「あはははー! すごーい! たーのしー!」
赤城さんがロデオマシーンに揺られはしゃぐ様子が目に入る。純真無垢なその姿は、とても心が和む。
チラリとロデオマシーンの入り口に立っている神崎さんへと横目をやると、うずうずと目を輝かせながら自分の番を心待ちにしていた。彼女が一昨日から今日という日を楽しみだとルンルン気分で待ち侘びていた事を知っているので、非常に微笑ましく感じる。例えるなら保護者が子供を引率しているような気分だ。
神崎さんも赤城さんも、そして隣に座る多田さんも運動する気満々の格好ではあるものの、やはりアイドルの卵。その服装の中にも拘ったおしゃれ具合が見え隠れしていた。偉そうに言う私はワイドパンツに上に適当に繕った格好だ。店員さんが言っていたコーディネートなので恐らくダサくはない。
現在、私を含めた『
グーチームは
アナスタシア
緒方智絵里
城ヶ崎莉嘉
前川みく
チョキチームは
新田美波
諸星きらり
双葉杏
三村かな子
パーチームは
赤城みりあ
多田李衣菜
神崎蘭子
そして最後に私こと小暮深雪、といった具合に分かれていた。神崎さんはともかく赤城さんと多田さんはまだ自己紹介程度でしか話した事がないので、これを機に仲良くなれたらいいなと思っている。無論、それはこの二人に限らずCPメンバー全員に言えることではあるが、別に焦る必要はないのでゆっくりと仲を深めて行こう。
と、言うことで早速、親睦会の名の下に親睦を深めてみるとしよう! まずは軽いジャブ!
「ねぇねぇ、多田さん」
「ん? どうしたの?」
「多田さんってロックが好きって言ってたけど、どんなの聞いてるの?」
「うぇあっ!?」
多田さんが素っ頓狂な声を上げる。特に可笑しな事は聞いていない筈だが。
不安になった私は多田さんに聞き返す。
「ど、どうしたの?」
「い、いやぁ……ロック……ね。い、色んなの齧ってるよ……?」
何故か歯切れが悪いが私が何かしたという訳ではなさそうだ。続けて質問を行なう。
「やっぱり洋楽が多いの?」
「まぁ、ね。え……エアロ、スミスとか、ク……クイーンとか!」
クイーンの部分で自信ありげに胸を張る彼女。なんだか子供が背伸びをしているみたいで大変可愛らしい。それにしても、やはりこの二つのグループは根強い人気を持っているようだ。
「有名どころだね。最近のグループのやつだと、何かオススメってある?」
実は私も最近夏樹の影響でほんのちょっぴり洋楽にも手を出し始めたのだ。グループはバラバラだが自分的に好みな曲を選りすぐって聞いている。
「ええっ?! え、え〜っと……」
彼女の視線が縦横無尽に泳ぐ。流れで聞いたつもりだったけど、何か不味かったかな? 少し質問し過ぎたか。
「あっ、あ〜っと……い、今はサ、サーカス・グランパ? ってグループが熱いかな〜、なんて」
「…………もしかしてルーカス・グラハムの事?」
「えっ!? ……そ、そうそうそれそれ! いや〜、言い間違えちゃったよ〜、あっははー」
言い間違えるというレベルには思えないのだが。というかサーカスとおじいちゃんって、もはや意味が分からないんだけど。サーカス団に所属しているおじいちゃんなのか、サーカスを見に行くおじいちゃんなのか。はたまた、おじいちゃん=サーカスという概念的な話になってくるのか。
内心首を捻っていると、ロデオマシーンを乗り終えた赤城さんが此方へと戻ってきた。
「楽しかったー!」
「良かったね」
可愛かったので髪型が崩れない程度に頭を撫でた。にっこり笑顔。大変可愛らしいです。
「うん! 深雪ちゃんと李衣菜ちゃんは乗らないの?」
「私はやめとくよ。ああいうの酔っちゃうから」
そう、私ってばああいうアトラクションで酔っちゃうタイプなのだ。特にジェットコースターの下りはしんどい。楽しいけど。好きだけど。下りは死にそうになる。なんというかね、意識がふわぁってなるの。叫ぶ余裕くらいはあるけど。
「じゃ、じゃあ、蘭子ちゃんの後に行こうかな〜……」
多田さんは行くようだ。心なしか視線をそらされてる気がする。そう思い始めるとなんだか足取りも逃げるような風に見え始めたが、きっとどちらも被害妄想だろう。
「我、顕現!」
そんな事を考えているうちに、目の前にはだいぶテンション高めの神崎さんがロデオマシーンへと豪快に跨ろうとしている姿があった。意気揚々としたその様子は、正に歴戦の魔王たる風格を感じさせられる姿であった。
「ぷぎゃっ!」
全然そんな事はなかった。勢いよく跨ったのは良かったが、その勢いで反対側へと転落してしまった彼女。私は心の底からアホだと感じた。
下に柔らかいマットが敷かれているので大丈夫だとは思うが、もしかしたらもありえる。私たち三人は地面に四つん這いで這い蹲りながらプルプルと震えている彼女の元へと駆け寄る。
「神崎さん大丈夫?」
声を掛けるも神崎さんは心配無用だと手をバッと翻す。チラリと見えたその瞳はウルウルと潤んでいた。
「わ、我、顕現せしむれば生きとし生けるもの全てが平伏すだろう……。しかし、時は満ち足りぬ」
「……な、なんだって……?」
「……ちょっと、分からない」
私と多田さんは小声でやり取りをする。私も簡単なものであれば理解出来るものもあるが、今回の彼女の言葉は難しすぎた。神崎語四級の私には一級二級レベルはまだ早過ぎる。
そう思っている矢先であった。
「そっかー……次は気を付けてね?」
「うむ……」
……んー? なんか会話が成立していたように聞こえたが、気のせいか?
神崎さんの言葉に赤城さんは何の迷いもなく返事を返した。今のはまるで彼女の言葉の内容をしっかり理解しているかのような返事の仕方である。
まさかとは思いながらも、私は小声で赤城さんに聞いてみる。
「今、神崎さんはなんて言ったの?」
「え? 次は成功させるって言ってたよ! あ、でも今はやめとくって!」
「是也」
「……ぇ」
向日葵の様な笑顔を浮かべながら彼女はそう言った。
私は戦慄した。まさか……まさか本当に神崎さんの言葉を理解していただなんて……。私は赤城さんの凄まじい語彙力に畏怖の念を禁じ得なかった。私がその領域に達するにはどれ程の時間がかかるのだろうか。私が未だ四級で神崎さんが師範、とすると赤城さんは一級レベル……?
「彼女は“瞳”の所持者なり」
分からねーよ! 神崎語はいいから日本語話してくれ!
そんなこんなで、多田さんがロデオマシーンでわたわたしている様子を眺めた後、私たちは続いて向かう施設を探す。
「ねーねー! 次はここがいいなぁ!」
「む、庭球か。是非も無し!」
「じゃあ行こっか」
階段を上がり目的の場所へと向かう私たち。けれどテニスは人気なようでだいぶ並ぶこととなった。二ペア程並んでいるっぽいので四十分以上はかかりそうだ。とはいえ、四人待つ必要もなし。私が待てばいいか。
「三人は遊んでていいよ。時間になりそうだったら伝えるから」
「みりあ達も一緒に待つよ?」
「気にしないで。四人で待つと時間勿体無いし、それに邪魔になるからね」
「じゃあ、交代で並ぶ? 二十分くらい経ったら私が交代するよ」
「おっ、ありがと。じゃあいってらっしゃい」
「再び合間見えようぞ!」
そうして三人は去って行く……と、その前に伝えておかないと。
「あっ、多田さんちょっと待って」
「ん? なに?」
私は小声で多田さんに告げる。
「……引率お願いね」
「おっけーおっけー、任せて!」
多田さんはにっかりと笑みを浮かべながらこちらへサムズアップした。これで大丈夫だろう。
残された私は待つ人用のベンチへと腰を掛けると、キャメル色のワンショルダーバッグから『達人伝』の最新刊を取り出した。ふふふっ、こんな事もあろうかと準備しておいたのだッ! 嘘。ただ昨日買ったのを取り出し忘れただけです。
さて、それでは読み進めるとしようかね。
そして心ウキウキワクワクといった具合に読み進めていくと、私より前に隣に座っていた男性から声を掛けられた。
「あっ、あの、お一人ですか?」
……はい? もしかして、私に言っているのだろうか。ちらっと隣を見てみると、その視線は私に注がれていたので、どうやら私に言っているようだ。
しかし、よく考えてみて欲しい。一人でテニスなんて、出来るわけないでしょうが! 打ったらすぐさま反対側行って打てってか。馬鹿なの? 死ぬの? あーもうめちゃくちゃだよ。折角のドキドキシーンだったのに、緊張感が薄れてしまったじゃん。
イヤホンを装備しておくべきだったかと内心後悔しながら少し不機嫌に返事を返す。
「……連れが三人いますが」
「そ、そうですか……。あっ、僕○○○○って言います。ところで──」
それから名前も知らぬ彼(忘れた)はぺちゃくちゃとどうでもいい話を繰り出す。心底どうでもいい話ばかりなのでもう勘弁してほしい。私の面倒臭がってる雰囲気が分からないのか。相手の心の動きが読み取れない時点で彼に営業は向いていないということが分かる。
そしてもしやとは思ったが、これはあれか。いわゆるナンパってやつなのか。実はナンパって何度かされた事あるんだけど、私ってそんな軽そうな女に見えるかな? それとも取り敢えずアタックしてみるかってやつだろうか。気持ちは分からなくはないけど、十五歳をナンパって中々に事案物だと思うんだよね。見た所大学生っぽいけど、ロリコンなの? 十五歳まではロリコン扱いだって知ってた? まぁ、物怖じせず話しかけられるのは良いことだとは思う。対象が私でなければの話だけど。
そもそも初対面の人と付き合うっていうのが考えられない。一夜だけの関係とか言われたら女性の立場的にムカつきはするが男性の立場的にはまぁ成る程とはなる。気持ちは辛うじて分からんでもないのだ。……あれ? これいったい何の目線なんだろ? ……とにかく、彼には悪いがここはキッパリと断っておこう。
「あーすいません。そういうの、間に合ってるので」
「そ、そうですか……はぁ」
残念だと言いたげに溜息を吐くと、彼は気まずげに口を閉じた。どうやら一発で諦めてくれたようだ。この手はしつこい輩が結構多いからね。言い方とかも相手の神経を逆撫でしないように気を付けないと。それを鑑みると、今の言い方は少し危なかった。続きが読みたいあまりについ杜撰な言い方になってしまった。
ふーっ、ともあれ、これでようやく続きが読めるぜ! 悪いが今の私は本当にそういう事は全く興味がないんだよね! ぶっちゃけあんまり好みでもないし。確かにかっこいい部類なのかもしれないけど、私はもっとこう、男らしい安心感のある人がいい……って何言ってんだ私。
静かになったので私は再び読み耽る。少しすると、隣の彼が席を立つと同時に多田さんが此方へ近づいて来ているのが分かった。どうやら交代のようだ。二十分なんてあっという間である。その内五分程無為に過ごした訳だが。
「深雪ちゃん、交代だよ!」
「はーい。二人は?」
「今ゴルフしてるよ」
「分かった。順番待ちよろしくね」
「おけー」
私は彼女に言われた通り、ゴルフ施設の方向へと向かった。
「えーい! ……あっ、深雪ちゃん!」
気の抜ける掛け声の後に私を呼ぶ彼女は赤城さん。多田さんの言う通りゴルフの施設にいた。私が見かけたのは丁度赤城さんがクラブを振り切る場面であった。
「天翔ける白龍……我ですら制御が敵わぬとは……!」
神崎さんは悔しがりながらゴルフクラブを握りしめる。今の言葉は分かったぞ! 今のはゴルフを比喩しているんだ! 『天翔ける』は打った時の状態、『白龍』はゴルフボールを意味しているのだ! ふふふ、私もそろそろ神崎語三級くらいまでは進級したかな?
「今こそ魂の
………………うん、分からん!! 四級から潔く出直してきます!!
「深雪ちゃんも、はい!」
赤城さんが私へとゴルフクラブを手渡す。いいのかい? 私に渡しても。自慢ではないが私は『プロゴルファー猿』のアニメを何話か見た事ある程の実力者だ。旗つつみ程度訳ではないぞよ? それでもいいというならば、二人に本物の旗つつみ、そして本物のプロと言うものを見せてやるとしようか。
私の頭には天高く舞い上がる白銀の龍が、ホールポストという名のお布団目掛けて一直線に駆け抜ける姿がよぎった。
──ワイは深雪や! プロゴルファー深雪や!
そう心で叫び、両手でクラブをしっかりと握り締める。緊張感を身に漂わせ、ゆっくりと腕を引く。やがてクラブが窓辺から差し込む輝かしい陽光と重なり合い、ピタリと身体をその場に留める。
腕、腰、足と順番に筋肉を高ぶらせ、私は勢いよく振りかぶった。そして──
「そりゃ!」
振り抜いた! 結果はスカ! 分かりきった結果である。ゴルフなんて片手で数える程しかプレイした事ないし得意というわけでもない。ましてや旗つつみなんて高等技術が出来るわけがなかった。
「そもそも映像というね」
「む、如何なる言霊か?」
なんでもねっす。あー恥ずかしい恥ずかしい。さて、彼女らも十分楽しんだだろうし、次はアーチェリーにでも行ってみるとしよう。ゴルフはもうやらない。
「あーちぇりー、ってなぁに?」
「弓矢の事だよ」
「弓矢やるー!」
「わ、我はやり残したことがある故に」
おや? 神崎さんは来ないようだ。ま、結構しっかりしてる子だし、一人でも大丈夫……いや、先のロデオマシーン転落事故もあったな。それに今日の神崎さんはいつにも増して楽しげというかテンション高め。意外と不安要素が残るな。
「一人にすると怖いし、一緒に来ない?」
「む、よもや我を侮っているわけではあるまいな?」
「侮ってるっていうか、さっきの転落もあるし……それに可愛い子一人にすると色々と危ないから」
「かわっ……!」
もしかすると先程の私みたいな事が起こるかもしれないのだ。その場合に神崎さんがしっかりとナンパを断る事が出来るのであれば何も問題はない。彼女は中学一年生と、幼くはあるが身体は既に第二次性徴期を迎えている。そして何より可愛い。ナンパされる可能性は十分にあるだろうと思われる。そう考えると順番待ちをしている多田さんは大丈夫だろうか。少し不安になってきた。……隣の人もいなくなったし、反対隣は女の子だったから大丈夫か。
中一をナンパする輩がいない事を祈るか、念を入れて私たちが待つか。アーチェリーの施設は此処から近い所に存在しているが、それでも目を離す時間帯は必ず出てくる。大袈裟かもしれないがその“多分”や“きっと”という油断が一番怖いのだ。
私は彼女らを引率する立場でもある。新田さんにもよろしくってお願いされてるし。それによく考えると、先程多田さんに言った手前私が約束を反故にするわけにはいかない。やはり彼女が満足するまで待つとしよう。
「神崎さん待ってようか」
「そうだね」
赤城さんから了承を得、神崎さんにも伝えようとすると、何故か少し顔を赤らめている様子の彼女がそこにあった。私がうんうん考えている間に何かあったのか。まあ、嬉しそうにも見えるので特に聞く必要もないだろう。
「ゆっくりしていいよ」
「う、うむ」
という事で一頻り彼女の素晴らしい
「赤城さん、やる?」
「やるー! ……むむむーん、えいっ!」
彼女の放った矢は小さな放物線を描き、やがて墜落した。なんというか落るべくして落ちた、みたいな落ち方であった。音で表すとみょいーんぽてっ、といった感じだろうか。
「あー」
「残念。次はもうちょっと近づいてみる?」
「うん。じゃあ、はい!」
私は赤城さんから弓と矢を受け取り、黙想した。
──遂に来たか。
弓に矢をつがえ、キリリと引くと、耳元から軋むような音が聞こえる。やがて限界まで達し、蓄積された弾力を解き放たんとしたところで、私は小さく呟く。
「……狙撃」
かっこイケボかっことじ、と後ろにつけても良い程のイケボ具合を披露した私。
撃ち放った矢は風切り音を立てながら一直線に的へと向かう。まるで的に引力でも存在しているかのように矢は吸い込まれていく──
──などということは当然なく、矢は始めから緩やかな放物線を描き、的に当たるまでもなく手前で地面に接触した。音で表すとピョーントスッ、といった具合だろう。うん、まぁ、こんなものだ。アーチェリーに関しては今日生まれて初めて行なった訳だし。
しかし、私は満足している。何故なら、ROUND10での三番目の目的が達成されたからだ。その目的っていうのはアーチェリーで打つ瞬間に『狙撃』って呟くことだけ。特に意味はないが一度だけやってみたかったのだ。一番は勿論皆との交流で、二番は純粋に楽しむ事。今の所は多分順調だ。後は彼女らの奮闘を眺めながらテニスの時間を待つとしよう。
そう思い神崎さんに弓を渡そうとすると、いやいやと断られた。アーチェリーは嫌いだったか。
「わ、我が手に宿りし悪霊が蠢いておる……」
「この子はなんだって?」
「手が痛いって」
さっきまでずっと素振り(意訳)してたからね。仕方ないね。私もゴルフの練習場でグローブもせずひたすら素手で適当に打ちまくった結果肉刺ができて悶絶したものだ。一緒に行った友達はできていなかったというのがまた恨めしい。ペンも持ちづらいし、お風呂入る事すらままならないからね。あれは辛いよ。それに比べたらまだマシだ。
という事で赤城さんと二人でピョインピョイーンと矢を飛ばしては回収しての繰り返しを行なった。私も今の神崎さんみたいに見る側が良かったが、赤城さん一人だけ遊ばせるのも忍びなかったので、私が偶に入る形で繰り返し矢を放つ。的にこそ当たりはしなかったが彼女の笑顔が絶えることはなかったので良しとしよう。
さて、次は……おっと、MINEだ。きっと多田さんからだろう。
『もうすぐ時間だよ( ˊ̱˂˃ˋ̱ )』
予想通り多田さんだったが、なんだこの絵文字。どっからどう見てもおさ○り探偵のな○こじゃん。輝子が気に入りそうだな。送っとこ。
『( ˊ̱˂˃ˋ̱ )』
あ、間違えた。多田さんに送り返しちゃった。
『( ˊ̱˂˃ˋ̱ )』
よし。次はしっかり送った。それじゃあテニスしに行くとしよう。
「二人とも時間だよ」
「テニス! 楽しみだなー」
「我が美技に酔い痴れるが良い!」
それテニスちゃう。テニヌや。
三人でテニスコートへと向かうと、そこには既に柔軟を行なっている多田さんの姿が見えた。
「お待たせ」
「おっ、来たね! もう準備は万端だよ!」
私達もそれに倣い、荷物や上着を見える位置に置くと準備運動を開始した。御丁寧にラジオ体操を一緒に行う神崎さんと赤城さん。なんとなく優しい気持ちになりながら私は適当に身体を解していくと同時に手や足の骨も鳴らしていく。
「狂乱なる宴の始まり……。それ即ち我が世が来たると同意……!」
「得意なの?」
「世に散らばりし財の起源は我に遡る。故にその総量は、とうに我の認識を越えておるのだ」
「なんだって?」
「やった事ないんだって!」
ただのカッコつけか。無駄にキリッとしやがって。めちゃくちゃシュールだぞ。というかそろそろ赤城さんが翻訳係に定着しつつある。
「グーパーで分かれよう!」
それが一番簡単だと多田さんの提案に乗っかる。私達はグーとパーを繰り出した。
「「グーパージャス!」」
「「グーとパーで分かれましょ」」
「「「「ん?」」」」
「東京ではグーパージャスって言うんだね」
「大体の人がそうだと思うよ? でもそっちの方が分かりやすくていいね! こっちのは意味分からないし。みりあちゃん知ってる?」
「みりあ分かんない」
「分からないんだ……」
意外なところで地域の特色が表れたか。しかしこんなところでたった二十分の貴重な所要時間を無駄にはできない。丁度さっきのバラバラの掛け声で九州と関東に分かれたからそれでいいだろう。
三人から了承を得ると多田さんが聞いてきた。
「ラリーにする? それともゲーム?」
「赤城さんはルール知ってる?」
「知らないよー?」
ならラリーだけで充分だろう。神崎さんも知らないらしいし。私は二学期末に体育でやってたから少しは分かる。
半分に分かれると、私は手に持つボールを上に放り投げ、ポーンと柔らかく多田さんの方へ打ち込む。
「多田さーん」
「よーし、蘭子ちゃん行くよ! それっ!」
「う、うむ!」
多田さんは私と同様に、柔らかいボールを神崎さんへと
「え、え〜と……波ァ!」
何やら凄まじい掛け声が聞こえて来たが、結果は高く浅いロブ。それは順序良く赤城さんの方向へと向かっていた。
「赤城さんがんばってー」
「うんっ! え〜い!」
パコンッ、とラケットに当たる。中々良さそうな当たりではあったが、残念ながらネットに防がれてしまった。
「失敗しちゃったー……」
「大丈夫大丈夫! 次出来ればOKだって! ほら、ネット前のボールを取って、上げるようにあっち側へ打ってみて。あっ、強過ぎるとコートから出ちゃうから少し強めくらいがいいかな」
「う、うん! 分かった! いくよ〜……そりゃ!」
多田さんのアドバイスに従い、赤城さんが打つ。アウトになるほど深い位置ではあったが、なんとか打てそうだ。飛んで来たロブを私は同じように返す。
「赤城さん、その調子だよ」
「えへへっ、ありがとー!」
赤城さんは朗らかな笑みを浮かべた。癒し。
「うりゃ!」
「おっ、蘭子ちゃんナイスボール!」
「ふっ、造作もない!」
神崎さんも慣れて来たようで、ほんの少しだけだが良い位置に打てるようになってきた。私の始めた頃はもっと酷いものであった。ネットに引っかかるわ道路に飛び出るわで散々だ。極端に苦手というわけではないのだが、慣れるまでは中々苦労した。それに比べれば彼女らは相当上手い。
それからも私達のラリーは続いた。趣向を変えてコートを縦に半分に分けて一対一でラリーをしたり、クロスの一対一なども行なったりした。しかし二十分という時間はとても短い。そうこうしているうちに、時間経過のアラームが扉付近から聞こえてきた。それに気付いた三人も少し不満気な様子が伺える。
「もう終わりー? みりあまだやりたーい!」
「二十分だからね。そんなもんだよ」
赤城さんの言葉に多田さんが返す。確かに短かったなぁ。あんまりやったって感じがしない。これなら何処かの公園でコート借りてやった方が楽しいや。
ともあれ、終わったものは仕方ない。お昼までまだ時間は残っているし、次は何処へ行こうか。