月が時おり雲に隠れながらも暗闇を照らしている、そんななかを、灯りを持たずに進む人影が在った。
「……なあ」
「ん~?」
「……本当にいいのか?」
「まあ、大丈夫だろ」
「……そうだと良いんだけど」
「別に心配ならムリに付いてくる必要はないぞ。今なら未だ引き返せるしな」
「……付いて行かずに後悔するよりも、付いて行って後悔する方がいいさ」
「……うん、私も付いて行くよ」
「……そうか、お前らには辛い思いをさせる事になるな。せめて、これから起こる事が穏便に済むといいんだけどなぁ」
「……それはムリだろうな」
「……あはは、ムリかな?」
「……お前らな、ヘコむぞおい」
「……それくらいの自覚はあるんじゃないのか?」
「……これからする事を考えたらどうしてもね?」
「ハァ~、それもそうか。まぁいいや、それよりも誰かに見つかる前にさっさと行きますか」
「それもそうだな」
「そうだね」
「(さよならだ)」
「(みんなさよなら)」
「(……さよなら)」
人影は心の中で各々に別れを告げ、音もなく暗闇に溶けていった。
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その日もいつもと同じように過ぎていくと思っていた。だけど、その日は違った。
自分のことを狐と名乗っている提督が、消えた。まるで最初から存在しなかったと言うかのように、何も告げずに姿を消した。
朝になるといつも吹雪、大鳳と一緒に外を走っていた三人の姿が見えず、例え提督が留守にしていても二人で一緒に走っていた吹雪と大鳳が別々に走っていたり、朝食時間が少し過ぎた辺りから騒音や爆発音が響いたりしていた工廠が音も出さずに静かなことに小さな違和感を感じたが、最初はそんな日もあると思って気にしなかった。
昼過ぎになると提督が趣味でお菓子を作っていた専用の厨房があった場所はまるで、最初からそこにはなにも存在しなかったかのように何もなかった。そして、提督が昼寝場所としてよく使っていた大きな木もなくなっていた。
ここでようやく事態の異常に気付いた私は、急いで執務室に向かったけれど執務室には何もなかった。
暫くして、私と同じように異変に気付いて執務室にやって来た子達と手分けをして提督を探した。
提督を探す過程で新しくわかったことが幾つかある。
それは、鎮守府の門番と提督が作った三角サマーや、(提督程ではないが)問題を起こしてた卯月対策に使われていたお仕置きbox、使い道が不明な武器類、一際異様な雰囲気を放っていたハリセン、名前にブレードと付いているが単なる鈍器にしか見えず鉄の塊としか表現できない武器、バレットXM500をベースに改造に改造を重ね魔改造しまくっていた銃(と言う名の何か)、そして、誰にも触らせようとしなかった刀が消え去っていること。
提督が関係したモノが全部が全部、記憶すらも残さず何人かを除いて皆から消え去っていたこと。
提督を忘れている子達の何人かは、無意識のうちに提督を忘れる前と同じような行動を取ったりしては首を傾げていた。なにかしらのキッカケがあれば思い出せるんだろうけど、私たちにはそのキッカケを与えることが出来ない。何故なら、提督の事を覚えている私たちでもそんな人は存在しなかったって云われると本当にそんな人は居なかったんだって信じてしまいそうになるからだ。
だけど、私たちは忘れない。他の人たちが忘れ去ってしまったとしても、私たちは提督と過ごした日々を、提督の事を何があっても忘れたりしません。
いつまでも貴方が帰ってくるのをまち続けてます。だから、はやく帰ってきてください。………提督。
それから月日が流れていった。
そんなある日、私たち宛に1通の手紙が届いた。
手紙には島の経度や緯度が記してある地図が1枚と島への招待状が入っていた。それだけなら、誰も気にも止めなかった。………そう、それだけなら。送り主に提督の名前がなければ、私たちは……ううん、過去を悔やんでいるだけでは何も始まらない。いまは提督を見つけることを、生きてこの島から出ることを考えなければいけないのだから。
手紙を見た私たちは地図に記されている場所に向かうことにした。
そして、島に着いた私たちを提督が持っていた狐面と似ているお面で顔を隠している二人組が出迎えた。
「皆さま初めまして。私は皆さまの案内役を仰せつかっています、ホークと言います。そして、もう一人は」
「リーフレットだ」
自己紹介をしてきた案内役の二人に何故だか懐かしさを感じて、私は何処かで会ったことがないかと聞いてみた。
「……皆さまと会ったのは今日が初めてですよ」
……どうやら私の思い違いのようだ。だとしたら、このどことなく感じるこの懐かしさはいったい何なんだろうか?
「私が案内を出来るのは此処までです」
考え事をしている間に着いたようだ。目の前には固く閉ざされた門が在った。
「ここから先には、皆さまが自分の意思で道を選び進んで貰うことになります」
閉ざされていた門が少しずつではあるが
「自分で選んだ道を最後まで後悔せずに進むことが出来れば」
二人の言葉に連動するかのように開き始めていた。
「「探し求めている答えが見つかるでしょう/だろう」」
そして、門が開ききった。それを見た案内役の二人は更に言葉を紡ぎ出した。
「私では狐の力になれず、傍に居ることしか出来なかった。だが」
「皆ならこの先に待ち受ける試練を乗り越えて、お兄ちゃんの力になれると信じてる」
ここまで聞いて、私たちはこの二人が誰なのかを思い出した。何故、私は、私たちは、仲間である二人の事も忘れていたんだろう。
「「だから」」
「「どんな絶望が降りかかろうと、最後まで諦めずに、希望を捨てずに歩き続ければ」」
「「未来をその手に掴むことが出来るのだから」」
二人には聞きたいことが山程あった。だけど、此方が何か質問をする前に二人はそう言い残して私たちの前から姿を消した。
いつまでも立ち止まっているわけにもいかず、私たちは門を潜る事にした。
門を潜り道なりに進んでたら、後ろから音がしたため振り返ると頭と下半身のない裸の上半身が手の力だけで身体を浮かせながら凄い速度で追いかけてきていた。……うん、意味がわかんない。
待って、ちょっと待って、ホント待って。
何で手の力だけであんなに速度が出るの? どうやって此方の位置を認識して追いかけてるの?! 頭ないよね!
え、なに? 見た目がだいぶ違うけど追いかけてきてるアレの名前はテケテケ? アレの名前がわかった所でどうしろと? 角を曲がれば逃げきれるから、そこの角を全力で曲がれ?
アドバイスは有り難いのだけど、あなた誰?
「そんな細かいことは気にしない気にしない♪
それよりも、早く走らないと追い付かれちゃうよ」
後ろを見たら後数歩の距離まで近づかれていたのを確認して、慌てながら云われた通りに角を曲がった。そしたら、テケテケは勢いよく壁に激突して動かなくなった。
お礼のついでに然り気無くいつの間にかいた子に名前とこの島についてと、提督について何か知らないか聞こうと思っていたら、その子と一緒に島に来た子達までもが居なかった。……どうやらぐれたみたいだけど、なんだろう、ここまでテンプレ見たいな展開が続いてるし次は言うまでもなく。
「グルルル」
うん知ってた。新手が来ることくらい。例え、目と目が合っても恋は始まらずに、生きるか死ぬかを賭けた逃走劇が始まると。
その後、どうにか逃げ切り古びた西洋風の屋敷の前に到着した。屋敷を見て一番最初に頭の中に「何がなんでも中に入りたくない」と浮かんだ私は悪くないと信じたい。
これって絶対に、扉を開けて中に入ると扉が勝手に閉まって閉じ込められて、屋敷の謎を解きながら怪物に追いかけ回されるんでしょ、と考えながらも、扉の鍵が開いているかの確認だけはキッチリしていた。
確認結果、キチンと戸締まりがされていた。防犯対策はしっかりとしているようだ。
……テンプレ展開何処行った!?
一人ツッコミをしていたら、扉が盛大に爆発した。扉が吹き飛んでいった入口を見ながら「そう言えば、提督もよく扉を爆破してたなー」と軽く現実逃避をしていた。
屋敷の中を探索していたら、今度はパンツ一丁の下半身に追いかけられた。……ここまで来たらもう、突っ込まないから。誰が何と言おうと突っ込まないから。
下半身に追いかけ回されながら屋敷を隈無く調べた。調べてわかったのは、1つだけ扉が違う部屋があると言うことだった。
たぶんだけど、此処に提督がいる。そう思いながら扉を開けた。
と言う夢を見たと提督に話したら、
「何そのツッコミどころ満載の夢。しかも、何で俺消えてんだよ? そして、他の奴らはどこ行ったし」
夢の内容に対して突っ込まれた。解せぬ。
「それで、扉を開けた先には何があったんだよ?」
扉を開けた所で目が覚めたからわからないと答えた。
「……まぁいいや。それよりも、さっさと今日の執務を終わらせますか」
どうやら夢に対しての興味を無くしたみたいだ。そんな提督の対応に少し落ち込みながらも仕事を開始した。
「………」
そしたら何故か、無言で頭を撫で回された。これで元気になると思われている見たいだけど、仕方ないから今日の所は赦してあげることにした。
ラバウル基地は今日も平和です。
と言う訳で、今回は夢オチ言う話でした。