転生者は駆け抜ける   作:ポピュラー

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三か月ぶりの投稿。皆さんお待たせいたしました。


十三話っぽい何か

 城の外から聞こえる喧騒は、鳴り始めてからその勢いを衰えもせず確実に城の方へと近付いていた。

 見えなくても分かる。敗北へ向かう足音だ。それが城を揺らし、空気を震わせる。

 吹き付けるそれらに身を晒しながら、不意に男がしわがれた笑い声を発した。

 

「……御大?」

 

 突然笑い出した御大と呼ばれる男に、踊り子の様な露出のある服を着た女――エヴォリアが戸惑う。

 同様に、全身に甲冑を纏い背に背負った鞘に大量の刀剣を仕込んだ男―ベルバルザードも、無言だが御大に訝しむ視線を送る。

 御大と呼ばれた男は二人の雰囲気に気付くと「ああ、すみませんね」と謝った。

 

「これからの事を思うと、嗚呼、嬉しくなってしまいまして」

「……なるほど、そうでしたか」

 

 それきり、その場から会話が無くなる。それ以上話すことも無ければ、話したいと思う事も無いから。

 エヴォリアは、はっきり言って御大という男を苦手としていた。

 

 彼女達が今居るのは城の奥にある玉座の間。この城で一番広く、この場に立つ相手を余すことなく睥睨出来る場所である。エヴォリア達は、それぞれが己の役割を果たしてこの場に立っている。

 御大の口振りから察するに、どうやら計画は滞りなく進んでいるようだ。となれば、御大が言った「これからの事」にも答えが出る。

 エヴォリアにはそんな事はどうでもいいし、事ここに至っては敵が迫っているという危険な状態であるが、御大は退く様子を見せない。

 

 むしろこの時こそ天の助けだ、と御大という男は捉えていた。

 

 音が静かに鳴りを潜める。瞬間、マナの轟き。世界を歪める程の力が働いた。その波動が御大の身体を昂らせる。

 御大は、このマナを知っていた。昔の同志であり、今は敵となったメダリオのものであると。美しいとさえ感じるマナの輝き。その刹那に網膜に蘇る光景。城の揺らめきは赤子を抱く揺り籠の様に。流れるマナに、海の潮臭さを感じる。

 

 かつて、そこには奇跡があった。理解出来ない恐怖があった。理想という現実があり、夢現となる夢が共にある歪さがあった。

 今はもう遠い記憶。それらを思い出し、御大はくくっと顔を歪ませた。

 

 足音が近付いてくる。彼らと御大達を隔てる物は、目の前にある一枚の扉しかない。

 

「エヴォリアさん……、一足先にベルバルザードさんを連れて、次の世界へ向かいなさい」

「分かりました」

 

 御大の言葉にエヴォリアはあっさり答えると、裏にあった道から精霊回廊へと入る。世界を繋ぐ道の中で、彼女達は目的の世界へ向かい始める。

 その道中、今まで無言だったベルバルザードが唐突に口を開いた。

 

「エヴォリア、本当に良いのか?」

「良いって、何がよ」

「――――とぼけるな」

 

 入り組んだ精霊回廊の中で、剣呑な声が発せられる。だがエヴォリアはそれを気にする風でもなく、ずっと前を見ている。

 返事が来ない事にベルバルザードの苛立ちが募ってくる。今のエヴォリアは、南天神の悪霊共に従わされていた頃とは違っていた。かつての、隙あらば喉元を食い破ろうと牙を研いでいた彼女では無くなっていた。

 今ベルバルザードの位置からエヴォリアの顔を窺う事は出来ないが、はっきりと分かる――――あれは全てを諦めている、と。

 

「エヴォリア、奴らがやろうとしている事はお前も分かっている筈だろう」

「……ええ、勿論。当然でしょう」

「――――ッ、なら、何故黙って従う! あんな馬鹿げた事をする連中だ、我等と交わした約束も守るかどうかも分からんぞ!」

 

 まともに取り合おうとしないエヴォリアに語気を荒くし、詰め寄る。普段感情を押し隠して、表情すら顔に当てた布で見せないベルバルザードの珍しい一面に、しかしエヴォリアは変わらなかった。

 

「――――勝てるの? あいつ等に」

 

 その言葉に、ベルバルザードは黙らざるをえない。

 それが、今の全てを表していた。

 

「アイツらは“化け物”よ。ただ動くだけで世界を滅ぼせれる。アイツらにとって分枝世界も時間樹も、大差ない……そこでしか生きる事が出来ない私達も、何もかもが同じなの」

 

 そう言葉を続けながらベルバルザードを見る眼差しは淡々としていて、諦観という刃で大きな何かを削ぎ落としてしまったような、空虚な雰囲気を纏わせていた。

 

「だから、私達が守りたい物を守る為には、奴らに従う事でしか出来ないの」

 

 人質にされているからとか、最早そんな程度のものでは無い。

 

「私達という存在を、奴らに認識させてやる為に……!」

 

 自分達は違うのだと、ここに居るのだと、刻んでやる為に。

 でなければ自分達の故郷は、多分あっけなく壊されてしまうのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 城に突入して早数分、護衛の兵士も外に出していたからか、城内の敵は思った以上に少なかった。

 目の前には、玉座の間と廊下を隔てる大きな扉が一つ。それは、カティマとダラバを隔てる壁だ。もうすぐ、それは乗り越えられる。

 夢にまで見た、この風景。扉の装飾一つまで、あの時から違いは無い。違いは、隣に立つ仲間達。夢で見た時よりも、カティマを支えてくれる仲間の数は多かった。

 だからだろう。今のカティマに不安は一切なかった。

 もう少し緊張というか、武者震いを起こしながら……、等と思っていたが。

 アイギアス王家の義務、それによって生まれた犠牲、それを受け継ぐ勇気を与え、認めてくれた彼らがいるから、今も前を向いて立てるのだろう。

 もし望達がいなければ、今この場所にこうして立てていただろうか。それはカティマには分からない。しかしこの瞬間、この現実は間違いなく、彼らが居て、支えてくれたからこそ、だ。

 カティマは素直に望達に感謝した。

 

「ありがとうございます。私がここに立てたのは、皆さんのお蔭です」

 

 いきなり感謝の言葉を投げてきたカティマに、望と希美、沙月は目配せをすると、三人はカティマの背中をポンと叩いた。

 

「きゃ!」

「カティマ、ガチガチに固まってる。リラックスリラックス」

「それに、まだ全部終わってないもん」

「その言葉は今日が終わってから、改めて聞かせてね」

 

 予想外の返答にカティマは一瞬呆けるが、すぐさまそれが自分を鼓舞してくれているのだと気付いた。やはり、僅かに緊張していたのだろう。遥かな時を越えて、ようやく決着が着く一つの因縁に。

 そして、改めて思う。この仲間達と出会えて良かった、と。

 

「――――はいっ!」

 

 満面の笑み、という奴だろうか。決戦前とは思えない程華やかな笑顔を浮かべる彼女達の周りは、春の陽気の様に暖かいであろう。

 そんな彼らを、尊は少し離れた所で見ていた。

 

「……青春だねぇ~。俺ももう少し若ければあの中に加われたんだろうけど」

「加われば良いではないですか。肉体的に、貴方は彼らと同年代の筈ですから」

「心がって意味だよ、メダリオ」

 

 尊と同じく、少し離れた場所で立っていたメダリオは、並んで扉を見上げた。

 

「ようやく終わりますね。とっとと終わらせたいものです」

「ああホント、早く終わらせて飯をたらふく食いたいよ」

「ハハ、そうですね」

 

 メダリオも同意する。面倒事はさっさと終わらせる限る。

 敵はあと一人だけ。それさえ倒せば後は帰るだけのはずなのだ。

 

「よっし。じゃあ行こうぜ」

 

 ソルラスカの声に、皆が頷いた。皆の顔が引き締まる。尊も烏金を握る手に力が入る。

 

「終わらせましょう……この悲劇を」

 

 カティマが扉に手を掛けた。低い唸りを上げながら、それは開かれようとしていた。

 

『――――ッ!?』

 

 その時だった。尊がカティマを押しのけて、皆の前に立っていた。

 突然のことに皆が驚く。

 一体、何が。そんな疑問が頭にようやくたどり着く、と同時に、隔たれていた向こう側が見えた。

 その筈だった。

 

 自分達の目は、確かに部屋の中に向いていて。だから、見ているはず。そして、見えているはず。

 その見えているものを、何と形容すればいいのか。望達には分からなかった。

 

「何だよ……これ、は?」

 

 暗闇のようで、灰色のようで、白色のような。しかし、そのどれにも当てはまらない“何か”がそこに広がっている。

 望も希美も、別の世界の住人である沙月や、ソルラスカや、タリアや、カティマも。この“何か”を知らない。

 呼吸すらも忘れて――もしかしたら呼吸すら必要ない一瞬だけかもしれないが――その“何か”を見つめていた時、“何か”の奥で一つの光が灯る。

 

「我生超世願 必得渇仰心」

 

 それは小さな太陽だった。

 目の前の、訳の分からぬ“何か”の中で、それだけはハッキリと分かる。混沌とした中にあって、それは何物にも犯されない、救いの光。徐々に強くなる光は“何か”を塗り替えていく。

 導かれたように、望達はそれらを見つめた。

 

「神通諸大光 隧言而不聴」

 

 どこからともなく紡がれる言葉は、この世を憂うように。

 聞いても、意味は理解出来ない。狂信者が懺悔を告白するが如く、ただその声はとても悲しみに満ちていて、それでいて喜びで溢れていた。

 

「ああっ……!」

 

 その声は、一体どういう感情から出たのだろう。分からない。分からない。それを考えてしまう事すら、無粋に思える。

 唯一、メダリオだけが顔を歪ませて動いた。しかし望達には、何が起きているのか分からないまま、遂に光は彼らを捉えて、

 

「――――速成就仏身」

 

 言葉が終わる。

 そして、光に包まれた。

 

 

 

 

 

 しゃらん、と数珠の音を切る。

 御大は合わせていた掌を離すと、自身が創り出した“救世”を見やる。

 そこにあるのは“何もない”だった。

 荘厳な造りだった城の廊下も、柱も、扉も、その外にあった街も、人も、大地も、空も。全てが例外なく“無い”のだ。

 これこそが、御大の求める“救世”そのもの。喜び、怒り、哀しみ、楽しみその他諸々……それら全てを一切拭って、全ての生みの親である“神”へと還る。

 それこそが救いなのだと、御大は信じて疑わない。その身こそ、この考えが正しいのだと証明した証なのだから。

 

 故に、御大はこの“救世”が不完全である事を悟った。

 

「これはこれは、驚きましたねぇ……」

 

 まさか、と御大は目を見開く。

 

「へぇ、何に驚いたって? ま、それと合わせて色々聞かせて貰いたいね」

 

 “救世”の中から、ありえない筈の声が届く。それが証明するのは、逃げも守りも……ましてや迎撃ですら望んでも叶わぬあの光の中を、生き延びたという事。

 そんな事が出来る存在は、エターナルでも一握り。

 そして御大が感じるマナの波動は、その中でも最悪のものだった。

 

「お久しぶりです。“全ての天を統べし者”よ」

「相変わらずだな。“悟り”の死睨」

 

 御大――死睨は微笑む。最悪な状況と分かっているとはいえ、どうにかならない訳ではない。尊はそんな死睨の気持ちを察したのか、同じように微笑んだ。

 

「いやぁ、びっくりしたよ。まさかお前に不意打ちかまされるなんて、思ってなかったからな。お蔭で死にかけたぜ」

「ご謙遜を。その“死にかけた”ものを不意打ちされて無傷でいらっしゃられては、その言葉は嫌味に聞こえますぞ?」

「まさか。ホントにそう思ったんだよ」

 

 と、そこで一旦間を置いて、

 

「じゃあ、早速本題に入ろうか――――お前、ここで何してんだ」

 

 駆け引きも何もない。尊は核心を聞いた。

 死睨は、それを哄笑と共に返す。

 

「私は私の“救世(りそう)”の為に。それだけですよ」

 

 だから他人が出しゃばるな、と言外にそう叩きつける。

 何年も昔のこととはいえ、共に戦い、共に苦労した、家族同然の仲間だったからこそ、その言外の意志を尊は悟る。

 

「……そうか」

 

 たった一言。吐いた言葉は、人生今までのどんな物よりも重たかった。

 

「ええ」

 

 討論というには、余りにも短い。

 だが、この二人にはそれだけで十分だった。

 

「俺はお前を許さねぇ。俺の友達(ダチ)に手ぇ出したんだ……俺のは痛ぇぞ?」

「ハハハッ! それは恐ろしい。御勘弁願いましょうか、ねえ?」

 

 死睨の背後にある日輪が強く輝きだす。窪んだ眼窩を尊へ向けて、掌を合わせる。

 尊の手に力が籠る。握られていたのは、彼をエターナルたらしめた神剣。

 かつての仲間同士。超越者(第二位)最強(第一位)

 死睨によって隔絶された世界の中、エターナルの戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「始まったかな?」

 

 朗らかな男の声が、宇宙の外側を震わせた。とはいえ、それを聞いて何かを思う者がいる事はないだろう。それが出来る者達は、皆すべからく倒れ伏し、ある者は骸となって星屑のまま消えていく。

 確かに、戦いは始まった。男は確信するように頷いて、一息吐く。つい先ほどまで騒がしかった此処も、台風が過ぎ去った後のように静かだ。辺りに視線を送っても、見えるのは自分が作った光景だけだ。生きて動いているものはまったく見られない。

 

「おや? 生き残ってたのか」

 

 その中で、一人だけが立ち上がった。満身創痍の体を無理やり動かして、それでもなお男を睨み付けていた。その姿を見て、男は口笛を吹いて賛辞を示した。

 

「素晴らしいなあ。確か、フォルロワさん、だったっけ」

 

 生まれたての小鹿が立ち上がるのを見届ける様な、慈愛の籠った目でフォルロワと呼んだ女性を見つめる。もっとも、その慈愛は皆が知る所の意味とは全くの別物だろう。でなければ、地獄然としたこの光景を生ませるはずがないのだから。

 

「……ッ……ッ……」

 

 彼女の半身たる大剣で体を支えて、肩で息をするのがやっとなのだろう。今にも男に襲い掛からんと殺気をまき散らしているが、満身創痍の体がそれを許さない。

 

「……ッ!」

 

 フォルロワが何か言ったらしいが、余りにも小さすぎる声は、静かな空間ですらも聞き取れない。しかし、何を伝えたいのかは表情を見れば、ある程度理解出来た。

 

「ああ、彼……たしか氷堂尊くん、かな? まだ期待してるんだね、君たちは。彼が、僕を倒してくれるって」

 

 そんな幻想、有り得ないのに。そう言葉を締めくくると、おもむろに立ち上がった。

 

「もうやめようよ。君だって分かってる筈だよ? 彼が僕に勝てないっていうのは」

 

 倒れ伏したエターナル達を踏み躙りながら、フォルロワへ近付いていく。

 フォルロワは支えにしていた大剣を引き抜くと、それを構える。だが力はとうの昔に尽いて、剣先は震えて定まらない。

 

「僕は彼を一回殺しているからね」

 

 フォルロワの前で立ち止まる。震える剣先を突き付けられて、それでも男の表情は変わる事も無く、無機質な微笑を張り付けている。

 

「……ァァァアアア――――ッ!!」

 

 その顔を潰してやる。フォルロワは最後の力を全て腕に集中させ、男の頭上真っ直ぐに振り下ろした。

 男は避けるそぶりすら出来ないのか顔を上げて、振り下ろされる刀身を見つめていた。そして、大剣が男の頭に食らいつく。

 起きたのは、爆発という現象。下手をすれば時間樹の開闢と同等の爆発力が、大剣から生み出される。フォルロワの本気の一撃。

 

「――――が、ぁ……ぁッ!?」

 

 そして吹き飛んだのは、仕掛けたフォルロワの方だった。

 

「あーあ、だからやめようっていったのに……」

 

 仕掛けられたはずの男は、無傷のままその場に立っていた。

 これで何度目か数えるのも億劫になる、呆れの溜息を吐く。何故、無駄と分かっているはずなのに、わざわざ死にに来るのか。男には理解が及ばない。敵わないと分かれば同属が殺されようと関係ない、さっさと引いて生き残る術を見つけ出す。それがエターナルだ……と思っていた。

 しかし悠久にも想える時間の果てに、不変と思っていた彼らは変わってしまったらしい。

 

「はぁ~……つまらない」

 

 呟いて、地面を蹴る。世界が一瞬白色に塗りつぶされたかと思えば、何事もなかったように収まった。

 そこにいるのは、男が一人。足の踏み場もないほど倒れていたエターナル達は、欠片も残さず消えていた。

 

「もう一度、楽しませてくれるかな? 氷堂尊くん」

 

 一人になった宇宙の外側で、男は俯瞰する。

 その眼に映っているのは、死睨と戦う尊の姿。その姿を、喜色を浮かべて見つめていた。

 

「楽しませてくれるかな?」

 

 

 

 

 




永遠神剣ネタ投下。

デウスエクスマキナ(deus ex machina)

元々は演劇用語です。劇の内容がもつれた糸のように解決困難な局面に陥った時、いきなり絶対的な力を持つ神が現れて、混乱した状況に解決を下して物語を収束させるという手法として、この名前が使われています。

ですが、聖なるかなでは二人の事を言います。

一人は我らが女神、ナルカナ様のこと。レベルとスキルの残数さえ確認しておけば大概の敵を殲滅してくれます=ナルカナ無双
そしてもう一人が星天のエト・カリ・ファのこと。モチベーションが喪失して収拾付かなくなった旅団に、

「とりあえずこいつ殺るか?」

という目的を与えてくれる。本人は良い事しようとしただけなのにね。
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