「まずは小手調べだ!」
朱里の言葉と共に、ケルベロスの上空7メートルほどの所に巨大な氷柱が3本出現した。
それと同時に、ケルベロスも彼ら三人のただならぬ気配を察知したのか、立ち上がりつつ吠える。
「そらっ!!」
朱里が振り上げていた腕を一気に下ろした瞬間、三本の氷柱はケルベロスめがけて一斉に落下した。
これをケルベロスはジャンプし、空中でそれぞれの首で同時に噛み砕いた。
朱里が笑った。
その背後から、龍真が飛び出す。彼の背中には、青く透き通った翼が生えていた。更に、手には同じく青い剣が握られている。
龍真が飛翔し、横凪ぎの一撃を繰り出す。
これもケルベロスは上手く回避した。空気を凄まじい速度で蹴り、更に後ろへ、上空へと移動する。
「この図体で二段ジャンプかよ・・・・・・」
龍真が驚きの声を上げる。
だが、三人からすればこれも読んでいた事である。
虎之介が、右手にスパークをほとばしらせると、そこから雷撃が打ち出された。
今度は、ケルベロスも予見できなかった様だ。
口から火球をはきだすことで相殺するつもりだったのだろうが、全ての威力を殺しきることはできずに雷撃を受けた。
「グルアアァァァッ!!!」
上手く着地出来ずに、倒れたケルベロスに向かって龍真と虎之介は追い討ちをかける。
それぞれの手には、青い剣と稲妻の剣が握られていた。
しかし、二人が剣を突き込もうとした瞬間、バチィッ!!と凄まじい音がした。虎之介と龍真はとてつもない速度で弾きとばされ、壊れかけた鳥居に叩き付けられる。
その様子は、離れていた朱里だけが理解出来た。
ケルベロスが爪を地面に食い込ませながら一回転をし、蛇の形をした尻尾をあたかもムチのように使って吹っ飛ばしたのだ。
「おいおい、シャレにならねぇな、この強さ。」
そう呟いた朱里に向けて、ケルベロスが三つのあぎとを開く。その奥にチロチロと光る物を見て、朱里は咄嗟に氷壁を展開しようとした。
しかし、朱里が行動するよりも早く、龍真が青いオーラを放出しながらケルベロスの前へ飛び込んだ。
放たれた火炎は草花や木造の神社を飲み込み、しかしオーラによって誰にも当たらずに逸れていく。
「なっ!龍真!!」
「気にすんじゃねぇ朱里!いいか!火炎放射が止んだら、奴の足を固めろ!!」
「…任せとけ!!」
龍真の指示に、打てば響く声で朱里が応じる。
やがて、火炎放射はその勢いを衰え始めた。その瞬間、朱里の周囲の地面が凍りついて行く。氷は、そのままケルベロスの元まで進んで行くと、足を凍らせてガッチリと固定した。
炎を吐き出すのを止めたケルベロスは、動こうとして、足を固められている事に気が付いた。
煩わしそうにグルグルと唸り声を上げ、力を貯めて氷を無理矢理引きちぎろうとしたその一瞬の隙に、虎之介がケルベロスの背中に飛び乗る。
「やりやがったなてめぇ!!」
そう叫んだ虎之介は、本気の電撃を、さっきまでの一撃よりずっと長く放った。
電撃と言うよりは落雷と言った方が相応しいであろうその一撃は、凄まじいまでの轟音と光を周囲に撒き散らした。
そんな時間が十数秒は続いただろうか。やがて光と音が収まると、虎之介はケルベロスから飛び降りる。
「ふう。確かに強力な奴だったが、流石にここまでやりゃあ・・・・・・」
虎之介の電撃を浴びたケルベロスは、かすかに煙を上げながらその場に崩れ落ちていた。
虎之介がこっちへと歩き始める。
「トラぁ!!」
朱里の叫びに、虎之介が背後を振り向く。
そこには、さっきまで倒れていたケルベロスが爪を振り上げている姿があった。
虎之介が咄嗟に霊力で剣を作り、爪を受け止める。
激突の衝撃で火花が派手に散った。何とか押し潰されるのは防いだが、
(クソッ、重たっ!!)
力比べになれば圧倒的にこちらが不利だ。
そう判断した虎之介は、剣の尖端を地面につきたてた。爪はそのまま剣の上を滑り、地面にその威力を解放した。
その衝撃で、神社の建物が崩壊を始めた。石畳が波打って細かな欠片となり、何とか形を保っていた鳥居が土台を残して木片へと変わり、社が崩れ落ちる。更にはソニックブームで、周囲の何本かの木が切り裂かれ、倒れていた。
「うおお・・・・・・」
流して尚凄まじい威力を誇る一撃に、吹き飛ばされないよう能力で重力を数十倍に変化させていた虎之介だったが、それでも15メートルほど押し流されてしまう。
「やっべーな、こりゃ・・・・・・」
ケルベロス。地獄の番犬と呼ばれるだけあって侮れない強さだ。今の一撃で吹き飛ばされたのは虎之介だけでは無いようだ。
だが、運よくと言うべきか、三人は会話が交わせる位には近くにまとまって飛ばされていた。
「おいトラ、ちゃんと仕留めたかどうかの確認ぐらいしろよ!」
「それは確かに俺の注意不足だが・・・・・・さっきのは間違いなく、過去最大級の威力だったんだぜ。」
朱里の文句に思わず言い返してしまう。事実、軽く落雷の三倍はある雷だった。
「誰か一人の全力を一つずつ叩き込んでも、意味はなさそうだな。だが三人同時にすることが出来れば・・・・・」
「案外、何とかなるかもな。だがよ、やるならさっさとした方が良さそうだぜ。さっきの一撃のせいかは知らねーが、空間が軽く歪んでやがる。」
朱里の言葉に、二人が目を剥く。
「・・・・・・確かにこの周囲の空間が不安定だな。何が起こるかわからん・・・・・・朱里、トラ、一気に終わらせるぞ!」
龍真の合図で、三人が一斉に地を蹴った。
電撃、燐光、氷。それぞれのエネルギーが形を持って突きこまれる。
だが、ケルベロスも棒立ちで受ける気は全く無い。咆哮の後、自ら炎を纏っての小細工なしの突進で三人を迎え撃った。
三人とケルベロスは、丁度中点の位置で激突した。
「うおおおおおおお!!!!」
「ガルアアアァァァァッ!!!」
互いに、一歩たりとも譲る気は無い。炎が、雷が、光が、吹雪が、攻めぎ合いの中で逃げ場を求めて暴れ回る。
「いっけええええ!!!」
そんな中、均衡を崩したのは虎之介だった。
虎之介が、激突の際のエネルギーを全て、電気に変換したのである。
雷が、炎の幕を貫いた。
刹那。
空間に黒い巨大な穴が出現した。
「なっ!!」
驚く暇もなく、三人はその穴に放り込まれる。
まるで、動いている洗濯機の中に閉じ込められたように上下左右の感覚がなくなってゆく。
(まずい!このままだとどこかに飛ばされる!)
せめての抵抗とばかりに、ほとんど視界が効かない中で勘だけを頼りに龍真と朱里を探す。
(捕らえた!!)
虎之介の手には確かに、彼の手に収まる程度の肌の感覚と、ジーンズの感触が伝わっていた。
(これなら、別々に飛ばされることには・・・・・・!?)
そこで、虎之介は更に焦った。
何と、一緒に吸い込まれたケルベロスが発光し始めたのだ。
この場合、考えられる可能性は一つしかない。
自爆。
(ヤロー正気か!?)
この状況で爆発なんぞされたら何が起こるか見当もつかない。
だが、ケルベロスは益々輝きを増していく。
悪足掻きにと、爆発の中で手を離してしまわないように強く握るが、
「ぐっ!!!!」
やはり無駄だったらしい。
爆発の瞬間、手から掴んでいた物がすり抜ける感覚がし、俺自身も意識を失った。
「ん・・・・・・」
どうやら寝てしまっていたようだ。
いくら計算したって変わらない赤字の会社の帳簿だが、仕事の時間に寝てしまうのは誉められた事では無い。
苦笑して布団から這い出ようとすると、
うさぎの耳を付けた少女がこちらを向いてすうすうと寝息を立てていた。
思わず固まる。しばらく思考停止の状態が続く。
やがて訪れた疑問はとても単純な物だった。
(ここどこだよ!?それに誰!?)
目が覚めたと思ったら隣にはうさ耳を付けた少女がいた!?
俺、うさ耳好きの少女と隣で寝る程仲良くなった記憶なんて無いぞ。
そういえば、見上げてた天井はどうみたって木材だったし、俺が普段使うのは布団ではなくベッドだ。
「落ち着け俺、思い出せ俺。」
怪しくなり行く自分の記憶を探ってみる。
俺の名前、相原 虎之介。
「よし、その調子だ。」
歳は19。誕生日は12月18日。直前に何をしてたか。 久々に本業をやっていたらケルベロスと闘う羽目になった。
そこまで思いだし、一つ原因に心当たりのある出来事を思いだした。
「そうだ、あの時不思議な空間が・・・・・・」
あの穴に吸い込まれて・・・・・・その後どうなったんだっけ?
・・・・・・だめだ、穴に吸い込まれてからが全く思い出せない。
「ならこの子は?」
隣で眠り続ける謎のうさ耳少女。顔も悪くない。こんな子と甘酸っぱい関わりがあったのなら覚えている筈だ。
もしこの頭が思い出せない
「嫌、叩きつけるべきだ。早急に。」
「何言ってんの?あんた。」
急に声をかけられ、心臓が跳ね上がる。
いや、さっきまでの考えは声にはだしていない。
・・・・・・出してないはず・・・・・・
「人の思考を読めるとは・・・・・・一体何者ですか?」
声をかけられた方を向くと、そこには巫女さんが背中を向けて座っていた。そばには急須と煎餅が見えるので、お茶でも飲んでいるのだろう。
だが待てよ、巫女さんってこんな格好だっけ?
何か腋の周りの露出が凄いし、どう見たって袴じゃなくて普通に赤いスカートだし、あとリボンでかいし。
何となくコスプレ臭がする格好だな。
おっと、いかん。相手は思考を読めるかも知れないというのにこの考えは。
「思考なんか読めないわ。でも、叩きつけるって一体何を?」
やはり口に出してしまっていたらしい。だが、その部分だけならばいくらでも誤魔化しようはある。彼女が嘘を言っていない限りは。
「ああ、それは・・・・・・え~・・・・・・ちょっと、ある動物の駆除の最中でしてね。」
実際、動物としか言えない。ケルベロスなんて誰が信じてくれる?
「駆除?ああ、どうりで傷だらけだった訳ね。古傷も凄かったけど。」
傷だらけという言葉を聞いて、顔や腕を触ってみると、あちこちに絆創膏や包帯がまかれていた。
「まあ・・・・・・職業上仕方ありません。」
実際、古傷のほとんどは玄永につけられたものなのだが、ここでそれを言っても何もならないだろう。
彼女は、手に持っていた湯飲みを縁側に置き、立ち上がった。
「それより、私はあなたに聞きたいことがあるのよ。それなりにね。」
「奇遇ですね、俺もあなたにはお聞きしたいことがある。こちらは山ほどに。」
彼女は振り向き、こっちに歩いて来る。
その間に俺は、痛む体に鞭をうって布団から起き上がり、彼女の方を向いて胡座をかいた。
彼女は布団の側まで来ると、どっかりと座りこむ。
(女性としてその座り方は如何なものか。)
実に貫禄がある。一体どんな育ち方したんだか。
もっとも、俺も育ちに関しては人のこと言えやしないけど。
絶世の美女。と言う程ではないが、世間一般からすればかなりの美人と言われるだろうその顔に、彼女は疑いの表情を盛大に貼り付けながら質問が放たれた。
「じゃあ聞くわよ。・・・・・・あんた
・・・・・・は!?
だが、投げ掛けられた質問は予想の遥か斜め上を行くものだった。