【改稿版】 やはり俺の灰色の脳細胞は腐っている【一時凍結】   作:近所の戦闘狂

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皆さんお待たせいたしました!
遅くなってしまって申し訳ない<m(__)m>


一応遅くなってしまった理由を説明しますと。
・俺ガイル一巻二巻が行方不明になった(泣)
・原作の二番煎じが嫌で頑張って粘っちゃった(;'∀')
・すげぇキリ悪くなってるのに何故か粘った(゚∀゚)

っていう感じです。
そろそろこの作品もエタったんちゃうか思うた皆さんには申し訳ありませんが、(評価バーが5を下回らない限り)この作品は完結まで持っていきます(゚∀゚)

あ、そうそう。活動報告の方でも話しましたが、今話で後書きストーリーはラストになります。

さて、それではお待たせいたしました。

感想、評価、指摘、誤字報告、お待ちしております。



第二話 入部編―第二部

 奉仕部に強制入部させられた翌日の事。

 

 ボーダーのシフトも二日続けて入っていなかったこともあり特に奉仕部に行かない理由もなかったが、そこは専業主夫志望を掲げる俺としては真っ先に家に帰りに行こうとしていた。

 まぁぶっちゃけあいつと一緒に居たくないってのもあったんだが。

 その矢先に……。

 

「おい、比企谷。どこへ行こうというのかね? この方向は靴箱のはずだが。今日はボーダーの防衛任務のシフトは入っていなかっただろう」

 

 な……なぜだ。

 SHRが終わると同時に教室を脱兎のごとく飛び出したはずなのに、俺の眼前には平塚先生が仁王立ちしていた。くそっ! 先生がこちらに来ることを想定していたのにその上を行かれたか……!

 

 ちなみにだが、平塚先生は俺がボーダー勤めである事や家庭の諸事情についても一応把握している。授業のある時間帯に防衛任務のシフトが入ってしまったことや学校側に出した保護者の名前等を見れば、伝えなければいけないのは当然と言えば当然だが。

 

「ハァ……。わかりましたよ先生。行けばいいんでしょ」

 

 それを伝えると、先生は満足そうに頷いた。

 だが。

 

「わかってくれたようでうれしいが、私は奉仕部の顧問として君が部室までちゃんと行くかどうか見届けなければならない義務がある」

 

 そういうや否や、先生は俺の腕に腕を絡めてきた。

 

 ちょ……ちょっと? 先生もうアラサーにも関わらずたわわに実ったマウントフジがあるんですから……。

 

 と、思春期の少年らしく少し戸惑ってしまった俺は悪くない。その腕に当てられた二つの果実の感触に浸っていると、平塚先生は俺に絡めた腕をそのままひねりあげた。

 

「痛ッ!」

「おい、どうした比企谷。女をエスコートするのが男の役割だろう? ほら、ちゃっちゃと歩け」

 

 そんな俺の苦痛をなんとも思っていないのか、先生は面白そうに笑いながら体を押してくる。

ちょ、腕もげる! どんだけ暴力的なんだよこの人は! これがこの人が未だに結婚できない理由の一つなのか!

 

……そら出来ねぇわ。

 

 なんだかさっきまで戸惑ったり動揺したりしてたのがアホらしくなってきた。

 俺は大きな溜息を吐くと、先生の絞め技に身を任せ――というよりかは成り行きに身を任せ――そのまま部室まで向かって歩み出した。

 

 

  ☆

 

 

「時に比企谷。君には彼女はどう映った?」

 

 特別棟に行くまでの道の途中。平塚先生は不意に何かを尋ねようとしてきた。

 彼女とは、雪ノ下雪乃のことで間違いないだろう。

 

 俺と彼女が話したのは、現時点ではあの放課後だけだ。あの時間だけで彼女がどういった人間かどうか判断するのは難しい。

 とは言っても何も分からなかった訳ではない。一つは自己に対する絶対的な自信。それに伴うあまりにもまっすぐな性格。彼女は殆ど嘘を吐かない性格だろう。違ったとしてもそれに限りなく近いはずだ。あとすごく負けず嫌い。

 わかったところはこんなところだろう。

 確かに正直であることは美徳であろう。だが、俺にはそれが追随するものが気に喰わなかった。

 これを踏まえて今、先生の問いに答えられる解は――。

 

「嫌な奴」

「……そうか」

 

 そう言うと、平塚先生は肘関節の絞めを殆ど解き、そして少し悲しそうな表情になった。

 その表情が示唆しているものは分からない。だが、俺の返答にマイナスのベクトルが付くとするならば、少なくともプラスに向いた返答を期待していたはずだ。

 少なくとも俺の中で彼女に対してプラスの感情は殆どないと言っていいだろう。平塚先生もある程度は想定していたのか、すぐにいつもの表情に戻る。

 

「だがな比企谷。彼女は君が思っているほどの者ではないよ」

 

 先生がそう言ってからは、会話はなかった。

 その後は部室前まで二人で並んで歩き、そこで先生と別れた。

 

「失礼しまーす」

「あら、ヒキガエル君……だったかしら?」

「なんで俺が小学校の頃に呼ばれてた呼び名知ってんだよ」

「あら、無意識にそう呼んでしまったわ。ごめんなさいね、あなたから溢れ出る個性に思わず」

「一応霊長類に分類してくれるとありがたいが?」

 

 厭味ったらしく返事をしながら前に座った椅子に座る。

 いきなり罵倒とは、とても達者な口をしてらっしゃる。

 

「ところで、何しに来たのかしら? ストーキング?」

 

 と、席に着いたタイミングを見計らって彼女が首を傾けながら尋ねて来た。ストーキングって……。そんなに危ない奴に見えるのか? 俺って?

 

「先生に連行されてきたんだよ。ていうか何だ? なんで俺がお前に気がある事前提で話が進んでるんだ?」

 

 最後に返した返事に、彼女は再びコテンと首を傾けた。

 

「違うの?」

 

 ――自信過剰にもほどがあるだろ……。

 

「悪いが、俺とお前は初対面だろ? 知ってるわけがない」

「へぇ。てっきり私に気があるものかと」

「その自信過剰っぷりは一体どこから来るんだよ。っていうかお前絶対友達いないだろ」

 

「ええ、そうね。じゃあどこからどこまでが友達なのか定義してくれるかしら?」

「あ、別にいいわ。それもう友達がいない奴のセリフだわ」

 

 そう言い終えて彼女の目を覗くが、若干の苛立ちが目に見えてわかった。

 居ないんだな。殆ど鎌かけだったんだが……。

 

「っていうかお前、性別問わず人気ありそうなのにボッチ名乗ってるとかどういうことだよ」

 

 そう言うと、彼女は目線を逸らした。そして一言。

 

「――貴方には分からないわよ」

 

 彼女がこの言葉に込めた意味はおそらく相当に深い。

 

「私、昔からかわいかったから。近づいてくる男子は大抵好意を寄せて来たわ」

 

現時点では類稀な容姿という点しか評価することはできないが、雪ノ下雪乃が周囲の人間とは違うことは分かる。それゆえの苦悩だろうか。

雪ノ下は続ける。

 

「それを拒み続ければどうなるか。あなたにわかるかしら?」

 

 彼女は本を読み終えたからか、席を立ち、近くの机の上に置いてあった本と取り換えた。仕方ないと納得していながら諦めきっていないその表情は、彼女の過去を物語っているようにも思えた。

 

「簡単な話だろう。女子全員の嫉妬をかっさらう悪女の完成だ」

 

 俺は今まで皮肉られた分も含めて、少し嫌味っぽく返してみる。するとどうだろう。雪ノ下の顔が若干引きつった。

 

「まぁ、その通りではあるのだけれどもね……。おかげで私は毎日上靴とリコーダーを持って帰らないといけなくなったわ」

 

 そのくらいは俺も経験はある。上靴はもちろん当たり前、教科書の一冊に至るまで常に目の届くところに置いていた。たとえトイレに行く時でさえ、俺は個室に入るとすぐにレインコートを羽織り、上から飛んでくる水しぶきに耐えたものだ。高校に入ってからは流石にそんなことは無くなったが、まだそんな段階まで来ていない辺り彼女はまだマシだろう。それなのにこんな程度で息切れしているような弱さに腹が立つ。

 これが、俺が彼女を嫌う要因の一つだろうか。

 彼女は続ける。

 

「仕方ないの。人は誰も完璧ではなく、弱くて醜くて、すぐに嫉妬し蹴落とし合う。優秀な人間ほどこの世界は生き辛い。不思議よね」

 

 でも、と彼女は続ける。

 

「そんなのおかしいじゃない。だから、この世界を――人ごと変えるのよ」

 

「――努力の方向性がぶっ飛びすぎだろ」

 

 ただ、彼女の気持ちが全く分からない訳ではない。俺が小中学校の頃に成した成果は全て他人に剥奪された。俺が持った他人との繋がりは家族も含めほぼ全員に否定されてきた。だったらそんなもの初めから必要最低限にしておけば良かったものを。といっても男子からちやほやされるだけでは解るわけがないか。

 

「そう。でも、貴方みたいに何もせずにのらりくらりと過ごしていくなんて私はしたくない。……貴方みたいに弱さを肯定するところ、嫌いだわ」

 

 確かに俺は自分が弱いということを十二分に理解しているつもりだ。だから、俺は周囲という存在に期待しなくなった。一年前までは所謂対人恐怖症が完治していなかったこともあり、常に他人を遠ざけていた。それこそが俺の弱さだろう。これを肯定して受け入れることで俺は立ち止ることが漸くできた。しかし、彼女のそれは弱さ自体を否定してしまっている。

 それで彼女は進もうとしているのだろうが、この様子ではすぐに限界を迎えてしまいそうだ。

 

 どこまでも気丈で、脆く見えてしまった。

 

 それでなのだろう。昨日から彼女のことが気に喰わなかったのは。

 

「そうか」

 

 ぼそりと呟いてから、俺は手元の本へと思考を移した。

 雪ノ下も俺からの返事を皮切りに「ええ。そうよ」とだけ言ってから、何も言わなくなった。

 

 それからしばらくの間、部室内は静寂閑雅としていた。妙に大きく聞こえる時計の針の音が、時を正確に刻みながらも、教室に差し込む太陽と影、そして捲られていく本の頁数が時の移ろいを明確に示す。時折窓から吹き込む風は、春になったばかりの新鮮で心地よいものを運んで来ていた。

 

 案外、こんな時間の過ごし方も悪くない。そう思えた。

 

 ――コン、コン。

 

 ふと、扉がノックされる音が聞こえた。今まで余りにも静寂としていたことから一瞬「ビクゥッ!」と反応しかけたが、寸でのところで抑えることが出来た俺に喝采を送りたい。ったく急に来るなよ。

 

 雪ノ下が「どうぞ」と声を掛けたことで、彼女は入ってきた。

 

「えっと、平塚先生に言われてきたんですけど……」

 

 自信無さげに入ってきた少女。髪の毛はこれでもかと脱色され、頭に団子を結い、シャツは着崩してリボンも結われていない。

 いわゆる天然ビッチという奴か。分類は霊長目人科人族リア充属パリピー種だな。

 

 そんな風に彼女を観察していると、ふと目が合った。

 ここでどこぞのイケメン君なら顔の横に星を飛ばしながら話しかけられるんだろうが、生憎俺はスクールカースト最下位のボッチだ。ここで何も上手いことは何も出来ない。

 ……と思っていたが、彼女の方が俺を見るなり叫んできた。

 

「な――何でヒッキーがここにいるの!?」

「いや、俺ここの部員だし」

 

 っていうかヒッキーって俺の事? そもそもこいつ誰?

 

 

  ☆

 

 

「はぁ? 手作りクッキー?」

 

 その後、依頼の内容を聞き出そうとしたところで部屋から追い出された。

 と言っても彼女――由比ヶ浜というらしい――が単純に男に聞かれたくないからだろう。そう察したので適当に散歩に出た。その数分後に部室に戻ると今度は家庭科室に向かうとのこと。そこから冒頭に戻る。

 

「なんでまたクッキーなんぞ」

「なんでも渡したい人がいるらしいのよ。その為に練習に付き合ってほしいって。それが彼女からの依頼よ」

 

 なんとまぁ乙女チックな。

 大方告白とかのイベントで使うのだろうな。まぁ俺には関係ないが。

 

「で、俺は何をすればいいわけ?」

「味見役をお願い」

「へいへい」

 

 そして座って由比ヶ浜が作るのを待つことにした。

 

「平塚先生に聞いたんだけど、この部って生徒のお願い聞いてくれる部活なんだよね?」

「それは違うわ、由比ヶ浜さん。この部は自立を促すことが目的よ。例えるなら、飢えている人に食糧を渡すのではなく食料の取り方――具体的には魚の釣り方などを教えるのがこの部活の本旨よ」

 

 それを聞いた由比ヶ浜は「へぇ~、なんか面白そうな部活だね!」と、何故か目を輝かせながら答える。お前本当に理解してる?

 

「ってかお前友達いんだろ? そっちに相談したらいいんじゃねえの?」

 

 俺はふとした疑問を由比ヶ浜にぶつけてみる。いかにもスクールカーストトップに君臨していそうな彼女のことだ、料理が得意な友達の一人や二人いるだろうと思ってだ。

 でも由比ヶ浜は力なく頭を振る。

 

「いやぁ、あんまり話したくないし……。友達ともこういうマジっぽいの合わないし」

 

 それはトップカーストに君臨するが故の苦悩なのだろう。常に周囲の様子を窺い、上手く調子を合わせる。張りぼてでしかないものに固執するのだろうな。

 ある意味俺が一番嫌いなタイプだ。

 

 まぁ今回の依頼には関係ないし、流しておくか。

 

 

  ☆

 

 

「どうしたらあそこまでミスを重ねられるのかしら……」

 

 由比ヶ浜の調理は、それはもう酷いものだった。

 まずにボウルに卵を割って落とす時に殻が入ったままだったり。砂糖を入れるとき、計量せずに投入していた。山ができるほど。

 更には薄力粉と塩を間違えて投入しかけていた。

 

 他にもいろいろあったが、これは酷い……。

 皿に盛りつけられたそれは、ホームセンターで売ってる木炭だった。いや、最早毒だ、ダークマターだ。由比ヶ浜は自分の料理の腕の無さにしょぼんとしていた。

 

「やっぱりあたしって才能ないのかな? 最近皆こういうことしないらしいし……」

 

 結果、彼女の口から零れた言葉は諦観だった。

 才能がないから。それは物事を諦める時に使う非常に便利な言葉だ。だが、才能がなくとも最後まで努力を重ねた物からしてみれば堪ったものではない。それは自分がしてきたことを否定するのと同義だからだ。

 

 由比ヶ浜の言葉を聞いた雪ノ下は、苛立ち気に語る。

 

「その認識を改めなさい。上手くいかない理由を才能がないからで片付けてはいけないわ。あなたは貴方が言う『才能を持つ人』が積み重ねてきた努力を知らない。今あなたは初めてクッキーを作った。上手くいかなくて当り前よ。上手くいけばそれこそ才能があるわよ。何の努力もしないで才能がないなんて愚の骨頂よ。それに、周りに合わそうとするのをやめてくれないかしら。すごく不愉快」

 

 うわぁ……。

 

 すげぇやこいつ。思っていること全部ぶちかましやがった。本人の気も知らずに。昨今のリア充にそんな事言ってみろ。逆上して「もう帰る!」とか言い出しかねんぞ。

 

「か――カッコいい!」

「「はぁ!?」」

 

 なんて言ったこいつ!? カッコいいだ!?

 相当キツイこと言ってたぞ!?

 

「あの、話を聞いていたのかしら……? 結構キツイこと言ったつもりなのだけれど……」

「確かにちょっときつかったけど、本音で喋ってるってわかって。何て言うのかな、雪ノ下さんが言っていることがズドーン! って胸の中に飛び込んできたの。ごめん、次はちゃんとやるから!」

 

 余りのことに雪ノ下は言葉を失っていた。そりゃそうだろうな。逆上されると思っていたところをまさか謝罪されるなんて。

 

「正しいやり方、教えてやれよ」

 

 俺の一押しで、雪ノ下は手本を見せながらやると言った。雪ノ下には悪いが、ここは由比ヶ浜の背中を押させてやる。彼女が殻を破れたのだ。ここで貶める理由はないだろう。

 そして彼女たちは、調理を再開した。

 今度はちゃんと作れるように。

 

 暫らくしてから。

 テーブルの上には二つの皿が。

 一つにはきれいでかわいらしい形をしたクッキーが。もう一つの皿には、最早ホムセンで買って来たと言っても通用しそうな木炭が……じゃなくて黒焦げのクッキーが。

 

「どう教えれば伝わるのかしら……」

 

 雪ノ下は、それはもう疲労困憊としていらっしゃった。

 あれからも由比ヶ浜は奮闘(?)したが、なぜか根本的なところでミスをする。漸く匙を使うようになったと思ったらそこになぜか砂糖を山盛りに盛ったり。それでも何とか形状はクッキーに近づいていた。

 

 というよりも……。

 

「なんでお前ら、美味いクッキー作ろうとしてんの?」

 

 と、二人とも「何言ってんのこいつ? 死ぬの?」みたいなことを言いたげな顔をしてきた。

 そりゃそうか。二人とも渡す側の立場でクッキーを作ってんだから。

 

「10分後、またここに来てくれ。本物の手作りクッキーってもんを見せてやるよ」

 

 二人とも納得がいかなさそうな表情で部屋を出ていった。

 こっからは俺のターンだ。

 

 

  ☆

 

 

「比企ヶ谷君、これはどういうことかしら」

 

 二人が戻ってきて見せた俺の「手作りクッキー」は、それはもう酷いものだった。

 皿の上にはきれいには並べられているものの、黒焦げになっているそれが。

 

「まぁとりあえず食べてみろよ」

 

 二人は渋々といった感じでそれに手を付け、口に放り込み咀嚼する。するとまぁ不味そうな表情を。由比ヶ浜に至っては「不味い!」とまで言い出した。

 それを見た俺は次の手に出る。

 

「……そうか。わりぃ。じゃあ捨てるわ」

 

 そう言って皿を掴みゴミ箱に捨てようとする。

 

 

「待って!」

 

 由比ヶ浜が慌てて止める。

手にしたクッキーの残りを口の中に放り込み無理やり咀嚼すると、何でもない事のように言う。

 

「そんなに不味い訳でもないし、形もそんなに悪くないしから食べられないことはないよ!」

「そうか。まぁこれ由比ヶ浜の作った奴なんだけどな」

 

 二人して今度こそ「ハァ?」と言いたげな表情になる。まぁそれもそうか。

 

「いいか。男っていうのは単純なもんなんだよ。声を掛けられたらドキドキするし、おいしくなくても手作りクッキーをくれたら喜ぶ。おいしくなくても一生懸命作った気持ちだけ伝われば十分なんだよ。」

 ここで、俺は中学時代の苦い経験を基に説明をした。悪まで俺の友達の友達の話としたが。

 リア充な男でも、クッキーをくれたら少なからず喜ぶものだ。非リアにそんな事あってみろ。まず間違いなく狂喜乱舞するぞ。

 まぁ例外もあるが。「何か裏があるのでは?」真っ先に疑うタイプ。こっちは圧倒的に少ないだろうしここでは伏せておくが。

 それを聞いた由比ヶ浜は、恐る恐る尋ねてくる。

 

「その、ヒッキーも貰えたらうれしいの?」

「勿論だ。嬉しすぎて舞い上がるまである」

 

 まぁそんな事天地がひっくり返っても起きなさそうだけどな。

 それを聞いた由比ヶ浜は、何か納得出来たのか。

 

「ありがとう! 頑張ってみる!」

 

 と、一方的に告げ、手を振りながら走り去っていってしまった。

 流石の雪ノ下大先生もポカーンとしてしまっている。多分ああいうタイプの人間に出会ったのは初めてなんだろう。『こういうタイプの人間もいる』と、平塚先生が狙って由比ヶ浜をここに送り込んだとしたならば、とんだ食わせ者だ。

 

 結局俺と雪ノ下は依頼解決の旨を平塚先生に伝え、教室に戻った。

 その後、依頼は一件も来ることなく部活を終了した。

 

 ――暇すぎだろ、この部活……。

 

 

  ☆

 

 

 翌日の昼下がり。

 ボーダー本部の南東部にて、俺は那須隊の連中と合同で防衛任務に当たっていた。

 那須は、去年の夏ごろに四人でガールズチームを結成した。アタッカー1人とスナイパー1人、那須がシューターの非常にバランスの取れたチームとなった。

 本人は気にしていない――というか気付いていない――が、那須はボーダーの中でも屈指の人気を誇っている。その端麗な容姿が周囲の羨望を掻き集める。その上シューターとしても非常に優秀で、僅か四人しかいない合成弾生成が即座に作れる面子の一人だ。

 

 このことあって彼女は色んなチームから勧誘されたが、最終的に自分でチームを作ってしまった。

 と言ってもまぁ、ガールズチーム結成に呼びかけられた、と言う方が正しいが。

 アタッカーの熊谷がメンバーを集めたのだ。他にも引きこもりオペレーターを連行してくるなど、中々に気概のある奴だな。

 

 彼女たちは現在B級の中でも未だ16位で、余り成績は振るっていないみたいだ。那須一人でも戦況を変えられる程度の実力はあるが、それでもチーム戦となれば話は別だ。

 他の二人がちゃんと役割を果たしていても、そこを狙われてしまうと弱い。

 

 そこは二人も自覚しているようで、スナイパーの子――日浦はスナイパーランク二位のキノコ貴公子こと奈良坂に師事し、熊谷も太刀川先輩(アホ)とソロランク戦を良くしている。

 

 まぁ、この話はここで置いておき。

 

「なぁ、ちょっと聞きたいことがあるんだがいいか?」

 

 と、俺は熊谷と那須に昨日の件を尋ねてみる。

 

「何よ」

「どうしたの?」

「女子が男子に手作りクッキーを渡すことってあるのか?」

 

 『どこで』『誰が』の情報を省いたが、まぁ聞きたいことは聞けるだろう。

 俺は昨日、あくまで『手作り』を強調したが、女の子にとってのこの意味は男子たる俺には分からない。それ故、俺が昨日出したこの解は正しかったのか少し疑問に思えてしまった。

 

「――渡されたの?」

 

 と、那須が何故か俯き気味に尋ねて来た。

 どうした急に?

 隣の熊谷と見比べてみるが――何故かこいつ、妙にニヤついていやがる。なんか腹立つ。

 

「まぁそういう訳ではないんだが。昨日クラスの女子が手作りクッキーを鞄の中に入れてるのを見てな。女子友達に渡す様に見えなかったから気になってな」

「そっか……。(良かった……)」

 

 と、なぜか弁明のように返事をすると那須は安心した表情になるが、熊谷のニヤニヤした顔は元に戻らない。

 

「那須だったらどういう場合にそういうことをすると思う?」

「ふぇっ!?」

 

 急に話を振られた那須は動揺する。……かわいい。

 じゃなくて。

 

 何故俺が話を振ったらそんな反応するのか少し理由が気になるが、尋ねたところで藪蛇にしかならないだろうから突っ込まないでおく。ソースは俺。

 

「……まぁやっぱり、異性に渡すとなればある程度の好意は抱いていると思うわね」

 

 さりげなく那須のカバーをしたのか、その本意は分からないが熊谷の言っていることは確かだった。

 

「わ……私も、そう思うかな……」

 

 今聞いた話を由比ヶ浜結衣の依頼に照らし合わせると、由比ヶ浜はお礼を言う相手にある程度の好意を持っている……か。

 その好意は友人としてなのか恋慕としてなのかは分からないが。

 

 まぁいろいろと分からないことは多いが、分からないことが多い以上考えても無駄だろう。分かるのは、知っていることと解る事だけ。

 

 必要以上に由比ヶ浜に干渉したところで余計なお世話になってしまうだろう。

 

 その後、再び軽く話し、那須に次の訓練に付き合う日取りを決めてからお開きとなった。

 

 何故か熊谷が最後までニヤニヤしていたが。

 




後書きストーリー vol.5



 私は幼馴染が大嫌いだ。

 彼は「皆が皆友達になれる」と本気で思っているのだ。
 小学校低学年の頃はまだ私自身にも無邪気さがあり、仲の悪い相手はいなかった。

 しかし、それもすぐに終わる。
 高学年になりだすと、周りの視線が次第に変わっていったことに気が付いた。

 男の子たちは下卑た視線を。
 女の子たちは妬んだ視線を。

 初めはどうしてそうなってしまったか分からなかったが、次第に気付くようになった。

 ある日、とある女の子から「恋愛相談」をされた。
『私は○○君のことが好きなのだけれども、どうやって好きって伝えたらいい? ■■さんなら経験豊富そうだし教えてくれない?』

 このセリフを聞いて確信した。

『私は○○君のことが好き』
訳『○○君に手ぇ出すんじゃねぇぞ?』

 『■■さんなら経験豊富そうだし』
訳『あんたどうせ男の子たちにちやほやされてんだろ?』

 つまりはこういうことだ。
 私は女の子たちから悪意にさらされていることに気付いた。

 別に放っておいてよかった。
 彼等彼女等が勝手に私にどんな付加価値を付けようと、私自身に害がなければ問題なし。そう割り切っていた。

 しかしそこで、幼馴染が出てきた。彼は私が女の子たちに嫌厭されることを良しとしなかった。
 彼は私が周囲に嫌厭されている分私に話しかけるようになった。

 しかしそれは、彼女たちにとっては面白くない。それもそうだ。彼は容姿端麗、成績優秀だった。要は女の子たちの憧憬の的だった。
 その彼が私にしか話しかけない。他の人に話しかけたとしても極僅か。なるほど確かに面白くないだろう。

 そしてそれから暫らく日を置かずして、私への悪意はあからさまなモノになった。
 上履きが盗まれていた。机の上が汚されていた。そして、根も葉もない私の噂が立った。

 私は少しずつ周りの悪意に対して「そろそろ制裁でも加えようかしら?」と思い始めた頃。

 ついに彼が動いた。
 いや。この場合「動いてしまった」と表現する方が正しいだろう。

 先生がいない放課後すぐの教室。ほとんどの生徒が教室にいるときに、彼はクラスメイト全員に向かって宣った。

『もうこれ以上■■ちゃんを虐めるのをやめてくれ。やった人は■■ちゃんに謝ってくれ』

 それを聞いた瞬間、私はこの幼馴染を完全に見限ってしまった。
 こんな大衆の前で謝罪するなど恥以外の何物でもない。しかもそれを彼に言われればやらざるを得ない。
 彼女たちは上辺だけの謝罪を私へと済ませた。

 そこからが本当にひどかった。

 これまではこっそりとしていた虐めが本格的になった。
 いや、内容自体は変わらない。やり口が非常に陰湿になったのだ。それも幼馴染の彼にばれないように。

 彼はもう虐めは終わったものだと思っているのか、友達と一緒に遊びに行っていた。
 その横で私が裸足で家まで帰っているのも知らずに。

 そして、小学校を卒業し。
 中学校に入学した私に待ち受けていたのは、やはり同級生の女の子の嫉妬だった。
 そのころからようやく自覚しだしたが、私の容姿はいわゆる「かわいい女の子」に部類するもののようだ。

 男の子から告白されることも日常茶飯事となった。
 そうなれば周りの女の子たちは黙っていないことは目に見えていた。

 また小学校の頃の様に根も葉もないうわさを囁かれ。チェーンメールで私への悪意を拡散して。

 結果的に私は犯人を突き止め、公開糾弾をすることでそれを止めた。それで私への悪意が止まることは無かったが。

 ただ、何故彼女たちは自己研鑽をしなかったのかが、気になった。
 私が彼女たちよりかわいいことは分かったが、そこから何故上を目指さず蹴落とすことを考えたのだろうか。

 そうか、この世界は優秀な人間ほど生きづらいのか。
 優秀な人間はその才能を生かす場を与えられることなく散っていくのか。

 そんなのまちがってる。

 そうおもった。

 だったら私はどうすればいいのか。結論にたどり着くのは簡単だった。

「この世界丸ごと、人々の意識を変えればいいんだ」

 自分で言っていて荒唐無稽だと思う。だけれどもこうするしか道は残されていないように感じた。

 でも、この夢が成し遂げられたとき、この世界はどれ程素晴らしいのだろうか。
 たとえ私一人でも成し遂げて見せる。そう心に誓った。
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