「俺達は夢の中で!」
「「入れ替わってるぅ~!?」」
朝起きたら叢雲だった。
さぁどうする、どうしたい。
夢だろうし好き勝手しちゃおうぜ!
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君の名は。クロスオーバーではありません。そもそも観ていません。
「んんぅ……」
カーテンの隙間から差す朝の光が顔にかかり無理矢理起床を促してくる。
何だよ畜生、昨日も鳳翔の所で遅くまで呑んでたんだ、もう少し寝かせろよ。
大体物置を改装した俺の部屋に窓はないはずだろ。酔って自室以外で寝ちまったのだろうか。
瞼の裏を焼き続ける朝日についに観念して目を開く。知らない天井。
ふあぁ……。
欠伸が漏れる。もぞもぞと布団から這い出てベッドの縁に腰掛けた。
やはり、自室ではない。俺の安物でマットの薄い寝床はこんなファンシーなピンク色に染まっていない。
寝起きでぼんやりした頭のまま部屋を見渡す。見覚えがあった。
狭いながらも整頓され、各所にぬいぐるみだのメルヘンな置物だのが置かれている。机の上には隠し撮りらしい俺の写真が入った写真立て。
偶然この秘書艦用の個室を訪れた際に発見し、恥ずかしさと嬉しさを隠す為に散々からかってぶん殴られた。首が愉快な方向に曲がるくらい。
「叢雲の部屋か……」
俺の呟きに応える者はいない。
――あいつどこいったんだ?
この狭い部屋に隠れる場所などない。いや隠れる必要もないはずだ。
何故秘書艦である叢雲の部屋で寝ていたのかさっぱり覚えていないが。
深酒した日の記憶が抜け落ちるのはよくあることだ。昨晩もそろそろという鳳翔の言葉を三度押し切ったのまでは覚えている。
念のため、俺と叢雲は未だそういう関係ではない。好意を持たれていることは理解しているが上司と部下の関係だ、周囲の艦娘のこともある。
独身である身だから誰に言い訳する必要があるでもないが、この部屋から出て行く所を見られたら厄介なことになるだろう。
さっさと退散しよう。冷えた水が飲みたいしな。
ベッドから立ち上がるとまずは室外を出歩いて問題ない格好であるか確認する。俺の寝間着は基本的にシャネルの五番。嘘だ。全裸である。
モーニングコールを務める叢雲には耳にタコが出来るくらいやめろと言われているが全裸の開放感は捨てられない。決して露出狂の気があるわけではない。毎度顔を赤らめてくれる叢雲可愛い。決して露出狂の気があるわけではない。
「あ?」
着ている。いやそれ自体はおかしくない。見下ろした視線、その先には俺を包むピンクのパジャマ上下。
あれ、鍛え上げた俺のマッスルボディどこに置いてきたっけ。
母さーん、どこにしまっちゃったのー?
ぺたぺたと身体を触って確認する。やわらかーい。
夢だ、夢。
矢鱈と生々しく鮮明な感覚だがこれは夢だ。机の前に立つ。写真立ての中のイケメン、そしてその隣にある小さな鏡。写った顔を確認する。
「ははは、鏡の中にいるとはお茶目だな、叢雲」
叢雲の声で鏡の中の叢雲に話しかける。そんな所に入った上に、同時に口を動かすだなんて流石俺の秘書艦だなぁ。
現実逃避。俺は逃げ足には定評があるのだ。酒保から酒をギンバイして明石を何度も撒いた健脚は伊達じゃない。
どういう冗談だ。俺はトラックに轢かれてもいないし神様に謝罪もされてねーぞ。錯乱している。
「ふむ」
やはり、夢だ。艦娘というファンタジー染みた存在を指揮しながらも現実主義の俺にはそれしか可能性を考えられない。
そして夢であるにも関わらず普段のそれと違い自由が利くようだ、明晰夢という奴だろうか。初体験だ。
――ならば、健全な男児がやることは一つ!
◇
「……ふう」
堪能した。女の子の身体ってスゲー!
流石に奥まで確かめるのは夢の中とはいえ気が引けたのでやめておいたが、いやー捗る捗る。最中に写真立てに目をやった瞬間なんて凄かった。自分をオカズにしてしまったのは少し引くがあの感覚は忘れられそうにない。
べとべとするしシャワーでも浴びたいが、夢が覚めちゃいそうだしなぁ。せっかくだしもう少しこの夢を愉しみたい。
ロッカーを開けると叢雲の制服、そして下着があった。くんくん、やべぇめっちゃいい匂いする。
ほほーう、こんなの着けてるのか。いや俺の夢だから実際とは違うのだろうが。あいつ中破してもノーブラノーパン説が出る程ガード固いからな。吹雪型なら一番艦を見習って欲しい。ワ○メちゃんレベルだぞあいつ。
ごそごそと下着の入った棚の奥まで漁っていく。うわ、何これ紐? 隠すように奥に鎮座する黒の紐パン。所謂、勝負下着という奴だろうか。君に決めた!
「……こいつぁやべェ」
超食い込む。慣れない衣服を四苦八苦しながら身に纏っては見たが食い込みすぎてまたヘンな気分になりそうだ。だがそれがいい。
姿見がないのが残念だな。黒タイツを穿いているとはいえ下半身がスースーする。何か目覚めてしまいそうだ。
後、耳に入る俺の声が自動的に叢雲のそれに変換される感覚が楽しい。よし。
「べ、別にアンタなんか好きじゃないんだからねっ」
よし死のう。自作自演のツンデレ発言は虚無の何たるかを教えてくれた。悲しすぎる。
虚無の絶望を感じていると部屋の外、廊下から誰かが駆けて来る音が近づいてくる。
早朝から騒々しい音を響かせてきた主はこの部屋の扉の前で止まり。
「やっぱりいた!」
乱暴に開かれた扉。驚きと共に視線を向けるとそこには俺の姿。声の調子がオカマっぽくて気持ち悪い。
向こうも同じく不慣れな為か、白い軍服が少し乱れている。いかんぞ、士官は衣服にも気を配らねば。
「よう叢雲。黒の紐パンはちょっと引くわ」
「死ね!」
何時もなら直後に鉄拳が飛んでくるはずなのだが、自分の身体だからか躊躇しているようだ。男女差別反対。
その様子、反応から中身はやはり叢雲か。小説や映画でよくある設定だ。古き良きとか言うし。
「……これってもしかして」
「俺達は夢の中で!」
「「入れ替わってるぅ~!?」」
がっしり握手する。完璧だ、長年の苦労を共にした初期艦であり秘書艦、完璧に合わせてくれた。こいつも結構ミーハーだからな、やらずにはいられまい。
俺は宣伝でしか知らんが。結構乙女趣味なこいつは観に行ったんだろうか。とりあえずお約束をこなしてから床に正座させられる。紐パンの件だ。俺は悪くない。
さて。
何をしたかの尋問を無事黙秘で乗り切った俺in叢雲だったが、未だ夢は覚めないらしい。
協議の結果、夢から覚める定番を行うため俺が自分の身体を痛めつけることとなったが現状に変化はなく。叢雲in俺の方が根を上げて今後の方針を話し合うことになった。艦娘パワーすげぇな、それなりに鍛えている俺の身体でもかなりのダメージだったようだ。普段叢雲は手加減はしていてくれていたらしい。感謝はしないが。
俺達が入れ替わった原因が不明な上に手がかりすらない以上、時間経過による変化を観察するという所で落ち着いた。
まぁ夢だし、その内覚めるだろ。楽観する。
叢雲in俺の方は山積みされている執務を片付けに行くようだ、真面目だなぁ。
何度も何度も変な真似しないように釘を刺す言葉を右から左へ流してまた一人になる。さーて何しよっかなー!
◇
朝食を終えて午前の演習。長い付き合いである叢雲のエミュは完璧だ。これまで言葉を交わした艦娘誰一人俺の正体に気づかなかった。
演習に参加するはずだった吹雪に無理矢理代わってもらい演習に参加することにした。
この辺の口八丁は得意分野だ。開始直前の交代だから叢雲に気づかれた時は既に遅いだろう。叢雲の方は後で少し悲しげに、艦娘の戦いを肌身に感じたかったんだとか格好いい感じで言えば騙されるだろ。実際は完全な興味本位だが。
艤装を身に纏って鎮守府の出撃口、海水を引き入れた洞窟を利用したそこに立つ。海の、上。
マジで浮かんでいる。年甲斐もなくその事実に心が躍る。どうやれば前に進むか分かる。背負う艦橋のような形状の艤装その左右から伸びるアーム、その先の砲まで手足の延長のように動く。
人間の形を取りながら人間の枠を超えた力。模擬戦用のペイント弾が装填されているにも関わらず万能感に背筋が震える。
ふふっ、いよいよ戦場ね!
いやー負けた負けた。
身内同士の演習で対したこの身体、叢雲と他の艦娘達の錬度に大きな差はなかったはずだ。しかし飛躍的に強化された身体に反応が、理解が追いつくはずもなく。
方向転換一つにも手こずる俺はいい的だっただろう。あんな撃たなくてもいいだろうに。
陸へ上がり、昼食のため食堂を目指す身体は痛みに絶叫し続けている。あだだだ。ペイント弾、そして艦娘の持つ鋼の耐久力とはいえ痛いものは痛い。
俺、いや叢雲の平素からは考えられない無様を晒したことに心配した遼艦達の言葉に心配ない、少し調子が悪かっただけと返しつつ歩いていく。
人望あるなぁ、流石鎮守府の最古参。普段知ることのない叢雲の新たな一面に感心する。
「ねぇ、提督が呼んでるみたいだよ……演習の結果、かなぁ?」
「あー、はいはい。行ってくるから先食べててー」
叢雲in俺がお怒りだ。不安そうに私に知らせてくれた磯波に大丈夫、と応えて執務室へ。
ちゃちゃっとやり込めて飯にしよう。その次は一番のお楽しみだ。男児ならばこの好機、やらざるを得ないことがある。
そう、風呂だ! 堂々と混浴だ! いやっほう!
◇
はい、ダメでした。皆様申し訳ございません。
自信あったんだけどなぁ、こう視線を地面に落として憂いた表情、心の底から反省していますといった感じ。
部下の苦しみを理解したいという理想的な上司。俺格好いいー! やってて自分でも惚れそうな完璧な演技のはずだったのだが。長年の付き合いである叢雲にはお見通しだったようだ。
今俺in叢雲は簀巻きにされて執務室の隅に捨て置かれている。おいおい、この絵面他の娘に見られたらやばいんじゃないの? 俺駆逐艦縛って観賞する変態だよ?
縄ではなく鋼のワイヤーで拘束する徹底っぷりだが猿轡が噛まされなかったのは幸いだ、俺にはやることがある。日本男児の辞書に諦めという文字はない。さっさと説得して風呂覗きに行こう。
「なー、叢雲ぉ、反省してるからもう解いてくれよー」
「ダメ。あれ程変な真似するなと言ったでしょうが」
叢雲in俺はせっせと書類を片付けている。
夢の中なんだから休めばいいのに。本当に真面目だ。だが、その真面目さに何時だって適当な俺は助けられ続けてきた。
ずっと、ずっとだ。俺が着任した初日から支え続けてくれた彼女。夢の中で入れ替わった相手が叢雲だったというのは偶然ではないだろう。
思えばこれまで長く苦労をかけてきた。その苦労に少しでも報いたいと、俺が艦娘に初めて与える指輪は未だ机の奥に取っておいたままだ。
これまで何度も渡そうと機会を伺ってきたが何時も恥ずかしさが勝ってしまっていた。とっくに叢雲の錬度は限界を向かえ、出撃することもなく秘書艦として支え続けてくれるというのに。
――指輪にも、既に叢雲の名を刻んでしまっている。
それはそうと今は風呂だ、行かねばならない戦場がある。駆逐艦達の規定の入浴時間が迫っているのだ。急がねば。
「ねぇーお願いー。一生一度のお願いだからー!」
「やめなさい、私の声と顔でそんな情けない真似しないでよ。後一生一度のお願い何度目だと思ってんのよ!」
ぐりぐりと床に額を押し付けて泣き落としする作戦に移る。
「ワイヤーが食い込んで痛いんだようー、いたいーいたいー」
「棒読みになってんわよアンタ……ったく」
チョロい。呆れたように叢雲in俺が俺に近づき、ワイヤーを緩めてくれる。よし、いける。
「あ~ばよ!」
緩んだ拘束から即座に脱出する。やられた、という顔の叢雲in俺を置き去りにして執務室から一気に駆け出る。
夢の中で夢を果たす。目指す先は楽園だ、待ってろよ天使達。廊下を駆けて楽園を、大浴場への道を走る。
俺達の戦いはこれからだ!
◇
おはようございます。夢は覚めました。
馴染んだ薄いベッド、陽の入らない暗い部屋。
おかえり俺のマッスルボディー、ただいま現実さよなら楽園。何故ここで夢は覚めたのか。
畜生、六躯のちっぱい拝みたかった。
「……起きてる?」
三度のノックの後、何時もの言葉。
毎朝のモーニングコールの文句は何時も一緒だ。返事がなければ扉を開けて顔を覗かせる、何時も通りの朝。
「あー……起きてるよ。起きちまったよ」
「まだ寝ぼけてるの? ほら、さっさと仕度する!」
上体を起こし日課をこなしてくれる秘書艦と顔を合わせる。何時も通り……ん? 何時もより顔が赤いような。
全裸である俺に視線を外して毎度顔を赤くするのはお約束の如しだが、妙にそわそわしている気がする。
「五分で来なきゃ朝餉は抜きよ! 今日は炊き込みご飯にしたんだからね!」
おおう、さっさと仕度しよう。好物である叢雲手製の炊き込みご飯でやる気を出せるローコストな俺。あいつが手料理を振舞ってくれる機会自体少ないしな。
しかも朝から用意してくれるなんて珍しい。好みの味付けだというのに滅多に作ってくれないのだ、叢雲は。
ま、いいか。人の夢と書いて儚い。何時までも天使達のいる楽園に後ろ髪を引かれるのは終わりにしよう。
さーて今日も一日適当に頑張りますか!
お前が深淵を覗く時、深淵もまたお前を覗いているのだ。