「天石門別命って・・・・・・確か、古事記に出てくる神様でしたっけ?」
「ええそうよ。どんな関係なの?・・・・・・あと敬語は要らないわ、堅苦しくなるだけだし。」
これは予想外だ。どんな関係と言われても・・・・・・そんな神様、かすかに思い出せただけ奇跡なんだが。
まあ、敬語を使わなくて良いなら、遠慮なくそうさせてもらおう。
「関係ないよ。神様の名前なんて、有名な神以外は神社に関わりのある奴とかじゃなきゃ、覚える訳無いだろ。」
真っ当な意見だと思うのだが、目の前の巫女は益々疑いの目を向けて来る。
「でもあんた、私が神様の力を借りて作った穴から飛び出てきたのよ。」
「神様の作った穴から、ねぇ・・・・・・」
巫女が神を下ろす。それは別に珍しい事ではない。だが、それは言葉を翻訳するのが精々のはずで、神様の力を使うなど、少なくとも俺は見たことなどない。
「あんた、本気で神様の力を使ったって言ってんのか?」
疑いの言葉をかけると、彼女は面倒だと言わんばかりに顔をしかめた。
「・・・・・・証明してほしい?」
そう言った彼女に、絶大な神力が流れ込んで行くのが分かった。
ヤバイ。
「いや、分かった。信じるから、神様の力をあんたは使える。これでいいか?」
「ま、信じる信じないはあなたの勝手よ。私もまだまだ、修業中の身だしね。」
何を降ろす気だったかは知らないが、あのままだと確実にヤバイ事になっていただろう。
主に俺が。
しかし、こんな事をできるとは。もしかしたら我が探偵事務所でもやって行ける人材かもな。
・・・・・・おっと不味い、スカウトなんて考えても今はどうにもならない。今はとりあえず、情報が要る。
「なるほど・・・・・・じゃあ俺、いや俺達が飛ばされたのは、確かにあんたのその力のせいだな。」
あれほどのエネルギーが一点に集中していた所に、神の力。それは空間が歪むのも仕方ない事か。
だがまてよ、
「あんたは、あの場には居なかったはずだ。博麗神社には。」
今度は彼女が怪訝な顔をする。
「何言ってるの?私は昨日ずっと博麗神社に居たわよ。夜に、ちょっと出かけたけど。」
そんな訳あるか。ケルベロスとの戦闘の時には、人の気配など全くしなかった。霊力も魔力も神力も、俺達三人とケルベロス以外の物は感じていない。
まさか。と、俺は首を振った。
「博麗神社は無人の壊れかけた神社のはずだ。ケ・・・・・・いや、駆除の前に色々確認したから、間違いない。」
すると彼女は、眉間に手をあてた。
「そういうことね・・・・・・そんな格好してる時点で気付くべきだったか。あなた外来人ね。」
「俺は生まれも育ちも日本何だが?」
話がどうにも噛み合わない。
何だか、俺はとんでもない所に来ちまったんじゃないか?
そんな予感がする。
「それより教えてくれ。ここは一体どこだ?日本語が通じるんなら、ここは日本だろ。何県の何ていう町だ?」
事務所に帰るのに近い所ならいいなぁ。
多分、そんな上手い事行く筈無いだろうが。
「ここは幻想郷。あなたの言う『県』ってのは知らないけれど、この世界はそう呼ばれているわ。そしてここは、あなたの言う通り博麗神社であり、あなたの知っている博麗神社じゃない。」
・・・・・・何だと
今、世界って言ったか?
と言うか、まるで意味が分からない。
「・・・・・・幻想郷って何だ?そういう別名がついてる村とか里とか、そんな所か?」
いや、まだだ。まだ希望を捨てるな。
廃れ行く山村の、キャッチコピー的な奴かも知れない。
「違うわ。確かに里は有るけど、それはこの世界の人間達の、唯一の居場所。この世界は、あなた達の暮らす外の世界と2つの結界で別れた、もう一つの世界。」
「もう一つの・・・・・・世界。」
「そう。そして博麗神社は、あなた達の世界とも、この幻想郷とも繋がっている。外の世界の神社がどうなってるかは知らないけどね。」
・・・・・・なんてこった。
納得出来るか、と聞かれれば、したくない。だが、さっきの神降ろしといい、彼女の言葉が嘘という可能性は低そうだ。
どうする。
日本国内なら、ヒッチハイクとかとれる手はいくつもある。
外国なら、方角と現在置さえ分かれば、能力を使ってどうにかなるだろう。
しかし、結界で別れた世界の場合となると、本当にどうしようもない。
というか、あとの二人は大丈夫なのか?
もちろん、あの二人が簡単に死ぬような玉ではないが、同じ異世界ならばともかく、別々の異世界に飛ばされたとすると、俺達が逢えることはもう無いだろう。
「龍真・・・・・・朱里・・・・・・」
「誰なの?そいつら」
「俺の仲間さ。一緒に飛ばされちまったんだ。」
あいつらとは、物心つく前からの付き会いだ。
出来ることなら、探しだしたい。だが、そのためにもまず、俺自身が帰らなければ。
「なあ、あんた・・・・・・」
今更ながら、名前を聞いてなかった事を思い出す。
「名前は何て言うんだ?あ、俺は相原 虎之介だ。」
そう言いつつ、枕元にあった鞄に手を入れて名刺を取り出して渡す。
異世界だろうと、宣伝は大事。
「大神探偵事務所・・・・・・」
「ああ、今回みたいに現場にも行くが、普段は経理を担当してる。」
「へぇ~・・・・・・でも、あなたさっき駆除って言ってなかったっけ?」
「あれは・・・・・・もし俺達の世界だったら、本当の事言っても信じないから。」
頭おかしい奴認定されるのはごめんだ。
「じゃあ、本当は?はぐらかそうとしても無駄よ、あなた、霊力が普通の人間のレベルじゃないわ。」
「そこまで分かるとは・・・・・・ま、神を降ろせる位だし当然かな。『デスハンター』。所謂、霊媒使って奴だ。」
「なるほどね・・・・・・」
中2臭い、等と言うのは止めてもらいたい。
中学時代に朱里が考えたものだ。言う度に、当時ノリノリで賛成した自分をブン殴りたいと思う。
しかし、長い間言っていると、何か愛着が湧いてしまうもので、今でも使っている。
「じゃあ、私の同業者って事になるわね。私は、博麗 霊夢。博麗神社の巫女兼、妖怪退治をやっているわ。」
何と、同業者か。
これではスカウトしても無理そうだ。
待て、今のままではスカウト以前に給料が払えまい。
「そうか、あんたも退治屋か・・・・・・おっと、そうだった。霊夢、俺はこの世界から戻れるのか?」
これが重要だ。最悪、この世界で生きて行かなければならなくなるだろう。
「戻れるわよ、あなたが望むのなら。」
マジか。思わず、良かったと崩れ落ちそうになった。
異世界物の小説の如く、魔王を倒せとか、戻れないで暮らすしかない、とかは無さそうだ。
「じゃあ、早速戻らせてくれ。早い所あいつらを探しだしてやらないと。事務所も留守のままじゃ、困るし。」
早速、帰る準備をし始めた所で、霊夢からストップがかけられた。
「そう・・・・・・でも虎之介、貴方の仲間、この幻想郷にいるかも知れないわよ。」
「何?何で分かるんだ?」
「勘よ。」
「勘・・・・・・」
勘か。
確かに、俺達はバラバラに飛ばされたとはいえ、確かに近くに居た。ならば、まだ同じ世界に居るという事も充分に有り得るか。
「・・・・・・ま、これ以上悪くなる事もあるまい。その勘、信じてみようかな。」
「心外ね、これでも私の勘は、結構当たるのよ。」
霊夢が、少し怒った顔をした。何だか、さっきから怒らせたり疑わせてばかりのような気がする。
「おう、悪い悪い。それより、あっちのうさ耳つけてる女性は?」
一番の疑問、ここがどこか。それが分かった後、隣で眠る謎のうさ耳少女に話題が移るのは当然だろう。
「あれは、付けてるんじゃなくて本物よ。昨日の夕方、彼女はこの神社の境内で倒れたの。」
「何だ、別に俺と直接関わりがあった訳では無いのか。」
内心、がっかりしていると、霊夢から批難するような眼差しが注がれる。
なるほど、勘が良いというのは本当らしい。
「勘違いするなよ。俺はそういう趣味はないからな。」
「あったら、私は貴方をすぐに追い出さないといけないけどね。」
そう言って、霊夢が袖から棒を取り出す。
神社で神主さんや、巫女さんが持っているあの棒だ。もっとも、これは色々な妖怪を退治してきたのだろうが、かなりの数の妖力を感じた。
「追い出されたくはないな・・・・・・って言っても、今のところは霊夢のおかげで屋根の下に居られる立場だからな。霊夢が出て行けと言うんなら、すぐに出てくよ。」
自分と同じ歳か、はたまた下にも見える彼女に、これ以上世話になるのは気が引ける。
「安心して、いくら私でも、この世界の事を知らない人を追い出すほど鬼畜じゃ無いわ。そうね・・・・・・とりあえず、神社の掃除とか家事とかしてくれれば、しばらく居てもいいわよ。」
これは嬉しい。
見ず知らずの土地で、とりあえず帰れる場所を確保できた。
「でもいいのか?霊夢は何も得してないぜ。」
「いいのよ。本当言うと、こういう事って結構あるのよ。」
どうやら、時々幻想郷には神隠しに合ったり、忘れられたりして、俺達の世界から人間が迷い混む事があるらしい。
大抵は妖怪共の餌になるが、運よく神社まで辿りつければ、もとの世界へ返せるそうだ。で、辿りついた人を度々泊める事があったと言う。
「それじゃあ・・・・・・しばらくよろしくな、霊夢。」
「こちらこそ、よろしくね、虎之介。」
次とその次の話は、朱里と龍真、それぞれの幻想入りの話となります。