記念すべきアニメ1話ですがコメディ色多めです……多分(自信無し)。
第21話 新年度!
春はあけぼの以下略。
四月となった。厳しい冬を乗り越え、ようやく暖かい季節へと移り変わり、私も御満悦。通学路であるこの辺りは桜の名所としても有名らしく、通る度に感嘆の声をあげてしまう。歩いていると、ひとひらの桜の花びらが肩へと乗った。
「……桜って食べれるんだっけ?」
そう呟くと、何処からともなく風が吹き始め、肩に乗っていた桜の花びらを連れて行ってしまった。まるで私から逃げ去るかのように。
「……天ぷら食べたいなー」
有って無いような春休みを満喫し、何とか二年生へと進級してJKライフを謳歌している今日この頃。私は元気です。
あの生放送の後も相変わらず仕事量が増え続け、近いうちに単独ライブも開催される程楽曲も増えた。正に飛ぶ鳥を落とす勢いというやつ。尚、最近ようやく私ではない正式メンバー(ベース)が追加され、肩の荷が下りたところである。めでてぇ。
とはいえ辞めた訳ではなく今は元のギターとして“Unknown Invaders”のエキストラとして働いてはいる。曰くギターは三人いた方が楽なので出来る限りは参加してほしいとの事である。確かに役割分担する事により一人一人の負担が軽くなるので良いアイディアだと思う。
私に余裕がある時は三人ギター、CPの活動で忙しければ夏樹と輝子の二人ギター。私がこれからもベースを続ける事になっていたら抜けるに抜けない状態になるところだったので、正直助かった。これまでベースは私一人しかいなかったからね。
ともあれこれで私も“Unknown Invaders”だけではなく、CPの活動もしっかりこなせる様になった訳である。まあ、私自身辞めたい訳ではないので、お邪魔でなければこれからもやらせて頂く所存だ。……お金入りますし(ボソリ)。
因みにこれまでちょこちょこ学校を早退したり休んだりしてたのが杏ちゃんに知られていた様で、この前遂に理由を聞かれてしまった。話そうかどうか少し悩んだが、口固そうだし彼女から言いふらすこともないだろうと思ったので素直に何をしているのか言ったら「ふーん、よくやるねー」で会話は終了した。全くもって予想通りの反応である。
やがて事務所へと辿り着いた。用事があった訳ではないのだが、学校の帰り道にあるのでなんとなく寄ってしまう。まあ、事務所とは言ったものの私が行くのは大抵346カフェなので中まで入ることはない。そういえば最近菜々ちゃんはカフェのバイトを辞め、頻度は高いが臨時で来るだけになった。バイトを辞めたのは少し寂しいが、それ程仕事があるという事なので喜ばしい事である。
中へ入るとカランと音がする。見渡してみるも菜々ちゃんの存在は確認できない。どうやら今日はいないようだ。
「中くらいのブラックのホットと……ミルクレープください」
とはいえ、ここ346カフェの取り柄は菜々ちゃんだけではない。コーヒーもケーキも中々に良質な物を取り揃えている。特に今頼んだミルクレープや、他にもモンブランなどは絶品だ。しかも安価。他のケーキも美味しいのは多いが私はこの二種類を好んで食べる。ケーキ自体頼むのは稀だが。
私は頼んだものを受け取ると外部に設置されたテーブルへと荷物を置いて腰を下ろした。
「ふぅー……」
落ち着く……。思えばカフェに来るのも随分と久し振りかもしれない。最近はユニットの活動が多くて寄る暇もなかったからね。それ以外でもレッスンや勉強なんかで忙しかったし、本当、半ニートだった昨年度の上半期とは大違いだよ。あ゛ー、首の骨がよく鳴る。エステでも行ってみようかな?
「天の御使いよッ!」
さてと、落ち着いたところでさっき買ってきた漫画でも読むとしようかね。私はずっとお前の新巻を待ってたのさ!
「煩わしい太陽ね!」
「闇に飲まれろ」
くそ、面倒なのが来てしまった……。
あからさまに無視してイヤホンを取り付けようとするも遮られてしまう。
「ま、待つが良い! 我が言の葉を封じ込めんとするは我にしか与えられぬ権能! 契約を唾棄するつもりか!?」
「知らんし」
「くっ……!」
私は溜息をつきながらイヤホンを鞄へと戻し、私が所属シンデレラプロジェクト、その一員である──神崎蘭子さんを対面へと座らせた。この時点で私の一人満喫タイムは終了したも同然だ。始まってすらないのに。
「……どうしたの?」
「ふっ、時の流れを持て余した大魔王の戯れよ」
暇だから絡んでみた、ね。はいはい。
気取った顔をしながら口にする彼女に内心呆れていると、私はいつもの彼女と違う点に気が付いた。
「あれ、その傘新しく買ったの?」
「……! ……くくっ、どうやら見破られたようだ……! そう、これこそ我が新たなる宝具……!」
「ふーん……」
「……そ、それだけか?」
「格好良いんじゃない? 似合ってるよ」
「う、うむ……」
私が少し褒めると、彼女は照れたように顔を赤く染める。褒めた本人が言うのもなんだけど……ちょっとチョロすぎない? 将来悪い男に騙されそうで不安になってきた。いや、私のは本心なんだけど。
「ぬふふ……」
……まあ、まだ中学二年生だし、これから学んで行くだろう。
「ところで、今日はレッスンないのに、なんで事務所まできたの?」
「ふ、心の赴くままに行動したまでよ……」
「……本当に暇だったんだね。とはいえ私といても暇なだけだよ?」
「そんなことは! ……す、すまぬ」
「い、いや、いいけど」
急に大声出されてちょっとびっくりした。でも本当に暇だと思うんだけどね。私も暇だからここにいるんだし。
「その書物は……」
「あ、えっと、『達人伝』っていうやつで『キングダム』……は分からないか……『項羽と劉邦』より前の時代を舞台にした漫画だよ」
「ほほう、呑んだくれの。……面白い?」
「面白いねー。たまーにえっちなシーンあるけど」
「あぅ……! ごほん……な、成る程……」
萎縮してしまった。そういえばこの子結構初心なんだった。とはいえ言葉だけでそんな反応するかな? 漫画を鞄の中に片付けながらそう思った。
「……そういえば神崎さんはこのカフェのミルクレープ食べたことある?」
「い、否……未だ味わう事叶わず……」
「ここのミルクレープ中々美味しいよ。食べてみる?」
「で、では……はむ……んぐ……ふむ、きめ細かく甘過ぎない生クリームとホイップにもちっとした食感の生地。バニラエッセンスの仄かな香りも良い塩梅……美味である」
「……随分とテレビ向けなコメントだね。もしかして適当言ってる?」
「ぬふふ……我が友の慧眼には恐れ入るわ……」
「……あ、うん」
私がそう言うと神崎さんは手に持っていたノートのような物をこそこそと開くと何かを書き始めた。何かインスピレーションでも働いたのだろうか。
その後もしばらく適当にあしらいつつ談笑を続けていると、頃良い時間となっていた。意外と時間が潰れるものだと思いながら出たゴミをゴミ箱へと廃棄すると、神崎さんが問い掛けた。
「偶像世界への帰還か?」
「うん、もう帰るけど……あ、ちょっと近くのスーパーに寄って行こうかな。神崎さんも来る?」
「ならば我も付き添おう」
「じゃあ行こうか」
「うむ」
そうしてしばらく歩いていると、普段から世話になっている『スーパーオトク』が見えてきた。何故、今日此処『スーパーオトク』へと帰りに寄ったのか、その理由は二つあった。
一つは飲み物の補給。リビングの冷蔵庫に入れてある牛乳が昨日で底をついた。風呂上がりはこれを飲まないとサッパリしないので確実に手に入れる必要がある。
そしてもう一つ──
「……チョコガーリックロールパン」
「え?」
ボソリと呟き、その姿を想像した。頭に浮かぶは見た目普通のロールパン。しかし、普通なのは見た目だけである。その中身には名前の通りたっぷりの“チョコレート”に、たっぷりの“ガーリックチップ”がふんだんに使われている。そしてそれはスーパーオトクのパンコーナーの名物でもあった。
一見美味しくなさそうな名前に反して実際は意外と食べれなくもないと一部から評判のそのパン。
サクサクガーリックととろーりチョコの食感と香りが微妙に癖になると一部から評判のそのパン。
ガーリックの味がチョコに負けてないのが地味にすごいと一部から評判のそのパン。
私の足は自然とパンコーナーの方へと向かっていく。神崎さんは不思議そうな様子でついて来ている。
「パンを買いたい」
「……封印されし火之迦具土神の焔に抱かれた穀物の末路を希望か?」
「うん、食後のティータイム的なアレ」
チョコガーリックロールパンは何故か今くらいの時間、つまり夕方からしか店頭に置かれない。しかも火、木曜日限定商品。店舗的にも此処だけしか販売していないらしいので意外とレア度は高めである。そしてそれを私は未だ一度も食したことがなかった。
故に、私はそれが食べたい。
──しかし……
「ふぐぅっ……!」
私の目の前で丁度、最後の一個が無くなってしまった。なんという運命の悪戯か。もしくは私が閣下の真似事をしているからというゼウスの妨害か。
下手人は一体誰か! 私はそう思いながらその人物へと目を向けた。するとその視線の先には美味しそうなクロワッサン……否、ロールパンを頭にぶら下げる少女の姿があった。……この流れ、何か覚えがあるぞ……。
というかこいつ、何処か既視感あると思ったらこの前私の明太フランスを目の前で掻っ攫っていったアマじゃねーか! 明太フランスのみならずチョコガーリックまで奪うつもりか! 畜生め!
……ぐっ、しかし、あのアマは何も悪くない。悪いのは来るタイミングの遅い私なのだ。この遣る瀬無い怒りと無念、どうすれば良いのか。発散しようにもトングも持っていないし、口に出すと神崎さんに当たりそうで怖い。
「これもサイヤ人の
「……りゅうのたま?」
「……」
「……?」
ふざける事で心の安定を図る。そして私の言動で神崎さんが困惑しているのが分かる。当たり前か。彼女からすればなんのこっちゃといった話だろう。とはいえ最早パンを買う気も起こらない。牛乳、お茶に……芋けんぴとしるこサンドでも買って帰ろう。
「……飲み物買いに行くけど、神崎さんはパン買う?」
「もうパンはいらぬのか……?」
「うん、欲しいの無かったしね」
「……我もよい。大魔王といえども魔力には限りがある。使い時を誤れば最悪、我が野望は潰えるだろう……」
「何か欲しいのあるの?」
「淑女の嗜み……洋服──」
けっ! どうせ私は淑女じゃありませんよーだ!
という冗談は置いといて、神崎さんが買う洋服かぁ……まあ、確実に高いよね。生地も凄く良さそうなの使ってるし、何より完成度が高い、多分。今彼女が着ているものでどれくらいの値段するんだろ──。
「──の生地!」
「………………え? もしかしてそれ、自作なの?」
「左様!」
危ない。一瞬何言ってるか分からなかった。というか俄かに信じ難いんだけど。私の見解が正しければあのフリフリしたところやコルセットのようなお腹の部分も全て手作りだという事でしょ?
え、どう作るの? 無理でしょ。
私がやったら服の形にすらならないかもしれない。
「もう一回聞くけどそれ、自作?」
「くくく、まこと良き反応である。其方の申すように、これらは全て我自らの手によって創造されし魔装よ」
「
「そうであろうそうであろう! もっと褒め称えるが良いわ! ぬぁーっはっはっは!」
「ちょ、ここ公共の場だから、自重してくれません?」
「す、すまぬ……」
しかも無駄に響いてるし。あーほら、周りの客が冷たい目でこっちを見てるよ。大声に駆け付けて店員さんまで来てしまった。もう、面倒臭いなぁ。
私は事情を説明して謝り、なんとか事なきを得た。
「神崎さんってもしかして阿呆なの?」
ジト目で睨む。見ると頬を赤く染めていたので、恐らく客の注目を集めて恥ずかしかったのだろう。
「えへへ……は、反応が嬉しくて、つい……」
「……まあいいよ。次から気を付けてね」
「無論!」
元気な返事だ。本当に分かっているのだろうか。
「ところでその服が自作って話だけど、生地を自分で切って作ってるの?」
「是也」
「……じゃあ、デザインは?」
「くくく、全ては我が脳内と魔道書の中に」
神崎さんはこれ見よがしに先程のノートを見せびらかしてくる。いや、本当に完成度高い。店頭に出されててもおかしくないどころか相応しいレベル。確かにこれは自慢したくなる気持ちは分かる。
「いや、本当に凄いよこれ。独学なの?」
「否、我を創造せし者の創造主により知識技能を授けられた」
「へぇ〜、祖母?」
「うむ。独自に学んだ技術も無くはないが、我を創造せし者の創造主により育まれたアダムの林檎は格別よ」
神崎さんのお婆ちゃんって何者……? そういう仕事やってたのかな? まあ今は取り敢えず褒めて欲しそうな顔をしている神崎さんを持ち上げておくとしよう。
「神崎さん凄い!」
「さもありなん!」
そんなこんなで買い物は続いた。
☆☆☆
「か、神崎さんが、あの店寄りたいっていうから……!」
「そ、其方の方こそ、菓子選びにどれだけ……はぁっ……時間をかけるというのだ……!」
「そ、そっちだって……ふぅっ……結局買うって、時間使ってた……!」
「わ、我が魔力の補充に……はっ……必要不可欠であった……!」
「魔力の翻訳はお金でしょ!」
「翻訳って言うなぁ〜!」
私達は走っていた。現在の時刻は十九時五十分。そして寮の夕飯締め切りの時刻は二十時。御察しの通りである。
何故こうなったのかは先程口にしたように、私のお菓子選びに時間がかかった事と、神崎さんが帰り掛けに見かけた店に寄りたいと言ったからだ。
とはいえ私も少し乗り気だったし神崎さんも結局お菓子買ってたし、それに普通に寮のご飯の時間を忘れていたので悪いのはお互い様である。
そういう訳で今は只々夕飯に間にあわせるべくひたすら走っていた。走ればなんとか間に合いそうな距離なのが一番むかつく。過ぎてたら過ぎてたで諦めがつくしそこら辺で適当に済ませることが出来る。しかし無駄に間に合いそうな時間帯の所為でこんな汗水垂らして走る羽目になってしまったのだ。というか二十時終了って早過ぎない!? 二十二時くらいまではあっていいと思うんだけど!
「あっ! み、深雪ちゃん!」
「え? ──きゃっ!」
「うわわっ!」
しまった! 考え事しててしっかり前を見てなかった。
私は何とか持ち堪えたが私と衝突した制服姿の女性は反動で
無機物がぶつかる鈍い音が私の耳に響き渡る。
「て、天の御使いよ……無事か……?」
「わ、私は平気だけど……って! す、すいません! 大丈夫ですか!?」
本当に申し訳ない。完全に私の不注意だ。
「あたたた……い、いえ、私もしっかり前を見てなかったので……」
「怪我とかありませんか……?」
「えぇと……はい! 大丈夫みたいです!」
「良かった……。それとその、この荷物は……」
思わず言い淀んでしまうが問題は後伸ばしにしてはいけない。私は割れた土器が擦れ合う音を鳴らす包み物を優しく持ち上げた。
「え? ……あ、ああ〜!!」
彼女はそれを受け取ると包みを解いていく。中から出てきたのは見事に破損した植木鉢と、それに植えられていたであろう美しく咲き誇る花であった。
「う、植木鉢が……で、でも花が無事で良かったです」
その言葉に私は思わず安堵の溜息をつく。どうやら植木鉢は其処まで重要ではないらしい。これが特注品の植木鉢などであれば流石にお手上げであった。特注品の植木鉢なんてあるか知らんけど。
植木鉢程度であればどうにでもなる。ひとっ走りして買ってこよう……と、その前に神崎さんには帰ってもらおう。道連れで彼女まで夕飯が食べれない事になるのは申し訳ない。私はもうほぼ諦めた。
「神崎さんは帰ってていいよ。これは私の問題だし」
「し、しかし……」
「今ならまだ間に合うから、神崎さんだけでも夕飯を食べて……!」
「……承知!」
神崎さんは走って行った。私の分までどうか夕飯を謳歌(?)して欲しい。
「お待たせしてすいません。花を購入された店の名前と場所を教えて頂けますか?」
「え? えっと……この通り沿いにある“フラワーショップSHIBUYA”ってお店ですけど……」
「分かりました。それでは代替品を買ってきますので」
「ええー!? い、いいですいいです! 気にしないでください! 植木鉢なら家にも置いてありますから!」
「でも持ち帰り辛くなりましたよね?」
「はっ! た、確かに……」
持ち帰る
「じゃあちょっと破片回収しますね。このビニール袋に入れてもらえますか?」
「あ、はい……」
やがて全ての破片を集め終え、ガシャガシャと音を立てるそれを持ち上げる。
「では行ってきますが、一緒に行きますか? 別に逃げたりはしませんがお店の人に植えてもらった方が良いかと」
「そ、そうですね、そうします! ……でも、本当にいいんですか?」
「いいって……弁償ですか? 全面的に私が悪いんですし、気にしないでください」
「んー……わ、分かりました。じゃあお願いします」
彼女はぺこりと頭を下げた。私もそれに頷いた。
その後、彼女と共に通りの道を進んでいくと確かに“フラワーショップSHIBUYA”の文字が見えてきた。そして丁度店員さんがシャッターを閉めようとしているのも。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「……え?」
店員さんは閉じかけていたシャッターを開いてシャッター棒を壁へと立て掛け、不思議そうな顔で此方へと視線を向けた。
ん? この艶のある黒い長髪、何処かで……。
先程のパンの件同様に何故か既視感を覚えたが、彼女に関してはどうにも思い出せない。記憶違いかな? まあ、それは置いといて。
「……あ。あんた、もしかして……じゃなくて、何か御用ですか? ……って、さっきのお客さんも」
「えへへ、戻って来ちゃいました」
「あ、すいません。実は──」
店員さんに事情を説明した。すると彼女は合点がいったように頷くと奥の方へと向かい、代替品となる植木鉢を持ってきた。
「これでどうでしょう。先程のと同じやつですが……」
「どうですか?」
店員さんが持ってきたのは、回収した破片がくっつけばそうなりそうな新品の植木鉢であった。私が訊ねると制服の彼女はコクリと頷いた。
「あ、はい! 大丈夫です!」
「では、それでお願いします」
「はい、かしこまりました。498円になります」
い、意外と高いんだ……。でもまあ、私が悪いんだし、仕方ないか。必要経費必要経費。さらばワンコイン!
「500円からで」
「500円ですね。2円のお釣りです」
「はい……それと花の植え直しもやってもらえますか?」
「かしこまりました」
店員さんは手馴れた様子で植木鉢へと花を植え直す。やがて植え直した花を袋で包むと、私の隣にいる彼女へと手渡した。
「はい、どうぞ。次はぶつからないように気をつけてくださいね」
「えへへ、ごめんなさい。ありがとうございます!」
苦笑する店員さんにはにかむ制服の彼女。私はその中間で店員さんにお礼を言った。
「私からも、ギリギリで駆け込んでしまいすいません。ありがとうございました」
「い、いえ、気にしないでください。あれは少し早めに閉めようと思ってただけなんで」
店員さんが胸の前で両手を振りながら言う。見た所若い……というか高校生くらいの年のように見えるが、もしかするとこの花屋さんは家族で経営しているのだろうか。だとしてこんな時間まで手伝いとは、出来たお子さんである。
「では改めて、今回はすいませんでした」
私は制服の彼女へと向き直り、頭を下げる。
「あ、頭を上げてください! 此方こそすいません! 私、少しぼーっとしてて……」
「それでも私からぶつかったのは事実なので……これからは気を付けます」
「な、なら今回は二人共悪かったって事で終わりましょう! 私、全く気にしてませんから!」
そう言うと彼女は満面の笑みを私へと向けてきた。その笑顔はとても魅力的で、まるで向日葵でも咲いたかの様な素晴らしい笑顔だった。笑顔コンテストなんて物があれば優勝間違いなしだろう。
そんな笑顔に私も思わず微笑み、そして別れの言葉を告げた。
「……はい。ではまた、いつの日か」
「はい! いつかまた会いましょう! 植木鉢ありがとうございました!」
そして彼女は元来た道を戻っていった。とても気持ちの良い子だったな。私ああいう子すごく好き。同じ地域に住んでるんだし、いつかまた会えるよね。名前くらい聞いておくべきだったかな? と言ってももう別れた後だし、考えてもしょうがないか。
あっ、そうだ。私も何か適当に見繕ってもらおうかな。さっきは植木鉢で少し渋ったけど、ぶっちゃけエキストラの仕事でお金は少し余裕があるからね、ヘーキヘーキ。それに部屋に花って、なんだかオシャレな気がしない? まあ、花を置く程度で私の部屋の彩りが改善されるとは思わないけど。
「私も花を購入したいんですが」
「はい、どのようなものがいいですか?」
「えっと……あ、これ綺麗ですね。なんて花ですか?」
ぱっと見渡して気になった赤い花について訊ねた。
「えっと、それはアザレアですね。花言葉は節制」
節制……。先程スーパーでお菓子を買い溜めし、今もまた必要でもない花を購入しようとしている私にはなんともぴったりな花である。お金があるとバブル期の頃の如く財布の紐が緩みまくる、それが私です。今後の戒めとしてこの花は購入するしかあるまい。
「じゃあこれください」
「かしこまりました。……あの、一つ質問なんですが、いいですか?」
「はい?」
店員さんが私には質問なんて一体なんだろう? ……ハッ! もしかして、私の正体がバレちゃったとか!? いや〜、まあ仕方ないかな〜。最近の“Unknown Invaders”はメディアに引っ張り凧だしね〜。幾ら喋らなくて悪魔メイクな
「この前スーパーで会った人じゃないですか?」
うん、知ってた。通常状態の私と悪魔状態の私とじゃ似ても似つかないからね。バレる訳がなかった。心配するだけ無駄無駄無駄。あの顔から私を特定できる人なんていないでしょ。誤魔化せないのも体型と骨格くらいのものだし。それにしても有名人ごっこは楽しい。
「スーパーっていうと、“スーパーオトク”ですか?」
「はい」
うーん、と言われてもなぁ。スーパーオトクなんて何度行ったことか。学校帰りとかも結構寄るから最早通ってるレベルだよ。寄るだけだけど。
「いつの話ですか?」
「確か四ヶ月くらい前だったような……」
四ヶ月っていうと、十二月くらいか。東京に来てすぐの頃に彼女と会ったようだが……全く思い出せない。
「……う〜ん」
「あの……ほら、ハナコ」
トイレの花子さん……? ……ダメだ、さっぱり見当がつかない。
「だったら……えっと、その……そ、惣一郎……?」
あ、あ〜! 思い出した! 惣一郎さん(メス)の飼い主か! そういえばそんな名前だったね。さっきの既視感はそれだったのか。惣一郎さんとしか覚えてなかったよ。
「……どうやら思い出したみたいだね」
「はい、ご無沙汰です」
「うん、久し振り。あの時ぶりだね。……あ、すいません。口調が……」
「ああいや、そのままで大丈夫ですよ」
「……ならそっちも、普通に喋ってよ」
「……じゃあそうさせてもらうね。えっと……渋谷さん?」
「……渋谷凛。凛って呼んで」
「私は小暮深雪。よろしく、凛ちゃん」
私と渋谷さん──凛ちゃんは改めて挨拶を交わした。まさかあの時出会った少女とこんなタイミングで再開するとは思わなかった。犬の散歩ついでにスーパーに寄るくらいだから近所に住んでるんだろうってのは目星をつけてたけど。
「ふぅん。でも、少し意外だったな」
「何が?」
彼女は私を見ながら呟く。
「深雪って高校生だったんだね。てっきり大学生くらいだと思ってたけど」
「まあ、大人びてるとはよく言われるね。コスプレに見える?」
「いや、そこまでは言ってないけど……。あ、ハナコ連れてこようか?」
「いいの? じゃあお願い……い、いや、今日はもう遅いし、やめとくよ」
あ、危ない……また欲望に流されるところだった……。彼女のプライベートな時間とかもあるだろうし、今日は自重しとかないと。閉店時間の二十時を過ぎてるからこれ以上お邪魔するわけにはいかない。
「そう? だったら、連絡先教えてよ。深雪とは、もう少し喋ってみたい」
「い、いいけど……」
不思議な言い方をするなこの子。普通に仲良くなりたいでいいんじゃないかな? 面と向かって言われると恥ずかしいけど。
MINEのQRを見せる為に携帯を開くと、先に帰った神崎さんから連絡が来ていた。後で見よう。
「はい、これ」
「ん……登録したよ。後で連絡するから」
「分かった」
連絡先を交換し終えると、彼女はいつの間にか袋に包まれた花を私へと手渡した。落とさないようにしっかり持っとかないと……。
「又のご来店お待ちしております」
「こちらこそ、ありがとうございました」
凛ちゃんは店員さんらしい決まり文句を口にし、私も別れの挨拶を述べる。そして店を出て少し歩いたところで足を止めて時間を確認した。空はすっかり暗くなり、辺りも人通りが少なくなっている気がする。
今の時刻は二十時十五分。話がトントン拍子に進んだとはいえ流石に寮の夕ご飯はもう締め切られている時間帯である。私が悪いとはいえ流石に萎えるなぁ。今日は特に楽しみにしていたおかずだったのに……。なんで忘れちゃってたんだ私! 出来る事なら一時間前の私を殴り倒したい。……はぁスーパーに戻って弁当でも買おうかな。
あ、そういえば神崎さんからMINE来てたんだった。一体なんだろう。夕飯自慢してきたら怒る。
大魔王オクナール【何も買わずに帰ってくるがいい。其方の夕餉は我が戯れにより用意してある】
その言葉の後には二人分の夕飯がテーブルに置かれた写真が添えられていた。
……ふっ、あの子って子は。そういう事ならさっさと帰るとしようかね。なんだかんだで良い子の神崎さんの事だから私の事待ってるだろうし。それに今日の夕飯は──
──ハンバーグだ!
凛か凛ちゃんで十分くらい悩みました。
蘭子って適当に扱うと更に可愛さが増す気がするんですよね(持論)