それは、ある日の夜に起こったとある出来事である。
ある艦娘が暗い夜道を歩いていたら遠くから
シャラーン……シャラーン……シャラーン……と、一定の間隔で聴こえてくるではないか。
「(何の音だろう?)」
その音を不思議に思いはしたが気にせずにまた歩き出したが何処か違和感を感じて立ち止まり耳を澄まして音をよく聴いてみると
シャラーン……シャラーン……シャリラーン……と、段々と自分の居る方に近づいて来ているのに気付き恐ろしくなり走りだすが
シャラーン……シャラーン……シャラーン……シャラーン……音は遠くなるどころか逆に近づいてくるではないか。
「(あれ? 音がどんどん近付いてきてるような?)」
それに気付いたその艦娘は、あろうことか後ろを振り向いてしまった。そして、目に写ったのは何もない暗い道を歩きながら手に持った錫杖を鳴らして此方に近づいてくる謎の黒い人影だった。
シャラーン……シャらーン……シャラーン……
その艦娘は、余りの怖さにその場から動けずに居る間にも謎の人影はどんどんと近づいてきていた。その謎の人影が近付いてくるに連れて暗くて見えなかった顔や服装が見えてきた。そして、見えてきた顔には白い狐面を付けていて黒い修行僧のような格好をした人物だった。
シャラーン……シャラーン……シャラーン……
「キ、キャアアァァァアアア!!」
流石にも暗い夜道で白い狐面を付けて錫杖を鳴らしながら近づいてくる謎の人物を見た艦娘は恐怖の余り気絶してしまったようだ。
シャラーン……シャラーン……シャラーン……
気絶する原因になった人物は気絶した艦娘を気にする様子もなく錫杖をまた。
シャラーン……シャラーン……シャラーン……
と、鳴らしながら横を通りすぎて行った。
その後、悲鳴を聞き付けた他の艦娘が何事かと見に来た時に倒れている艦娘を見て慌てて医療室に運んでいった。そして、目を覚ました後に一体何があったのかと事情聴取をされたさいにその謎の人物について話したが、最初の内は誰にも信じては貰えないのであった。
その後、こんな噂が流れ始めた。
曰く、暗い夜道でもしも錫杖の音を聞いたら何があっても絶対に振り向いてはいけない。もし、振り向いてしまったら死よりも恐ろしい事を体験する事になる。
曰く、錫杖を持った人物に勝負を挑んでどんな手段を使ってでも勝てば願いを1つだけ叶えてくれる。
曰く、恐ろしく強いらしい。
曰く、もしも、勝負を挑んで負けてしまった場合は、何かを要求される。
曰く、勝負を挑んで負けたのに要求を拒否したり逃げ出した場合は、その日から頭の中にシャリーン……シャリーン……シャリーン……と、錫杖の音が響き続け夜も眠れなくなる。
曰く、間違っても素手で勝負を挑んではいけない。
曰く、何があっても言葉を喋ることがないらしい。
曰く、辺りが暗くなってからしか姿を表さないらしい。
曰く、不死身らしい。
IN大本営のとある部屋
これは大本営のとある部屋に居る老いを全く感じさせない老人と向かい合うように座っている青年の会話。
「いきなり呼び出したりしてよ~。何かようか~?」
「何でも最近、カクカクシカジカと言った噂が提督と艦娘達の間で流れているらしい」
「うん、それで?」
「ここまで言ってまだわからんのか?」
「わからん!」
老人の問いにたいしてドヤ顔で答える青年。
「威張れることじゃないだろうが!
そして、ウザいからそのどや顔やめい!」
「だが断る!」
「…………まあいい、単刀直入に言うぞ。この噂はお主のことじゃろ」
「う~ん、たぶんそうだろうな」
「お主以外にそんな格好をしていそうな奴などいるはずがないからな」
「え~」
「確かに狐面と錫杖持って夜中に出歩いたりはしてるけどさ~、その時に勝負を挑まれたりはしたけど、勝っても何かを要求したりはしたことないよ」
「それは本当じゃろうな?」
「ホントホント、お願いはしたけど要求はしてない」
「………一応聞くが何をお願いしたんだ?」
「? 道に迷ってたから何処をどういけば良いのかを聞いたりや道案内をお願いしたくらいだな」
「(頭が痛い、頭痛薬何処に閉まったかのぅ)」
老人は頭が痛そうに押さえながら溜め息を吐いた。それを見た青年は、老人に向かって言葉を発した。
「溜め息なんて吐いてどうした?
幸せが逃げてくぞ」
「………誰のせいじゃ誰の」
「フム、俺のせいでない事は確かだな」
「お主のせいじゃよ! お主のな!」
「俺の? 何かしでかしたか?」
噂になる様なことをしといて何かしでかしたかだって? それは、流石にもないと思うぞ青年よ。そのせいで老人がきれてるぞ。
「思いっきし」
一度そこで言葉を句切り、
「しでかしかしとるは!!」
少年に大声をあげる老人。
「え~、例えば?」
「噂になっとる事や、勝負の要求等についてだ」
「あ~、うん、流石にもいきなり駆逐艦の子が俺の姿を見た途端に顔を真っ青にして泣きながら魚雷を投げ付けられたのには驚いたな~。その後お菓子を上げてどうにか落ち着かせて事なきを得たんだよな~」
「魚雷を投げ付けられたのが俺じゃなかったら死んでたぞ。割りと本気で」
「………何故噂の中にどんな手段を使ってでも勝負に勝てば願いを叶えてくれるや、不死身と言ったような単語が出てくるのかがよーくわかったぞ」
「そして、お主何故魚雷を投げ付けられたのに普通に生きておるんじゃ?」
「それはよかったな。魚雷の方は全部回避したからだ」
「儂にとってはちっともよくないわい(もういっその事このまま海軍辞めてしまおうかな?)」
「お主が此処、海軍本部に忍びこんで来た時くらいによくないわい」
「まあ、うん。あん時は本当にすいませんでした」
一体この二人の間に何があったのかはまた別の機会にでも。
「それで、お主はこの後はどうするんじゃ?」
「う~ん、別に決めてないな~。またあてもなく適当に旅をするくらいしかやることないからな」
「ならば、幾つか頼まれてくれんかの?」
「面倒事の予感しかしないんだか?」
「気のせいじゃよ。それで、受けてくれるのか?
一応報酬も出るぞ」
「ハア~、まだ恩を返し切れてなくて、断れないの知ってて言ってるだろ」
「義理堅い奴じゃのぅ。別にあの程度の事を気にする必要もなかろうに」
「そっちが気にしなくても俺が気にするんだよ。
で? その頼み事とやらの内容って一体なんだ?」
「そう急かすな。
内容は…………じゃよ」
「思いっきし面倒事じゃねーかよ!」
「別に今ならまだ断ってもいいんじゃぞ?」
「例え面倒事だろうが、一度引き受けといて断る気は俺にはないぞ」
「そうか、わかったぞ。
それでは早速行ってもらうとするか」
「りょ~解しましたよ」
「フム、頼んだぞ」
「それじゃ行ってきますよ。元帥殿」
「ああ、行ってこい」
「お主は極度の方向音痴じゃからな
くれぐれも道には迷わないようにな」
「ほっとけ」
そう言い残して部屋から出ていく少年であった。
それから暫くした後に、新たな噂が流れ始めたのであった。曰く、錫杖を鳴らしながら誰にも気付かれる事なくブラック鎮守府の提督を連れ去る。そして、連れ去られたブラック提督の代わりに新しくホワイト提督が着任するのであった。