Fate/Jam uncle   作:飯妃旅立

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最終更新日5月14日だってよ……ヒェッ


第十話 『This is the only pans.』

 

 冬木市にある都市伝説の1つ、移動するキッチンカーの噂。

 飛びきり美味いパンを出す、というモノ以外に、もう1つ。

 

 曰く、そこではパンが働いていると――。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、起きたんですね。おはようございます」

「あぇ? ……あぁ、おはよう」

 

 気の抜けた返事。

 龍之介はキッチンカーの中で寝泊まりをしている。 マイスターと2人きりで。

 なので龍之介が起きる時にいるのは当たり前だがマイスターだけで、マイスターは眠る必要が無いので寡黙にパン生地の仕込みや味の研究をしている――のだが。

 

「……あぁ、今日はあの人が来る日かぁ」

 

 首をゴキゴキと鳴らしながらゆっくり起き上がる。

 週3から週2。 あの人――豹柄のスーツの金髪の吾人が来る日の朝は、こうして龍之介とマイスター以外の存在が、このキッチンカーの中にいる。

 

「……」

 

 あくせくとせわしなく動くその人影。

 ヒトカゲ――の、ような何か。

 

 肩幅より大きい頭は、いつみても違和感しか覚えない。

 

 

 マイスターの元ではたらく、自立するパン。

 カレーパンと食パンの化身。

 

 龍之介はもう慣れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんだ、アレは」

 

 冬木市の郊外にある、アインツベルンの城。

 深く鬱蒼とした森に囲まれたココへ、一台の珍妙不可思議な車が進入した。

 結界が張られているはずの森へ、何の躊躇も無く。

 

 切嗣はソレをスコープ越しに確認すると、その付近にある監視カメラの映像を起こした。

 褐色の車体が映る。 見間違いやなんらかの魔術ではなく、本当にソレがそこにいる。

 

 アレが何かはわからない。

 わからないが、聖杯戦争の開始された現状でこの城に無理矢理乗り込んでくる存在など、敵マスター以外はいないだろう。

 車を使う、という事はライダーか。しかしライダーは先日の倉庫街で名乗りをあげた征服王イスカンダルだったはず。

 

 切嗣の知識には同じクラスが召喚される、というような事態は存在していないが、自身が知らないから無いと断定するのは早計だ。

 

「アイリ」

 

「えぇ……わかってるわ」

 

 先日、自身のサーヴァントであるセイバーとドライブをしてきたという頭を抱えざるを得ない思い出を楽しそうに語っていた妻に声をかける。その時にカレーパンの怪物を見たと言っていたが、恐らくソレはキャスターの使い魔かキャスター本人だろう。

 カレーを作る魔術の英雄など聞いたことがないのだが。

 

「セイバー、お願い」

 

「はい」

 

 ヒトの形をした兵器を件の珍妙な車へ向かわせる。

 アレがマスターであれサーヴァントであれ、セイバーに相手取れぬものでもないだろう。

 隙を見せ、マスターが出てきたら自身が撃ち殺せばいい。

 

 切嗣は息をひそめ、静かに車の行方を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「止まれ」

 

 セイバーはアインツベルンの森を進む、その珍妙な車の前に降り立った。

 褐色の楕円体。先頭には顔の様な物が貼り付いていて、その顔はどこか――特に目が――先日のカレーの化け物を連想させた。

 車はセイバーの10mほど先で止まる。

 

 油断することなくセイバーは不可視の剣を構え、相手の反応を待った。

 

 しばらくすると車の天井部分が開き、とても見覚えのある茶色が顔を出したではないか。

 

「よォ! また会ったな!」

 

「……あなたでしたか。ここへは、何用ですか」

 

 茶色――カレーパンマンは、気さくにもセイバーへと声をかけた。

 食事を馳走して貰ったとはいえ、敵同士。何よりここはセイバー陣営のホームだ。

 そこに乗り込んできたとあって、見過ごすわけにはいかない。

 

 そんなセイバーの問いに答えたのはカレーパンマンではなく、

 

「ちょ、ちょっと……ぷはっ! ひゃ~、人数多いとやっぱ超HEAT! って、そんなこと言ってる場合じゃなかった。えーっと……そうそう!」

 

 カレーパンマンの大きな頭を押しのけて出てきた、赤毛の青年。

 人懐っこい笑みを浮かべて、セイバーに笑いかける。

 

「超COOLなパンを、売りに来たぜ!」

 

 セイバーの鼻孔をくすぐる、芳醇な香りと共に。

 青年はそんなことをのたまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何をしている……ッ!」

 

 切嗣は苛立っていた。

 当たり前だ。侵入車の撃破のために向かわせたセイバーが、その侵入車を徐行させながら引き連れて来たのだから。

 さらにはソレを見た妻アイリスフィールも、何かに気付いたような顔でセイバーを迎えに行ってしまった。

 

 自分だけはしっかりしなくては。

 切嗣はスコープを覗き続ける。また、無線を使って当車両の後方から舞弥を向かわせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待ってくれよ~……今準備するからさ!」

 

「あ、はい……」

 

 そう言って何やらごそごそし始める赤毛の青年。

 その余りにも人好きの良い笑みは、害意も悪意もかけらも感じ取れない。

 ただ純粋に、美味しいパンを食べて欲しいと言う意思だけが伝わってきた。

 

「セイバー!」

 

「あ、アイリスフィール」

 

「さっきの、カレーパンマンさん……よね?」

 

「はい。なんでも、パンを売りに来たとかで……」

 

「パンを?」

 

 自身の表のマスターであるアイリスフィールもあの夜同席していた。

 カレーパンマンと名乗る男(?)と食べた、心から美味しいと言えるカレー。

 話を聞けば、カレーその物よりもカレーパンの方を売りたいらしい。

 

「はい、お待たせ! パン屋『APMG』! 世界一COOLなパンを提供する店、ここにも開店だぜ!」

 

「世界一COOLなパン?」

 

 赤毛の高いテンションに着いていけないながらも、2人は既にその色香にまいっていた。

 開いた楕円体から漂う腹の空く匂い。口内に唾液が溜まっては飲み込むを繰り返す。

 

「そ。なんでも言ってくれ! ウチの旦那が、なんだって作るからさ!」

 

「じゃあ……ブロートヒェン1つ」

 

 アイリスフィールが頼んだのは、彼女の故郷ドイツで一般的なパン。これは彼女がホムンクルスだとかそういう話は関係なく、単純に真っ先に思いついたパンがそれであったからなお発言だ。

 

「……あー……旦那! ぶろーとへん1つ!」

 

 恐らく赤毛の青年の知識に無かったのだろう、発音の違うその注文に、しかし褐色の楕円体は熱を帯びる事で応えた。

 その余りにも劇的な変わりように、咄嗟にセイバーがアイリスフィールの前に出る。

 

 さらに、ヒュ、びゅっ、と。

 

 いつの間にか顔を出していたカレーパンマンが、近くの樹にナニカを吐いた。

 暗いこの森では真っ黒にしか見えないその液状のナニカは、べちゃっという音を立てて樹にはりつく。

 思わずそちらを向いたセイバーの眼は、黒い液体によってじゅぐじゅぐに溶かされた銃弾を捉えていた。

 

「ブッ、ヒュー、危ないねぇ。俺がいてよかったなぁ?」

 

 黒い液体はかなりの高温であるようだ。

 矢張り危険な存在であるとセイバーは不可視の剣の柄を握り直すと同時、恐らく銃弾を放った本人だろう自身のマスターにも一瞬怒りを見せた。

 

「ん? なんかあったか?」

 

 なお、もしカレーパンマンが居なければ頭を吹っ飛ばされていただろう赤毛の青年は呆けた顔でカレーパンマンを見ていた。 どうやら、何も気付いていないらしい。

 ライフルの銃弾にも反応し、的確に迎撃できる程の動体視力と反射神経。 ただの人間でないことは――疑う余地も無いくらい――わかっていたが、やはり英霊に準ずる存在を引き連れているにも拘らず、そのマスターがこうも無頓着とはどういうことなのか。

 それとも、ただの人間を抱きいれているだけなのか。

 

 セイバーの視界の隅、きらりと何かが光り――、

 

「――……まったく、君はいつもそうだ。私のように、よく周りを見渡したほうがいいよ」

 

「うるせぇな! お前こそ、いつもいつも出てくるのが遅いじゃねぇか!」

 

 カレーパンマンがラグビーボールなら、そいつのシルエットはTシャツだろうか。

 す、と出てきたその存在の左手(?)には、一発の銃弾が掴まれていた。

 

 赤字でSと書かれた、暗い森でも輝く白い服。

 透き通るような自信にあふれた声。

 そいつは、セイバーとアイリスフィールへと振り向いてこう言った。

 

「こんばんは、お嬢さん方。しょくぱんまんが来ましたよ」

 

 そいつは、食パンだった。

 













今更ですけど過去編の時系列は結構飛ばし飛ばしです。
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