私、二回目の人生にてアイドルになるとのこと   作:モコロシ

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前回のあらすじ

深雪「皆で肉喰おうズェ……」
皆「いいズェ……」


早めに投稿出来そうとか嘘付いてすいません。一月以上掛かりました。
どれもこれも全部聖飢魔IIがカッコイイのとfgoが面白い所為なんです。

ではどうぞ。



第26話 スプリングライブ!

 

時は過ぎ、遂に日曜日を迎えた。心ウキウキワクワクな私は出発の一時間前に起床し準備を行う。今日は記念すべき花屋の凛ちゃんら三人の初ライブ。それと同時に仲良しの美穂ちゃんに、私が敬愛してやまない佐久間まゆちゃん……そう、佐久間まゆちゃんのライブでもあるのだッ! 素晴らしい一日になることはもう火を見るよりも明らかである。それを更に昇華させる為に、事前準備として揃えていた物を現在私は確認していた。

 

まずはサイリウム。今回は多色に変化する物と美嘉さん、美穂ちゃん、まゆちゃんの三人のイメージカラーサイリウムを揃えている。振りまくるぜ!

 

次にタオル。ライブ中は汗をかく事必至なので必要不可欠だ。只でさえ汗かきなのでこれが無いとライブに集中できない。拭きまくるぜ!

 

そして飲み物。アクアリウスを事前に二本入手している。直前で買っても良かったが事務所の自販機が安いのでそこで仕入れてきた。水分と塩分を同時に摂取出来る優れ物だ。飲みまくるぜ!

 

最後にお金。これ、一番重要ネ。こいつが無いと物販で痛い目に遭う。今回の物販ではままゆTシャツが二種類出るとの事なので最低でもTシャツ二枚二セットは確保しておきたい。後はままゆタオルとか美穂ちゃん人形とか。しかし買い始めたらキリがないので一万円以内を目標に買うものを選ぼうと思う。ほぼほぼ建前のようなものだが。

 

後は諸々の雑材。薬とか簡易充電器とかそこらへん。そして準備が出来たところで寮を出る。昨日神崎さんに「我が翼は其方に共鳴している(意訳:一緒に行こう)」と言われたが物販に用があると言ったらと「じゃあやめる(意訳:じゃあやめる)」と言われたので一人で行く事にしたのだ。

 

「む、みくにゃん」

「あ、おはよー」

 

……と思っていたのだが、玄関で今から出ようとしているみくにゃんと遭遇したので一緒に会場へと向かう事となった。寝起きの眠そうなみくにゃん可愛い。

 

現場に着くと激励の為に花屋の凛ちゃん達のいる楽屋へと向かう。近付くに連れてみくにゃんの愛らしい顔が不満気な様子へと移り変わる。みくにゃん曰く、練習を積み重ねてきた自分より先に新人三人が先にステージに立つ事が気に入らないのだそう。

 

「プロジェクト自体が始動したばっかりなんだし。チャンスはいくらでもあるよ」

「ミクは今のチャンスを逃したくないの!」

「まあまあ、今回は素直に三人を応援しようよ」

「ぐぬぬ」

 

そんな風にみくにゃんを宥めながら控え室へと入ると、武内さんと花屋の凛ちゃんら三人の姿が見える。挨拶も程々に激励の言葉を送る。因みにみくにゃんは激励ではなく視察に来ただけとの事。

 

「二人共気楽にね」

「激励とは」

「おうともさ! あの日のお肉に誓って……!」

「島村卯月、頑張ります!」

「き、今日のところは見逃すケド、その代わりしっかり見定めてやるにゃ!」

「一瞬たりとも見逃しちゃダメだよ〜?」

「しっかり見ててください!」

 

本田さんと島村さんが意気揚々と答える。果たしてその余裕はいつまで持つのか。

 

「凛ちゃんも気楽にね」

「ありがとう。でもそこは「頑張って」とかじゃないの?」

「うーん、そうかもしれないけど、もう既に頑張ってるでしょ? それなのに「もっと頑張れ」って言うのもなんか」

「そんなものかな……?」

「私はそう思う。じゃ、会場でしっかり見てるから、頑張ってね」

「結局言うんだ……」

 

一頻り笑い合い、その後武内さんに三人が連れて行かれたところで私は物販に行く為にみくにゃんに別れを告げる。

 

「え、ミクも行くけど」

 

との事らしい。まだ始業時間を少し過ぎた頃なので時間帯的にはそれ程並んでいない筈だ。絶対に手に入れてやるぜ!

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

そろそろライブが始まる。

 

物販で用事を終えた私とみくにゃんは適当な所で昼食を取り、その後解散した。解散した後私は早速トイレで着替えを済ませるとそのまま会場へ入場。会場限定シャツかままゆシャツで結構悩んだのだが結局ままゆシャツにした。佐久間まゆちゃんに、もしかしたら……いや、ワンチャン……微レ存レベルでも、気付いて貰える……いや、目に留まる可能性があるならばそのチャンスに縋りたい……ッ!

 

そんなこんなで内心色々とドキドキしていたのでケータイアプリにも集中できずに今までじっとしていると、開演の時間となってしまったのだ。

 

ステージのスクリーンが消え、会場が暗くなる。非常口のライトも演出の都合上により消灯されているのでより一層暗く感じる。

 

暗い光が顔に染み込む。ステージの巨大スクリーンはいつの間にか大きな時計を映し出しており、そしてついにイントロが流れ始めた。イントロに合わせて時計の針はチクタクと進む。

 

私の席は顔の細部が見えるくらい前の方に位置しているので、後ろを向けばある程度全体を見渡すことが出来る。隣の男性を見て察してはいたが、観客は既にサイリウムを構えイントロに合わせてゆっくりと振っていた。色は主に橙色だったが、主にというだけで特に決まり事は無さそうなので私はままゆカラーのピンク色のサイリウムを手に取る。

 

やがてスクリーンに映る時計の長針が十二時を指し──

 

 

『お願いシンデレラ♪』

 

 

暗くなっていたステージの全貌が明らかとなる。そこには先程まで居なかったはずの346アイドル達の姿があった。イントロで今か今かと焦らされた手前、私は思わず感嘆の声を上げてしまう。

 

ステージを見渡す。そこには美嘉さん、美穂ちゃん、そして敬愛して止まない佐久間まゆちゃんの姿が確かに存在していた。普段はあまり実感が湧かないが、やはり美嘉さんもアイドルだったらしい。そのキラキラとした存在感は、正にカリスマというべきオーラを惜しみなく放っていた。

 

美穂ちゃんもそうだ。彼女とは比較的よく会話をする間柄(当社比)だから分かるが、普段は本当に大人しく、趣味が子供っぽいだけの何処にでもいるような子でしかない。しかしステージへ上がった彼女は途端にアイドルへと変身していた。それこそ正に曲名の如く、シンデレラが魔法でドレスやカボチャの馬車を与えられて美しくなったように。

 

そして、嗚呼! 佐久間まゆちゃん! 佐久間まゆちゃん!! 最早二次元の存在なのかとさえ思われていた佐久間まゆちゃんがすぐそこに! 写真やテレビで見るより何倍、いや何十倍も可愛い! 髪とか……えっと、顔とか表情とか、い、色々可愛い(語彙力燃焼)! ぐぅぅ……! 直視出来ない……! 存在が眩しすぎて直視出来ないィ! ……はいそこでサングラス! 黒いレイバーン、装着! この為に持ってきてたんですよ! いやぁ、危ない危ない。いきなり涙腺崩壊しそうになったよ。こんな序盤で壊れたらこの先持たないからね。持ってきといて良かった……。

 

さて、そろそろステージに集中しよう。流石と言うべきか、ステージの上で煌めくアイドルは私たち新人と比べるべくもなく高い完成度を誇っていた。素人に近い私の目から見ても指の先、足の向きまで意識が行き渡っており、ユニゾンする動作にも乱れはない。伊達に“トップランク”に近いアイドル達ではなかった。

 

私は練習の休憩の合間に短期間で詰め込んだ記憶を思い起こし、サイリウムを振る。彼女らが私達のために一生懸命歌って踊るのと同じように、私たち観客も彼女らを楽しい気持ちで進行出来るように一生懸命振る。“お願い!シンデレラ”は、動画を見ていて感じたのがそれ程難しくはないという事だ。勿論ダンスの事ではなくコールの事だ。一番は初めてというのもあり拙いコールではあったが、二番にはもうそこそこの完成度で、なんとか周りに合わせる事が出来た。このまま出来ればコールの間違いだけはしたくない。特にコールをしなくていい箇所を一人だけ間違ってコールしたりとか。あれはきっと相当恥ずかしい。周りはそう思わないだろうが、やってしまった人は平然を装いながらも内心悶えてしまうだろう。コールをする為にライブに来ているわけではないがそれとこれとは別だ。

 

曲が終わる。なんとか大したミスは起こさなかったと安堵した私は席へと座り水分を補給した。

 

MCが始まりアイドル達がステージ中央に集まっていく。進行役は川島瑞樹さん。この前一緒のテレビに出たのを覚えている。

 

まずは自己紹介から行われるようだ。私はサングラスを外して本日のメンバーを改めて確認する。……ふぅん、あの子日野茜ちゃんっていうんだ。声大きいな。元気な子は好き……ん? あれ、この声って、もしかしてボンバーウォメン? 346カフェで優雅なひと時を満喫していると偶に外から「ボンバー!」って叫ぶ声が聞こえるからそう呼んでるんだけど……。声似てるし、張り上げ方も似てるから多分そうかも。

 

そして次は佐久ああああああああ!!! 声可愛いィィ!! 容姿もさることながらその声も私を魅了して止まない。やっぱりCDやテレビで聞くより現場の方がリアリティあって楽しいな! 脳がパンケーキに塗ったバターの如く蕩けそう……ッ!? いっ、今っ、佐久間まゆちゃんがっ、わ、私の方見てなかった!? いや見てた絶対に見てただって目が合ったし! おいっ、サングラスを寄越せーッ! 只でさえテレビでも姿見ただけでウルっとくるのに、不意の目が逢う瞬間をされたらガチ泣きしてしまう。

 

自己紹介も終わりアイドル達がステージ奥へと戻り、その頃には私も落ち着きを取り戻していた。そして正真正銘、次の曲からライブ本番が開始される。先程の“お願い!シンデレラ”は言うなれば前哨戦の様なものだ。本番前に身体を温め、同時にテンションも上げる意味合いも込められている(と思ってる)。さて、最初の曲は誰からだろうか。

 

その瞬間、スピーカーからリズミカルで小粋なイントロが流れる。おっ、これは早速の美穂ちゃんソロか。物販で並んでる時に電話で激励した時は緊張しながらも気合は十分だったのできっと素晴らしいステージを見せてくれる事だろう。

 

「恋してる♪」

 

『FuFu Fuu!』

 

ソロ曲は寮でもばっちり予習済みな私は周りとタイミングを合わせてコールを行う。曲が終わると美穂ちゃんは下手側へとステージから去っていく。うむ、美穂ちゃんの歌はとても愛らしくて良い。ステキダイテ-。寧ろ抱き枕にして寝たい。後で感想送ろっと。さて、次は確か川島瑞樹さんだった筈。

 

それから何曲か人員も入れ替わりながら曲が続いて行き、遂に美嘉さんの出番となった。美嘉さんの出番、それはつまり三人の出番という事。うぅ、何だかこっちが緊張してきた。

 

ステージの照明が消えて再び照らされると、そこには何故か美嘉さんだけが佇んでいた。……あれ? 三人はどこ? 途中で参加する演出みたいな感じ? でもダンスは最初から最後まで練習してたし、直前で何か変わったのかな……?

 

イントロが流れ始める。これ以上遅いと流石に初動には間に合わないだろう。これが狙ってのものだったらいいんだけど、もしもトラブルか何かで出てこれないのであればぞっとしない。私はサイリウムを両手に取りながらハラハラと待つ。

 

──本当に出てこないのか……?

 

そう思った瞬間、ステージの後ろから三つの物体が床から勢い良く生えた。いや、あれは……

 

「凛ちゃん達だ!」

 

粋な演出に会場が沸く。成る程、ステージの下でスタンバってたって訳か! ったく、心配させやがって! へへっ、あいつらって奴は……!

 

曲が始まる。緊張しているかと思ったが、随分とリラックスしているようで何よりだ。私はそのまま美嘉さんのサイリウムを振りながら三人の晴れ舞台を見届ける。

 

「……すんっ……」

 

や、やばい、涙が出てきた。嗚咽だけは止めないと、他の観客に迷惑になってしまう。

 

今まで彼女らの努力を間近で見てきた所為か、中々に込み上げてくる物がある。私自身は彼女らにそこまで干渉していた訳ではないが、それでもやはり同じ部署であり同期である。情が涌かない訳がない。心情的には「公園で遊ぶ子供をベンチで見守る近所のおじいちゃん」のようなものではあるが。

 

勿論同年代という意識も有りはするが、やはり精神的な年の差というものが存在するので先程言ったおじいちゃん感は拭えない。……いや、ジジイでもちゃんと友達はいるよ? ちょこっとだけだけど。

 

涙でステージを見る事もままならず、私はサイリウムを振る手を止めて彼女の声に全神経を集中させる。その間に袖部でぐしぐしと目元を擦り、再び目を向けてサイリウムを振る。

 

『最高ーーーーッ!!!!』

 

再び目を潤ませながら応援していると曲が終了した。奇しくも彼女らの最後の言葉は、私が“CB/DS”として、そして“Unknown Invaders”としてのファーストライブの最後を飾った記念(忌避)すべき言葉と同じであった。“終わりよければすべてよし”という素晴らしい言葉を真っ向から殴り掛かるようなあの出来事は、私のそこそこ長い人生の中でも早々ない。……嫌な事を思い出してしまった。

 

兎も角、彼女らが私と違ってしっかりと締める事が出来た事はとても喜ばしい。ライブが終わったら顔を出すとしよう。

 

そう考えていくうちに涙はとっくに引っ込んでいた。

 

 

「えっと、次は誰だ……さ、佐久間まゆちゃん────!!!!」

 

 

この後めちゃくちゃ号泣した。

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

ライブが終了し、会場内に残っている人々も疎らになってきた頃、私はポツンと席へと腰をかけて一人余韻に浸っていた。会場は先程までの熱狂が嘘かと思えるほどに静寂に包まれ、ポツポツとスタッフの会話が辛うじて聞き取れる程の声だけが耳に入り込む。

 

未だ心身ともに熱を逃しきれていない私は夢現の境にいる状態のまま、ライブが終了した事を自覚出来ずにいた。正に夢の様なひと時だったのだ。

 

しかしこのまま無為に過ごすのも忍びない。少し感想を述べるとしよう。振り返る事でもう少しだけライブの余韻に浸っていたい。……うむ、よし。さて、私の厳格かつ辛口な批評を知らしめるとしようか。

 

まずは美穂ちゃん。ずばり申し上げるとしたら……

 

私は脚を組み、先程までのいと素晴らしき時間に思いを馳せる。そして現在の私の心象に最も適した言葉を選りすぐり、天を仰ぎながら呟いた。

 

 

「──とても、良かった……」

 

 

色々と言いたい事はあったのだが、敢えて一言に濃縮するとこうなってしまった。

 

いやもう本当に可愛かった。曲も歌詞も可愛いし、何より美穂ちゃん自体が美少女だから可愛いの三乗というね。しかも最後のキメ顔可愛すぎた……。美穂ちゃんのCDとかは聞きながらよくジュッジュッジュッジュワァとか言いながら遊んでたけど、ライブとなるともう、ね、そんな事言えねぇよ。言う余裕もないし言おうとも思わなかった。というか忘れてた。それ程夢中になってたという訳だ。

 

次に美嘉さんと凛ちゃん達三人。これもずばり申し上げるとしたら……

 

私は脚を組み直し、先程までのいと素晴らしき時間に思いを馳せる。そして現在の私の心象に最も適した言葉を選りすぐり、天を仰ぎながら呟いた。

 

 

──すごく、良かった……。

 

 

これも色々と褒め称えたい事はあったのだが、長くなりそうなので一言に集約したらこうなってしまった。

 

というか美嘉ちゃん。やっぱりアイドルだったんだな。これさっきも言ったけど仕方ないと思うんだ。だって第一印象ただのロリコンギャルだし。良い人だし姉御肌なのは分かってるんだけども。でもうへへへとヨダレ垂らしながら“L.M.B.G”の子たちを見てるあの様子からさっきのライブは想像出来ないわ。ギャップが凄まじい。そういえば曲終盤の演出も自分で考えて浸透させたらしいし。ちょっと見直したかも。

 

そして凛ちゃんら三人! いやぁ良かった! 素人目からだけどダンスのミスも無さそうだったし、何より良い笑顔。特に凛ちゃんの笑顔とかもう胸キュンキュンが止まらなかった。普段クールな彼女の無邪気な笑み。これがギャップ萌えという奴か……。彼女らも頑張ったのだから、私も来週のライブ頑張らないと!

 

最後に佐久間まゆちゃん。これもまたずばり申し上げるとしたら……

 

 

 

 

 

 

良き!!

 

 

 

 

 

 

これ以上考えたら目が水攻め吶喊してしまうので終了。これ以上はもう何も言えねぇ。……え? 悪いとこ? ないよ、んなもん。驚異の顧客満足度100%というものだ。

 

とはいえ良さしか無かったのも事実。私の感想は的しか射ていない。何事も簡潔なのが一番である。

 

佐久間まゆちゃんに関しては本当に感無量だ。コールが一切出来なかったし。涙流しながらも嗚咽だけは漏らすまいと必死に我慢しながらずっと見てた。これは三人の時のようなジジイ目線じゃなくて、(なま)で御尊顔を拝する事が出来たのと、マイク越しとはいえ生声を直接この耳で拝聴させていただいた事による感動である。テレビやCDですら涙目になる私なので覚悟はしていたのだが、それでも想像以上に涙は止まらなかった。お陰でサイリウムを振る事は一切叶わなかったので、そこが少し心残りだ。機会があれば次こそは必ずコールで応援したい。

 

そういえばライブ中にも一回だけガッツリ目が合ったんだよね。綺麗やなとか呑気な事考えてたけどよくよく思い返せば号泣してるとこシッカリ見られたんだよな。ぐおおお、恥ずかしい……!

 

「お、お客様、そろそろ御退出の方を……」

「す、すいません、すぐ出ます……!」

 

言われる前に出て行こうと思っていたのだが、少し遅かったか。

 

気を取り直した私は荷物を手に取り会場の外へと出る。未だ熱が冷め切ってない人々が会話をしている様子がチラホラと見える。私も今のこの心象を誰かと共有したい気持ちでいっぱいだったが、残念ながらそんな人はいないのでトゥイッターのリアルアカウントにぶちまけるとしよう。

 

「控え室は何処やったっけ……?」

 

ライブ前に一度行ったのにもう忘れてしまった。

 

「あっ、その前に着替えんと!」

 

ままゆTシャツで我が身を覆っていた事をすっかり忘れていた。このままもし控え室に行ってたら佐久間まゆちゃんのファンだというのが露見してしまう。別にバレた所で問題は無いが気分の問題だ。

 

「なんか独り言やとつい方言が出るなー……」

 

って、言ってるそばから。こっちに来た頃は気を張っていたので寮でも一人の時でも方言が出る事はなかった。最近は慣れてきて気が緩んだのか偶に口調が戻ってしまうのだ。これは良くない傾向だ。意識せずとも標準語で話せないといつかボロが出るのは分かりきった事なので改めて気張るとしよう。二番煎じの博多弁アイドルになる気は毛頭ないし。いや、それを言ったらクール路線はどうなのって話だけど、あれはもう二番煎じどころの話じゃない。そもそも比べる対象が違う。

 

ガサゴソとリュックから上着を取り出して着る。ふぅ、あったかい……。先程まではライブで身体が温まっていたのだが、流石に時間が経つとこの時期でもTシャツ一枚は少し肌寒い。ついでに携帯も取り出して電源を入れる。……ああー、神崎さんとみくにゃんからMINEが来てる。先に控え室へ向かってるとの事だ。恐らくもう既に着いているのだろう。

 

「確かこっちだった筈……」

 

リュックを背負い直して左の方へ足を向ける。地下への階段を発見してそこを下りると見覚えのある通路へと出た。ここまで来ればもう私でもチョチョイのプー太郎だ。

 

全開の扉を発見し、付近に346プロダクション云々とプリントされた紙が貼り付けてあるのを視認する。聞き慣れた声も多数聞き取れるのでここで間違いないだろう。中を覗いてみると案の定、CPの面々がいた。丁度目の前に神崎さんがいたのでちょっかいをだす。耳ふー。

 

「あふん……な、何奴──」

「私だ」

「そ、其方だったのか」

「今どういう感じ?」

「偶像なりし者達は解竜の儀を行なっている」

「成功しそう?」

「うむ……第二の女拳闘士が出る様子もない」

 

それは良かった……ん? 待って、何かさっきまでずっと私を泣かしてた声まで混じってる気がする。言わずもがな佐久間まゆちゃんの声の事。

 

「ねぇねぇ、もしかしてここってさ、346アイドル全員いる感じなの?」

「うむ、仕切りを隔てた向こう側に」

「うおおお……!!」

「天の御使い?」

 

あ、あああ、ああああああああ! やばいやばいやばい! なにがやばいって仕切り一枚の先に生の佐久間まゆちゃんがいるって事実がやばい。マイクじゃない本当の生声ってだけでももう涙目なのに近くで顔まで見てしまったらどうなる事やら。最近彼女はドラマのヒロインとしても活躍していてその主題歌まで歌っている。そのドラマが甘酸っぱい学園ものの純愛でまた泣けるのだ。普段テレビを全く見ない私でさえどハマりしている。離れず引っ付かず、降りかかる様々な障害を乗り越え、最終的に主人公は上京して離れ離れになってしまうも、そこでまた二人のやりとりで感動の涙がドバドバ。昨日の話だ。なのでタダでさえやばい涙腺が更にやばくなっているので彼女の顔を見たらとても人様に見せられる顔ではなくなってしまう。

 

既にライブ中に使ったタオルは中々に湿っているので予備を取り出し顔に巻き付けると神崎さんへ顔を押しつけるように抱き着いた。化粧なんて最早今更だ。ライブ後にスースーするウェットティッシュで拭いたし。

 

「うぇえ!? て、天の御使い!?」

「ちょ、ちょっとごめん……! 今情緒不安定だから……!」

 

保存用に物販で購入したままゆタオルで顔を覆うと何故だかどんどん心が和らいでいく……。新品なので非常にふわふわである。しかもこのタオルそこはかとなくフローラルな香りも……あ、これ神崎さんの匂いだ。

 

最近の私の癒四天王(いやしてんのう)の一角たる神崎さんは本当に私の癒し。私の細やかなイタズラに反応してくれるし朝とか起こしてくれるし表情豊かで愛らしいし意外とお金の管理はしっかりしてるし気遣いも出来る子だし。前まで思ってなかったけど最近は抱き枕にしたいとすら思えている自分がいる。冬限定でだけど。そういえば小さい頃は部屋に飾ってあるシルベスターを全身で抱きしめながら寝てたな。冬になると重宝するんだよな。

 

「……ごめん、シワになるよね。ありがとう、落ち着いた」

「そ、それは僥倖である……」

「……」

「……なんで目瞑ってるの?」

「後光で目がやられるから……」

「悟りし者と神の子が!?」

「その二人は立川在住だから。……あ、そういえばサングラスがあったな」

 

持って来ていたサングラスをかける。これで生で見たとしても多少はマシになるだろう。

 

「あっ、深雪! どうだった私たちのステージ?」

 

仕切りの奥から花屋の凛ちゃんと本田さん島村さんが出てくる。凛ちゃんは初ライブを無事に成功させたからか少し興奮気味に私へ感想を求めて来た。三人の嬉しそうな顔を見て思わず私の表情も少し綻ぶ。

 

「すごく、良かった……」

 

私の言葉に凛ちゃんは微笑みを浮かべる。

 

「緊張しなかったの? 出てきた時からだいぶリラックスしてる様子だったけど」

 

聞きながら自分の初ライブがどうだったかを思い出す。確か武内さんと話してたら緊張が解れたんだっけ? 輝子や夏樹も気を遣ってくれたけど、最後の最後は成人男性ということもあり私にとって気安く話せる彼との会話だったんだよね。なんだかんだで話しやすいんだよなー。ライブ後のフォローはアレだったけど。

 

「緊張は勿論したよ。でも先輩からのフォローでね」

「成る程……」

「我が同胞たるに相応しき喜悦に満ちた宴であった!」

「あ、ありがとう……? か、神崎さん」

「蘭子で良い。蘭子で……良いぞ?」

 

? なんでこっち見ながら二回言ったんだろう。

 

「皆、ありがとうございます!」

「皆見に来てくれてありがとう! 次はもっと凄いステージにしてみせるから!」

 

二人も他のCPの面々からも手放しに称賛され、達成感に満ち溢れた満面の笑みだ。見れば武内さんや部長も満足げな笑みを露わにしていた。

 

 

 

 

……さて、そろそろかね。

 

 

 

 

すまんな佐久間まゆちゃんの信奉者達よ。私はこれより──タブーを犯す……! そう、関係者特権というタブーを……! これから私は佐久間まゆちゃんのご尊顔を拝する! 握手会などでしか間近で見る事が叶わない信奉者の諸君らにとっては固唾を呑むほど羨ましいに違いないだろう。そういう星の下に生まれてきたのだと諦めるが良い。ふふっ、もしかしたら私は、この為にアイドルになったのかもしれないな。

 

とはいえ流石に話すのは恐れ多いので仕切りで身体を隠してコッソリ見るだけだ。

 

「あっ、深雪ちゃん。見にきてくれてたんだねっ」

 

顔を覗かせると丁度向こうにいた美穂ちゃんと目が合う。

 

あっ、見つか……っていいのか。美穂ちゃんにも感想言わなきゃだし。

 

「久々の『Naked Romance』だったんだけど、どうだった?」

「とても、良かった……」

「本当!? 良かったぁ……」

「美穂ちゃん凄くラブリーでキューティだったよ」

「そ、そうかな……えへへっ」

 

さて、私のイケメンパゥワーで美穂ちゃんを照れさせたところで……ちらっと、ちらっとだけ……。

 

仕切りに隠れたままの体勢で向こうを覗く。ここだけ見たらただの不審者だが、一回やったらもうする気は無いので勘弁してほしい。

 

耳に鼓動音が鳴り響く。この緊張感は大昔にまだ売れてなかった時期のYAZAWAのライブでステージ越しに会話を行なった時(向こうが私の言葉に反応しただけ)の感覚に似ている。

 

意を決して佐久間まゆちゃんを探す。見つけた! トロンとしたお目々がかわいいヤッター!

 

顔をサッと隠す。ふぅ〜、もう満足! これ以上はバチが当たるかもしれないからヤメ!

 

「あ、もしかしてまゆちゃんと話したいの? まゆちゃーん」

「……ッ……!!」

 

止めようとしたが声が出なかった。って無理無理無理ィ! 心の準備が全く出来てないのォ! 美穂ちゃんありがたいけど……嬉しいけど……! 何事も事前準備が必要なんだよぉ!

 

とはいえ(CP)の前で失態を晒すわけにはいかない。もしそうなってしまえば私のキャラ崩壊は必至だ。クールキャラというのは作るものではなく普段からそういった態度を取らなければ成り立たない。耐えろ私ィ! 忍びとはッ、刃に心と書いて忍びと書くのだッ!!

 

「なんでしょうか?」

 

数ある甘味の何よりも甘い声が全身に響き渡る。癖になる柔らかい声は先程ライブで耳にした彼女の声そのもの。モノホンである。いきなり対面なんてすれば恐らく死んでしまうので軽く目を瞑り、仕切りを支えに子鹿の如き足の震えを抑える。

 

「あっ、えっと、美嘉ちゃんのバックダンサーしてた三人と同じ部署の子なんだけど、まゆちゃんとお話したそうだったから」

「そうですか。……あら、うふふ。もしかして目が合った方ですか?」

「……!」

 

うわー! うわー! やっぱり私と目が合ってたんだ! 自意識過剰じゃなくて良かった!

 

「珍しい髪色だったので印象に残ってたんです。えっと、日本語で大丈夫ですか?」

「ハッ、ハイ! ダイジョブデス!」

「み、深雪ちゃん! カタコトになってるよ!?」

 

あわ、あわわわ! 改めて考えるとこの状況って本当にやばいやばい! だ、だってさ? あ、あの佐久間まゆちゃんが私を認識してるんだよ!? 距離も1メートルもないし。ち、近過ぎィ!

 

「うふふ♪ はぁい、深呼吸深呼吸♪」

「はぁ……ふぅ……」

 

佐久間まゆちゃんは手慣れたように私に深呼吸を促す。多分私みたいに本人を前に緊張するファンは今まで多く見てきたんだろう。

 

深呼吸をする事で頭が冷える。そして冷静になったところで先程のライブを思い出して涙がツーと流れた。

 

「みみみ深雪ちゃん!?」

「ごめん、ちょっと泣きそう」

「もう泣いてるけど!?」

 

私は溢れる涙をなんとか耐えて佐久間まゆちゃんと対面する。彼女は変わらず微笑みを浮かべたままだ。

 

もう一度深呼吸を行う。よ、ようし……! まずは自己紹介からだ! イクゾ-!

 

「CPの小暮深雪と申しますまゆちゃんの歌最高でした前前前世から好きでした結婚を前提に結婚してください」

「え?」

「間違えた。サインください」

 

やってしまった……! い、いや、軌道修正は出来た! 何の問題もない!

 

「いいですよ」

「ありがとうございます」

「でも、SNSには投稿しちゃ駄目ですよぉ?」

「勿論です」

 

私だけこんなに贅沢させて貰って、あまつさえそれをトゥイッターのままゆファンに自慢するなんて私には……私には……んふふ出来ない。……は、反応が楽しそうだけど……うん、まゆちゃんの迷惑になるからね。流石にしないよ。

 

「Tシャツにお願いします」

 

私は観賞用で買っておいたもう一枚のTシャツを広げてサインをして貰う。

 

「あっ、深雪ちゃんへってのもお願いします」

「うふふ、はぁい」

 

キュキュキュと慣れた手つきでままゆTシャツへとサインをするまゆちゃん。『深雪ちゃんへ』の後にハートも入れてくれた。これもう額縁買うしかねぇな?

 

ここまでやって貰ったのならあれもして貰うしかないよね? いいよね? ね?

 

「あ、あのっ、写真も一緒に、撮ってもらってもいいですか……?」

「いいですよぉ」

 

やったぜ! まゆちゃんとツーショットとかもう一生待ち受け変えないわ! しかもまゆちゃんまだ着替えてないからライブ衣装なんだよね。ふおおお! ドキがムネムネしてきた!! 今の私だったら一晩で法隆寺建てられる自信がある! 急いで作るから柱とか結構ゆるゆるかもしれないけど。

 

「美穂ちゃんお願い」

「う、うん。でも深雪ちゃんサングラスしたままでいいの?」

「駄目ですね」

 

そうだ。サングラスをしてたんだ。あわわ、今考えたらやっぱりちょっと失礼だったかな? 悪印象持ってなければいいけど……。

 

目の前にまゆちゃんがいるのでサングラスを外すと自然と目に入る。サングラスの黒いレンズ越しではない生の佐久間まゆちゃん。トロンとした目と視線が合わさった。そして私の涙腺は再び崩壊──

 

 

 

──しそうになった瞬間天を仰いで緊急回避を行う。もうこれ以上流したら脱水症状を引き起こしかねない。

 

「どんなポーズが良いですか?」

 

なんと。ポーズまで決めさせてくれるのか。でも咄嗟に思い付かないので

 

「佇んでるだけで大丈夫です」

「そうですか……」

 

微笑んでくれるだけで満足だ。私はサインの書かれたTシャツをスマホのカメラに映るように広げる。

 

「私の携帯でいいんだよね?」

「うん、私の古いから美穂ちゃんのでお願い」

「分かった。じゃあ撮るからね。はい、チーズ」

「えいっ♪」

 

美穂ちゃんがシャッターを切る瞬間、ポフッと私の右腕が何かに包まれた。

 

「うふふっ♪ 立ってるだけじゃつまらないので少しサービスです♪ 女の子同士ですし、構いませんよね?」

 

そうにっこり微笑むまゆちゃん。自然と顔も近付き、改めて見る彼女はやはり端整な顔付きで、ハイライトの薄い蠱惑的な瞳に目が離せない。何時間と経過したかのような長い数秒間そうしていると自然と私の顔も上気し、瞳が潤む。まるで恋人同士のようなあり得る筈のない状況に頭の処理が追いつかない。極め付けには私の腕にまゆちゃんの柔らかい豊かなま、ま、マシュマロが……ッ!!

 

「み、深雪ちゃん!?」

「ど、どうしたんですかぁ!?」

 

ガクッと座り込む。顔が熱く、息が苦しい。ついでに抑えた手のひらもヌメッと熱い。

 

不意に頭の中に今までのまゆちゃんに関連するテレビ、ラジオなどといった映像や音声、写真が走馬灯のように流れる。どれもこれも私が彼女の歌や声に感動して泣いたり泣いたり、泣いたりした場面ばかりだ。

 

──ああ、うん、これはあれだ。恋人同士だなんて恐れ多い事を少しでも考えてしまった罰なのだろう……。

 

てっふくらはい(ティッシュください)……」

 

一つ弁解するとするなら、この鼻血ブーが決して性的な興奮から来たものではないという事。私は純粋に佐久間まゆちゃんのファンです。これだけははっきりと真実を伝えたかった。

 

 

 

 

 

 

 

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