私、二回目の人生にてアイドルになるとのこと   作:モコロシ

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第2話 転校というものは意外と面倒が多い

高校の転校とはそう簡単なものではなく、意外と面倒臭い。転校したい高校で欠員募集が行われていないと転校出来ないのだ。欠員募集というものは学期の始まる前の計三回行われている。それを知らなかった私は急いで武内さんに聞いたんだけど、曰くその辺りはスカウトする時から考慮されていたらしい。そういうものは初めに教えてほしいものだ。両親には言ったらしいが、肝心の本人に伝えないとはどういう了見なのだろうか。

 

私が転校する高校はごく普通の高校だ。何か尖ったものがある訳でもなく、文武両道がテーマの少し偏差値が高いだけの平凡な高校だ。初めは普通に通っていくらしいが、もし私が本格的にアイドルデビューして人気が出始めたら公欠扱いで休みが増えることもあるらしい。正直、学校というものは休むとその分のノート写したり補習だったり等が面倒なのだが、仕方あるまい。そもそも人気が出るかすら怪しい所である。

 

そして通う高校を決めた後に行われる事は、もちろん試験だった。試験内容としては国語、数学、英語、そしてオマケに面接だ。面接は簡単、とは言わないが難しく考える必要はないだろう。ガチガチに緊張するような精神年齢はしていないし、なんなら教員より年上まである。

 

三教科に関しても私の参考書や武内さんから頂いた過去問を何度も解き直したので問題はないだろう。本当に武内さんにはお世話になっている。まあ、武内さんから誘われた手前、此処までのお膳立てくらいは当たり前ではあるのだが。「え? アイドルになってくれる? じゃあ引越しとか転校関係も全部頑張ってね〜」なんて言われた日には私は速攻で世迷言を言ったとアイドルになる事を取り消すだろう。今日までの武内さんのお膳立てを当たり前と称するのは簡単だ。武内さんも当たり前のことだと言うだろう。しかし、その当たり前を実行出来る人間というのは意外と少なく、口だけが達者な輩の方が断然多い。故に、私は武内さんのサポートに感謝をするし、当たり前の事を当たり前に出来る武内さんを尊敬する。

 

しかし、とりあえずは高校受験だ。適度に気を抜く事は良い事ではあるが、抜き過ぎると痛い目に会う事もある。ある程度の緊張感を持って、油断せずに行こう。某超次元テニスの部長もそう言ってる。

 

それはそうと私と同じ高校を受験する人が『シンデレラプロジェクト』のメンバーに一人だけいるらしい。どうせだから仲良くなるついでに一緒に登校して欲しいと武内さんに言われたので現在集合場所に向かっているところだ。そこから考えると、どうやらその人物は女子寮に住んでいる訳ではないようだ。

 

集合場所のコンビニに到着した。集合時間までは少し時間があるので携帯でも弄っていよう。あ、輝子からMINEが来てる。

 

 

干しきのこ【今から小梅ちゃんと幸子ちゃんとホラー映画見るぞ】

 

 

その文の後にはこの前紹介されたシイタケくんの写真が添えられていた。楽しそうで何よりだ。この小梅ちゃんと幸子ちゃんというのは輝子とユニットを組んでいる仲間らしく、普段から一緒にホラー映画を見ているらしい。どんなホラー映画でも怖がる幸子ちゃんが可愛いと言っていた。いつか会ってみたいものだ。

 

「ねえねえ、もしかして小暮深雪さん?」

 

そう考えていると、何処からか私の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。もしかして先程言っていた『シンデレラプロジェクト』のメンバーだろうか。少し気怠げで愛嬌のある声だった。

 

きょろきょろと辺りを見渡すが聞こえたのは声だけで影も形も存在しなかった。一体何処から声をかけているのだろうか。

 

「いや、ここだよ、ここ」

 

再びその声が私の耳に入り込む。声の位置からして私のすぐ近くにいることは間違いない……のだが、何処にいるのかは見当も付かなかった。

 

「……見下〜げて〜ごらん」

「おおっ」

「いや、おおっ、じゃないよ。最初から気付いてただろ。ていうか目あったよね」

 

下を見ると北欧の妖精のような色素の薄い髪、天使のようにあどけない顔、まさに可愛いを具現化したような外見の少女がいた。武内さんから聞いた通りの子だ。見た目十歳くらいにしか見えないのだが私の名前を知っているあたり、信じられないが同年代ということらしい。

 

この子が私と同じく、346プロアイドル部門『シンデレラプロジェクト』メンバー十五人の内の一人──双葉杏ちゃん。私とこれから苦労を共にしていく仲間となる人物だ。

 

ジト目で見られている私は取り敢えず自己紹介をすることにした。

 

「初めまして、双葉杏さん。小暮深雪です」

「ああ、うん、初めまして。杏でいいし敬語もいらない。堅っ苦しいのは嫌いだしね」

 

杏ちゃんはぶっきらぼうに返事をしながら手をひらひらさせた。初対面で先程の対応は失礼だったか、もしかすると怒らせてしまったのかもしれない。ちょっとしたお茶目だったつもりなのだが、少し失敗してしまった。

 

「あ……ごめんなさい」

「いや、別にいいけどさ。って、そんなに落ち込まないでよ」

 

ぶっきらぼうなのはデフォルトだったのだろうか。なんで杏がフォローに回らないといけないんだ、と杏ちゃんはぼやきながら大きな欠伸をする。その言葉を聞いてまた少しだけ申し訳ない気持ちになる。きっと昨日輝子と音楽について色々話したことで年甲斐もなくはしゃいでしまったのが原因だろう。もしかすると背が低いのがコンプレックスだった可能性もあるわけだし、無意識の内にひどい事をしてしまったかもしれない。反省しなくては。

 

幸いな事に杏ちゃんは気にしなくていいと言ってくれているのでその言葉に甘えるとしよう。このまま私が低いテンションのままだと杏ちゃんも気まずい空気のまま登校することになる。気分の切り替えは大事だ。

 

「じゃあ杏ちゃん、行こうか」

「そうだねー」

 

私がそう言うと杏ちゃんは後ろを向き、てこてこと歩き始める。やはり見た目通り歩くスピードはあまり早くはないようだ。私の歩く速さは気分によって変わるが、普段通りであらば結構早い部類だと思う。無論だからと言って、てこてこ歩く杏ちゃんをすたこらさっさと置いて行く程私は人間出来ていない訳ではない。ゆっくりと歩く杏ちゃんのスピードに合わせる。

 

「杏ちゃんは北海道出身だったよね。やっぱり雪って凄いの?」

「そりゃあもう神様に感謝してしまうくらい凄いよー」

「雪降ってくれたら嬉しいの?」

「勿論。だってそれを理由で学校サボれるしねー」

 

杏ちゃんは悪びれもなく無邪気に笑いながら言う。

 

「成る程、こっちは雪とはほぼ無縁だからね。少し気になったんだ」

「あー、出身福岡だっけ? 杏、暑いの苦手だから行く事はなさそうだなー」

「私は暑いのも寒いのも苦手だけど」

「……それってどうなの?」

 

どうなんだろうね。私も思う。まあ、苦手というよりは暑がり寒がりと言った方が正しいんだけど、どっちでもいいか。

 

自販機を発見した。少し寒いと感じていたところだったので温かいココアでも飲もう。

 

「何か飲みたいものはある?」

「え? うーん、じゃあ同じので」

「分かった」

 

なんでも良さそうに杏ちゃんは言う。

 

自販機に辿り着くと私は120円の温かいココアを選択する。まとめて同じ物をもう一度押してココアを手に取ると、近くで待つ杏ちゃんに片方を渡す。

 

受け取った杏ちゃんは温いーと言いながら温かいスチール缶をほっぺたへと当てる。その様子があまりにも可愛かったので私は思わず携帯で写真を撮った。隠し撮りをしたつもりはないが、杏ちゃんは気づいていないようだ。

 

「ありがと、何円だった?」

「お金はいい。私の奢り」

「そう? ありがとね」

 

杏ちゃんは此方に笑みを浮かべた。杏ちゃんってなんだか世渡りが上手い気がするんだが、多分気のせいではない。きっとこの笑顔に何人もの人々が堕とされていったのだろう。杏ちゃんってば罪な女。

 

かしゅりという音が聞こえるとゴクリと喉越しの良い音が聞こえる。いい飲みっぷりだ。うまそうに飲みやがって。奢りがいがあるというものだ。

 

「深雪は飲まないの?」

 

私が未だココアの蓋を開けていないことに気づいたのか、杏ちゃんは疑問を問いかける。

 

「私、猫舌だから……」

「成る程ねー、でもあんまり熱くはなかったよ?」

 

それでも油断ならないのが私の舌だ。特にヤバいのはラーメンと、チンした直後の冷凍ご飯だ。好きなのに食べれない飲めないっていうのは本当につらいものだ。それに私は熱いものを飲み食いすると、何故熱いと分かってるのに食べてしまったんだと自分にイライラするタイプなのであまり人の前で晒したくはない。

 

しかしそろそろ飲み終えないと高校に辿り着いてしまう。

 

『為せば成る 為さねば成らぬ 何事も 成らぬは人の 為さぬなりけり』

 

実際その通りである。意を決した私はココアの蓋を開けて口を付けると、少しだけ口の中へ流し込む。

 

「……ッ!!!」

 

あっつぁ!? し、舌がひりひりする! 予想通りだったけどやっぱダメだった! 本当にこの体質どうにかならないかな。大分辛いんだよね、これ。この体質を治してくれたら2000円、あ、いや1000円までなら払ってもいいよ! 学生は常にお金が枯渇しているのだ!

 

熱いものはどう足掻こうが、ぬるくなるまで待たないと飲みきれない。しかし学校はほぼ目の前。缶を捨てるならば学校近くに見えるマンションの缶ペットボトル専用ゴミ箱に捨てるしかない。そんな私がここで取る行動は──。

 

「杏ちゃん、飲んでくれない?」

 

情けないが、杏ちゃんに頼むことだった。このまま捨てるのも忍びないしね。はあ、こんなに学校が近いとは思わなかったよ。ああイラってくるなー。未だに舌がひりひりする。今の私は涙が出る寸前のところで止めている状態だ。一応バレないように平然を装ってはいるし、そんなくだらない事で涙を流したとあれば恥ずかしいにもほどがある。

 

「ええー、ココアって飲み過ぎると喉乾くんだけど……って、わ、分かったから、そんな目で見ないでよ」

 

杏ちゃんは少しだけ困った様にそう口にした。どんな目だろうか。あ、涙目でしたね。この状態だと私が杏ちゃんに涙流しながら必死に懇願しているように見えてしまうのではないだろうか。というか杏ちゃんは既にそう感じてしまったのだろう。頼んでいる事は確かではあるが、涙目なのは不可抗力だ。私はぐしぐしと目を擦る。

 

あーあ、カイロ持ってきていればココアなんて買わずに済んだのに……。私は家を出た時から既に失敗していたのか。……よし! 切り替えていこうかね。まあ、一口だけしか飲めなくても体は温まったからよしとしておこう。

 

「ごくごく……ぷはぁ。じゃ、飲んだから捨ててくるよ」

「うん、ありがとう」

 

本当に。一気に飲ませちゃって悪いね。後で受験前にトイレに行っておくように言っておこう。

 

さて、これから二度目、いや、前世合わせて三度目の高校受験開始だ。前日もぐっすり眠ったし体調も快調だ。気合い入れて頑張ろう!

 

そんな私の気合いを伝えるべく、戻ってきた杏ちゃんに語りかける。

 

「杏ちゃん、受験頑張ろうね」

「えー、杏、別に頑張りたくはないなー」

 

杏ちゃんは肩を落としながら心底面倒くさそうにそう言った。なんだか私も面倒臭くなってきたのはきっと気のせいではない。

 

受験前に早速出鼻を挫かれた瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

多分合格した。筆記の方も分からない問題は殆ど無かったし、面接も当たり障りのない事を言って質問ものらりくらりと躱していった。正に余裕のよっちゃんいかである。

 

スケジュール的には筆記の後に面接という形で、杏ちゃんの後に私の面接が行われた。杏ちゃんは先に帰ってしまったのだろうか。受験後にどうするかは話してなかったからもしかすると既に帰ってしまっているかもしれない。

 

そんな事を考えながら私は校門へと歩みを進めていくと、校門の前に小さな影が映えていた。少し目を凝らして見てみると、その正体が杏ちゃんだという事がすぐに判明した。私を待っていてくれたのだろう。優しい子だ。

 

「杏ちゃん」

「おっ、深雪。おつー、はいこれ」

 

私が声を掛けると彼女はすぐに気が付いた。すると此方の方を向かって歩き始め、その小さな手に持っていた物を私に手渡す。

 

「……ココア?」

 

それは先程私が買ったものと同じ、ココアであった。

 

杏ちゃんはココアを受け取った私が呆気にとられている様子をしたり顔で見ていた。

 

「ふふん、杏の奢りだ! 有難く受け取りたまえ!」

 

ドヤッ、という擬音を入れたくなるような見事なドヤ顔に私は思わず感嘆してしまう。

 

そこで気が付いたのだが、ココアの容器が受験前に買ったものよりもぬるかった。自惚れでなければ恐らく杏ちゃんは私の為に早めに買っておいてココアを冷ましてくれていたのだろう。

 

「……ふふっ、杏ちゃん、ありがとね」

「……お、おう」

 

ん? なんだか急にしおらしくなったな。もしかして私の笑顔に見惚れてしまったのかな? 先程杏ちゃんの事を罪な女と言ったが、私も中々捨てたものではないようだ。

 

バカなことを考えながら私はココアの蓋を開け、そっと口へ運ぶ……ぬるい。しかしこれが丁度良いのだ。私でも普通に飲めるくらいにはぬるくなっていて良かった。それに頭を使った後だから甘いものを摂取したかったというのもあり、本当にありがたい。

 

そうだ、杏ちゃんの連絡先も聞いておいた方が良いだろう。どうせこれからは嫌でも顔をあわせることになるのだし。いや、別に杏ちゃんと会うのが嫌だというわけではないが。言葉の綾である。

 

「杏ちゃん、MINE教えてよ」

「んー、杏、MINEってやったことないんだよねー。教えてよ」

 

そう言う杏ちゃんに私はMINEの起動の仕方を教える。

 

「深雪のってこれでいいの?」

「うん、それ」

「へー、私とトップ画一緒なんだ」

 

私のMINEのIDを打たせると、当たり前だが私の連絡先が出てきた。現在の私のトップ画はプラウニーという熊が映っており、これはトップ画を何も設定していない証拠であった。

 

「これはただ単に設定してないだけ。自分の写真フォルダから好きな写真を選んでトップ画に出来るんだよ」

「ふーん、面倒だから後でいいや」

 

そう言いながらも杏ちゃんはきっと後でもやらないタイプだと私は思う。

 

それは口には出さず私は自分のスマフォを取り出し、杏ちゃんに何かスタンプでも送ろうかと思っていると、受験中に輝子からMINEが来ていた。

 

 

干しきのこ【既読無視はつらいぞ……】

 

 

……ごめん。そういえば返事返して無かったね。

 

また忘れる前に言い訳をしておこう。

 

 

みゆき【ごめん忘れてた】

みゆき【でも心の中では返信したつもり】

 

 

私は何を言っているんだろう。でも嘘は言っていない。微笑ましいとは思ったし、楽しそうで何よりだとも思った。

 

 

干しきのこ【しつこくて嫌われたかと思ったじゃないか。良かった】

 

 

こんな事で嫌うわけがないだろう。私なんて気まぐれでスタンプ連打するような厄介なタイプなんだぞ。勿論相手は選んで行っているのだが。

 

さて、話を戻して、杏ちゃんに私のとっておきのスタンプを送ってやるとしようか。

 

「……あ、なんか来た。……って何これ。微妙にうざいな」

「めんトリっていうスタンプ。返信とか大体このスタンプシリーズだけで済んで楽なんだけど、相手に少しずつ不快感を与えるのが難点」

 

だが、それがいい。

 

「毒ダメみたいなスタンプか、でも楽そうだし杏も欲しいな」

「でも、お金がかかるよ」

「じゃあいいや」

 

だろうね。スタンプをお金掛けてまで買う人なんてそこまでいないだろう。

 

「ご飯でも食べに行く?」

 

受験は十三時開始で五十分間のテストに十分の休憩、それが三回。面接が一人約二十分、二人なので約四十分経過した計算になる。それらを考慮すると現在の時間は十七時過ぎ。時計を見ると大体合ってた。夕御飯を食べる時間としては早過ぎず遅過ぎずといった具合の良い時間帯である。

 

「ここら辺何か良いとこあるの?」

「高校の近くだし、何かはあると思うけど」

 

前世では部活帰りによくラーメンを食べに行っていたなぁ。安い店だったので替え玉を何回もしていたのも覚えている。まあ、例によって猫舌の私が一番食べるの遅かったのだけれど。私が一杯目食べ終わる頃には三杯目にはいっている奴もいたし、なんなんだろうね。

 

「ま、探せば何かあるよね。歩くの面倒だから半径25m以内で! 杏の体力は限界なのだ」

「あ、うどん屋さんが300m先にあるって」

「えー? じゃあ、杏お家に帰りま〜す」

 

そう言って駅の方へと向かおうとする杏ちゃんを捕まえて、私たちはうどん屋さんへ向かっていった。

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