明久の召喚獣に憑依してしまった件について 作:吉井明久(SD)
ついでに言いますが、この小説は、作者の習作といったような意味合いで書いています。それでも、精一杯頑張らせていただきます。
屋上には、明久と姫路は勿論のこと、美波や雄二、ムッツリーニが揃っており、彼らは何やら雑談をしながら、食事を始める支度をしていた。
「よ」と俺は言う。「明久、数学のテストどうだった?」
「あ、僕(SD)」と明久は言う。「大変だったよ……近所のお兄さんを紹介することで、何とか難を逃れたけどさ」
「そうかい。あ、初対面のやつもいるみたいだから、よろしくな! 俺はそこにいる明久の
「はい! よろしくお願いします」と姫路は言う。「私は──」
「ああ」と俺は姫路の言葉を遮り、言う。「知っているよ。姫路瑞希だろう? テストの時は残念だったな。Aクラスだと思っていたんだが。……ま、とりあえず、礼を言う必要があるな」
「お礼ですか?」
「そうそう。なんでも、明久に弁当を作ってくれたんだろう? そこにある重箱を見ればわかるさ。一人で食べきれる量じゃないしな」
と俺は姫路の横に置かれている重箱を見やる。その中には、さぞおいしい女子の料理がぎっしりと詰まっているのだろう。そして、それを食べることができる明久は、幸せ者だ。読者諸君も、そう思うに違いないだろう?
「いえ」と姫路は顔を少しばかり赤くしながら言う。「これぐらい、お礼を言うことではありませんよ」
「そうかい? あ、俺は話すだけにしておこうかな。さっきまで検査があってな。食事をするような気分じゃ無いんだ」
「そうなのか?」と雄二は言う。「検査とか、何かあったのか?」
「いや、大したことじゃないな。ババァが何かを企んでいるだけのようだし」
「それは」と秀吉は言う。「大した事なのではないじゃろうか? ここの理事長は、何でも召喚システムを作った天才じゃし」
「そうかしら?」と美波は言う。「ウチはその理事長とやらの事をよく知らないし、なんとも言えないわね」
「……同じく」とムッツリーニは言う。
「ま、俺もよくわからないから、どうでもいいか。それよりも、皆昼飯を食べようぜ。俺のせいで少し昼休みの時間が短くなってしまったし。さ、昼飯だ!」
「そうですね。あ、シートがあるんですよ」と姫路は言いながら、カバンからビニールシートを取り出し、それを敷いていく。彼女の女子力とでも言うべきその行動に、明久たちは感心し、履いていた上履きを脱ぎ、シートの上に足を投げ出す。
「あまり自信はないんですけれど」と姫路は言いながら、重箱の蓋を開ける。
重箱の中には、様々なおかずが詰められており、彼女の努力と気合の程が理解できた。
「わぁ!」と明久は言う。「おいしそうだね! もう我慢できないよ! 食べていい?」
「ええ、どうぞ」
「ありがとう! 姫路さん!」
と明久は言いながら、おかずを次々と箸でつかみ、口の中に素早く放り投げていき、
「どれもこれも美味しいよ!」
と言う。それに姫路は、頬を赤らめ、少しだけ嬉しそうな様子を見せる。しかし、次の瞬間、
「グハッ!」
と明久は、咽ながらも、口の中にあるものは外に出さず、一瞬で飲み込み、白目をむいて、口からは泡を出し、鼻からは鼻水を出し、びくびくと全身を痙攣させ、倒れる。
「……予想通り!」
と俺はこの場にいる皆に聞こえないほどの小さな声で呟く。
日々俺が明久の面倒を、この、不便な小さな体で見てやっているというのに、当の明久はゲームやムッツリーニから買い取った本や写真を眺めているのだから、偶にはこういった様に少し遊んでも良いだろう。
「そら!」と俺は明久の頭を軽く小突いて言う。「明久、どうだ? 姫路の料理の感想は?」
「うん!」と明久はがばりと起き上がって言う。「とっても美味しいよ!」
しかし、彼の表情というのは何処か遠くを眺めているような、どこも見えていないような、そんな虚ろな表情であり、口はまるで腹話術の人形のように、口の形を変えずにただ閉じ開きするだけだった。というのも、気を失った明久の体を、俺が背後からこっそりと支え、そして、明久と同じ声である俺が、明久の頭を軽く揺さぶり、口を動かしながら、上記の事を話しているのであった。
細くするのならば、その様子を眺めていた雄二と秀吉、そしてムッツリーニは、恐ろしいものを見た様に、体を小さく震わせていた。美波はこうした俺の様子が見えないので、首を傾げるだけであった。
「そうですか?」と姫路は言う。「それは良かったです! でも、残りがデザートしかないですね……皆さん、デザートだけで良ければ食べますか?」
と彼女はタッパーを開け、その中にある、カットしたフルーツを、この場にいる皆に見せる。
男子ら(明久除く)は、姫路と美波にその声と、口の動きを悟られない様に、円形に集まり、口を手のひらで隠し、声を潜め、各々の意見を述べる。その結果、秀吉が始めに姫路のデザートわ食べると言う結果になった。というのも、秀吉曰く彼の胃袋は鉄その物との事である。しかし、原作を知っている読者諸君ならば、この先の展開は容易に予想出来るだろう。
「あべし!」
と秀吉は、先ほどの明久と同じ様に倒れる。再び男子らは先ほどのように集まり、相談をする。その結果、美波をこの場から遠ざけ、そして残りで姫路のデザートを食することに決まった。
上記の通り、美波をこの場から遠ざける事に成功し、残った雄二とムッツリーニが彼女のデザートに挑戦する。
「ダイナモ!」
「パンティ!」
しかし、上記の叫び声から理解できる通り、2人の勇者は無残にも散っていった。こうして、この屋上には四人の男の、四人の勇者の死体が転がる事になった。
そして、ただ一人残った俺は、
「予想通りだな!」とこの場にいる皆に聞こえないぐらいの小さな声で呟く。
「あ」と姫路は言う。「まだ一つ残っていますね。SD君もどうでしょうか? はい、あーん」
と姫路は、フォークでタッパーの中にあるデザート刺して、俺の口の前で振る。俺にとって、それはまるでヒュドラなどが持つ体液や血にも劣らないほどの猛毒にも見えた。
今すぐきびすを返してこの場から逃げ出したい気持ちでいっぱいだが、それを感じ取った雄二が、まさに最後の意識、最後の力をあらん限り振り絞り、俺の足を掴み、
「させるかよ……!」
と言いながら、俺を、その幽霊の如き青白い顔できっと睨んでいた。そして、雄二の手を振り払って逃げても、残った姫路を戸惑わせるないし悲しませるだけだろう。こうした理由から、俺がこの場から逃げ去るという選択を削除させていた。
どうするべきか、俺の脳、俺の思考はまさに高速なものとなり、ありとあらゆる考えが、浮かび上がっては沈んでいく。
「せっかくだが」と俺は言う。「召喚獣であるこの身が食事をとっても、栄養にもクソにもならない、つまりは栄養摂取ではなく、俺にとって食事というのはただの娯楽なんだ。つまり、俺が食べると、栄養摂取もされずに、どこかへと消えるだけでな。それはゴミ箱の中に放り捨てるのと一緒だ。それは勿体無いだろう? そんな事をするよりも、そこで昼寝をしている明久に食べさせたほうがいいという事だ。口に無理矢理ねじ込みでもすれば、あいつは寝ながら『美味しい美味しい』とでも言いながら、夢の中でも、現実でも同時に、姫路の料理を味わうという至福を行う事が出来るんだ」
「いえ」と姫路は言う。「勿体無いなんてとんでもないです。さ、どうぞ」
俺の逃げ場は針の穴程のものすら無く、とうとう完全に消え去り、意を決した俺は口を開け、フォークに刺された物質を口の中に放り込み、一気に飲み込む。その瞬間、俺の意識、俺の魂は、翼を持ったかのように、高速で、何処か遠くへと飛んでいった。つまりは俺の思考停止し、視界は真っ暗に染まっていった。そんな最中、俺はまさに最後の最後の力をあらん限り振り絞り、
「美味かったぜ」と言う。「美味かったぜ。で、俺たち男子はなんだか眠くなってきたから、このままここで昼寝する事にしたよ。ちょうどお前が敷いてくれたシートもある事だしな。ああ、シートについては後で畳んで返そう。お前は美波と一緒に教室なり図書室なり行って、残りの時間を過ごしてくれ。それじゃあ、お休みなさい! シエスタ!」
それを最後に、俺の意識はとうとう完全に消え去り、俺の体仰向けにばたりと倒れた。
「……あっ?」と俺はがばりと身を起こす。周囲を見回す。シートの上には、相変わらず四人の男が倒れて──彼らの名誉の為にこういうべきだろうか。四人の男が昼寝をしていた。しかし、彼らの内3人、つまりは秀吉と雄二とムッツリーニの3人は体をビクリと震わせたと思うと、がばりと身を起こし、俺の姿を認め、口を揃え、次のような事を言った。
「死ぬかと思った……」
その言葉に俺は大きく頷き、同意する。
時計を見ると、ちょうど昼休みが終わる5分前だった。しかし、明久が目を覚ますことはなく、未だに青い顔をして寝ていた。俺は仕方が無く、明久の腹を軽く踏み潰す。すると、明久は激しく空気を吐き出し、目を覚ます。そして、皆で後片付けをし、急いで授業が始まる前に、各々の教室へと移動していった。
そういったことがあり、明久の意識はその日、ずっとどこか朦朧とする時があった様だが、次の日、つまり今日のBクラスとの、戦争では何の問題もなく戦ったそうだ。
そして、俺たちAクラスは何度か繰り返す事によって、習慣となった放課後のティータイムを、やはりAクラスで行っていた。
「ああ……」と俺は、ポテトの袋を持ちながら言う。「ポテトが美味い。美味いのは幸せだ! 良いことだ!」
「何があったの?」と工藤は呆れたように言う。「ポテトを食べながら涙を流すなんて……」
「いや、昨日の出来事を思い出してな。……それよりも、明久達だが、今日Bクラスに勝ったらしいな」
と俺が言うと、その場にいるAクラスの面々は、ぴりぴりした気配をその体から噴出させる。
「そうね」と優子は言う。「まさかBクラスを破るとは思っていなかったわ」
「……何でも」と翔子は言う。「壁を壊して、窓から飛び込んで戦ったらしい」
「そうだな。壁を壊したのは、明久だろう。観察処分者であるあいつの召喚獣ならば、壁を壊すぐらいは容易いだろう。その代わり、壁を殴ったフィードバックによって、手を激しく痛めつけた様だが。ま、そんな事はどうでもいいだろう」
「……そう」と翔子は言う。「どうでもいい。重要なのは、雄二との結婚。だけれど、雄二は何かしらの策を講じて来ると思う。つまり、正面から私達と戦う事は無い……」
「しっかし」と愛子は言う。「代表って、あの坂本の事が好きだったんだね。初めて聞いたときは驚いたよ。男に興味が無いと思っていたんだけれど」
「……約束、したから」
「取り敢えず、その事は置いておこうか……優子、くれぐれも家で秀吉と喧嘩……戦う……お仕置きするなよ?」
と俺は言う。
「何でよ?」と優子は言う。「ああ、もしかしてCクラスの宣戦布告の事を言っているのかしら?大丈夫よ」
「そうか。じゃ、これ以上話す事も無いだろうし、解散とするか」
その言葉に皆賛成し、各々バラバラに教室から出て行く。そして最後に残った俺は、今頃先生(主に鉄人)に、壁を壊した事によってたっぷりと
「なぁ」と俺は言う。「明久、今日はたっぷりと、俺自ら、勉強を教えてやろうか?」
「その必要は無いと思うよ?」と愛子は言う。突然聞こえた彼女の声に、俺は振り返る。彼女は笑って言う。「だって、彼、さっき指導室の前を偶然通りかかったんだけれど、先生の説教はとっくに終わって、坂本クンと一緒に、一生懸命勉強していたよ。『アイツには負けられない』とか呟いていたけれど、明久クンの言う『アイツ』って、一体誰の事なんだろうね?」
「さあな……? ま、俺も少し、テストの点数が心許なかったから、今から補充して来るわ。じゃあな。気を付けて帰れよ」
「ありがと。じゃあね!」
と愛子は再び教室を出て行く。そして本当に、確実に一人になった俺は言う。
「本気で来るなら、俺も本気で行こうか! なあ、明久……!」
──ああ、楽しみだ。例え、あいうの本気というのが、俺にとって塵芥のような物に過ぎなかったとしても。
問 姫路瑞希の料理の感想について述べよ。
坂本雄二の答え
「あえて述べないでおこう。それが一番だ。姫路にとっても、俺たちにとっても」
教師のコメント
「一体どうしたというのですか? それでは回答にはなりません」
吉井明久(SD)の答え
「少し残っている。食らえ!」
教師のコメント
「……ゴフッ!?」
吉井明久の答え
「……姫路さんの料理? 何それ? 食べたい!」
教師のコメント
「吉井君……いえ、何も言わないでおきましょう。坂本君も申し訳ありません」
次回の更新は、何事もなければ今週の日曜日に行います。
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