『IS The plunderer has a dream』 作:NORTH
視線に物理的破壊力があったら今頃穴だらけだろうな、
と余り意味の無いことを思いながら私はベッドフォンから流れる軽快なリズムに合わせて指を動かしながら薄目を開けて周囲を観察する
私を観察するように見る目が大量にそれと殺気さえ込められた視線が一つ
そして私の前には新品に見える大きなデスクに巨大なスクリーン
これが学校の教室の一室だと言うのだから驚きだ
そう、『俺』だった頃にはSFの世界か?と笑い話にしていたような光景
まあ、私が新しく目覚めた世界はISなんてトンでも兵器が存在するのだから、こんな光景も不思議ではないのだろう
だって信じられるか?人がパワードスーツを着ただけで理論上とは言え単身で宇宙に行けるんだぜ?
スーツだぞ?
リクルートスーツを着て世界中を仕事で飛び回る際に使われる存在もスーツだ
リクルートがパワードに変わっただけで、『俺』が恋い焦がれ憧れた空に行けるというのだからもはや笑うしかないだろう、
とは言っても恋い焦がれ憧れたのは『俺』であって私ではなく
『俺』だった頃なら間違い無くパワードスーツを着たがっただろうが、
今の私はリクルートスーツを着たがっていると言う変化があるにも関わらず、
何故か
そう何故かわからないが女性にしか使えないと言うパワードスーツの
インフィニット・ストラトス
通称IS
を私は人類史上初めて男性で動かせてしまったのだから人生は何が有るか解ったもんじゃない
まあ、蘇りなんて事を経験した私である以上不思議ではない
と、自分自身を強引に納得させなければやってられないのが、この状況である
大体席も悪いのだ、真ん中の最前列、
これが窓際だったらまだ救いがあると思うのだが出席番号で席が決められている以上私にはどうしようもないだろう
今後の席替えに期待するしかあるまい
もはや薄れ、ほぼ消えたと言っても過言ではない『俺』だった頃に本物の主人公がキツイとぼやいていたのをなんとなくではあるものの記憶しており、
その時、『俺』は羨ましいなと愚かにも思ってしまっていたが今なら言える、これはキツイと
少し話が変わるが私と言う人間は現在かなり危ない状態である
過去に本物の主人公が死んだことから命の危険はあると思っていたがISを動かせてしまったが為に最近では違う意味の危険が大量に発生してしまった
それは誘拐の危機に始まり、ハニートラップ、本当に最悪の場合は私の体細胞からクローンを無許可で製作等等
幸いと言っていいのか少し疑問だが私はある意味でISに関しては一般人とは異なった為
今現在私が通うこととなったこのIS 学園で三年間の安全が一先ずは保障されている
まあ姉によってと言う情けない状態だが
そして、このIS学園で学ぶことの出来る三年の間に生きる術と身を守る技能を身に付けなければモルモット一直線の非常に泣きたくなる現状にある訳で・・・・・・
苦節六年――――
様々な不思議体験をした、死んで目を覚ましたら別人になっていました
とか
その人物は二時間前に心肺停止の上医師の診断によって正式に死んだとされていた
とか
元の名前が分からない癖に知識が断片的かつ偏って残っている
とか
色々とあって家族になってくれた姉が実は世界最強でした等々、
様々な事を経験した
今までの人生で私が一つ学び声高に言えるのは、神様なんて悪戯好きな連中は嫌いだと言うことだろうか?
まあこうやって現実逃避をし続けるのは意味がないので前向きに行くとしようじゃないか
私は織斑 一夏
女性にしか使えないと言うパワードスーツ
インフィニットストラトスについて学ぶ
此処IS学園でたった一人の男
過去に例の無い特異点にして異端児
強いて言うなれば、羊の皮を被った狼の群の中に放り込まれた犬だろうか?
姉譲りの目付きの鋭さを考えれば私自身狼の様だが
と思考を巡らせるのが一段落着くとほぼ同時に、聴いていた一曲が終わった
すると教室のドアを開けて一人の少女が入って来た
背丈は低く、まるで私と同年代かそれ以下のように見える幼い容姿
少しサイズの大きいスーツにずれた黒縁の眼鏡
小さな子供が無理して大人びた服装をしている
と言うのが私の第一印象だった
「皆さん揃ってますねー?、それじゃあSHRを始めますよー?」
音楽プレイヤーが次の曲を再生するまでのタイムラグに信じられない言葉が聞こえて来たので思わず半眼だった眼を見開きながらイヤホンを外し件の大人びた服装をしている子供をまじまじと見てしまった
「ひっひうう・・・・え、えっと私は山田 真耶 (ヤマダマヤ)って言いますぅこのクラスの副担任ですよぅ・・・・」
どうやら半眼だった私がいきなり眼を見開いて睨み付ける様にして見てしまったので怯えさせてしまったらしい
数少ない私の友人達にも注意されていたのに全く忘れていた
いや、目付きの鋭さを失念するほど私もこの周り全てが女性と言う環境に緊張しているのかもしれない
と言うよりか緊張している
今だって何てこと無いような表情を浮かべている様に周りから見えているだろうが背中は冷や汗でびっしょりだし
なによりも、こうやって無駄に思考を廻らせている時点で私の混乱はかなりのものでは無いだろうか?
少し落ち着こう、これから三年間私はこの環境で頑張らなければならないのだから、今すぐにとは言わないまでも少しでいいから慣れていかねばなるまい
てか慣れろ、私
「そ、それでは皆さん、これから一年よろしくお願いしますね?」
と山田先生が言ったが、残念なことに今現在この教室は変な緊張感に包まれており誰一人とて返事をしなかった
理由は分かっている
私が原因でこんな教室の雰囲気になってしまっているのだろう
山田先生に申し訳なく感じたが、この環境で一人元気に『宜しくお願いします』等は口に出来なかった
ごめんなさい、山田先生、私は意気地無しです
「じゃ、じゃあ自己紹介をお願いしますね?えっと出席番号順に」
そう言って目元を光らせていた山田先生が嫌に印象的だった
本当になんでこんな目に私は合っているのだろう
そう、幾度と無く繰り返した自問自答をしながらクラスメイト(全部女子)の話に耳を傾けながら
あの日を思い出す
人と言うのは生涯に、その人の人生を決める大事な運命としか呼べない存在に出会うと言う
まあ、私にとってそれがISと言うスーツだったのかもしれない・・・・・納得は出来ないし、不本意であるが
二月の真ん中、私は体験としては二度目となる高校受験を受けるために家から試験会場まで電車で四駅という地味に遠い距離を移動していた
「寒いですね」
と愚痴を溢してしまうほどこの日は寒く、受験以外にも心配事のある私は思わず眉間に皺を寄せてしまう
すると必然的に眼も不機嫌そうに細まってしまうわけで
「・・・・・・」
無言で目を逸らし足早に立ち去る、運悪く私の眼を直で見てしまった中学生が一人・・・・・・
何ともいえない悲しみを胸に抱き、新しい高校生活で友人は出来るのだろうか?と言う一抹の不安を感じながら道を歩く
私は多少ではあるが私が乗り移ってしまった『織斑 一夏』について知識を持っていた
1、小説の主人公である
2、鈍感でモゲロとよく言われる
3、道に迷ってISを起動させてしまった
とこんな微妙な知識だが、何故こんな微妙な知識かと言うと俺だった頃の友人が大まかなあらすじを教えてくれ、面白いから読んでみろと言われたものの忙しくて結局読まずにいたと言う微妙な結末だからなのだが
私は原作の主人公とは違うものの肉体は全く同じである、その為もしかしたら原作の主人公のようにISが動かせてしまうかもしれないと私は注意深く、
そう注意深く『私立藍越学園受験会場』と記載されている案内板に従って受験会場へと歩いていった
そして、そのまますんなりと筆記試験を受け
「あれ?このまま私は普通に生活できるんじゃないのか?」
と取らぬ狸の皮算用をしながら次の面接会場へと徒歩で移動している際に突然、目の前に四角い無骨なコンテナが降ってきたのだ
そう、本当に行き成りだった
何の前触れも無く、一切の慈悲も無く
それは私から希望を奪っていった
振ってきたコンテナからコードが飛び出したと思ったら私の体に巻きつき
叫ぶ暇まもなく私はコンテナに飲み込まれた
周りから上がるのは悲鳴
それはそうだろう、行き成り空から降ってきたと思われるコンテナからコードが大量に飛び出したと思ったら
人間を一人包み込むかのように捕食しコンテナの中に抱え込んでしまったのだから
しかも、コンテナの中からはとてつもない音がしていたそうだから
相当怖かったと思う
実際、運悪く回りに居た男女合わせて5名の中学生は心に深い傷を追ったとかどうとか
そして、ポ――ンと言う電子的な音が私の希望を粉砕し
私の運命を変える劇的な日となった事を告げた
「・・・・くん・・・・織斑君!・・・・織斑一夏君!」
「え?はい!」
考え事に没頭した状態から一気に現実へと戻されたせいか思ったより大きめの声を出してしまった、不味いと思ったが案の定、山田先生は半泣きとなってこちらを見ている
「うえ・・・・ご、ごめんね?大きな声出しちゃって、怒ってるかな?怒ってるよね?ごめんね?で、でも今ね?自己紹介のね?順番が『あ』から始まって織斑君の『お』なんだ、だ、だからね、自己紹介してくれないかな?駄目かな?」
山田先生はぺこぺこと半泣きになりながら私に頭を下げていた
とてつもない罪悪感・・・・
「いっいえ、私も考え事に夢中に成りすぎた様で、すいませんでした山田先生・・・・えっと自己紹介でしたね?」
そう言って、席から立つ
ゆっくりと、堂々と胸を張り振り返る
そのまま逃げたくなった
だって今まで背中で受けていた視線を正面から食らうのだから、逃げたくも成ると思う
しかし、ここで失敗をすれば恐らく今後、灰色の高校生活を送ることと成る事は確定しているので無理やり自分を落ち着かせて声を出す
「織斑一夏です、見ての通り男なので皆様にご迷惑をお掛けすることが有るでしょうが仲良くしていただければ幸いです」
そして礼節的に一礼
私的にもうまくいったと思う、顔は引きつっていただろうが声は裏返っていないし
言っていることだって無難だ
うん、我ながら良くやった
とは終われなかった
向けられる視線は『もっとなんか喋ってよ』と言わんばかり
そして、困ったことに『それで終わりじゃないよね?』と言わんばかりの空気が出来てしまっていた
不味い、もう嫌だ、帰りたい
と、そこまで考えたところで私は強制的に思考を中断せざるおえない状況に合わされた
と言うか合った
バアン!と言う音で
「い!ったいですよ!姉さん!」
反射的につい言ってしまってから、失敗したとわかったがもう遅い
ズガン!と言うなんかもう、音が可笑しくなって私の脳天に出席簿が振り下ろされた
「織斑先生だ、あと何時までも突っ立てないでさっさと席に着け」
「はい・・・・」
もうすでに机に突っ伏しているがそこはスルーする、我が姉
黒いスーツにタイトスカート、すらりとした脚にモデルも真っ青なプロポーション
そして、私とも共通する狼を彷彿とさせる釣りあがった眼
身内びいき無しにいっても美人な姉『織斑 千冬(おりむら ちふゆ)』が居た
いや、まあIS学園で先生をやっていると聞かされてはいたし
世界大会の『モンド・グロッソ』で初代世界最強に成ったと言っていたからIS関係の仕事についているのも納得は出来るんだが、
一応、家族として暮らしている以上、色々と解ってしまうわけで、何というか姉さんが先生をやっているのに凄まじく違和感を感じてしまう
普段が普段だし
「あ、織斑先生、会議はもう終わったんですか?」
「ああ、山田君、クラスへの挨拶を押し付けて悪かったな」
「い、いえ、私、副担任ですから、これくらいしないと・・・・」
さっきまで泣きそうになっていたのは演技だったのかと疑いたくなるような早業で泣き止む山田先生
しかも、声には熱がこもり、視線もなんか危ない感じだ
そして、教卓に立つ担任、てか我が姉
「さて、諸君、私がこのクラスの担任の織斑 千冬だ
君たち新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。私の言うことは良く聴き、理解しろ。逆らってもいいが私の言うことは絶対だ、いいな?」
何という暴力発言、良いんですか?そんな過激な発言しちゃって・・・・
似合ってますけど、似合っていますけども!
しかしながら、私の困惑をさらに加速させる事態が発生
なぜなら、教室が黄色い歓声で包まれたからだ
「キャーーーー本物の千冬様よ!」
「ずっとファンでした!」
「私、お姉さまに憧れて此処に着たんです!」
「お姉さまの為なら死ねます!」
うん、最後の人、そんな気軽に死ぬとかいわないでおこうね?
キャイキャイと騒ぐ女子達を姉さんはうっとおしそうに見て、一言
「毎年、毎年よくもまあこれだけ馬鹿者が集まるな、感心する。それともなにか?私のクラスにだけ馬鹿者を集中させてるのか?」
と、ポーズではなく本気で鬱陶しそうにしている辺りが姉さんっぽいなと思いつつ、
もう少し愛想良くしたらどうですか?と思った私が甘かった
「きゃああああ!お姉さま!もっと叱って!罵って!」
「でも時には優しくして!」
「そしてつけあがらないように躾をして!」
最近の女の子は元気で良いですね?姉さん
と微妙にズレタ事を考えているとチャイムが鳴った
「さあ、SHRは終わりだ、自己紹介の続きがしたかったら休み時間にでもしておけ。
諸君にはこれからISについての基礎知識を半月で覚えてもらう。その後実習だが、基本動作は半月で体に染み込ませろ。
良いか?良いなら返事をしろ、良くなくても私の言葉には返事をしろ、良いな」
何と言う、暴論、と言うかそんなんで良いんですか先生
良いんですか・・・・そうですか、わかりました
そんで、諦めました。
教室の窓から見える空は腹が立つほ青く澄み渡っていた。
私、これからやって行けるのかな?