愛は世界を救う ~※ただし手の届く範囲に限る ~   作:とり

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言峰がちゃんと仕事したのでここの桜さんはかなり純情です。でも言峰娘の洗脳により行動は言峰娘設計仕様です


イリヤスフィール、召喚

「さくらー」

「はい、醤油ですね。どうぞ兄さん」

「サンキュ。言う前に分かってくれるとはさすが妹」

「ふふふ」

「サクラー」

「はいはい、イリヤ姉さん、あーん」

「♪ うむうむ、さすがわかってるわね妹」

「あ、兄さん」

「ん? なんかついてるか?」

「はい、おコメが…ん、もらいました。おいしいです兄さん」

「……ありがとう。しかし兄の口元を舐めるのはどうかと思うぞ? あと俺を味わったのか?」

「……おかしいです。こうすればドギマギしてくれるって言ってたのに…」

「……誰が?」

「カレンちゃんが」

「あの不健全娘……」

「サクラずるーいっ わたしもシロウ舐めるっ」

「犬か。ちょ、やめろ、なんかエロい」

「むぅっ、なんでイリヤ姉さんには反応するんですかっ私もっ」

「たかるなっ、飯を食え!」

 

衛宮家、いつも通りである。

 

 

 

「兄さんが私を性的な目で見てくれないです」

「それ正常だからな? 悩むことじゃないからな?」

 

学校で女子の誰もにスタイルを羨まれている妹がふくれっつらでいじけ、

それに対する兄の感想は『可愛いなぁ』である。

 

「サクラ、シロウが誰かに欲情してるのなんて見たことないから安心しなさい」

「でもイリヤ姉さんやカレンちゃんの悪戯には結構反応してますっ」

「あれは『エロい』って思ってるだけで欲情じゃないわよ、ねえシロウ?」

「どうなんだろうな。ぶっちゃけ欲情するっていう感覚がよくわからんからな」

「シロウは『目の保養になる良い光景』って思ってるでしょ。わたしたちがやるとはしたないと思って止めるけど、他人がやってれば見るのは好きでしょ」

「んー、まあ確かにそんな感じだな」

「欲情するっていうのは胸があれば揉みたい触りたい、性器があれば触りたい挿れたいって思うことよ」

「うん、そんなことは思わんし違いもよくわかったから、はしたない発言はやめなさい」

「弟と妹のためにちょっと恥ずかしいのをガマンしてわざわざ説明してあげてるのっ」

「あ、ホントだ赤い。ありがとなイリ姉ぇ」

「でもっ、でもでもっ、なんで私にだけそういう反応してくれないんですかっ?」

「そりゃあ、なぁ」

「まぁ、ねえ」

「「桜(サクラ)って妹っぽいし」」

「どういうことですか!?」

「なんか純情っぽくてエロいっていうより可愛いわよね」

「上目遣いで舐められてもそれでも可愛いとしか思わん」

「~~~~~っ」

「泣くな桜、純情で可愛いのは良いことだぞ」

「私は兄さんに異性として見られたいんですっ」

「だから堂々と言うなというに。よしよし、おいで」

「うぅ~」

「サクラだけずるいっ」

「はいはい、おいで」

「兄さん……私ちゃんと成長してるんですよ…」

「うん、柔らかくてとても良い感触だけども」

「サクラ、寝るときは下着つけないと崩れるらしいから寝る前にはつけなさいよ?」

「普段からつけるべきものじゃないのか?」

「兄さんが『下着の感触で固いだけ』って言ったからです」

「え、俺のせい?」

「シロウのにおい~♪」

「あ……そうですね、兄さんの匂い……♪」

「嗅ぐな、舐めるな……においにおい言われても本人にはわからんのだが……」

 

この家にまともなツッコミ役はいない。今のところ。

 

 

 

 

......................................................

 

 

 

 

家族団欒のひとときを済ませ、話題は多少真面目なものになる。

 

「さて、今日ついにサーヴァントを召喚するわけだが」

 

聖杯が十分に満ちるまでおおよそ2週間。シロウや言峰はそれが聖杯戦争開始までの期間でもあると見ている。

この段階では外来魔術師に令呪が出ないことも珍しくなく、そして未だ聖杯の魔力が満ちきっていないため、召喚は上手くいきにくい。聖杯が万全であるほどに召喚は容易となるので、高位の英霊を確実に召喚したいのならば、できるだけ満ちてから召喚することになる。原作においてサーヴァント召喚の時期がある程度共通しているのはそのためだ。

 

だが当然極端な例外もある。原作でのイリヤスフィールだ。

彼女はアインツベルンの技術と自身の桁外れの魔力をもって、聖杯戦争開始の2ヶ月も前に、最上級の英霊であるヘラクレスを最も魔力消費を要するバーサーカーのクラスで召喚してみせた。聖杯の魔力が不足している分を、自前で用意することで成功させたのだ。

 

そして、聖杯戦争の為だけに特化して育てられていた原作よりも劣るとはいえ、その代わりに広範な魔術知識を扱え、そして桜や俺とのラインを構築済みで魔力がさらにあり余っている今のイリ姉ぇも、2ヶ月前に召喚することはさして難しくなかっただろう。

それをしなかったのはただ、全員に令呪が宿るのを待っていたためだ。もし開戦直前までシロウに宿らなければ、当初の予定とは違う方策で召喚する英霊を選ばなければならなかったし、それにサーヴァント達同士の足並みを揃えるにもできるだけ召喚時期は揃えた方が良いだろうと考えたのだ。

 

つまり、昨日俺に令呪が宿ったことで、『衛宮』の聖杯戦争は本格的に動き始める。

 

 

「やっとね。まったくもう、わたしずっとうずうずしてたんだから! 早くやろっ」

「落ち着けイリ姉ぇ、ちゃんと召喚できるように前準備をしっかりとな」

「むぅ、わかってるわよっ」

 

最初に召喚するのはイリ姉ぇだ。

なんといってもイリ姉ぇはマスターとして格が違う。桜なども優秀な素養はあるが、そういう話ではないのだ。そもそも聖杯としての性質を持っているうえに全身令呪という理不尽仕様なイリ姉ぇ以上に、サーヴァントの能力を高められる存在はいない。

俺達の目標のために絶対に必要な『本命』の英霊を、可能な限りの能力を持たせて召喚したいのだからまずはイリ姉ぇが召喚するのは当然だ。

……原作でイリヤと深い絆で結ばれていたヘラクレスを召喚するわけにもいかないのはなんとなく申し訳ない気持ちになるが、俺達が必要としているのは戦闘能力ではないので仕方がない。

イリ姉ぇは今普通に幸せです。イリ姉ぇをもっと幸せにするための選択なので草葉の陰から見守っていてくださいヘラクレスさん。

 

 

「触媒よし、魔法陣よし、わたしの血……よしっと!」

 

土蔵に描いた魔法陣に、イリ姉ぇの血が垂らされる。

中央に置かれている触媒は彼の英霊の複数の文献。

あれでは別の英霊が召喚される可能性もあるのだが、確か原作でも召喚の触媒は文献で、そして実際他に都合の良い触媒が現存していなかったから仕方がない。

俺と桜は万が一失敗したときのための予備という面もある。

まあ、イリ姉ぇが知識と魔術と能力を総動員して英霊を指名するつもり満々なので、まず失敗はしないだろうが。

 

「じゃあ、いくよっ」

 

 

 

 

......................................................

 

 

 

 

「素に銀と鉄。

  礎に石と契約の大公。

  祖には我が太母アインツベルン 」

 

 

イリヤスフィールは思う。

やっと始まると。やっと願いが叶うと。

 

 

「降り立つ風には壁を。

  四方の門は閉じ、

  王冠より出で、

  王国に至る三叉路は循環せよ 」

 

 

弟はずっと前から始まっていたと言うだろうけど。

実感としてこれこそが始まりなのだと思う。

 

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 

 

今まではただの準備だった。

技量を高め、仕掛けを施し、根回しをしていただけのこと。

 

 

「繰り返すつどに五度。

  ただ、満たされる刻を破却する 」

 

 

だけどここからは、戦場に立つのだ。

ほとんどが開戦前の準備とはいえ、英霊たちと共に歩むのだ。

 

 

「 ──── 在れ( セ ッ ト )

 

 

──── ただ、弟が走り回るのを手助けするだけではなく。わたしも、一緒に戦えるんだ。

 

 

「―――― 告げる。

  汝の身は我が下に、我が命運は汝の “杖” に。

  聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ 」

 

 

お母様がいなくなって、キリツグが帰ってこなくて。

何もできずにキリツグを罵るおじいさまの話を聞くしかなくて。

ただ雪景色を眺めることしかできなかったわたしが。

 

 

「誓いを此処に。

  我は常世総ての善と成る者、

  我は常世総ての悪を敷く者 」

 

 

────── 『 意味わからんだろうけど。新しい弟だ!』

 

 

「されば汝は道(ひら)く叡智をもて侍るべし

  汝、奇蹟の正しき(すべ)を識る者

  我は器と力を捧ぐ者 」

 

 

わたしを助けてくれたあなたとともに。

今度は後ろじゃなくて隣にならんで。

 

 

「汝三大の言霊を纏う七天、

  抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――─!」

 

 

これが始まりよ、シロウ。サクラ。

一緒に最高の幸せを掴みとりましょう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 ………… 貴女が私のマスターかしら、可愛いお姫様? 」

 

フードを目深に被った麗しい魔術師が、妖艶に問う。

 

「 ええ、その通りよ。これからよろしくね。コルキスの王女、メディア様 」

 

楽しげで嬉しげな色を浮かべて、銀髪の少女は不敵に応えた。

 

 

 


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