっていても、尊は望達の頼みを断らなかった。

 そうだ、断らなかったんだ――そう自分に言い聞かせて。

 

「――フン」

「ん? 尊、どうかした?」

「……いや、何でもねぇ」

 

 尊はかぶりを振ると、そのまま何事も無かったように前を向いた。

 だが内心は大きく揺れていた。

 もう一度かぶりを振る。まるで、何かを認めたくない、とでもいう風に。

 

『主、大丈夫ですか?』

「(ああ、別に何ともねぇよ。……下らない事を思い出しちまっただけだ)」

 

 尊にとって、もはや過ぎ去った“記憶”だった。隣を走る望はそんな記憶を微かに彷彿とさせる。

 それを尊は“下らない”と言い捨てると、閉口して走る事に専念した。

 

 

 

 

『主……』

 

 ヘレンはそれ以上何も言えず口を噤む。無表情のまま走り抜く自らの主人を、守護すべき神獣であるヘレンは、見ることなど出来なかった。

 尊が何を思い出したのか……既にヘレンは気付いていた。

 “あの時”の事だろう――と。

 数千年。悠久というにはほど遠く、人生というには長すぎるその時間は、ただ空虚に生き続けて過ごしてきた訳では無い。

 多くの出会い、別れを繰り返しながら。

 笑い、喜び、泣き、叫んで、それでも尚。

 尊は間違いなく、駆け抜けたのだ。

 あの日まで。

 

『主……』

 

 ただ一人、自分を責めて。

 尊は止まった。彼はあの日から一切進む事を諦めてしまった。

 そんな彼に、何故自分が“あの日”の事を言えようか。

 

 尊が家族(・・)と呼んでいた彼らを砕いたのは、他ならぬ“九天(じぶん)”なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 望と尊はそのまま森を走り抜けていたが、そう上手く事は運ばなかった。

 もう少しで目的地に着くという頃合いで、突然ミニオンの集団に襲い掛かられたのだ。

 これには望も思わず舌打ちした。途中で襲われ無ければ、一人でも多く助けられるかもしれないというのに。こんな所で遭遇してしまう運の無さを恨まずにはいられなかった。

 運に恨むのは筋違いかもしれないが、この怒りと焦りの感情を何処にぶつければいいだろうか。

 

「ハァ~、マジかよ……」

 

 背中越しに、尊の声が耳に届く。彼も望と同じくこの状況に怒りと焦りを感じているのかもしれない、と望はそう思うと少しだけ気が楽になる。

 今、望達は背中合わせでミニオンに向かい合っていた。

 ミニオン達も望達を囲い込むように円を描いて固まっていた。

 数の上ではミニオン達が有利なのは確実。しかし、戦いは膠着状態に落ち着こうとしていた。

 何故?

 その答えは望達の足元にあった。

 未だマナの塵になっていないミニオンが二、三体転がっていた。これらは、望達が倒したミニオンだ。

 確かに、数ならミニオンが上――しかし、個々の実力では望達と比べるべくも無い。神剣の位階すら持たず、実力もそうないと来れば、基本値が格段に上の望達に負ける道理はない。

 しかし、それにも限度がある。

 基本、一対一の戦いで神剣持ちが敗れる事は、まず無い。

 だが、二人三人……と相手の数が増えれば話は別になる。

 しかも、望は別段格闘技の習い事に通っていた試しはない。望がミニオンに対抗できるのは(ひとえ)に自分の神剣である黎明の位階が第五位と高位に有る為、それによって身体能力が引き上げられているからに過ぎない。

 格闘技のプロが見れば、口をそろえて『なっていない』と言うだろう。

 それでもこの不利な状況で戦えるのは、

 

「ノゾム、来るぞ!」

「背中は任せろ、望」

 

 望の守護神獣であるレーメと、運動神経が良い親友である尊がいるからだろう。

 レーメが望に指令を出して、尊が望の背中を守る。

 この陣形が一つでも欠けていれば、今頃どうなっていたか……おそらく、もっと酷い状況になっていたに違いない。

 ともあれ、多くいたミニオン達も望達の活躍によってその数を多く減らしていた。

 だがしかし、あと三十ほど。

 ミニオン達も襲い掛かるのは得策ではないと気付いて、今では望達の出方を見ているだけだ。

 このままでは拙い。経験が無い望とて、それぐらいは分かっている。

 だが、迂闊に打って出れば数の暴力に晒されてしまうだろう。動かずにいるからこそ、この陣形に隙は生れない――逆を言うと、動けば隙が生まれてしまう。

 それに加え、先ほども言った通り望はこういった戦いの経験が無いというのが仇になって、尊の動きに着いていける自信がない。

 その事にやるせない思いになるも、焦りは徐々に積もっていく。

 

「――フッ」

「ッ!」

 

 突然、望の背後から尊の背中の感触が無くなったと思った瞬間、何かを切り裂く音と共に、再び尊の背中の感触が戻る。

 背後で起きるこの現象は、望からは見えない。しかし、効果は絶大である事は目に見えずとも分かるほどハッキリとしていた。

 

「うむ、流石だなタケル。一撃離脱とは中々やるな」

「正確には二撃だぜ。……ま、小っせぇ頃に剣道やっててな。やっといて良かったぜ、全く」

 

 口ぶりこそ軽くはあったが、その攻撃は望ですら簡単に“達人”の域に達していると分かるほどの絶技であった。

 レーメ曰く、ミニオン達が一番反応しにくい間を狙い、一瞬のうちに間合いに捉えては斬って、周りが反応しようとした瞬間には戻ってきているらしい。望からでは背になっていて分からない。

 しかし、本当の事だろう。尊が望の背中を離れているのは、文字通り一秒程度でしかない。その間、ミニオン達は碌な反応も出来ていないのが見ていて分かる。

 その刹那の間に、尊はミニオンを倒しては、防御を完璧にして戻っているのだ。

 第五位と第十位。望と尊の神剣の位階はこんなにも離れているのに、しかし実力は今のところ尊が圧倒的に強かった。

 望自身、尊と戦うという事自体が有り得ないが、もし本気で戦えばあっさりと負けてしまう事は想像に難くなかった。

 そしてそれは、今この場で最も自分が役立たずである、という事の証明でもあった。

 先ほどから、望は一体もミニオンを倒していない。向こうから掛かってこないのだ。

 そして尊は、達人技である一撃離脱で、徐々に敵を減らしている。

 自分は、尊が倒してくれるまで動けないのだと、気付く。

 そんな自分を、望は恥じた。

 神剣を手にし、皆を守って帰るという決意をした自分が、逆に守られている。

 なんという為体(ていたらく)

 経験の差を差し引いても、望はその事実に耐えられなかった。

 元よりこの様な状況になったのも、望が村の人間達を助けたいからと思ったが故に作り出された。ならば、この状況は神が望にもたらした皮肉なのか。

 

 ――そうだ、村! 直ぐに助けに行かないと!

 

 自らの危機、そして自分が足を引っ張っているという現実に追いやられていた目的が望の中で焦りとなって後押しをする。

 そして望は、次の瞬間暴挙に出る。

 

「ノゾムッ!?」

 

 次の尊の一撃離脱に合わせて、望がミニオンに向かって飛び出した。

 レーメの驚いた声に、遅れて尊が顔を驚愕に染める。

 しかし、望の耳には届かない。彼の頭には今、ミニオンを早く倒すという事以外に考えられない。

 加速は充分、タイミングも良し。

 

 ――この一撃で、決めるッ!

 

 未だ反応出来ていないミニオンに、黎明の刃が振り下ろされる。

 振い落す様な一刀は、遂に直撃の手応えを得た。

 眼前のミニオンは、紙の様に容易く断ち切られ、目の前で倒れ伏す。

 

 ――やった! 倒した、倒した倒した倒した!!

 

 その手応えに、確かな物を感じる。

 この瞬間、望は達成感で満たされた。自分の中にいた破壊の衝動が雄叫びを上げ、身体を粟立たせる。

 その時、望の身体で押さえつけられていた“破壊神(ジルオル)”が囁いた。

 そうだ、それでいい。もっと、もっと敵を――ッ!

 

「ノゾムッ、バカもん、早く――」

「避けろ、望!!」

「ッ!?」

 

 二人の渾身の叫び声に耳朶を叩かれ、望は途端意識を取り戻した。

 だが、遅すぎた。

 一撃離脱において最も重要なのは、離脱――即ち、どれだけ素早く撤退出来るかにある。まともに斬り合っては敵わぬからこそ、この技が生まれたのだ。

 望が生み出した一瞬の隙は、ミニオン達が反応するには充分な隙を与え、それを逃がすまじと三体のミニオンが望に躍り掛かる。

 これに対し、望は追い詰められる事に危険を覚え、咄嗟に迎撃に移る。

 振り下ろされた剣を右の剣で弾き飛ばし、黒いミニオンの抜刀を左に握った剣で受け流す。

 ここまでは良い。

 ――では、三体目の槍はどう躱す?

 

「くっ!?」

 

 それに気付いた時、望は己の浅慮にも気付かされた。両手の剣は先の二撃を弾いた、だがそれ故に大振りになってしまい、この状況に対処するのは難しい。

 

 ――ダメだ、避けれない!

 

 強張った身体に、崩れた体勢、先を打たれたタイミング。その全てが望に対して不利に働く。

 飛び退こうと足に力を入れるも、間に合わない事は予測できた。

 ならば、諦めるしかないのか?

 己の思考が絶望に染まる中、動かない望の身体は時間が凍ったように反応することはない。その目の前の光景もまた、望に引きつけられたかのように動きを遅々と進めていた。

 一般的には走馬灯と呼ばれる有名な現象も、望には初めて見る神秘の様に感じられた。

 そこへ、自分の胸元にゆらりと襲い掛かる、死神の鎌の如き槍。

 見えているのに、動けない。

 そこで望は目を閉じた。

 何故、と理由を問われても、当の望にも分からない。目の前の現実から目を逸らそうとしたのか、この後に来る痛みに耐える為か、それとも。

 

 そして、槍を突き出したミニオンが吹き飛んだ。

 熾烈に、苛烈に、されど静かに。

 音はあったのかもしれない。だが、望にその音は聞こえなかった。

 

「大丈夫ですか?」

 

 聞こえたのは、女性の声。それも、聞いた事のない人の声だ。

 望は恐る恐る閉じた目を開くと、目を閉じる前の光景との差異に、ただ呆然と立ち尽くす。

 ミニオンは?

 自分を貫こうとしていた槍は?

 その前に、この女性は誰?

 目まぐるしく回る思考は、つい先ほどまで殺されかけた人とは思えない程冷静であったが、それ以上に望の目の前にいる女性は彼に衝撃を与えていた。

 それをなんという言葉で表せばいいのか、望には分からなかった。

 だが、それでも。口にせずにはいられなかった。

 

「――綺麗だ」

 

 ポツリと呟いた言葉は、風に吹かれて溶けていった。

 

 

 

 

 




ネタ投下。

『カメラ型永遠神剣』
物部学園所属の阿川美里が所有する永遠神剣。
名称、位階、その他詳しい事は不明だが、その名の通り写真を撮る能力を持つ。
この能力は使用者と被写体との隔たりをすべて無視するという非常に強力なものである。殺傷力こそないものの、その力は、次元の壁を越えるなど序の口。
ログ領域や原初、更には時間樹外の神剣宇宙さえも撮影可能とする。

このネタの発祥は、原作ゲームのCGイラストから。
ゲーム中のシーンのイラストは全て阿川が撮影したものとなっているため、明らかにその場にいなかった場所(ログ領域など)はどうやって撮影したのかと騒がれ、現在に至る。
という事は、主人公とヒロインとのエッチぃシーンも阿川が撮影したもの、と邪推される事もしばしば。
もし本当なら、プライバシーなど彼女の前では無いに等しい。
ある意味、恐ろしい神剣である。
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