【改稿版】 やはり俺の灰色の脳細胞は腐っている【一時凍結】 作:近所の戦闘狂
今作はどっちかっつーと俺ガイル要素の方がデカいですし、八幡も形式的に無双します。
まぁ今作は作者が受験勉強の合間を縫って書いた気晴らし作品ではありますし、文書もつたないところがたくさん見受けられるかもしれませんが、ストーリーに関してはかなりの自信をもっています(←自意識過剰ww)
というわけで、平均評価が6を下回ったら投稿をやめるかもしれませんw
いや割とマジで
前作は本気で気晴らしのつもりで書いた奴だから結構テキトーなんですけど、今作は設定とかフラグとかちゃんと考えた結果自分でも結構自画自賛してたりしますw
あと書き溜め三話分くらいしかないから結構亀更新ですw
それでは、どうぞ
「助けてぇ……お兄ちゃん……」
「小町ぃぃいいい!!」
瓦礫に挟まり身動きが取れなくなり、弱りきっていた小町を見つけた。ここだけではない。この町中から叫び声や悲鳴、そして怒声が鳴り響く。
ここは千葉県三門市。そこはまさに、「地獄絵図」だった。
☆
俺、比企谷八幡は学校が春休み期間中であった。その日はアルバイトもなく本来ならば家でゴロゴロしているはずなのだが、最近ハマっているラノベを読み終えたのと、休日で両親が家にいるため本屋で何か新しい本を探しに行っていた。それから本屋で適当に二、三冊選び、会計を終えた時に外から異常な音が聞こえた。
それはまるで、今まで繋がっていた電線が切れて弾けたような。
すぐに店の表に出ると、建物が在った場所に黒くて丸い何かがバチバチッ!と音を立て、その建物を飲み込んでいた。
すると、その黒い何かからどう見ても地球上に存在していなかったであろう生物が飛び出してきた。大きさは十メートルを優に超え、一つしかない目であたりを見渡した。
ただわかったことは、「こいつらは俺たちを侵略しに来たんだ」ということだけだった。
俺は次の買い物を放棄して一目散に家へと走った。
だが、家にたどりついた俺を待っていたのは、絶望的ともいえる光景だった。
すぐそこにいる化け物が俺の家を破壊したのだ。家族の姿は見当たらない。瓦礫を掻き分けながら進んでいると、下半身が瓦礫の下敷きになっている小町を見つけた。小町を覆っている瓦礫を除けようとしたがあまりにも重く、俺一人では到底動かすことが出来ない。そして、化け物がこの近くでにいる以上、周りに助けを求めることもできない。小町を助けられるという可能性は、ほぼ完全に詰んでいた。
「お兄ちゃん…だけでも…逃げ…て…」
小町の眼は語っていたし、俺も十分理解していた。
小町は助からない。
そしてついに、化け物がこちらに気付いた。
――時間がない。どうすれば……。
その巨体を歩ませてくる。
――小町は助けられない……?
突きつけられた現実を前に動揺していると、その巨体はもう歩みを止め、目の前にいた。目線を上げると、その化け物は無機質な一つ目でこちらを覗いていた。その瞳はまるで、どこまでも続く闇への入り口のようで、この世の絶望を表しているかのように。
――嫌だ!死にたくない!!
その時、俺は初めて生を渇望した。
その化け物は小町に狙いを定めて襲い掛かる。俺はほぼ反射的に横に飛んだ。周囲に凄まじい破壊音が鳴り響く。その衝撃音が三半規管を狂わすほどに体を震わせ、受け身をうまく取れずに無様に地べたを転がった。
「……ツッ!」
痛む体に鞭を打ち、体を起こす。
見上げた視界に入ったのは、ちょうどその化け物が小町を咥えているところだった。小町は必死に残った両手で抵抗をしていたが、やがてその化け物に小町は叫び声を上げながら飲み込まれていった。
初めて生への欲求を得たが、同時に俺は小町という心の支えを失ってしまった。
その様子を、俺はただ傍観していることしかできなかった。
そのあと、俺は現実から逃げ出すように走り出した。何度も叫び続けた。「これは夢だ」って。妹を見殺しにして生への欲望を手に入れたことは、あまりにも残酷なことであった。
だが、いくら走ってもこの世界は俺を解放してくれない。肺の中の酸素が足りなくなり、胸が熱くなる。視界の端で自衛隊が駆け付けて応戦しているのが見えた。だが、その攻撃は全くと言っていいほど通用せず瞬く間に蹂躙されていく。
しばらく走っていると何かに躓いて、思いっきり転んだ。彼は躓いたものの正体を睨みつけた。だが、すぐにその目は恐怖へと変わる。
ここら一体、血の海になっている。そして、死体が道路を埋め尽くすほどに転がっていた。死んでからまだ時間がたっていないのだろう、漫画などで見る悪臭はしなかったが、鉄臭い血の匂いがあたり一帯に漂っていた。
俺が転んだ死体を見ると、その顔で、その死体が誰であるかはすぐにわかった。
山本大和。
俺の通う、三雲中学の同期で、よく俺にいじめを吹っかけて来てたやつだ。俺はこいつの死体を見て、「あぁ、死んだのか」と思った。同情も憐憫もない。ただ目の前の事実を受け入れた。
立ち上がり、再び掛け出そうとすると後ろからガシャンと音がした。振り返ると、先ほど見た化け物よりは小さい。だが、それでも俺の身の丈より大きく、その手にはブレードらしきものを備えた化け物が来た。
その化け物はその無機質な瞳で俺を見定めると、獲物を見つけた肉食獣かのように襲い掛かってきた。背を向けて逃げることはできない。すぐに追いつかれ背中を切り裂かれることは容易に想像できた。
俺はブレードを避けるため、全神経をその化け物の体の動きに集中した。
その瞬間、世界が止まった。正確には、世界の動きが極限まで遅くなった―――それこそ、スローモーション動画を見ているかのような。
彼はこれまでにほんの数度だけ、この世界を経験したことがある。世界がまるで灰色に染り、俺だけを世界という鎖から解き放ったかのような。
化け物の動きに合わせて、後ろに飛びつつそのブレードを避ける。しかし不運なことに、足元にある死体に気付かず無様に転がってしまった。急いで立ち上がろうとするが、目の前にその化け物が来て、俺の命を刈り取らんとその手に付いているブレードを振り上げた。
そのブレードを気力の無くなった目で見つめ、これまでの短い人生を走馬灯のように振り返りだした。
ほとんど覚えていない幼少期。親は小町に夢中で、構われたことはほとんどなかった。
小学校時代。俺はただ親に認めてもらいたくて、必死に勉強を積み重ねた。だが、両親は俺に振り向きはしなかった。学校では、ちょっと勉強ができるからという理由だけで周囲からいじめの対象となった。教師はそれを見て見ぬふりをしていたが、小町は俺の異変に気付いた。だが、学年が違うため、俺へのいじめに干渉することができなかった。だからこそ小町は、家と学校にいるとき、精一杯俺の話し相手をしてくれた。
そんな小町の努力もむなしく、小町を人質にさらに悪質ないじめへと展開した。その時の記憶はほとんど覚えていないが、それ以来周りの連中はただ俺を畏怖の存在として見るようになった。
中学校一年、いじめが再燃。俺の様子にさらに敏感になっていた小町はすぐに気づいた。だから、小町は家では精一杯俺の相手をしてくれていた。その頃からか、彼へのネグレクトは次第に虐待にとなっていった。俺はその両親への精一杯の抵抗としてアルバイトを始め、なるべく親がいるタイミングは家から出るようにしたりした。
そして、小町を死なせてしまった。
親にも認めてもらえず、認めてくれた小町はもういない。
「……散々な人生だったな」
吐き捨てるようにそう呟いた。
俺は静かに瞳を閉じ、迫りくるブレードを甘んじて受け入れようとした。
だが。
―――ガキィィィイイイイン!!
すぐ目の前で何かと何かがぶつかり合う音が響いた。目を開くと、日本刀のようだが刀身が黄色く輝いているブレードのようなものを握りしめ、化け物のブレードと鍔迫り合いをする、コートを羽織った男性がいた。その男性は力技でその化け物を押し返し、その反動で動けなくなっていたところに切りかかった。その化け物は切口から煙を出しながら動かなくなった。
「大丈夫か?少年」
化け物が動かなくなったことを確認して振り返った――二十代半ばほどであろう――その男性は、その突き刺した刀を片手に語りかけてきた。
☆
あの後、先ほど助けてもらった――忍田さんって名前だっけ――男性に連れられて避難所である中学校の体育館へとたどり着いた。診療所で怪我を見てもらったが体のあちらこちらに打撲と擦り傷という軽傷だった。避難所には思った以上の人が集まっていて、中学校の連中も当然集まる。だからそいつらにも絡まれないように、 そして現実から目を背けようと、俺は占領した陣地で蹲ることにした。
「比企谷君。隣座っていいか?」
ちょうど眠りこけそうになっていたところに、上の方から声を掛けられた。少し重たい瞼を開くと、そこには忍田さんがいた。俺が頷き姿勢を正すと、彼は俺の隣で正座をし話を切り出した。
「レスキュー隊から連絡があったのだが、君のご両親が自宅の瓦礫に埋まっているのが見つかったらしい。手を尽くしたそうだが後ほど亡くなられたそうだ」
「……そうですか」
俺は素っ気なく返した。
「随分と堪えてないみたいだな。普通、肉親が死んだら何か来るものがあると思うのだが」
もっともだ。だが両親が死んだところでなんとも思わなくなっていた。死んで嬉しかったとも、悲しかったとも。忍田さんは深く追及してこなかった。
「何か訳ありのようだな。家族はこれで全員か?」
家族。
その言葉で小町の顔が脳裏に浮かんだ。唯一俺を受け入れてくれた存在。だが、もう彼女はこの世に存在しない。その現実が、俺にわずかなでない動揺を走らせた。
「・・・妹がいました」
絞り出したその声は俺の中のいろんな感情がごちゃ混ぜになって飛び出した。今にも俺の中の何かが弾けてしまいそうな。
「妹さんと連絡はついたのか?」
忍田さんは確かめるように尋ねてきた。妹が死んで動揺しているのか、ただ連絡がないのか、それともそれら以外か。
「・・・町を襲っていたデカい化け物に喰われました」
そのセリフであの時の光景がフラッシュバックした。悲鳴を上げて飲まれていく小町をただ茫然と見上げることしかできなかった、俺の無力さに思わず歯ぎしりをしてしまう。
「気の毒だったな。これから君はどうしていくつもりなんだ?」
親切にも、忍田さんは一人生き残ってしまった俺の身を案じてくれているようだった。だが、小町以外の人間不信に陥っていた俺には何か裏があるように思ってしまう。小町がいなくなった今、本当の意味で孤独になってしまった。この避難生活が終わって俺を待っているのは、苦痛に塗れたクソッタレな中学校生活だ。その場にこの人はいない。一体何様だというんだ。俺と一体何の関係があるっていうんだ。そして、吐き捨てるように言った。
「両親の財産とりあえず相続して、中学を卒業したら働きに出ようかと思ってます」
これが俺がこれから生きていくうえで最もベストな選択肢だろう。
「君はそれでいいのか?」
「問題ありません」
むしろ、問題しかない。このゴミのような社会に期待することなんて何もない。そんな社会を高校、大学へと進んでいっても、待ち受けているのは裏切り、嫉妬、絶望。そんなことしかない。だったら進学なんてやめてとっとと就職するのがよっぽどいい。
「これは私の話なんだがな…」
だが、そんな俺の境遇や心中を察したのか、忍田さんは遠くを眺めるように話し始めた。
「私は今いる組織に入ってからそこそこ経つ。でも初めのころは右も左もわからなかった。でも、先輩達が色々と手ほどきをしてくれたおかげで今こうしていられる。それでもやっぱりこんな感じの仕事だから、当然人も死んでいく。中には俺を庇って死んでしまった先輩もいた」
「それが俺に一体何の関係が・・・」
何を言い出すかと思えば忍田さんの境遇だった。それは俺にとって何の価値のないものだ。それでも彼は俺が言ったことに構わず続けた。
「私のせいで先輩が死んでしまった時、私は壊れてしまいそうになった。そんな時に、私の先輩だけでなく同輩、それに後輩が私を支えてくれた。君にもそういった存在がいたんじゃないか?」
小町だ。
そう言いかけて飲み込んだ。
「俺は家でも学校でもボッチだったんで。支えてくれる人なんでもういませんよ」
「もう、いないのか」
しまった。
気が付かないうちにボロが出てしまった。俺が思っている以上に心に余裕が無いようだ。
「それはもしかして、君の妹さんだったんじゃないか?」
ビクリと体が震えた。図星だったからだ。
「どうやらそのようだな」
「あんたに何がわかるっていうんだ。あんたは俺と違って仲間に恵まれた。あんたは俺と違って家族にも恵まれた。あんたは俺と違ってッ……!!」
一気に心の内をまくしたてた。そして……。
「あんたに唯一を生贄にして生き残った俺の何がわかるっていうんだ」
その言葉を聞いた忍田さんの顔からは、僅かに漂っていた穏やかな雰囲気は完全に消え、代わりに厳かなものだけが残った。
「確かに君の気持ちは判らないし、理解することはできないだろう。だが、私だって支えてくれた仲間が死んでいくのは悲しいなんてものじゃない。そんな仲間のお蔭で、私は今日今、ここにいることができる」
忍田さんは一息おいて、
「目を覚ませ!!」
突如叫び出したため、思わずビクッとしてしまった。その声に周りの人たちが「何事だ」と言ってこちらを見てきた。だが、忍田さんはそんな周囲を全く気にせずに続けた。
「君の妹さんは君に後悔してほしいと思っているのか?絶対に違うと思う。君は妹さんが君に懸けた分、しっかり生きなければならないんだ。たとえ君を取巻く環境が最悪であったとしても、君は己を信じていかなくてはならないんだ。君も人間なんだ。迷ったりもするだろう。でも、君は自分を見失ってはいけない。現実から逃げてはいけない。現実と向き合い、消化していかなくては君は押しつぶされてしまう。妹さんのためにも、君は十分以上に生きなければならないんだ」
忍田さんの一言一言が、俺の心の壁を徐々に崩していく。
ある日、小町が俺に言ってくれたことを思い出す。
”もし世界中の皆がお兄ちゃんの敵になっても、小町は最後までお兄ちゃんの味方だよ?”
”でもね、もしかしたら小町はお兄ちゃんよりも早く死んじゃうかもしれないんだ”
”それでも絶対に小町はお兄ちゃんの傍にいる。だからお兄ちゃんは絶対に諦めないで。あっ、今の小町的にポイント高い!”
脳裏に小町が無邪気に笑う顔が写る。
そして……。
「・・・あれ?」
徐々に視界がぼやけてきた。二つの線が顔を走った時、ようやく俺は泣いていることを自覚した。
「これから、私たちは組織を公にする。ネイバーと呼ばれる異世界からの侵略者はこれからどんどん増えていくだろう。それには戦力が必要だ。私たちの背中を預けられる仲間が」
「私たちと一緒に来ないか?」
その問いに答えるのに、言葉はいらなかった。
この時、十三歳。比企谷八幡、ボーダーに入隊。
>>12月3日 一部に人称の誤りがあったことに気が付いたため訂正を加えました。