愛は世界を救う ~※ただし手の届く範囲に限る ~   作:とり

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前話から分割しました。


願い

「多すぎだろ、どんだけ過剰戦力なんだよ、この家は。お、なんだこれくそうめぇ」

「七騎のうちの四騎が一つの勢力とは、もはや過半数ではないですか。他のマスターが可哀想になりますね……あ、これも美味しい」

「雅とはいえぬ数の暴力よな。しかしこの美味にありつけたことには感謝せねば」

「いえ、実は前回の生き残りがいて八騎いるそうよ。それでも半数だけれど。……芋がこんなに美味しくなるのね。私も桜に教わった方がいいかしら」

「サクラだけじゃなくてシロウもすごいわよー。サクラー♪」

「はい、あーん。私は兄さんに教わりましたし、兄さんの方が上手ですよ」

「どうだろ、俺は基本を突き詰めてるタイプだけど、桜は我流(オリジナル)を突き詰めてるし。どっちの方が上手って感じにはならないんじゃないか?」

 

 

衛宮家の晩飯は宴会のような騒がしさになっている。

サーヴァントが四騎も集まっているとなって当初は殺伐とした空気もあったが、桜の手料理を囲んだ今ではそんな残滓すらどこかへ消えてしまった。剣士と槍兵は肉を奪い合う箸先の戦いを始めているし。

 

「それで、話を戻すんだが、ウチの基本方針は全員が思ってる通り数の暴力だ。油断するわけじゃないが、勝つための行動はここまでの十年でほとんどやり終わってると言っていい」

「おいおい、まともに戦う機会もねえとかは勘弁してくれよ。俺は戦いたくて召喚に応じたんだからよ。おい気障野郎、今取った分返しやがれってテメェもう野菜しか残ってねえじゃねえか!」

農民(われら)にとって食事とは生存競争、敗者に施す慈悲などありはせぬよ、とはいえ私もこやつと同意見ではあるな。己が剣の力試しに現世に這い戻ってみれば、死合う相手がおらぬとなれば些か以上に気が抜ける」

「まぁそこらへんは勘弁してくれ。残りの三騎にセイバーとバーサーカーもいるし、戦う相手がいないわけでもない。というか二人でやればいいんじゃないか?」

 

 

こいつとかよ、とあまり乗り気ではなさそうなランサーとまあそれでも良いか、と拘りのなさそうなフェンサー。クーフーリンは小次郎のようなタイプは苦手らしい。しかし実際うちの面子は槍兵はともかく魔術師、騎乗兵、そして本来なら暗殺者枠と、果し合い相手には向かないクラスが揃っているので不満を言われることでもないと思うのだが。

二人の望みははっきりしているのでおいておき、イリ姉ぇにじゃれつかれて困惑しているお姉さんともう受け入れているお姉さんに話を振る。

 

 

「ライダーは何のために召喚に応じてくれたんだ? ライダーの望みだけはよく知らないから、俺達の目的とかち合うなら妥協点を考えるが」

 

聖杯を譲る気はないが、叶えられる範囲でメデューサの願いを叶えてやるくらいはできる。完成した聖杯の無尽蔵の魔力とメディアの制御があれば、細々とした複数の願いを同時に叶えられることは判明している。……騎士王は鞘の活性化や聖剣の威力など、召喚するメリットは非常に大きかったが願いが明らかにでかくて許容できなさそうということで召喚は諦めた。メデューサの願いは許容範囲だと良いのだが。

 

「……望み、というほどのことはありませんね。私にそんな資格もありませんし」

「………望みがないのなら、なんで召喚に応じてくれたんだ?」

 

姉達への強い愛に身を尽くした彼女が資格がないなどとは思わないが、それは言わずに疑問を呈す。聖杯戦争への参加の諾否は英霊に権利がある。原作で参加する理由だった、間桐桜という自身の近似者の救済も、この世界では願いにはならない。ならばなぜ俺達の召喚に応えてくれたのか? ……二度目の生や、姉達の幸福を願うのではないかと思っていたのだが。

 

「……貴方が、なぜか私のことをよく知っているような気配で……『私の』幸福を願ってくれていたので」

 

微妙に言いづらそうにしながら、メデューサは視線を逸らして答える。

 

 

「そう、か」

 

メデューサは女神だ。そのせいか、召喚者に対して他の英霊なら分からないようなことまで感じるようだ。いずれ自身と同じ道を辿る間桐桜の宿命を知ったように、俺がメデューサ『個人』に対して抱いている印象を感じて、興味のようなもので諾としてくれたということか。

 

 

「……ですから、願いというようなものはありません。ただ」

「ただ?」

「貴方はつい先ほど、私以外の願いは元から知っているかのように言いましたね。それに私のこともよく知っているようです。その理由を聞いてみたいとは思っています」

 

やはり興味があったか。まぁ自分と関わりなどないはずの人間が、どこか確信をもって自分達のことを知っているとなれば気になりもするか。むしろ不気味だもんなそれ。

メデューサの言葉に興味をひかれたらしいクーフーリンと小次郎もいつからかやっていたもみ合いの手を止めてこちらに顔を向ける。

 

「へえ。異能者かなんかか坊主。伝承でよく知ってるだけとか言うなよ?」

「ふむ…確かにただの名もない亡霊の私を、はっきりとご指名で連れ出しおったのだ、知っておったのだろう。器こそ別人の名ではあったが」

 

いつの間にか話題が次に移ろうとしているが、認識の共有のためにはまだ早い。

 

 

「それは当然教えるけど、先にメディアの願いだな」

「……皆無欲なのね。私が俗物みたいじゃない。ま、いいわ。私の願いは二度目の生。受肉よ」

「あぁ? テメェ英霊ともあろうもんが二度目の生なんざにしがみつこうとしてんのか?」

「うるさいわね。私はあなたたちと違って戦場で刹那の生を愉しんでいたわけじゃないの。いろいろとしがらみも多かったしね。全く違う時代で新しい人生を生きられるというのだから、喜んでしがみつくわ」

「けっ、これだから魔女は。人生の楽しみ方をわかってねえ」

「あなたの師も魔女だったでしょうに。それと私はそう呼ばれるのが嫌いなの。魔術師といってもらえないかしら? あなたのことも狗と呼んであげようかしら」

「……テメエ」

「はいはい、そこまでな二人とも。ランサー、今のはお前が突っかかり過ぎたからだ。メディア、その聞き心地の良い声で挑発なんかするのもやめてくれ」

「坊主、魔術師の扱いだけなんか無駄に良くねえか?」

「ふっ…おぬしのような暑苦しい男より麗しい女性(にょしょう)に優しく接するのは道理であろう。(あるじ)の趣味は良いとは言えんが」

「ハッ、全面同意だぜ」

「……その点については言及を控えさせてもらうわ」

 

 

なかなか話が進まないのは大人数なことのデメリットか。ところどころで衝突してるし。まぁ全員理解がないわけでもないので大丈夫だとは思うのだが。

 

「で、話を戻して進めるが……なんで俺がみんなのことを知ってるかって話だな。イメージしやすく言えば、俺は並行世界の可能性を見たことがあるんだよ」

「あん?」「ほう」「……」

 

すでに話しているメディア以外は動きを止め、それぞれの表情で話の続きを促す。

口を挟まないようにしていたイリ姉ぇと桜はここぞとばかりに皿の片付けを始めている。二人には昔に話したしな。

 

「予知夢みたいなものだと思ってくれていい。俺はそれでこの聖杯戦争で起こることの可能性を見て、その中で戦っていたみんなのことを見聞きしてた。それが現実だとわかったのは十年前だ。色々なことを知ってたからそれを使ってこの十年間準備してきた。その結果がこの戦力で、この人選だ」

 

嘘は言っていない。イリ姉ぇや桜、それに親父にも同じように話している。聖杯が降誕したときに(ここがそういう現実だと)知ったと。

メディアに話したのはそれだけではないのだが……まぁ今は関係ないだろう。

 

「……いまいち信じられねえが、別に否定する理由もねえか。異能者なんざ珍しくもねえし」

「そう…ですね。私達を知っていることは事実のようですし」

「ふむ……亡霊が現世に舞い戻るような不条理もある。ならばまだ起こらぬことを見るのもありえぬことではないか」

 

「まぁ、そういうことだ。とはいえ俺にはもうその力は無いし、この十年で結構聖杯戦争の前提が変わってる。ここからの展開はまったく予想がつかんから頼りにはしないでくれよ」

「ハッ、むしろ願ったり叶ったりだぜ。先が分かった戦いなんざ面白くもねえ」

 

本来外来マスターが召喚する槍兵と魔術師の枠をこちらが使っていて、狂戦士と剣騎士が代わりに空いている以上、同じサーヴァントになる可能性は極めて低い。特にイリヤ以外では狂ヘラクレスなど扱えまい。参加するマスター自体に変化がある可能性もあり、この先の展開は全く読めない。

まぁ、この戦力でそう簡単に失敗はしないだろうが慢心はしないよう心がけよう。

 

 

「ところで坊主。他の聖杯戦争の可能性見たんならよ、最終的に勝ち抜いたやつはどんな奴だったんだ?」

 

クーフーリンが獰猛な色を浮かべて聞いてくる。どんな強者が参加する可能性があるのか楽しみなのだろう。

 

「可能性を見た、といっても俺の視点だったからな。俺が死ぬところまでしか見てないんだが……まぁ勝者はほとんど予想できる。アーサー王と名も無き英雄の同盟か、ギルガメッシュと元代行者の主従か、あるいは……いや、ほとんどはこの二組だな。ちなみに俺は四十五くらいの可能性を見て四十回ぐらい殺された」

 

その死因の半分以上はここに集ってるけどな。ライダーキャスターイリヤ桜は士郎の死因トップ4だったはずだし。

桜が勝利する可能性も高いがそれは言わなくていいだろう。

 

「ほう……騎士王に英雄王に名も無き英雄とやらがサーヴァントか?」

「ああ、ちなみにクラスは騎士王と無銘の英雄がセイバーとアーチャー、んで英雄王は例外の八騎目としてすでに冬木にいる」

「おいおい……つまり期待していいってことだな坊主」

 

クーフーリンはさらに獰猛な笑みを浮かべて喜んでいる。それはそうだろう、勝者となる可能性が最も高いサーヴァントが全て他陣営となるのだ。強者と戦うために参加したならば喜ばずにはいられまい。小次郎も不敵に笑みを浮かべている。……実際召喚されるのが誰かは不明なのであまり期待されても困るのだが。

 

 

 

「ところでシロウ。私達の願いは言いましたが、貴方達の願いはなんなのですか?」

「そうね、私も『幸せになるため』としか聞いてないわね」

 

戦闘狂の男共をスルーして、メデューサが尋ねてきた。メディアにもまだ話していなかったので乗ってくる。

別に隠すようなことでもないので、普通に答える。

 

「メディアに言った通り、幸せになるのが目的だよ。具体的に言えば、」

 

台所で明るく話しながら、洗い物を済ましている姉妹の笑顔を思い浮かべる。

 

 

 

「 手段、過程としてうちの親父と母親の蘇生、親父と母親とイリ姉ぇの寿命の延長。

  それにできれば、俺の欠損してる魂の修復か。まぁつまるところ ──── 」

 

 

 

「 ──── “ 最高に幸せな家族 ” 。 それが俺達の願いだよ 」

 

 

 

 


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