返信できませんが、申し訳ありません。たぶん完結したら見る。
早起きして、朝食を用意して、途中で起きてきた桜におはようといったら笑顔で顔面骨を粉砕させられた。何言ってるかわかんねえと思うけど妹がマジ容赦ねえ。
「何を言っておるのだ衛宮、今日も相変わらずの抜けた顔ではないか」
「家出るまでになんとか治ったんだよ。あと抜けた顔ってなんだよ一成」
「便利な顔をしとるのだなお前は」
確かに便利な顔なのかもしれない。俺の顔を血塗れにした桜はものすごくさっぱりとした笑顔だったし、妹のストレスと悩みをそれだけで解消できるのなら確かに価値はある。でも“
まぁ何があったのかメディアと仲良く話しており、さらに俺に対してもわりと普通の態度になっていたのだからその代償だとすればやはり安いものだろうが。
今朝は肉体的ダメージは酷かったがメディアが俺の作った朝食に『……美味しい……』と言ってくれたので精神的にはかなりプラスだったし。
「それに妹とは桜嬢のことだろう? あの華奢な腕で砕かれる骨とは随分
「案外パワー派なんだよ。イリ姉ぇはスピードとテクニックでいじめる派だ」
「…イリヤスフィール先輩に殴られるのか。少しうらやま…ゴホンッ!ンッ!ンッ!」
「お前イリ姉ぇのことになると変態化するよな」
実際桜は強化魔術が得意、というか『結果を乱す』系統の魔術特化型なのであの細腕に見合わぬ結果を出すパワー派だ。遠坂家や言峰家のように八極拳とか修めればやばいことになると思う。本人もやりたがらないし周囲も勧めないのでやることはないだろうけど。
それに対しイリ姉ぇは『願えば叶う』万能願望機型魔術師でいろいろやって相手をいじめるのが好きないじめっ子だ。できないことがあまりないので本人の好み全開である。
そんないじめっ子でいたずらっ子なイリ姉ぇだが、学校での信望は厚い。
むしろ熱い。
「何を言うかッ!! イリヤスフィール先輩へのこれは純粋な敬愛であって断じてそのような汚れたものではない────ッッッ!!」
「そうだぞ衛宮!!! イリヤ先輩なら俺も殴られたい!!!」
「オレはいじめられたい!!!」「俺だってっ!!」「僕もっ!」「それなら私もっ!」
「あーはいはい」
あるいは暑苦しい。
「くそぅっ……なんでこんなありがたみの分かってないやつが会長の弟なんだっ」
「あのいたずらっぽい天使にいじめられるなんてご褒美以外の何物でもないというのに!」
「近くにいすぎてありがたみがわからないのよ、よく言うじゃない」
「そう考えればむしろ可哀そう……」
「否ッ!! たとえ理解していなくとも確かにこやつは身に余る幸福を甘受してッ」
「くそおっ! オレもイリヤ先輩の弟になりたい」「ロリ姉…素晴らしい」
「貴様ぁっ! イリヤスフィール先輩の素晴らしさは断じてそんな部分ではッ」
「変な話題だした俺が悪かったから。それと俺はイリ姉ぇの可愛さよく知ってるし。鎮まれ」
今日も学校は平和だった。
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「桜」
「あ、凛姉さん。待っててくれたんですか?」
放課後、もう遅い時間だというのに弓道場を出たところで別の家の方の姉が待っていた。
凛は部活に所属していないので、授業が終わればさっさと帰る。
帰らずに残っているのは部活を終えた桜と一緒に帰ろうとするときくらいだ。
「あんたの兄さんに今度来いって言われたからね。今日行っても大丈夫かしら?」
「あ、なるほど。でも、ええと……」
桜は考える。
凛が家に来るのは嬉しい。凛は兄やもう一人の姉のイリヤが苦手なようで、一緒に帰っても家までは来たことがない。
これまで誘っても来てもらえなかったので、こうして凛から誘ってくれたのはとても嬉しいのだが。
今夜はなにせ大事な用がある。
「あ、都合悪いならいいわよ。そんなに急いでるわけでもないから、大丈夫なときにでも言ってちょうだい」
「そう、ですね。今日はちょっと用事があるので、また明日か明後日にでも」
「そ。じゃあまた来るから、」
「あ、一緒には帰れますから、一緒に…」
「あら、大丈夫なの? じゃあ、そうしましょ」
「はい! あ、そうだ。ちょっとだけ服とか見ていきたいんですけど、付き合ってもらってもいいですか? 凛姉さん」
「桜が自分から言い出すなんてめずらしいわね。ちょっと嬉しいわ」
「あ、いえ、本当にちょっと見るだけで、今日買うわけじゃないんですけど」
「いいのよ、今のうちにちょろっと楽しんでおきましょう」
「そうですね。あっ、そういえば友達に聞いたんですけど、美味しいカフェが…」
ちなみに、嗣郎が画策しアインツベルンの流した『注意事項』──召喚は開戦三日前以降を推奨する──を聖杯戦争の常識だと考えている凛は、桜の『用事』がサーヴァント召喚だとは考えてもいない。さらに見たい服というのがサーヴァントのためのものだなどとも。
ついでに桜は別に騙すつもりはなく、わざわざ殺伐とした方面の話をして楽しい姉妹デートの雰囲気を悪くしたくなどないだけである。
後で凄まじい驚愕を受けることになる凛が、このときのことを思い出し桜にちょっと疑心暗鬼になるのはまた別のお話。
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中腹に柳洞寺を抱く、冬木の霊脈の中心地、円蔵山。
その内部には、山の腹腔の如き、隠された巨大な空洞がある。
「…………見事、ね。いえ、感服したわ。魔法に届いた者も敷設には関わったというけれど……これほどの人造の奇蹟、神与天賦の才としか言い様がない」
『龍洞』と呼ばれるこの大空洞は、冬木の霊脈の真の中心地であり。
聖杯戦争の心臓、『大聖杯』の魔法陣が敷設されている。
「聖女の魔術回路を中心に、拡張、増幅……これほどに芸術的な人柱は、ないわね。神域の才があり、天運があり、命を尽くす意思と覚悟があって、完成した偉大な奇蹟。これを創りあげた御三家、
『大聖杯』の前に膝をつき、愛でるように陣に触れているのは、フードを深く被った神代の魔術師……メディア。
「それにもう、奇蹟そのものが歪んでいる……後継達の落ち度ね。焼き殺したくなるほどの大罪だわ……。……せめて、今回で最後にしましょう。歪みきって壊れてしまう前に、この奇蹟を顕現させる。……使い方は、貴女達が願ったものとは違うのでしょうけれど」
淡い光を纏う魔術師は、陣の『奥』にあるものへ触れようとするかのように手を伸ばし、
「……まだ二つ、降りていないのね。ふふっ……。嗣郎、貴方の小細工、思ったよりも効果があるようよ」
静かに、謡う。
「 ──── 輪より
魔術師からこぼれていた淡い光が、『大聖杯』にうつっていく。
「
光は緩やかに流れ、増え、『大聖杯』に流れていく。
「
淡い光は、空洞に満ちてゆき──────
「──── 叡智の者に、
───── 陣から雷の如く
「っ………!」
…………大空洞に満ちていた光が鎮まってゆく。
「…………結構痛いわね」
ぷらぷらと雷光を受けた手を揺らしながら、魔術師は立ち上がり、踵を返す。
「まぁ、でも成功、と」
静かに大空洞から去っていく魔術師の手の甲には、ここに来た時には無かった、
「本当、鬼畜な下準備よね」
マスターの証たる、令呪。