奈良の宇宙に輝く星は   作:ぺっぱー

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不定期更新になりますがよろしくお願いします。



一話

 ふう、と息を吐いた。子供の相手をしなきゃいけないとはいえ、この場所は落ち着く。

 そんなことを窓の外の景色を観ながら一人思った。

 皆が皆、四苦八苦しながらも楽しんで麻雀をする姿は、何処か微笑ましくて和むものである。

 ……俺もそろそろ受験を視野に入れて勉強しないといけない時期になる。

 そう考えると、ここにいつまで居られるだろうか。

 

「キング麻雀しよ!」

「キングはやめろ」

「いいね。じゃあ私は後ろで見てるよ」

「見られながら麻雀するの本当に慣れないんすけど」

 

 ここは阿知賀こども麻雀クラブ。阿知賀女子学園という高校で、主に小学生の子を対象に麻雀を教えるクラブである。

 講師はこの学校のOBであり、この学園の麻雀部を全国に導いたらしい赤土晴絵先生。

 まあ言うだけあってかなり洞察力や観察力に優れている。

 そんな麻雀クラブに何故中学生の俺が居るかと疑問に思う人も居るかもしれないが、ちょっと姉と付き合いのある晴絵から誘われて、指南役と面倒見の助手を任せれていたりするだけだ。

 別にロリコンだとかそんなことはない。決してだ。

 

「……待て、その単騎って」

「さあなんでしょう!ヒントは鳴いた牌にあり!」

「裸単騎はあまりよくないね、この四枚目はカンせずに切った方がいいよ?」

「流石レジェンド!」

「それはダメ」

 

 晴絵はレジェンドと呼ばれるのが恥ずかしいようだ。みんなで呼んであげよう。

 くだらないことを考えつつ西を雀頭にした。ギバ子の小四喜は犠牲になったのだ。

 俺はおもむろに千点棒を出すと、手牌を倒しながら雀卓の真ん中あたりに投げこむ。

 

「オープンリーチ」

「んな!」

「性格悪いな」

「じゃあ私もリーチで」

「オープンリーチに追っかけするとか正気の沙汰じゃない」

 

 彼女は三本になった点棒を見て、冷や汗を垂らしながらツモった。

 西を切るしかないこの状況、まさにイジメである。

 そんな非常に楽しい麻雀を遊んでいると、後ろからドアが開く音と声が聞こえた。

 

「やほー」

「憧ちゃんだァ゛!」

「その声やめてくれ。よう、憧、穏乃、あと……どなた?」

「まあまあ後で紹介するから!」

「んーそうか。じゃあギバ子席に着け。続きやんぞ」

「やだァ゛!」

 

 そう言って彼女は憧に飛びつく。

 あの野郎勝負を有耶無耶にしやがった。もうこうなったらどうしようもない。俺と同卓していた子は、二人してため息をついた。

 まあ気にしていても仕方ないと席を立ち、穏乃の方へ向かう。

 隣にいる非常にマイノリティな格好をしている子が私気になります。

 

「有望な新人連れてきたよー!」

「ほうほうこれはまた将来が楽しみな…」

「おいレジェンド」

「どこ見て言ってますか!?えーとレジェンドさん!」

「レジェンドじゃなくて赤土晴絵」

 

 初対面の相手にもレジェンドと呼ばれるなんてマジリスペクトっす。俺は晴絵から隠れて笑った。

 その時俺の脛に激痛走る。俺はその場にしゃがみ込むと、犯人の顔を一目見ようと顔を上げた。

 ……憧後で体育館裏な。

 

 ずっと口を必死に結びつつ蹲っていた俺には、その後の話を聞く余裕は無かった。

 

「で、あのしゃがみ込んでる人は?」

「キングだよ」

「キングじゃない!宙野竜!」

「あれ、もう平気なの?」

「根性で悟りの境地に」

「どんだけキング嫌いなの」

 

 もう痛みなんて怖くない。そう、俺ならね。

 そんなことより後ろでクスクスと笑ってる晴絵に腹が立ったので、プロ雀士カードの小鍛冶プロを見せる。彼女の目からハイライトが消えた。

 その刹那、憧のキンテキック。俺のハイライトと未来が消えた。

 

◆◆◆

 

「さて、和の実力を見せてもらおうかな」

 

 晴絵は和ちゃんに向き直ると、卓を指差して座るように言った。

 指示された彼女は特別緊張することもなく卓に足を運ぶ。

 うーん、相当慣れてるみたいだな。こりゃちょっと警戒する必要があるかもしれない。

 

「じゃああとの面子はしず、憧、それとー……竜でいいか」

「なんだその竜でいいかって」

「気にしない気にしない!じゃあ場所決めて始めちゃおう」

 

 俺がひっくり返したのは北。つまりラス親で、和ちゃんが起家。対面は憧で上家が穏乃となった。

 ルールは赤3枚、アリアリ、25000点持ちの30000点返しで半荘戦。おそらく一般的なルールだろう。

 

「それじゃあ回しますね」

 

 カラカラと、音を立ててサイコロが回る。

 この麻雀教室には雀卓がいくつかあるが、その中でもこの卓は自動卓。

 なぜ自動卓がこんな場所にあるのかはわからないが、おそらく晴絵がレジェンドになった頃に貰ったものだろう。

 さて、東一局。あの転校生の実力を知りたいとはやる気持ちを抑えつつ、第一打を切る瞬間を。

 

「九種九牌です」

「ウッソだろお前」

 

 最初にサプライズがあったものの、それ以外は何事もないように局が進んでいく。

 憧は相変わらず鳴き麻雀をしているようで、打点は低いものの場をどんどん流す。

 穏乃はちょくちょくアガれるタイミングを見計らっているようだが、憧や和ちゃんに邪魔されて焼き鳥な状態である。

 そして気になる転校生。彼女は堅実な打ち方と言った感じか。

 一番気になったのは牌をツモってからの切り出しの速さ。おそらくデジタルでセオリー通りに打っているのだろう。

 ……少しちょっかいをかけてみることにした。まあ、洗礼ということで。

 

「ポンで」

「はい」

 

 四萬を鳴いて四萬を切り出す。

 不可解な鳴きに彼女は眉をひそめたが、ツモった牌を見てすぐに切り返す。

 

「ロン。断幺九ドラドラで3900」

「っ……はい」

 

 憧はまた始まったと至極うんざりした表情。穏乃はすこし気の毒そうに和ちゃんを見た。

 肝心の和ちゃんは、少し驚いたようだが何事もないといった感じ。

 まあ高い手に振った訳ではないし、運はまだ自分にあると考えているようで。

 

 次の局も狙うことが確定した。この手の人間はドツボにハマりやすい。

 

「リーチします」

「ポン」

 

 南三局0本場。和ちゃんは配牌が良かったらしく、残り牌が半分を切る前にリーチをかけてきた。まあ俺は既に聴牌してたんだけどね。

 今さっき曲げられた牌を鳴いて、ツモをずらす。

 そしてその牌は、俺のアガリ牌だ。

 

「ロン。断幺九対々和ドラ5。16000」

「四暗刻も三暗刻も捨ててそこであがるって……本当わけわかんないよ」

「まあ結局上がれたんだしいいだろ」

 

 さて、和ちゃんを見ると信じられないといった表情。

 確かにデジタルの人からしたらこの打ち方はありえないだろうね。

 

「……そんなオカルトありえません」

 

 さて、オーラス。現在の点数配分は、俺が42700。憧が24400、和ちゃんが先ほどの倍満で絞られて18600。穏乃は14300で辛そうだなあといった感じ。

 最後くらい派手なアガリを見せたいものだけど…はてさて上手くいくかどうか。

 

「やっとこさリーチ!」

 

 そしてここで来る穏乃のリーチ。

 彼女の性格上、あの手は少なくとも俺を捲れるだけの火力を秘めているのだろう。最低でも跳満といったところか。

 それでも、オーラスの俺には届かない。

 

「追っかけリーチ」

 

 その言葉に、憧と穏乃は諦めの表情を見せた。

 一巡して、俺のツモ。それを見ることもせず、静かに置いた。

 

「ツモ。12000オール」

 

 綺麗な染め手に仕上がったそれを広げる。

 穏乃は卓に突っ伏し、憧は悔しそうに椅子にもたれかかっている。和ちゃんは……あれ?そんなにショック受けてないみたいだ。

 

「あーまた負けた!それ反則でしょ!?」

「いやいや麻雀に反則なんて無いだろ」

「それより途中の打ち筋について聞きたいことが…」

「反則って言ったら反則!オーラスの馬鹿げた火力どうにかしてよ!」

「言いがかりも大概にしろよ!表出ろ!」

「あのー……私の声聞こえてますか?」

「あー無駄だと思うよ。こうなったらなかなか終わらないから」

「そ、そうなんですか」

 

 このあとめちゃくちゃ晴絵に怒られた。

 

 あの対局の後、和ちゃんは麻雀クラブの子達と何戦か卓を囲んだ。

 晴絵はデータの収集に勤しんでいたようで、いいデジタルの子が入ったと喜んでいる。

 

 穏乃と憧への再戦を見事勝利で終わらせた和ちゃんは、満足そうに残った点棒を覗き込んでいた。

 

「でもね、和!これで麻雀クラブの人間を倒したつもりになっちゃあいけないよ?」

「はい、というか実際竜さんには勝ててないですが…」

「まあそれは置いといて。私と憧は実質二番手みたいなものなんだけど、実は麻雀クラブきっての凄腕な実力者がまだいるんだ!」

「凄腕の実力者ですか」

「あいつを実力者と呼ぶのは語弊があると思うが」

 

 あれは実力者ってより能力に振り回されてるだけだと思うんだけどな。ただドラ爆で圧倒的火力振りまいてるだけだし。

 

「…強運の持ち主が!」

「…強運の持ち主ですね」

「それなら間違ってないな」

「まあ残念ながら今日は来てないんだけどね」

「それは残念ですね。折角ですし対局してみたかったのですが」

 

 彼女は少し悲しそうにそう言った。

 憧が呼んでおけばよかったなと口に出すが、その心配はいらない。

 

「もう呼んどいたぞ」

「新しい子が来たと聞きましたので!」

「あ、玄さん」

「流石仕事が早い!」

「まあなんとなくこうなることは読めてたからな」

 

 そう。こいつこそが我が麻雀クラブのアホ火力担当、松見玄である。

 目に見えるオカルト筆頭の彼女を和ちゃんに見せるのは少し抵抗があるが、まあなるようになれだ。

 

「竜くんには感謝なのです!こんなおもちをお持ちな方に出会えるとは……」

「ひっ」

「手の動かし方が嫌らしいぞ」

 

 そして極度のおもち好きでもある。

 

◆◆◆

 

「ロン!断么九ドラ9で16000!」

「そ、そんなオカルト……」

「あるんだなーこれが」

 

 相変わらず酷い麻雀だなあ、と思いながら牌譜を見る。

 食いタンで倍満を容易に出すとか本当に化け物じみた火力してんな。ふざけ半分でカンした憧が悪いんだけど。

 

「ツモ、メンタンピン三色ドラ6、裏2!16000オールで終局なのです!」

「……今月何回目の数え?」

「15回目です」

「本当に化け物だなお前」

 

 そう言うと玄は、心外なのですと頬を膨らませた。

 そんな彼女を尻目に和ちゃんを見てみると、今度はかなり堪えている様子。やはりオカルトの塊と打つのは無理があったか。

 

「さーて和、玄さんと戦ってみてどうだった?」

「なんというか、とても運が玄さんに向いているというか……すごい偶然というか」

「そこまでして認めないのもすごいと思うけどな」

「玄さんにはね、いつもドラが集まるんだよ。全てのドラは玄さんに集まるってね」

 

 穏乃はかっこいいよなあと笑いながらそう言った。

 実際、玄はドラを集めやすいという特異体質の持ち主だ。ただ彼女の強さはそこだけではない。

 龍は古くから開運の象徴と呼ばれていることは周知の事実だろう。

 まるでそれを身に宿したかのような彼女の運は、それはそれは素晴らしいものになるわけである。

 

「そ、そんなオカルトありえません!」

「じゃあもう一回やる?」

「受けて立ちます!」

「はいはいそこまで。もうそろそろ6時になるからここらでお開き。再戦はまた今度来た時にしてね」

 

 晴絵のその言葉で時計を見ると、もう短針は6の文字を指す寸前だった。

 窓を見れば既に夕暮れ時で、みんな急いで帰り支度を始める。

 

「あ、そうそう竜。申し訳ないんだけどちょっと残っててもらえる?」

「うーい。ってことで穏乃たちは先帰っててくれ」

「はーい。じゃあみんな帰ろっか」

 

 さて、話ってのはなんだろう。あの和ちゃんのことか。それとも、うちの姉の話?

 色々と思案していると、晴絵はカーテンを閉め、こちらを振り向いた。

 

「大阪から、竜に会いたい人がいるそうなんだ」

 

 そして、そんな脈絡のない話に思考が止まった。

 大阪からの来訪者。住んでいる地方が同じというだけで、自分と関わりのない場所であろう場所なのに何故そんな話が。

 説明を求める目線を晴絵に送ると、苦笑を浮かべつつ話し始めた。

 

「インターミドル。あの牌譜を見たらしいんだ」

「ああ、あれか。腹痛で不戦敗になったやつ」

「あれは苦い思い出だね。まあ大会の前日にアイス四つも食べる方が馬鹿なんだけど」

 

 去年の夏のインターミドル。晴絵にとりあえず行ってみればと言われて出てみた大会だったが、その結末は散々。

 数試合までは楽々勝利を掴んでいた俺だったが、途中凄まじい腹痛によって途中退場。結局県予選は不戦敗で敗退し、その原因は前日のアイス馬鹿食いによるもの。

 憧には大爆笑され、穏乃と玄には心配された一夏の思い出である。

 

「まあその時の配牌を見て、大阪の高校から推薦のお話が来ててね。最近滅多に見ない男子の牌に愛された子だーって」

「あんまりその言葉好きじゃないんだけどな。……って、推薦!?」

「そう推薦。しかも大学に付属してる私立高校だってさ。竜の成績なら学力も申し分ないし、いいお話だと思うんだけどねえ」

 

 凄まじいお話が飛んできて内心何が何だかさっぱりである。

 つまり、高校受験をせずにそのまま私立大にエスカレーター……?

 そんな美味しいお話があっていいのだろうか。

 

「本当に?」

「マジだよマジ。まあ、一度高校に行って面接とお話を聞かなきゃいけないみたいだけど。とりあえず親御さんにこのことを伝えておいてな」

「了解しました赤土先生」

「なんだそりゃ」

 

 彼女はクスッと笑うと、帰った帰ったと俺を追い払う。

 追い出された俺は一人、ドアの前でぽかんと放心したまま、時間が過ぎていった。

 気付いたらだいぶ時間が経っていて、ドアから出てきた晴絵に驚かれたのはまた別の話である。

 

◆◆◆

 

「っていうかなんで晴絵がそんな話を?」

「いやちょっとした知り合いでさ。確定したら竜んとこの中学にも話行くって」

「……なんなんだそのコネは」

 

 結局彼女の車で家まで送ってもらうことになった俺は、そんなことを話しながら助手席に乗っていた。

 ある程度時間も経って少し落ち着いたのか、頭の中で色々と整理することができた。

 

「……私も私で色々と話が来てるわけだけど。目を逸らしちゃいけないよな」

「なんか言ったか?」

「いやいや、なんでもないよ」

 

 かのそう言って笑うと、少し車のスピードを上げた。

 和ちゃんに、俺自身の問題に。まるで物語が今から始まるかのような1日。帰ったらまずは親に報告しないと。

 

「なあ、本当に推薦来てるんだよな」

「だから本当だって言ってるでしょ。何回目だよ何回目!」

「いやでもそれにしたって……って晴絵!前見て前!」

「えっ、うっそ曲がり角!?」

 

 あと少しで全てがおじゃんになるところだった、そんな夜19時の一幕。 

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