愛は世界を救う ~※ただし手の届く範囲に限る ~   作:とり

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※注

ザ・説明回
うっとうしいと思う人は読み飛ばしても問題はない感じ
むしろ説明回嫌いな人は読まない方がいい感じ

 


選択の苦悩

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「先ほどは失礼した、メディア。気にしないでくれ。

 それと顔を見ない無礼を許してほしい」

「え、ええ……大丈夫よ、気にしないで」

 

現在桜はイリ姉ぇに連れられて自室に戻っている。

俺もなんとかしたかったがイリ姉ぇに『シロウはメディアに詳しい話しておいて。桜が落ち着くまで近付いちゃダメよ』と拒否られたので居間でメディアと対面している。

桜とイリ姉ぇに申し訳なくてつらい。

 

「それで、イリ姉ぇからどれくらい聞いた?」

「えぇと、そうね。大したことは聞いていないわ。貴方がこの家のリーダーだから、貴方から聞いた方がいい、ってね」

 

メディアは先ほどの謎の事態を忘れてくれるようだ。ありがたい。

俺も何もなかったことにして話を進める。

 

「じゃあ話を始めるが……とはいえ、本当に具体的なことは、全員がサーヴァントを召喚してからまとめて話すつもりだ。一人一人話すのは大変だしな。だからとりあえずは、大まかなことだけだ」

「それもそうね。分かったわ。適当に聞かせてちょうだい」

 

了承を受けて、今話すべきことを考える。

 

「まず、聖杯戦争の開始まではあと2週間ほどだ。本当なら今日、全員召喚するつもりだったんだが、まぁ…こんな状況だからな。明日になるだろう。キャスターの貴女にはとりあえずここを拠点に陣地を構築してもらいたい」

「ちょっといいかしら。……参考までに聞きたいのだけれど、この町の優れた霊地を拠点にすることはできないの? ここも悪くはないとはいえ、結果がかなり違ってくると思うわ。他にもサーヴァントを喚ぶのなら、ここはそっちが護衛する生活拠点にして、私は霊地に本格的な迎撃用の陣地を組んだ方がいいんじゃないかしら」

「ああ、その意見はもっともなんだが……そうだな、一通りこの町の霊地を説明しよう。この町の霊地は4つある。

まず、最高の霊地は柳洞寺。ここに関しては後で説明する。先に他の場所だ。

柳洞寺の次に高位の霊地が、ここのセカンドオーナーが住む遠坂邸。敵マスターの工房だからな、論外だ。

続いて冬木教会。ここは監視役の拠点だ、同じく論外。

そして最後、新都…川を挟んだ向こう側にある、冬木中央公園だ。

この中で拠点にできるのは柳洞寺と中央公園。ただ柳洞寺は人が住んでいるから暗示で入り込むか住人を追い出す必要がある。できないことはないが、あまり好ましくはないな」

「…………」

「そして中央公園、こっちは柳洞寺のような問題はないが、その代わりにここから遠い。そして行ってみればわかるんだが……なんというか、歪んでいてな。戦場には相応しいかもしれんがまともな人間は長居しない方がいい感じのところだ。

……という感じで、どこもそれなりに問題はあるな」

「……なるほど、ね。つまり霊地に陣地を置くつもりはないのね」

「そうだな。……メディア、思ったことは言ってくれていいぞ」

「……そうね、じゃあ言わせてもらおうかしら。今並べた4ヶ所の中なら、柳洞寺はそれほど問題ではないんじゃないかしら? 貴方達はそのやり方を好まないのかもしれないけれど、多少の罪悪感に足踏みして勝利を逃すのはあまり賢くないと思うわね」

「そうだな。普通に考えて全力で戦いに勝ちに行くなら柳洞寺を制圧するのは必須だろう」

「わかっているのね。それでもやらないの?」

「ああ。理由としてまず第一に、戦いにするつもりがないこと」

「…………どういうことかしら?」

「うちの基本方針は『戦いになる前に勝つ』だ。次善で『相手の勝ち目をなくしてから戦う』だな。互角の勝負になるなら逃げる。戦いになる状況は基本的に作らない」

「……その方針はわかるわ。でも、不測の事態は起こるでしょう? 方針がそうだからといって戦いに備えないのは……気を悪くしないでほしいのだけれど、ただの慢心よ」

「いや、そういう風に直接的に言ってもらえるのはありがたいよ。実際これは手抜きにあたるんだろうしね」

「それなら」

「ただ、理由の第二、これが大きいんだが、この聖杯戦争には、貴女の思っている以上のジョーカーが居る」

「ジョーカー……?」

「まず、今回の聖杯戦争に参加するサーヴァントは、最大で『8』騎だ」

「……7ではなくて?」

「この町には、前回の聖杯戦争で受肉した、ギルガメッシュがいる」

「……っ、……原初の英雄王とは、また随分と大物ね。しかも受肉しているだなんて」

「その能力も名前負けしてなくてな。例え柳洞寺を時間をかけて全力で要塞化したとしても、英雄王なら数分、下手すれば十数秒で破壊されかねない。そしてサーヴァント3体くらいは同時に相手にしても苦でもないだろうな」

「なるほど、ね。強固な神殿を作っても無意味だから、どうせなら住み慣れた場所にいようってことね。でも、ギルガメッシュ以外には効果があるのだから、そちらに対しては無意味ではないでしょう」

「確かに柳洞寺は他のサーヴァントに対する防御力は上がる。でもその代わりに、俺達全員の致死率が格段に上がるんだ」

「……まだ他に要素があるの?」

「ギルガメッシュのマスター……今は元がつくか。まあ教会の神父なんだが、そいつもまた戦闘能力が異常でな。英雄王が結界を破壊してそいつが攻め込んで来たら、間違いなく全滅する。なにせ柳洞寺は山中で木々に囲まれてて、非常に逃げづらい。それに対してあいつはああいう場所での殲滅戦も慣れている」

「教会の監視役が参戦してくるってこと? どういう状況なのよ、ここ」

「英雄王もそのマスターの代行者も、行動原理が独特なせいで動きが読めない。参加してこない可能性もあるが、参加しなさそうだったのに突然全力で殺しにくる可能性もある。はっきり言ってこの戦争で一番危険なのはこいつらだ」

「なるほどね。だから、そいつらに襲われても逃げやすいここを拠点にするわけね。川向かいの霊地がどういうところかは知らないけれど、戦力が分散している状態で襲われる可能性が高くなるから、得策ではない、と」

「そういうこと。教会陣営だけは妨害も誘導もできないから、最も警戒するべきだ。

……拠点の選択に関してはこういうわけだ。あと話すのは……えーと」

「いいわ。貴方達が十二分に考えてることは分かったから。急ぎでないことは明日聞くことにしておきます。今日のうちに聞いておかなきゃいけないことはある?」

「特にはないな。今日から陣地の構築だけやってもらえればそれで大丈夫だ。ああ、それと一応部屋は用意してあるけど、寝たりするときはできればイリ姉ぇの部屋で一緒にいてやってくれ」

「……了解よ。ありがと。……最後にひとついいかしら?」

「なに?」

「貴方達兄妹なのよね?」

「……血はつながってない」

「あら……大変ね。がんばって、お兄ちゃん?」

「……ありがとう」

 

 

 

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メディアは陣地の構築に、敷地内でいろいろ始めたようだ。

その姿も見ていたくはあるが……また正気を失ってもあれだ。やめておこう。

 

桜のことはかなり気にかかるが、今はイリ姉ぇに任せるしかない。

イリ姉ぇも思うところはあるだろうに……本当に申し訳ない。早く埋め合わせをしたいものだ。

 

この状況で俺がサーヴァントを召喚するのも、俺のサーヴァントと姉妹に距離ができる気がする。できれば初対面は全員が望ましい。キャスター以外は急ぐことでもないしな。

 

 

……正直、キャスターは間に合って良かった。

俺達の目標は、聖杯の使用だ。聖杯戦争の勝利ではない。勝利しただけでは聖杯はまともに使えず、破壊することにしかならないのだから。

 

勝つだけならヘラクレスと騎士王、あとは錬鉄の英雄でも揃えればそれでよかった。狂ヘラクレスだけでほぼ勝てるし、英雄王には剣弓コンビでいけるはず。だが聖杯を使うためにはそれではだめだった。

 

聖杯を使うためには、聖杯と汚濁を分離して扱えるほどの高位の魔術師が必要。それが可能な英霊は限られているはずで、上手く該当するメディアを召喚できてかなりほっとしている。

なにせ、サーヴァントのクラスは1クラス1騎だ。システム上絶対に重複しない。ゆえに、聖杯を使用できないキャスターが召喚されてしまえばそれで今回の聖杯戦争は終了だったのだ。

原作での第五次聖杯戦争の参加サーヴァントを考えるとかなり危険だった。聖杯を扱えないキャスター適性のある英霊が複数いたのだから。適性を明言されているクーフーリンはルーン魔術専門だし、エミヤは魔術ランクはキャスター条件より低くとも最高クラスの魔術である固有結界の使い手だ。四次で晩年ちょっと黒魔術かじっただけの魔術書頼りのなんちゃって魔術師が召喚されている以上、エミヤがキャスターに認可される可能性も高かった。聖杯なんてまったくいじれないのに。

さらに葛木の下についたメディアは思考が葛木オンリーになるのでまったく信用できなくなる。同盟しても最後の最後で背中を刺されたりとかしないように、できれば自分達で召喚したかった。本来のマスターに召喚されるかも不明だったし。

とにかく、メディアを召喚できてよかった。

 

 

メディアを確実に召喚するためにいろいろと手を打ったものだ。

他のマスター、とくにキャスターを召喚していた外来マスターには可能な限り遅く召喚してもらう必要があった。

そのために利用したのが、聖杯戦争のシステムと御三家の破綻だ。

聖杯戦争のシステムは一見固定化しているようだが、実際は今なお発展途上といえる。第一次はルールもないただの御三家の殺し合い、第二次で令呪など基礎ルールが作られ、第三次でようやく教会が干渉開始した、という流れであり、例えばバーサーカーの指定召喚などのシステムもいつできたのかなどと考えると、システムやルールの後付けや追加説明くらいいくらしようと不思議ではない。

そして外来のマスターに聖杯戦争のルールを説明するのは御三家だ。間に協会や教会を挟むのだろうが、ルールの制定権は基本的に御三家にある。ルールを管理している教会はせいぜい口をはさむくらいしかできないし、そうそう干渉する理由もない。

そして御三家のうち、マキリが潰れ、遠坂が先代や口伝を喪失しさらに聖杯への興味もそれほど強くないという壊滅間近な状況だ。この状況では、ルールの制定を行うのはアインツベルンただ一家。

そして『衛宮』はアインツベルンに(聖杯戦争に限り)絶大な影響力がある。要求すればほとんどノンストップで通るレベルに。

こうなれば聖杯戦争のルール制定は、一見平等である範囲内で、『衛宮』の思うがままと言っていい。

 

……と言っても、実際はそんなに大したことはしていない。

少しばかり喧伝するルール説明に注意書きを足して、便利な情報も追加しただけだ。

『聖杯が完全に満ちる日付』と、『その日付より前になればなるほど召喚が失敗しやすく、召喚失敗した場合参加資格を失う可能性があり、三日前以降での召喚を推奨する』という注意書き。サーヴァント不足の場合は儀式そのものが失敗しかねないので特別な理由がなければ早すぎる召喚は避けて頂きたい、と。

そしてイリ姉ぇ謹製『サーヴァントのクラス指定呪文』を付録で追加した。バーサーカーとアサシンは指定できるのに他が指定できない理由は無い。もちろんすでに召喚済みのクラスは指定しても別のクラスで召喚されるが、クラスのシステムはちゃんと説明されているのでまともな魔術師ならそれくらいはわかるだろうということでいちいち説明してない。

 

 

儀式の基礎を構築しているアインツベルンがここまで伝えておけば、いくら疑い深い魔術師とはいえ根拠なく一月も前に召喚するやつはそうそういない。いないと断言しきれないあたり一般的な魔術師の性格を表しているが。

それでも俺達より早く召喚するやつは出かねないのでクラス指定呪文だ。キャスターが最弱なのは少し調べれば分かる。進んで選ぶとは考えにくい。

まぁそれ以外にも触媒となる文献の流通などをチェックしていたりもしたが、まぁやったこと全てに結果が出るわけでもない。うん。

 

 

そうして最初のサーヴァント召喚には成功した。

後は続くサーヴァントだ。

 

 

 

 

 

英霊の選択はかなり悩んだ。

所有している能力が分かるのは原作で出てきた英霊のみだ。それ以外の能力詳細が不明な英霊を召喚する気はない。

 

必須のメディアは考えるまでもなく決まったが、残った枠は簡単にはいかない。

 

枠使えるだけ強い奴召喚すればいいじゃん、王とか大英雄とか。なんて簡単な話ではない。

なぜなら聖杯戦争は、強い奴の数が多ければそれでいいただの殺し合いではない。

 

 

 

まず第一に、聖杯の降誕には『6騎の消滅』が必須だ。

 

これが聖杯戦争で勢力の構築を妨害する最大の要素である。

あるいは強大な霊格の英霊であればその限りではないとはいえ、基本として最終的に1騎しか残らないのだ。仮に3騎揃えたところで結局2騎は殺さなければならない。

だが英霊はただの道具ではない。それぞれの願いがあって、それぞれ勝ち残るつもりで召喚に応えるのだ。最初から『後で死んでもらうわ』なんて言われていて従うはずがない。

3騎を召喚したマスターはその3騎をどう処理し、どういう理屈で理解を得るかも考えなくてはならない。

英霊とて自分以外に2騎も従えたマスターなど信用できまい。いつ自害を命じられるかわからないのだから。少なくともそのマスターは、たとえ勝ったとしても自分に従った3騎のうち2騎はただ働きさせて殺すつもりだということなのだし。

 

それを回避するためには、聖杯の取得を目的としない英霊を選択する必要がある。

『強者と闘いたい』や『生前できなかったことをしたい』など、聖杯戦争に参加するだけで叶えられる願いだ。『別に最後に自害させられても問題ない』という英霊を揃えていれば、マスター、聖杯を求める英霊、そして求めない英霊全員が満足して疑心暗鬼を抑えて戦える。

 

……その条件があるだけで、選べる英霊は限られてしまうのだが。

そしてついでにいえば、そのタイプの英霊は能力が似ている傾向があり、戦力としてみると微妙な組み合わせがどうしてもある。

 

 

 

次に、原作との差異による不確定要素である。

 

最大の不確定要素としてエミヤがいる。エミヤは能力や素性が詳細に判明しているうえに英雄王に対するジョーカーとなりうる有望株だが、そもそも将来的にエミヤが絶対に存在しないこの世界において、エミヤは召喚されるのか? 遠坂が何を召喚するのか、という自勢力以外の問題としても避けられない不確定要素だ。

エミヤだけではない。たとえばランスロットは第四次で救われているわけだが、今なおバーサーカー適性はあるのか否か。普通に考えれば英霊の伝承で適性は決まるのだが、今回また騎士王と狂ランスロットが召喚されればまた同じことをするのだろうか。なにかこう、釈然としないものがある。

 

 

ランスロットの問題にも繋がるが、心情的な問題も捨て難い。

 

第四次でウェイバーと熱い絆を築いたイスカンダルが、ウェイバーとの記憶皆無で召喚されたりしたら悲しいものがある。俺のわがままとしかいえないが、それでも実際問題に感じているのは否定できない。

 

 

さらに触媒が必ず用意できるわけではなかったこと。

 

8年前からアインツベルンを通して触媒の収集は行っていたが、アインツベルンも無限の財力や人脈を持つわけではなく得られるものには限りがある。触媒が手にはいらなかった英霊もいるのだ。

さらにアサシンのように個体が指定ができない英霊や、マスターとの縁で召喚されていた英霊もいる。後者は触媒を入手しての召喚も不可能ではないが。

とにかく、選択が好き勝手にできたわけではないのだ。

 

 

こういった諸々の現実の壁が立ちはだかり、英霊の選択は非常に難しかった。

ついでにどれだけ悩んでも他の英霊が召喚されてしまう可能性もあるあたりも悩みどころだ。諦めるしかないが。

 

 

 

 

……まあとにかく、明日桜のことをなんとかして、全員召喚したいものだ。

 

…………桜とイリ姉ぇに申し訳ない気持ちと、慣れない感情のせいで寝られる気がしない。

 

 

 

 




説明回、とりあえず完。
失礼しました。

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