いつもこの位書ける事が出来ればいいな・・・・・・
「ここが今回の目的地だ。」
龍真が地図を片手に持ったまま立ち止まった。
真夜中にビル群を飛び越え、空が白くなりだした頃に舗装された道を走り、日が登る中を鬱蒼とした木々が生い茂る山奥を地図と勘を頼りに探してようやく着いた。
「たどり着けたのは良いとして・・・・・・今からこれを上がらなきゃいけないのかよ・・・・・・」
朱里が不満を漏らした。
その気持ちは分からなくもない。
大変な思いをして見つけ出した目的地には、トドメだと言わんばかりに大量の階段が待ち受けていた。
「俺達の今回の仕事はここを登った先にある神社の調査だからな。適当に誤魔化せる依頼主じゃ無さそうだし・・・・・・行かなきゃ駄目だろうな。」
そう言って、龍真は階段を登り始めた。俺も階段に足をかけ、朱里の方を振り返り、
「さっさと登らないと何も終わらないぞ。」
と声をかけて登り始める。
少し経った後、渋々といった様子で朱里も後に続いて登って来た。
果てしなく長い階段を登りながら、俺はここに来てから思っていた事を龍真に聞いてみる事にした。
「なあ龍真、何でその依頼主の八雲紫って奴はこんな場所の調査なんか頼みに来たんだ?仕事もらってる身でこんなこと言うのも何だが、ただ調べるだけなら自分でやればいいんじゃないか?」
直球過ぎる俺の質問に、龍真は苦笑しながらも答えてくれた。
「どうやら、今までは自分で調査したり部下にやらせたりしてたみたいだけど、最近大きなプロジェクトが出来たらしくな。自分も部下も忙しくてここに関われないらしい。」
「なるほどねぇ・・・・・・」
なんせ、大多数の人達から怪しがられる商売をやってる俺達に初対面で、しかも報酬に小切手を渡していくような人物だ。プロジェクトがどんなものかは想像もつかないが、さぞ儲かっているに違いない。
万年金欠の我らには羨ましい限りである。
「だが・・・・・・。そうなると、何でこんな場所にこだわってるんだろうな?」
話しを聞いた感じだと、どうやらかなり前からこの場所が気になっているらしい。龍真もさりげなく聞いてはみたものの、やはりはぐらかされてしまったそうだ。
「さあなぁ・・・・・・土地開発でもやりたいんじゃないのか?・・・・・・それか、よほど大切な物でも隠しているのか・・・・・・」
確かに、この辺りにはあまり人の手が入っていない。 山を削ればそこそこの土地が手に入るだろう。しかし、土地などという縁のない物のせいで詳しくは知らないが、このぐらいの大きさならば、今の日本でも探せば出てきそうなものだ。
ここにこだわるということは、やはり前者ではなく後者の可能性の方が高い。事実、調査の依頼は山そのものでは無く、その中にある神社なのだから。
どうにもきなくささが漂ってきたが、金をもらった以上は全力でやるだけだ。
「待ってくれ~・・・・・・もう歩きたくねぇよ・・・・・・」
下から聞こえた声には、スルーをさせてもらおう。
「よーし・・・・・・やっと登りきった・・・・・・」
まだ依頼された場所に着いただけなのに、朱里は既にグロッキーと言った様子だった。膝に手をつき、はぁはぁと荒い息をしている。
「おちゃらけるのもここまでだぞ朱里。ここからは仕事だ、真剣にやれ。」
だが龍真にたしなめられると、朱里はにやりと笑い、膝についていた手を外した。やはり、あれらはふざけてやっていたらしい。
「俺としては、仕事前の緊張を和らげてやろうと思ってたんだがな。そう言われちゃ仕方ないか。」
「和らげる必要なんかないだろ。それより・・・・・・二人とも気付いてるか?」
虎之介が、周囲を油断なく見回しながら言った。
「ああ、多いな。」
龍真も霊力を高めながら答えた。
階段を上っている途中で気付いたのだが、頂上の辺りには既に、凄まじい量の邪気が溢れているのが分かった。
「さーて、まずはその神社の中をみせてもらおうかな。」
朱里が、そう言いながら鳥居に向かって歩いて行く。感じる邪気は数が多いものの、単体でいえば大したことはない。この中のだれか一人だけだったとしても充分に処理できるだろう。
しかし、念のためだと、龍真と虎之介もついていった。
「お~お~大漁だなこいつは。」
真っ先に境内に辿り着いた朱里が、若干楽しそうに言った。
すぐ後に龍真と虎之介も境内に入ってきた。
「うへぇ、この数マジかよ・・・・・・」
「・・・・・・これで、八雲紫が普通の人物じゃないことが決まったな。」
それぞれ違った反応を見せるが、共通していることが一つだけある。
この状況でも全く恐れていないこと。
目の前には、
文字通りの地獄絵図が広がっていた。
「はぁ・・・・・・こいつらが俺達の街の中にバラバラに居ればなあ・・・・・・仕事の量もウナギ登りなのに。」
虎之介が残念そうにぼやく。
そのぼやきに対して、朱里と龍真の二人は心の中で突っ込みを入れた。
仕事が来るからこの有像無像共が街の中にいればいいってのか!と。
勿論そんな二人の突っ込みなぞ知るよしもない虎之介は、軽い準備運動の後、
「まぁいいや。龍真、朱里、まずは掃除だ。始めるぜ。」
そういって化け物だらけの神社の境内に飛び込んで行った。
後の二人も、飛び出して行った虎之介に釣られるように除霊作業に入って行った。
「いよ~っし。こんなもんだろ。」
朱里が妙にスッキリとした顔で言った。
仕事中に暢気なことを言いやがってと龍真は思ったが、彼にもまた、不思議な満足感が湧いていた。
神社の境内に居た妖怪や悪霊共は、既に全部浄化してあり、邪気だらけの混沌とした空間から一転、神社は見違えるほどの正常な気を放っていた。
「しかし分からんな。何で此処にはこんなにも化け物共が集まって来てたんだ?」
龍真が、顎に手を当てた。
(無人の神社や寺に悪霊達が住み着きやすいのは分かるが・・・・・・いくらなんでもこの量は・・・・・・)
その時、神社の中から虎之介が出てきた。依頼では、ちょっと見てこいぐらいにしか言われていないのだが、ここに居た化け物共のあまりの多さに、虎之介に中まで調べさせていたのである。
「トラ、どうだったんだ?何か有ったか?」
虎之介は、龍真の側まで来ると首を横に振った。
「駄目だ、何も分からない。ぶっ壊れた箪笥とか、ちゃぶ台とか。そんなんは合ったけど、特に妖怪達を引き付ける用な物はなかったぜ。」
「そうか・・・・・・」
貴重面な虎之介の事である。結構時間も掛けていたし、相当探したのだろう。それでないと言うのなら、何かあるという可能性は低そうだ。
「まあ、そこまでやる必要ないんじゃねーの。俺達はここに何かを探しに来たんじゃない。ここで何か変わった事が起きてないか見てきてくれって言われただけなんだろ?」
「まあ・・・・・・確かにそうなんだが・・・・・・」
朱里がこっちにやって来ながら、尚もまくし立てる。
「じゃあ、もうここにいる必要はねーな。原因は分かんなかったけど、それを探して究明してくれって言われた訳じゃない。さっさと報酬もらっちまおうぜ。」
「そうだぜ、龍真。きっと何かの偶然だし、もし何か合ったとしても、それこそ余計な詮索になる。触らぬ神に祟り無しって言うぜ。」
珍しく意見の一致した虎之介と朱里に、龍真は若干の戸惑いを見せつつも、ここを立ち去る事を決意した。
正直に言えば、もう少し調べたいところではあったが、それは虎之介も言ったように余計な詮索になってしまうだろう。
顧客の信頼によって始めて成り立つこの商売で、信頼を失うことは余り喜ばしいことではない。
そう判断し、三人が帰ろうとしたその時だった。
突如として、地面が揺れ始めたのである。しかも、この三人だから立つことが出来ているものの、普通の人なら倒れてもおかしくないほどの揺れだった。
「なっ!このタイミングで地震か!?」
朱里が慌てて頭に鞄を被せる。
しかし、虎之介が即座に朱里の発言を否定した。
「いいや、これは地震じゃない!地面から何か来る!」
瞬間、三人の足元から地面が消えた。
「な!?」
「え!?」
「あ!?」
天地がひっくり返った事に、三人は驚愕しながらも、空中で姿勢を変えて何とか着地を成功させた。
「何なんだ!一体!!」
朱里が叫ぶ。
その正体はすぐに分かった。
階段を登りきった所から賽銭箱があったと思われる場所まで続いている、苔だらけの石畳。そこには巨大な穴が開いており、そこから覗いているのはどうみても三つの犬の頭だった。
「け・・・・・・ケルベロス!?」
虎之介が、思わず声を上げた。
三つの首を持った犬。ファンタジー物のゲームや小説等で誰でも名前くらいは聞いた事があると思われるメジャーな怪物。
本来は地獄の番犬であり、こんなとこにいていいような奴ではない。
大量の砂ぼこりを起こしながら穴から這い出て来たケルベロスは、三つの顔でそれぞれ龍真、朱里、虎之介の三人に牙を剥いて威嚇をした。
それに対して三人も負けじと睨み返す。
しばらくの間、睨み合いが続いた。周囲から聞こえる音はケルベロスの上げるうなり声だけである。
30秒ぐらい立っただろうか。先に動いたのは、ケルベロスだった。興味を失ったかのようにふいっと顔を戻すと、少し離れた所に歩いて行き、そのまま丸くなった。
数秒後、大胆にもいびきをする音が聞こえてきた。
その音を聞いて、三人はゆっくりと一ヵ所に集まった。ちょうどケルベロスの正面9~10メートルほどのところである。
「何でこんなところにケルベロスが居るんだ!?」
朱里が、気付かれ無いように小さく、しかし、驚きが抜けきらない声で他の二人に聞く。
三人は、まだ状況が上手く呑み込めずにいた。それは突然過ぎる事と、本来出てくるはずのない化け物が現れた事実に対する驚きによるものだ。
咄嗟に対応出来たのは、獣の怪物を相手にするときは絶対に目をそらすな、と言う教えを玄永に叩き込まれていたから、気合いで動かずにいれた様なものである。
「理由なんて俺達が知ってる訳ないだろ。・・・・・・少なくとも、俺達をどうこうしようという訳じゃなさそうだが・・・・・・」
声のボリュームを最小限に抑え、三人は話し始めた。
「じゃあ何か?地の底からはるばる日向ぼっこしに出てきたってのか?地獄の番犬が?」
朱里の信じられないという問いに、二人はしっかりと返事ができなかった。現在、ケルベロスが丸まっている場所は、この神社で最も日の当たる場所である。
「雑魚ばかりかと思ったが、最後にこんな化け物が現れるとは。やっぱりこの神社、何か有るんじゃないか?」
龍真の言葉に、朱里も龍真も今度こそ真剣に調べる必要があると考え直す。
「だが、そいつはまだ後でいい。それよりも、まずは奴をどうするか、だろ。」
朱里と龍真が頷く。
「最善は、このままお昼寝を楽しんでもらった後で地獄に帰ってもらうのが一番だろうが・・・・・・」
「奴が大人しく帰っていくと思うか?この辺りで暴れるくらいですめばまだ良いが、街まで降りられたら目も当てられんぞ。」
街に降りられれば、阿鼻叫喚の地獄と化すのは目に見えている。
「んじゃ、ここでやっちまうか?」
出た、朱里の無茶苦茶が。なぜさらりとそんなことが言えるのか?
「大丈夫か?ケルベロスの弱点といやぁ音楽とか甘いものとかか?・・・・・・楽器なんてないし、そもそもそうめんで暮らしてた俺達が甘い物何て持ってる訳無いし。」
虎之介がケルベロスの弱点を並べるも、現状ではどうしようもないことばかりだ。
しかし、朱里は関係ないと一蹴した。
「大丈夫だろ、『能力』使えば。」
その言葉に、虎之介も龍真も苦い顔をする。
「だがなぁ・・・・・・あれ使うと神社壊れるかもしれないんだぞ。だからわざわざ能力使わないで、さっきまでやってたのに。」
龍真も、今度ばかりは朱里の提案に渋っていた。だが朱里は、その考えを変える気はないらしい。
「依頼はここのちょっとした調査だ。別に、調べた後にぶっ壊さないで下さい。何て一言も言ってないぜ。それに、事情話せばわかってくれるかも知れない。」
暴論、ここに極まる。しかも後半は希望に過ぎない。
それでも、朱里は龍真の方を向いた。
「さあどうする、龍真、トラ。このままじゃあいつ、街まで降りて何もかも破壊し始めるぜ。」
決まっている。
やるしかない。既に、朱里は能力を発動し始めている。
龍真と虎之介も、自身の能力を起動した。
幻想入りは次回からです。