私、二回目の人生にてアイドルになるとのこと   作:モコロシ

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第17話 テレビデビュー!

「よし、皆お疲れ様! 今日は上がっていいぞ!」

 

『お疲れ様でした!』

 

「すぅ、はぁ……ふぅ……疲れた」

 

ここは346プロの本拠地である自社ビルのレッスンルーム。現在我らCP(シンデレラプロジェクト)メンバーは本社に勤めるトレーナーさんからレッスンを受けていた。レッスンはまず今行なっている基礎的な体力作りや柔軟性の強化、そこから346プロ所属アイドルなら誰でも歌って踊れる代表曲と言える“お願い!シンデレラ”、通称“おねシン”の名で親しまれるこの曲の練習へと移り変わっていくらしい。一つ言う事があるとすれば、最近二人組を作るときふんす! と鼻を鳴らしながらドヤ顔で「我が運命は其方と共に」とか言って来る神崎さんを無視して多田さんと組むのが超楽しい。

 

「皆、お疲れ様」

「はぁ、ミナミも、お、お疲れ様です」

 

新田さんは流石に大学でラクロスやってるだけあって、息は切れているが体力にはまだ余裕がありそうだ。首元から滴る汗が実に悩ましく感じる。

 

アーニャちゃんは膝を両手で抑えながら辛うじて立っているといった様子だ。

 

「疲れたけど、楽しかったねー!」

「そうだねっ、みりあちゃん。でも、私も少し疲れちゃった。……あっ、ほら、悩殺セクシーショット☆」

「わー、莉嘉ちゃんおとなー! みりあもやるー!」

「こらー! 二人共はしたないにゃ!」

「ちぇー」

「はーい」

 

みくにゃんが赤城さんと莉嘉さんを叱る。セクシーショットというには二人共色々と成長が足りないが、見ていて微笑ましかった。

 

「杏……生まれ変わったら石油王になるんだ……ガクッ」

「にょわーっ! 杏ちゃん大丈夫にぃ? 頑張ったごほーびに、飴あげゆ☆」

「飴!?」

 

コントかな? というか飴に対して過剰に反応し過ぎではなかろうか。しかも今のはびっくりしたというか、喜びの反応だったような。

 

「はぁ、はぁ……いやー、レッスンってこんなにきつい物なんだね。い、いや、まだ余裕はあるけどね!」

「李衣菜ちゃん、凄いね。はぁ、はぁ、私は、こんなに動いたのは、久し振りだな」

「冬の持久走より疲れたよぉ」

 

多田さん、緒方さん、三村さんの三人も慣れないレッスンに疲れを隠しきれていない。

 

「くっ、人の体というものは不便な物よ……」

「そうだねー」

 

何言ってんだこの人。取り敢えず同意しておいたが、神崎さんの疲れた時の言い訳が凄まじい。こんなに体力なかったっけとかなら分かるが、人類の進化を否定するとは……やはり魔王。

 

しかし、汗で服が地肌に張り付いていて気持ちが悪いったらありゃしない。さっさと更衣室に行って涼しい涼しいコールドスプレーで汗を引かせなければ。

 

『輝く太陽背に受──』

 

携帯から勇ましい男声合唱の歌声が聞こえる。この着信音ということは武内さんか。ジャイアントな武内さんにはぴったりな選曲だろう。心なしか顔も似てる気がするし。

 

「……はい、小暮です」

『……小暮さん、お疲れ様です。話したい事がありますので、今から第三会議室へと来ていただけませんか?」

「え? い、今からですか……?」

『? ええ』

 

今からかぁ……。こんな汗臭い状態で目上の人に会いたくはない。せめてシャワー浴びてからかシーブリーズでも塗りたくった後じゃないとね。

 

「あの……今レッスン終わったばかりなので、サッとでいいのでシャワーを浴びてからでも大丈夫ですか?」

『えぇ、構いません。……申し訳ありません。配慮が足りなかったようで』

「あ、いえ、気にしないでください。それでは、失礼します」

 

ピッと電話を切る。あっ、しまった。なんの用事が聞いておけば良かった。武内さんから、という事はきっとアイドル関連の事だと思うのだが、生憎と私はまだデビュー前のひよっこどころか有精卵アイドルである。そんな誰にも知られていないただのパンピーの私に仕事依頼なんて回って来る筈もないから、他の事だと思うんだけど……一体どんな用事があるのだというのだろうか。

 

「天の御使いよ、いざ偶像世界への帰還を」

「用事出来たから今日は一緒に帰れないんだ。ごめんね?」

「む、そ、そうか……」

 

神崎さんが少し寂しげに呟く。その様子に少しだけ罪悪感が湧いてくるが、呼ばれたからには仕方がない。アーニャちゃんやみくにゃんと一緒に帰っておいて欲しい。

 

「……ならば闇に飲まれるがいい」

「……もしかして怒ってる?」

「ひぇっ! ちっ、違うの! ……ごほん、天の御使よ! 闇に飲まれよ!」

 

何故言い直したし。まあ、雰囲気からして悪い言葉ではなさそうだし、気にすることもないだろう。

 

「お疲れ様でした」

 

一言部屋にいる面々へと声をかけ、お疲れと帰ってくる声を聞きながら私はレッスンルームを後にし、着替えとタオルを持ってシャワー室へと向かった。

 

すると前から淡いピンク色の髪が目立つ少女がこちらに向かって歩いているのに気が付いた。

 

「お疲れ様です」

「ん? お疲れ様……って深雪じゃん。なんで敬語なの?」

 

城ヶ崎美嘉さんだった。

 

「いえ、アイドル的にも学年的にも一応先輩なので……後ぴちぴちぎゃる怖い」

「ねぇ、本当に敬ってる?」

 

ジト目で此方を睨んでくるぴちぴちぎゃるの美嘉さん。おお、怖い怖い。

 

彼女の気安さも相まり、たった二回の邂逅で美嘉さんを弄る事に味を占めた私であった。

 

「ていうかあんただって髪染めてるし、人の事言えないでしょ」

「地毛です」

「えっ?」

「地毛です」

「嘘でしょ!?」

 

美嘉さんが驚きながら私の髪をさわさわしてくる。驚く気持ちは分かるが触って何か分かるのだろうか。しかし、女の子特有の柔らかい手の感触が直に頭に伝わってくるのが、まるで撫でられているように感じて少し気恥ずかしい。

 

「……やめてください」

「あっ、ごめんごめん。いや、でも本当に地毛なの?」

 

どうやら疑っているようだ。確かに普通に考えて私のような空色の髪なんて考えられない。いるとしてもアーニャちゃんのような青みがかった白くらいのものだろう。私はあれだ、人類の神秘。

 

「ほら、眉毛も空色です」

「あっ、そういえば!」

「転校してきた時も事情を知らない先生や生徒に色々追求されました。仕方ないんですけどね」

 

一回や二回ならまだしも次から次へと知らない人から聞かれるから本当に対応がうざい。

 

私が溜息を吐きながら呟くと美嘉さんは苦笑しながら答える。

 

「あはは……疑ってごめんね? ところで深雪ってこっち住みじゃなかったんだ?」

「福岡出身ですよ」

「へぇー、いいじゃん! ロケやライブで何度か行った事あるけど、あそこは食べ物が美味しいね! 特に魚!」

 

良い目の付けどころだ。福岡といえば明太子やラーメンが有名過ぎて埋もれがちだが、魚も中々に美味しい。福岡の店で出される海鮮物でマズイ魚なんて殆どないしね。ちなみに私のオススメは鯛のあら炊き。全体に煮汁の染み渡った、溶けるように柔らかい身が非常に絶品である。久し振りに食べたいな。

 

「それに博多弁も可愛いよね……ふひひ★」

 

おっと、今の言葉は危ないな。含みがあるようにも聞こえたが、素直に方言を褒めてる可能性もある。どうしたものか。

 

悩ましい選択の末、弄った方が面白いと判断した私は取り敢えず携帯を取り出した。

 

「もしもし警察ですか?」

「ちょちょちょ!!」

 

アワアワしながら携帯を取り上げようとする彼女。一々良い反応を見せてくれる。

 

「今のはセーフでしょ!」

「自分でもグレーの自覚がある時点でアウトです。そもそもこの程度の事で警察が動くわけないじゃないですか」

「私が何をしたって言うの……!」

 

満足した私は取り出した携帯を片付ける。

 

そういえばうちの部署には明らかにこの人の攻略対象になり得る赤城さんがいるが、このままでは赤城さんは美嘉さんの格好の餌食。美嘉さんの食指が動く前に私が赤城さんを魔の手から守らなければなるまい。そう私は決心した。

 

「それじゃあ、私用事があるので。お疲れ様でした、お先に失礼します」

「あ、うん、お疲れ……」

 

何故か出会う前より疲れた様子の美嘉さんに挨拶をしてその場から離れた。

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

やがて指定された部屋へと辿り着き、ノックを合計四回行う。

 

『どうぞ』

 

返事が来る。このいつ聞いても飽きない低音バリトンヴォイスは武内さんだ。

 

「失礼致します。シンデレラプロジェクトの小暮深雪です」

 

誰がこの部屋に入室しているか分からなかったので、取り敢えず粗相がない程度に礼儀正しく入室した。

 

「よっ、深雪」

「深雪……おはよう」

「ふひひ……お疲れ」

 

上から順に夏樹、のあさん、輝子。

 

この三人が揃ってる時点でどんな話が来てるのか理解した。多分ライブ関係の話なんだろうな。少なくとも演奏は確実だろう。

 

「おはようございます」

「小暮さん、おはようございます。こちらへお掛けになってください」

「はい、失礼します。……ところで、一体なんの集まりですか?」

 

取り敢えず確認の為に聞いてみると、私の疑問に夏樹が答える。

 

「ああ、実はこの前あったウィンターライブでの演奏が内外で中々好評だったらしくてな。アタシ達三人で正式にユニットを組む事になったんだ」

「おー、おめでとう」

 

それは凄い。ということはCDとかもいずれ販売していく事になるのだろうか。三枚買ってサイン貰わないと。

 

「ユニット名は“Unknown Invaders(アンノウン インベーダーズ)”。直訳すると“未知の侵略者”だ。アタシらからしてもこの三人の組み合わせってなかなか見ないからな。どうなるか分からないが、やるからにはキメて行こうぜ! って意味が込められている」

「なるほど」

「そして、ここからが本題だ」

 

夏樹はニヒルに笑いながらそう告げ、彼女の言う本題という物を話し始めた。

 

「今度、二月末に行われる生放送にアタシらが出ることになったんだ!」

「おぉー! 凄いじゃん!」

「そこで深雪に依頼だ」

「おお?」

 

詳しく聞いてみると、どうやら『ミュージック・アイドル』という人気音楽番組の生放送で演奏を行うらしく、私にエキストラとして手伝いをして欲しいとのことだ。成る程、確かに私はウィンターライブでベースギターとして彼女らのサポートをさせてもらった。しかし所詮私はただのエキストラ。私ではなく正規のメンバーになるようなアイドルを見つけた方が良い気がしなくもないが、まあいいや。

 

ただ、一つだけ絶対条件がある。これは前のライブでも言っていた事だ。

 

「私に声を出させないでね? 本気で」

「ま、前の事はその……ほんとにごめんなさい」

 

輝子がシュンと落ち込んだ。同時にアホ毛も項垂れる。可愛い。

 

……じゃなくて、あの件に関しては今はもう怒ってはいない。輝子もしっかり反省してるようだし、私もあまり引きずらないタイプなのだ。過ぎた事を一々気にしたところで仕方がない。それにどうせあれはある意味で“私”であって“私”で無いのだから。

 

何故私が声を出してはいけないのかと言うと、演奏中の悪魔メイク姿で“シンデレラプロジェクトの小暮深雪”だと身バレしたくないからだ。今はまだプロジェクト自体が始動してないので自意識過剰乙って感じだが、今後になると「あっ、あの人もしかして……」っていうのがあるかもしれないから念には念を入れて。転ばぬ先の杖という奴である。

 

と言うのも、クールで格好良いアイドル像を目標とする私に、ロックやメタルなどの要素は現段階では重しにしかならないと考えているからだ。アイドル界で“ロックといえば木村夏樹”と言われているように、私もいずれは“バラードと言えば小暮深雪”と言われる程にまで大成してみせる所存だ。バラード路線が相当に厳しい事は分かっている。765プロの歌姫“如月千早”、身内にも“高垣楓”といった強敵がいるのだから。やるからには目標は高めの方がいいし。

 

話が逸れたが、要は私に会話を振らなければ良いだけの話なのでそこまで重く捉える必要はない。それに私はエキストラ。演奏が終われば即退散なので振られる事はきっとないだろう。

 

「つまり一緒に演奏したくない訳じゃないんだな?」

「そりゃあ……みんなとの演奏楽しいしね」

「なら決まりね」

 

のあさんが出るよね? って目をしながら私を見てくる。そもそも私は最初から大歓迎です。先ほども言った通り一緒に演奏するのは楽しいし、後小遣い程度ではあるがお金も入るし(ここ重要)。

 

「深雪……じゃなくて“CB/DS”の出番という訳だな」

「えっ? …………あ、ああ、そうなるね!」

「ははっ、おいおい、自分の名前だろ?」

「……すっかり忘れてた」

 

この名前って意味が謎過ぎて印象に残り辛いんだよなぁ……。遮断機と断路器なんて電気用語誰が分かるんだよって話だし、本来の意味なんてただ自画自賛してるだけの理由にもならないような意味だし。ああああ! 思い出したら恥ずかしくなってきた! 自画自賛の方の理由は無限の彼方へと放り投げとこう!

 

すーはーと深呼吸をして心を落ち着かせる。

 

「けどよ、深雪。流石にスタッフさんや監督、出演者への挨拶は怠っちゃだめだぜ?」

「うん、ありがとう。挨拶とかはしっかりするから安心して」

 

その辺りは私もしっかり把握している。挨拶は大事。古事記にもそう書いてあるから。それに前のライブの時もその事については武内さんに何度か言われていたからね。

 

ですよね? って感じで武内さんの方を向くと、目が合って一つ軽く頷いていた。

 

「兎も角、次もよろしくね」

「う、うん、やっぱり慣れた人と演奏した方がやりやすいしな」

「いいっていいって、こっちもお金もらってる訳だし」

「おっと、バイト感覚でやってもらっちゃ困るぜ?」

「ふふっ、分かってるよ」

 

私は夏樹の冗談に小さく笑いながら返事を返した。

 

「では、私の方から資料を用意しておきます。後日、改めて詳しい内容の把握を。それでは私は失礼します」

「あ、はい、お願いします。お疲れ様でした」

 

そうして隣で沈黙していた武内さんは、私の言葉に一つ頷くと部屋から出て行った。とっくに定時は過ぎている筈なのに、まだこの仕事に慣れない私の為に一緒に話を聞いてくれた彼には感謝が尽きない。

 

「私達も帰ろっか」

「そ、そうだな」

 

そして解散した私たちは各々帰途に就いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

「あ゛あ゛〜。つっかれったなーっとー」

 

次の日、レッスンを終えて夕飯や風呂も済ませた後、普段あまり使う事のないパソコンの、また更に使う事のないテレビ機能を起動した。昨日、会議のようなもので私が再び輝子達の生放送のテレビライブのエキストラとして依頼を受けて思い立った。テレビの概要を全く知らないままで出演するのは流石に失礼なのではないかと。

 

なので私は先日の会議から帰った後に今度出演する“ミュージック・アイドル”の番組がどのようなものか理解するために録画の予約をしたのだ。丁度次の日、つまり今日が放送日だったのでなんとも良いタイミングだった。

 

ピッとリモコンで再生ボタンを押すと番組のオープニングが流れ始めてMCの人が軽いトークを始めた。MCは私でも知ってる有名人だったので調べる手間は省けた。

 

『本日は、現在ノリに乗ってる可愛いゲスト! それではどうぞ!』

 

その言葉と共に音楽が流れ始め、呼ばれたゲストが現れた。オレンジ色に近い、明るい茶髪のフワフワとしたツインテールがぴょこんぴょこんとまるで踊るように跳ねる。彼女の躍動感ある動きと元気一杯な笑顔が、レッスンで疲れた私の心と身体を癒してくれているように感じた。

 

この子、名前なんて言うんだろう。うち(346プロ)所属の子かな? もしそうだったら是非ともお近付きになりたいんだけどなぁ。なんというか輝子とは違った愛くるしさを感じる。

 

いつの間にか曲は終盤。その間私はひと時も目を離さず彼女のダンスと歌を見つめていた。

 

『フレーフレー頑張れ! 最高♪』

高槻(たかつき)やよいさんで、“キラメキラリ”でした』

 

高槻やよいちゃん! キラメキラリ! よし、覚えたぞ! 早速調べてみよう!

 

私は我が愛機を手に取り、慣れた手つきで『高槻やよい』と検索する。そして出てきた情報を読み上げる。

 

ふむふむ、高槻やよい十四歳、誕生日が三月二十五日で牡羊座。O型で、そして……765プロ……。Oh……765プロかぁ。ダメじゃん。めちゃくちゃライバルじゃん、じゃん。

 

個人的な見解では765プロは346プロにとって天敵だと思っている。346プロがケロン星人だとすれば、765プロはヴァイパー……いや、ニョロモ辺りが妥当だろう。つまり346プロにとって765プロは相当の強敵なのだ。

 

……しかし、この高槻やよいちゃんって子、可愛いなぁ。……いやいや! 私は346でこの子は765、私たちにとって競争相手、相容れる事のない蹴落とすべき存在。今の私は例えるならばトヨタに勤めているのにスバル車が好きになってしまった社員のようなものだ。トヨタ社員がスバル車を買わないように、私の考えも本来であれば唾棄すべきものなのかもしれない。

 

つまり、何が言いたいのかというと──

 

 

 

 

 

『うっうー! ありがとうございましたー!』

 

 

 

 

 

 

 

──全然好きになっていいという事だ。

 

 

確かに先程の言葉通りであれば、トヨタ社員が上司にスバル車を買いたいというとボコボコに言われた挙句に『氏ね』くらいのお言葉は頂戴するかもしれない。当たり前だ。それは暗に自分の会社の車より他メーカーの車の方が優れていると言っているようなものなのだから。

 

──しかし、思うだけならば何も言われない。口にしなければ良いだけだ。個人の思想にケチをつけることが出来る法律などこの日本には存在しないのだから。ライブに行ったりグッズを買ったりというのはイマイチ判断がしにくいが、好きになるくらいは許される筈だ。それに私は346プロが765プロに劣ってるとは思ってない。そういう事でやよいちゃんは可愛い。

 

そんな二律背反を抱えてしまう程の可愛さを所持するやよいちゃんの出番は終わり、今度はうちの事務所のアイドルが出てきた。

 

『どうぞよろしゅう』

 

彼女は何処か着物のようにも感じる桜色の不思議なアイドル衣装をヒラリハラリと靡かせて踊る。

 

この少女の名は小早川紗枝さん。実は知り合いで、私は小早川さんと呼んでる。彼女と初めて出会ったのは、寮の浴場でだ。この前いつものように誰もいなさそうな時間帯にお風呂に入ったら先客で彼女がいて、そこから自己紹介してのんびり過ごしたという経緯がある。

 

ちなみに彼女から話し掛けてくれた。私が声を掛けようか掛けまいかで悩んでいるときにスススと近付いてきて、気さくに話し掛けてくれたのだ。本当であれば後輩である私から話しかけるべきなのだが、見知らぬ少女に話しかけるのは少し億劫に感じるのだ。

 

それに見目麗しい少女の裸に未だにドキドキする私は多分悪くないと思う。というかこの寮って可愛い子や美人しかいないから廊下歩いてる時もご飯食べてる時と全然気が休まらないんだよ! 風呂とか尚更だ。私一人の時に誰か入ってきた時とかは本当にドキッとして心臓に悪い。ちょっと前まで女風呂とかどうってことないとか思ってたけど、最近は違う意味でそうでもなくなった。

 

知ってる? セクハラって同性同士でも訴えられるんだよ? あぁ、怖い怖い。いくら今の私が女だからって男の意識が完全に消えた訳ではないから、疚しい意図が無いにせよ視線がついそっちに向いてしまうのは仕方のない事なのだ。そっち……って、言わずとも分かるよね? それに女ってそういう事に敏感だから、ちょっとした事で訴えられる事も世の中多々存在するのだ。中には冤罪で訴えられる事もあったり。かく言う私も訴えられた事こそないが前世では電車通勤中に何度か睨まれた事があった。床に置いてた荷物取りたかっただけなのに……。ジョシコウセイコワイ。

 

今は私も華のJK(?)だから大丈夫かもしれないけど、隠し切れないおっさん臭漂う場面というのもある筈なのだ。それにこの言葉遣いも標準語に慣れる意味が大きいけど、その次におっさんっぽい口の悪い博多弁では芸能界はやっていけないと思ったからというのもある。博多弁のこと皆可愛い可愛いって言うけど正直別にそうでもない。普通に会話してるだけなのによく口喧嘩してると勘違いされるし、他地方の人たちと話しててもすぐ怒るって言われるし。別に怒ってないのに。あんまり良い事ないよ。うん。

 

『若かっただけで〜♪』

 

……ていうか、え? よく聞くとこの曲もしかして……ビリー・バンバンの“また君に恋してる”じゃん! 私この曲めちゃくちゃ好きなんだけど! うわぁ〜、小早川さんカバーしてたんだー。いいなー。私もこんくらい良い曲カバーしたいなぁ。まあ、デビューすらまだなんですけども。

 

自分で自分にツッコミをいれながら私は彼女の歌声を堪能した。一度出会っただけの関係ではあるが、確かにこの曲は彼女にあっているのかもしれない。この曲から感じられる日本の静けさと、叙情的な雰囲気がなんとも彼女の歌声と上手く調和されている……ような気がする。専門家ではないので素人が気取ったような言葉しか出ないが、本当にマッチしている。

 

『小早川紗枝さんより、“また君に恋してる”でした。いやぁ、素晴らしい歌声でしたね』

『うっうー! とっても綺麗でしたー!』

『あらあら、高槻はんも森田はんも、おおきに〜』

 

その後も他事務所のアイドルが二、三人出てきて歌と踊りを披露し、トークが繰り広げられると、やがて番組は終了した。ふむふむ、この立ち振る舞い方は参考にさせてもらうとしよう。

 

「こんな感じの番組なんだ……ふわぁ、そろそろ寝よっかな」

 

気付けば現在夜の十一時半。良い子はもう眠っている時間帯だ。冬休みとはいえ、明日もレッスンがある。それに夜更かしは肌の天敵ってよく言うし、そろそろ寝るとしようかな。

 

そして私は部屋の電気を消すと、夢の中へと旅立った。

 

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