朝、目が覚めると天井がいつもとは違うことに気づく。内心焦ったがよく考えてみるとここが自分の家の自分の部屋であることそして帰って来たんだと改めて認識する。
いつも、僕を起こそうとする日差しも部屋の空気もここではとても優しく包み込んでくれる。ついつい二度寝してしまいたくなる気持ちを抑え込み脚に力を入れる。
机に置いてある置き時計の長針は12を短針は6を指していた。まだ寝れたと後悔したが、起きたのだから何かしようと思い、机の上にある黒色のケースを持って扉に手をかけた。廊下をキシキシと鳴かせながら縁側に出る。
腰を下ろし、ケースの錠を解く。分解されたフルートを一つ一つ丁寧に組み立てる。
フルートを持って草履に足を突っ込み庭に唯一ある桜の木に近寄る。彼女はすっかり華やかな姿から爽やかな姿へと衣替えをしていた。僕は彼女の側で息を吹き込んだ。
さぁ、踊れよ。踊れ。あなたはどこまでも不思議だ。
あなたはどこまでも美しくそして儚い。故に僕らはあなたに魅せられる。始まりであり、終わりでもある。
始まりを祝う舞を魅せ、終わりを悲しみ涙を散らす。
あぁ、それでも尊きあなたは踊り続ける。喜怒哀楽を僕らの代わりに全力で表現してくれるあなたはどこまでも優しいお人好しだと思う。
口を離したところで背後から包み込まれる。
「おはよう。星詠」
「おはよう。母さん」
「朝から感動させないでよ。」
母さんの声は震えていた。
「無理」
だって
「僕は演奏者だから」
忘れられない感動をプレゼントするのが、僕の仕事だから
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「そういえば、あの曲は新作?」
朝食を食べながら母さんと話しているとさっき演奏していた曲について問われる。
「まだ、完成したばかりだけどね。名前はまだ決めていないけど、いい名前をつけたいな。」
いくら良い曲を作っても名前が決まらないとかわいそうだ。
「今日は何か予定はあるの?」
「のぞみちゃんとデートだよ。何時に帰るかはわからないから決まり次第連絡するよ。」
「あらあら、デートなんてハッキリ言っちゃって勘違いだったら恥ずかしいぞ〜wそれにまだスマホも持ってないでしょ?」
「からかうなよ。いい歳した母親が。それにのぞみちゃんのケータイを借りれば問題ないだろ?」
「歳は関係ないでしょ。それにお母さん早く孫の顔が見たいわ。」
「まだ、結婚してないし、ましてやプロポーズも告白もしてないのにもう孫が見たいなんて言い出すか?」
「だって〜〜〜ばぁばだよーって孫に言ってみたいんだもん!」
だもんって、
「ごちそうさまでした。それじゃ、行ってくるから体には気をつけてよ。」
僕は未だに妄想に浸る母さんを置いて玄関を出る。
「おっ!おはよう!よみくん!」
ちょうどのぞみちゃんも来た。
「おはようのぞみちゃん。服似合ってるよ。可愛いね」
「そう?えへへ////」
頬を朱色に染め、はにかむ姿は幼さを感じる。
白色のブラウスに深緑色のスカート、黒色のローファー
制服っぽいなと思ったけど、僕も立派紳士だから言わない。
「そのリボン大切に使ってくれてるんだね。ありがとう」
のぞみちゃんの髪を縛っている白色のリボンは僕が小学生の時彼女に贈ったものだ。
「もちろんだよ。1番大事な宝物だもん。/////」
のぞみちゃんはそう言うとリボンを触る。その姿に心が踊るのを感じ
微笑みながら
「ありがとうのぞみちゃん、嬉しいよ。」
今日1番の笑顔で感謝を伝えると彼女に手をのばして
「それじゃ、行きましょうか?お嬢さん御手をどうぞ。」
差し出された手と僕の顔を行ったり来たりした後、
また頬を染めて、
「はい…喜んで…//////」
恥ずかしながらも僕の手に重ねた。
僕はその手を握り、絡ませる。恋人繋ぎだ。
赤い頬はさらに赤くなりゆでダコみたいだ。
やっぱり、僕はのぞみちゃんのことが好きだ。
好きで好きで好き過ぎて堪らない。
思いを伝えるのはまだ早い。早いわけじゃないむしろ遅いくらいだ。けど、もうしばらくこの子のことを見たい。