何回も書き直して推敲して、これに決めました。後々戦闘描写が大切になってきますからね。
臨場感は無くていいから、スピードを出したい。文章でも、投稿でも。
夕暮れで学園が茜色に染まった頃、尊は特にやる事もないので学園内を散歩していた。
ただし、
尊が足を止めた。目の前には学園の校門が見える。数日前なら、ここから出たらすぐにコンクリートで舗装された道路に出るが、今現在ソレを踏むことはない。
下を見ると、そこには雄大な大自然が目一杯広がっている。
「ハァ~……夢ならいいのに」
愚痴ってもどうにもならない目の前の『現実』に辟易する。いや、この際『非現実』と言った方がいいのか。
ともかく、この状況がこちらにとってあまりよろしくない事に変わりは無い。
空を見上げる。日が雲から覗いている。日の光が雲の間から降り注ぐ。
元の世界では気にすることもなかったこの光景が、今はとても美しく、懐かしかった。
「主、終わりました」
「ん、ありがとう。ヘレン」
作業を終えたヘレンがふわりと飛んで尊の肩に座る。誰もいないことを確認するとヘレンの頭を慣れた手つきで撫でる。彼女は嬉しそうに顔を綻ばせた。その姿に尊も薄く笑みを浮かべて、再び歩き始める。
「さて、そろそろ部屋に戻って準備しようかな。どうせ見回りは夜中になりそうだし」
「なぜ見回りが夜中だと?」
「先輩なら『夜更かしはお肌の天敵よ』とか言いそうだから」
「……なるほど」
「ま、俺としてもそっちの方が行動しやすいからねー」
行動、とはすなわち保険のことだ。
これからの方針としては、正体がバレない様に動き、一般生徒達を無事に元の世界へ送り届けようというもの。ただ、力を抑えた状態でソレを完璧に行うというのは少し厳しい。
そこでまずは学園全体に感知レーダーの様な事が出来る神剣魔法をこっそりと仕掛け、それをヘレンが隠蔽工作していく。
それを徐々にしていき、ゆくゆくは簡単な要塞にしてしまおうジャマイカ!―――というのが尊の考えだった(正直言うと、守りながら戦うのがメンドクサイ)。
これなら、もしもの時も安心していられるだろう。主に尊の精神的に。このことをまったく知らない望達の心臓には悪いかもしれないが。
「さぁて、日が沈むまでヘレンであーそーぼ!」
「ふにゃぁ!? あ、あるじ~、ナデナデするのをやめてくださーい!」
「ハッハッハ、愛い奴め」
肩に乗ったヘレンを撫で回しながら、これからどうやってヘレンで遊ぼうかと校舎へ戻っていった。
「ヘレンで遊べる。そう思ってた時期が俺にもありました……」
現実は非情である。
尊の目の前にはミニオンと呼ばれる色白美人七体。
明らかに敵意をもって接近してきたので、学園の守りも不完全な今、尊も出るしかなかった。
もう少しで望達も来るだろうが、初めての敵襲に学校の中も騒然としていて、三人ともその対応に追われている。あとどれだけ見積もっても五分は持ちこたえなければならないだろう。
「つっても、そこが問題じゃないんだよなー」
問題は、どうやって五分間
尊とミニオンの実力は比べるべくもなく、尊の方が圧倒的だ。それこそ、第六天の俺俺言ってる奴の言葉を借りると『指一本で吹き飛ばせる程度だがなぁ』である。
しかし今、それが仇となっている。
尊は第十位の神剣使いとして望達から認識されている。神剣の位階なら最下位に相当する弱小神剣。それでミニオン七体を瞬殺してしまったら実力を怪しまれるだろうし、倒さなくても傷一つ負わないのは不自然だ。七体にも囲まれているのだから。
神剣使いになって間もない望や希美は不審に思わなくても、経験が長い沙月や勘が良さそうなレーメ辺りに怪しまれる可能性が高い。
つまり尊に手っ取り早く選べる手は一つ
「一、二体だけ倒しとくか」
刹那、ミニオンが動く。
ミニオン四体が地面を蹴って尊に肉薄する。両剣が振るわれ、剣が振り下ろされ、槍が突き出される。
それら猛攻を、ミニオンを縫う様に避けた尊が、後方で神剣魔法を使おうとしていた赤のミニオンを直線で目指す。いつの間にか抜けられていた事に驚くミニオン達だが、早く立ち直った、狙いに気が付いた緑のミニオンが赤のミニオンを庇うように立ちはだかる。
「フンッ!」
尊が煩わしそうに、右手に握った烏金を力任せに振り払う。ミニオンから見ても素早く振り払われた烏金と、受け止めた緑のミニオンの神剣は一瞬拮抗して――そのまま
『……ッ!?』
防ぐために掲げられた槍は切られた端から粉々に砕け、受け止めたと思っている緑のミニオンは顔に疑問を浮かべたままゆっくりと倒れる。おそらく、何が起こったのか分からないまま。
その光景にミニオン達の肌が粟立ち、恐れ戦いた。
ミニオンを一撃で倒したから、ではない。
ミニオンを
永遠神剣は、元の世界の現代兵器と比べれば天と地ほども離れた恐ろしい武器である。例え核兵器の爆撃だろうと刃こぼれ一つ許さない。
その神剣が、同じ神剣同士だとしても、バターの様に易々と斬って見せた。
倒れた緑のミニオンの体が、光の粒子となって消えていく。
次の相手に向かおうとしたその直後、尊の身体が炎の塊に襲われる。
先ほど倒れた緑のミニオンに庇われた赤のミニオンが詠唱を完成させ、『ファイアボルトⅠ』を放ったのだ。
一気に炎に包まれる尊を見て、足が竦んでいた他のミニオン達の緊張が若干和らぐ。
数mでの『ファイアボルトⅠ』の直撃。当たった方は
たとえそれが神剣使いだとしても。
「おおっ、これだけ服がボロボロなら怪しまれないか」
ギクリッと身を震わせる。
燃え盛っていた炎が消えると、そこには『ファイアボルトⅠ』の直撃を受けたはずの尊が
なんで? と思う暇もなく、事態は動く。
ドンッと軽い衝撃が肌を撫でる。
その時、尊の姿はその場から大きく跳躍していた。落下と共に烏金を赤のミニオンに向かって振り上げて落ちていく。
赤のミニオンが、尊の姿を探そうと上を向いた。
目が合う。
赤のミニオンは咄嗟に神剣を突き出した―――が、直ぐに斬られた緑のミニオンがどうなったかを思い出して身を引こうと足に力を入れ、
「ありがとさんっ♪」
振り下ろされた烏金が赤のミニオンの神剣に触れ―――そのまま緑のミニオンと同じ運命を辿った。
「……さて、こんなもんかな?」
尊が振り向くと、そこには若干おびえた表情を浮かべたミニオンが、あと五体。
後はどうやってやり過ごそうかなー、と烏金を肩に乗せて考える。
ミニオン達はそんな尊の無防備な姿を見て、今しかない、と躍りかかろうと剣を構え、
「氷堂くん!」
「氷堂! 大丈夫か?」
尊の正面、つまりミニオン達の後ろから望達が現れる。三人とも神剣を握り締め、油断なく目の前のミニオン達を見据えている。
ミニオン達はこの状況に不利を感じたのか、迷うことなく撤退を開始する。
「行かせないわ!」
「グッ!?」
しかし、回り込んだ沙月がそれを許さない。神剣を振るい、逃げようとしたミニオンの背中を切り裂いた。
これで後四体。
望と希美に一体ずつミニオンが襲い掛かっていく。神剣がぶつかり合い、剣戟が森に響く。
ミニオン達の動きは尊の目から見ても、なかなかと評価出来るものだった。比べて、望と希美の動きは無駄が多い。当然だろう、つい最近までこういう『非日常』とは無縁だったのだから。
戦いとは、経験がものを言う。
だがしかし、お互いが手にしている神剣の格が、あまりにも違い過ぎた。ミニオンは名も無い神剣、対して望と希美は第五位と第六位。
善戦しつつも、最後にはミニオン達は一体を逃がして倒れたのだった。
「大丈夫? 氷堂くん」
「服がボロボロじゃないか、大丈夫か?」
「ああ、平気。つってもスゲー疲れたケド」
カラカラと笑う尊に望達がホッと安堵する。しかし沙月はその後すぐに真剣な顔付きになり、尊を諫めた。
「ダメじゃない、氷堂くん。勝手に先走られたら……、今回は良かったけど、そんなのだと直ぐに命を落とすわよ」
「あはは……、面目ありません」
「まったく……、次からは先走らないでね。必ず私達の誰かと行動すること。いいわね?」
「分かりました、先輩」
ならばよし! と沙月は話を切り上げる。
それからは帰りの道中でも尊の体の心配をして、変な所は無いか、痛い所は無いか、等としきりに聞いている。真剣に心配していた。
尊からすれば、あの程度の攻撃で傷など一つも負わないから何の問題もないのでそこまで気にしなくても、と思うのだが、そんな事を知らない沙月からすればボロボロに見える尊は心配するのに十分だった。
案の定、学園に帰ると(強制的に)保健室に連れ込まれて、身体を休めるように今日は寝なさい、と絶対安静を言い渡された。尊はそれに甘えない事は無く、しっかりと甘えさせてもらう事にした。
服を新品に着替えるとベットの上に倒れる。
天井に這うように生えた木の根のような物を見ながら、今日襲ってきた敵…ミニオンを思い出して深く溜息を吐く。
「まさか、この世界にもいたなんてな~」
これで、この世界が安全ではない事が完全に証明されることになった。これからも襲撃があるかもしれない。そう思うと溜息を吐かずにはいられない。
しかし、それもこの世界にいる間だけである。
「(いや、もしかしたらこの世界に向こうで俺達を襲った奴がいるのかもしれねぇ……)」
この世界のミニオンと、向こうで襲ってきたミニオンは大した違いが無かった。もしかしたら、と思う。
しかし、これは憶測だ。確実じゃない。
ただ、無視は出来ない。
もし、この世界にソイツがいるのならば、
「それ相応の報いを与えてやらなきゃな……」
俺の平和のために。
その呟きは誰もいない保健室に響くだけだった。
次は姉さん登場かな?
早くユーフィー登場まで進めたい……!